〜オートバイは、たくさんのことを教えてくれました〜
バイク小説を二十年以上に渡り書き続けてきた著者が、オートバイに教えてもらったことをエッセイというスタイルで綴る。二輪誌で三年半ほど連載していたオートバイエッセイをまとめた著書「Rider's Story オートバイが教えてくれた」より、一部を掲載。
道
道にもこだわりたい
年上の男友達と二台でオートバイツーリングを楽しんでいた。彼が先頭を走って富士山の麓を案内してくれた。知らない道だった。コーナーの曲がり具合やその頻度、そして流れていく風景がとても素晴らしく楽しい道だった。なぜ今まで知らなかったのだろうと悔やまれるくらいだった。
「オートバイが楽しいのではなくて、道が楽しいんだよね」
ツーリングの終盤、トイレ休憩で立ち寄ったパーキングで言った彼の言葉にハッとさせられた。彼はこう続けた。
「オートバイと同じくらい道にもこだわりたいよね」
恥ずかしくなった。県民なのにこの道を知らなかった。そして自分は確かに《道》よりも《オートバイ》にこだわっていた。
よい道ならどんなオートバイで走っても楽しい。逆を言えば、どんなに素晴らしいオートバイでもつまらない道だと、ツーリングもつまらないものになってしまう。
もちろんオートバイであることが前提だし、オートバイ自体が楽しい乗り物であるのは間違いない。だけど、オートバイツーリングを楽しくさせる要素のかなりの割合を《道》が占めているのではないか。
お気に入りの道
サラリーマン時代、オートバイで通勤していた。お気に入りの道があった。見晴らしがよく、気分を落ち着かせることができた。道幅は少し狭くて、いつも強い風が吹いていた。ときどき速度違反の取り締まりをやっていて夜は真っ暗だった。一番早く着くルートでも無かったし、一番距離が短いルートでも無かった。わざわざ選んで通らなくてもよい道だったけど、十キロ先の勤務先へ行くのにこの道ばかり通っていた。通勤路を少しでも楽しみたかった。
休日ツーリングに行くときは、地図と睨めっこしてルートを決めていく。良さそうな道というのは、経験があれば実際に走ったことがなくても、地図を見ただけでわかるのかもしれない。それでもやっぱり現地へ行けば、想像と違っていることが多い。結局、実際に走ってみなければ、本当に良い道かどうかなんてわからない。
小さな冒険
一人オートバイで山道を走っていると、知らないけど面白そうな道に出くわすことがある。その先は、森の茂みに覆われて暗がりになっていたり、薄暗い藪の向こうに光は見えるけどカーブになっていたりして、その先は見えない。この道はどんな道だろう。この先には、どんな景色が広がっているのだろう。バイク乗りの好奇心をくすぐる道だ。
でも道に迷わないだろうか……。その先は、どこかにつながっているだろうか。行き止まりではないだろうか。急坂だったり、極狭だったり、未舗装だったりしないだろうか。果たして明るいうちに戻って来られるだろうか。
しかし自分好みの素晴らしくよい道に出会えるチャンスかもしれない。お気に入りのツーリングルートになるかもしれない。明日以降、何回も走る道になるかもしれない。そんな道を見つける機会になるのかもしれない。
これは小さな冒険。自分の中の未知なるモノへの挑戦だ。リスクは伴う。だけどそれと引き換えに素晴らしい道との出会いが待っている。リスクを恐れて行かないなら、その道がどんな道なのかわからないまま終わってしまう。「危ぶむなかれ。行けばわかるさ」である。
大好きなオートバイで大好きな道を
ライダーの言う(言われる)「道を知っている」というのは、そういう経験の積み重ねの結果だ。知らない道に入り、実際に走って覚えていく。危ない目にも遭うだろう。未知への挑戦の経験が多いライダーほど道を知っている。そして道を知れば知るほど、道選びの選択肢が広がり、道に対して自分の好みやこだわりが生まれてくる。
こだわりのオートバイで、こだわりの道を走る。
大好きなオートバイで、大好きな道を走る。
ツーリングはもっと楽しいものになる。
エンジョイライフ。
オートバイを楽しもう。
<おわり>
出典:『オートバイエッセイ集 Rider's Story オートバイが教えてくれた』収録作
著:武田宗徳
出版:オートバイブックス(https://autobikebooks.wixsite.com/story/)
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