〜オートバイは、たくさんのことを教えてくれました〜
バイク小説を二十年以上に渡り書き続けてきた著者が、オートバイに教えてもらったことをエッセイというスタイルで綴る。二輪誌で三年半ほど連載していたオートバイエッセイをまとめた著書「Rider's Story オートバイが教えてくれた」より、一部を掲載。
GSX250Rが教えてくれた「自由であるべき」
オーナーズミーティング
車種限定のバイクミーティングイベントに出展させてもらったことがある。スズキGSX250Rオーナーズミーティング。現在どのメーカーにもラインナップされているタイプのスポーツバイクだ。参加するライダーは若いと聞いていた。
イベント会場に同じ形をしたオートバイが西から東から続々と集まってくる。あちこちから歓声が聞こえる。久しぶりの再会を喜び合っているようだ。普段バイクイベントで多くを占める中年ライダーもいるが、若いライダーが驚くほど多い。二十代だろうと思われるライダーがこれだけ集まっているところを、僕は今まで見たことがなかった。そんな歓談のような時間を経てから、次にバイクの移動が始まった。
バイクが並ぶ列の先頭に色が書かれた看板を持ったスタッフが立っている。スタッフは「アオシロ〜!」とか「アカクロ〜!」など大きな声でライダーたちに呼びかけている。色別に並び替えようというのか……。
しばらくして並び替えの移動が終わった。色別に整然と並んだ70台ほどのGSX250R。カラーリング別にずらりと整列した様は実に壮観だ。ライダーたちはスマートフォンを片手に、好きな角度から思い思いに写真や動画撮り始めた。プログラムにあった「写真撮影」とはこのことか……。
様々あるバイクの楽しみ方
以前バイクショップに働く三十代の店員からこんなことを聞いたことがある。
「若い子たちのバイクとの付き合い方、楽しみ方を理解できず、ついていけないことがある」と。
バイクとの付き合い方や楽しみ方は人によって違う。それは若かろうが歳をとっていようが、同世代でも違っていたりする。少し前によく聞いたのは、乗るのが好きな人、いじるのが好きな人、磨くのが好きな人、などだろうか。
若者を中心にSNSを利用する人が増え、多くの人たちの楽しみの一つに《写真や動画をSNSにアップすること》が加わった。写真映えを意識したお店づくりや、商品づくりが、集客に繋がるとも聞く。写真映え目的でオートバイを購入する若者もいる、と聞いたことがある。見た目から入るというのは、趣味の世界ではよくある話で、僕が若い頃でさえ、オートバイをファッションとして楽しむライダーが増えてきていた。
バイクをどう楽しむか。バイクとどのように付き合うか。これは個人の楽しみであり趣味の領域であるから、人によってバラバラであり、違って当然。誰かに迷惑をかけなければ自由だと思う。
むしろ自由であるべきだ。
オートバイへの強い想いがあるからか、若者ライダーを前に昔のオートバイやライダーの良いところを口にしてしまうことがある。しかし途中で我に返り、これ以上言わないように言葉を飲み込んでいる。
昔のオートバイは大好きだが、それを他人に押し付けるべきではない。
時代は変化している。これからのオートバイやその楽しみ方を受け入れていかなければ、オートバイの未来を否定することになってしまう。この先もオートバイを好きでいようとするなら、そしてオートバイの良さを伝えていこうとするなら、過去のオートバイにこだわり続ける訳にはいかない。そんなこだわりを持ち続けていると、僕とオートバイの未来を描けなくなってしまう。
自由であるべき
どんな形であれオートバイの楽しみ方は自由でありたい。それは誰からも干渉されるものではない。そもそもオートバイという乗り物は《自由の象徴》とされたりするではないか。
いま目の前に、楽しそうにしている大勢の若いライダーがいる。あちこちから笑い声や歓声が聞こえてくる。彼ら彼女らの笑顔を見ていると微笑ましくて嬉しくなってくる。何も言えなくなる。彼らは紛れもなくオートバイを楽しんでいる。
オートバイは楽しむもの。誰よりも楽しむつもりで存分に楽しめばいい。もしオートバイとの付き合い方に正解があるなら、答えは「楽しむこと」だ。
オートバイを楽しもう。
それは自由であるべき。
道の駅のミーティングイベントで、スズキGSX250Rが教えてくれた。
<おわり>
出典:『オートバイエッセイ集 Rider's Story オートバイが教えてくれた』収録作
著:武田宗徳
出版:オートバイブックス(https://autobikebooks.wixsite.com/story/)
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