アネスト岩田スカイラウンジ(ターンパイク箱根)での話

「10年後、箱根で」

「こ、今月で!?」

素っ頓狂な声をあげてしまった。裏返った声が恥ずかしくなって、僕は冷静さを取り戻そうと、一旦彼女から視線を逸らした。

東京。中央線沿いにあるバイク雑誌編集部にいた。編集部員の一人である彼女は「今月いっぱいで退社する」と言った。フリーのカメラマンで文章書きの僕は、親しい間柄ではなかったから理由を聞けなかった。

ただ、彼女はバイク業界からも離れるようだった。

「バイクは、まだ乗りますか?」

帰り際に聞いた。

「もちろん。最近もう一台増車したんです」

予想外の返答に思わず吹き出しそうになった。ということは三台持ちになったのか。《増車》というワードも自然に出てくる。すっかりオートバイという沼にはまっている様子だ。

「バイクに乗っていたら、また会えるかもしれませんね」

僕の言葉に、彼女は笑顔を作ってデスクに向き直った。

オートバイに乗って自宅に向かう中、急に悲しい気持ちに襲われた。彼女の退職を知って素っ頓狂な声をあげてしまった理由が、今わかった。

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情報提供元 [ KUSHITANI LOGS ]

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