バイク乗りは陸地の先端が好きだ。岬や半島、最北端や最南端。何があるわけでもない単なる陸地の先端へと、ライダーは今日もバイクを走らせる。そんな岬の先に必ずあるのが灯台だ。バイク小説家がバイクで巡るロマンと哀愁ただよう書き下ろしエッセイ、灯台シリーズ第4回《御前埼灯台(静岡県御前崎市)》。

灯台よ、いくべき道を照らしておくれ 第4回御前埼灯台

一番身近な灯台

 御前埼灯台は静岡県最南端の岬にあるにある灯台だ。静岡県の最南端は伊豆半島の先端、石廊崎ではないのだと知ったときは意外だった。
 20代の頃から今に至るまで、御前埼灯台はたびたびバイクで訪れる場所だ。土日ともなれば、灯台下の市営駐車場には何かあるわけでもないのにたくさんのバイクが集まる。それは、自分がバイクに乗って初めてここに走って来た20年以上前から現在に至るまで、変わっていない。

 バイク用品店に勤めていた20代の頃、定休日に仕事仲間と「走ろう」となったときの目的地が御前埼灯台だった。
 結婚して子供ができて、土日休みの工場勤務に転職した。転職先の会社にもバイクが好きな同僚たちがいて「バイクで集まろう」となり、その目的地はやっぱり御前埼灯台だった。
 御前埼マリンパークで夕方から早朝にかけてフリーマーケットが開催されていた時期があった。休日、時々ここで出店したこともあった。
 フリーランスとなり、灯台をテーマとした物語やエッセイをたびたび書いた。
 静波海岸にあるカフェのマスターが、御前埼灯台前の宿を紹介してくれ、毎年夏に御前埼灯台の見えるその宿の駐車場で出店させてもらっている。宿の女将さんはバイク乗りだ。
 2019年には自身のバイク小説を原作としたショートムービーを、御前埼灯台を舞台に制作した。浜松のバイク好きなプロカメラマンが動画にも力を入れていきたいということで意気投合し、ドゥカティのディーラーさんをはじめ浜松界隈のウェアメーカーさんや用品メーカーさんを巻き込み、バイクに乗る俳優さんを主人公にショートムービーをつくった。

きっかけは御前埼灯台

 
 御前埼灯台は、灯台を好きになるきっかけであり、頻繁に走る目的地にする場所であり、一番身近にある自分の”ホーム灯台”だと思っている。

 2025年3月のある平日。
 春霞、と呼んでいいのか。降水確率は0%なのにもかかわらず、すっきりとしない薄曇りの空が広がっていた。時折、青空がのぞいて暖かい日差しが広がった。僕はSV650Xに乗って国道150号線を御前崎へ向かって走っていた。
 御前崎灯台下の駐車場には、すでに2台のバイクが停まっていた。ベスパとハンターカブだ。ベスパのオーナーらしき方に「写真なら上まで行くといいよ」と優しく声を掛けてくれた。
 再びSVに跨って、灯台のある場所までのぼった。駐車場は平日にもかかわらずほぼ満車だった。空きスペースに1台、排気量は未確認だが、カワサキニンジャが停まっていた。

 御前埼灯台のすぐ手前に石碑があった。今までもあったのだろうけど、今日はじめて意識して気がついた。
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喜びも悲しみも幾歳月

俺ら岬の 灯台守は
妻と二人で 沖行く船の
無事を祈って灯をかざす
灯をかざす
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「灯台守」の夫婦を主人公とした映画

 
 「喜びも悲しみも幾年月」という映画があった。日本各地の辺地に点在する灯台を転々としながら駐在生活をする灯台守の夫婦を主人公とした1957年公開の大ヒット映画だ。石碑の詩は、映画の主題歌だ。この映画に登場する灯台に、観音崎、安乗崎、瀬戸内海、五島列島などがあり、そこに御前崎もある。

 海の安全を守る「灯台守」は、御前埼灯台では平成11年(1999年)まで駐在していたそうである。平成18年(2006年)、五島列島の女島灯台を最後に「灯台守」は廃止され、現在は海上保安部による遠隔で管理されている。
 映画は、戦前から戦後にかけて日本各地の灯台を転々としながら灯台守として海を守る夫婦の25年間を、美しくも厳しい風景と共に描いている。
 子供を授かった北海道の石狩灯台、夫婦別居生活をしていた五島列島の女島灯台、弾崎灯台の頃に戦争が始まった。息子の突然の死を迎えた男木島灯台、御前崎灯台にいた頃に娘の結婚話がまとまった。ラストシーンでは「灯台守」夫婦のともす御前埼灯台の灯に見守られながら、新婚の娘夫婦の乗るエジプトカイロ行きの船が、沖へと遠ざかっていく。

 灯台を舞台に、嬉しいこと悲しいことを乗り越えてきた夫婦の25年間を描いた作品だ。

バイクに乗り始めて25年

 
 自分がバイクに乗りはじめて、25年と少し経った。御前埼灯台とバイクと自分との関わりも25年くらいになろうかと思う。
 御前埼灯台を眺めて25年の思い出に耽りながら、SV650Xと僕は帰路に着いた。

ありがとう、御前埼灯台。

作:武田宗徳
出版:オートバイブックス(https://autobikebooks.wixsite.com/story/

【オートバイエッセイ】灯台よ、いくべき道を照らしておくれ第3回御前埼灯台 ギャラリーへ (10枚)

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