
【賀曽利隆:冒険家・ツーリングジャーナリスト/平島格:写真撮影】
4月1日発売の『モーターサイクリスト5月号』(八重洲出版)には、賀曽利隆の「1万円チャレンジ」が掲載されている。カソリとカメラマンのヒラシーこと平島格さんは、「1万円旅」で「伊豆半島一周」の温泉めぐりをした。
3月16日の午前5時、JR三島駅前に集合。カソリはスズキのVストローム250、ヒラシーはホンダのフォルツァを走らせて、伊豆半島を一周した。翌3月17日の18時45分に三島駅前に戻ってきたが、全行程469キロの「伊豆半島一周」では全部で16湯の温泉に入った。2人で命を張った1泊2日の「1万円旅」をぜひとも『モーターサイクリスト5月号』でご覧になってください。
じつはカソリ&ヒラシーは今から22年前の1998年にも、「1万円旅」での「温泉めぐりの伊豆半島一周」をしている。その時は全部で23湯の温泉に入った。我々の22年前の感動の記録!?を読んでいただきたいのだ。その中で1998年と今の違い、変化を見ていただけたら幸いだ。
「1万円旅」、それは「1万円でできそうな旅」などというのは論外で、「できるかどうかわからない」、ギリギリの線を狙うところに最高のおもしろさがある。
そこでヒラシーと計画したのが、「温泉めぐりの伊豆半島一周」での20湯制覇。
無料湯と共同浴場を中心にして、「温泉大国」伊豆の温泉に次々に入り、20湯を制覇しようというもの。入浴料の上限を500円にした。
我々は「燃えよ、湯魂!」を旗印に、すべてのパワーを「温泉半島」伊豆にぶつけることにしたのだ。
こうして気合十分だったが、伊豆の温泉というのはどこも高い。入浴のみで1000円、宿泊費は1泊2万円というのはあたりまえ。そこで出発までの毎日は温泉情報のチェックを繰り返し、地図とにらめっこをして、「あーでもない、こーでもない」とルートを練った。
その結果、三島を出発点にして伊豆半島を反時計回りでまわり、熱海をゴールにした。「三島→熱海」の「伊豆半島一周」。1万円という予算と、2日という時間で、「はたしてできるだろうか…」という旅立ち前の緊張感と不安感に苛まれたが、それがまたいいのだ。
1998年7月13日午前5時。朝もやにけむるJR三島駅前でヒラシーと落ち合った。カソリの相棒は250㏄スクーターのスカイウエイブ。ヒラシーはDR250Sに乗ってやってきた。スズキコンビでの「伊豆半島一周」が始まった。
▲1万円札1枚を持ってJR三島駅前を出発!
まずは「中伊豆」の温泉をめぐる。
第1湯目は伊豆長岡温泉の共同浴場「あやめの湯」(入浴料300円)。ここは早朝の6時半にオープンする。ジャストタイミングで到着し、熱めの湯に入った。いつも一番湯に入りにくるという地元の常連さんと湯につかりながらの「湯の中談義」に花を咲かせた。
▲第1湯目の伊豆長岡温泉の共同浴場「あやめの湯」は6時30分にオープン。これは今でも変わらない
第2湯目は修善寺温泉「独鈷の湯」(無料湯)。ここでも地元の常連さんと湯につかりながらの「湯の中談義」。温泉でのこの裸のつき合いはたまらない。湯から上がると修禅寺を参拝。ここでは境内に湧き出る温泉を飲んだ。
▲修善寺温泉の「独鈷の湯」に入る。「独鈷の湯」は今は入浴禁止
▲修善寺温泉の「独鈷の湯」の前で出会った祖母・母・娘の女性三代。忘れられない出会い
第3湯目は湯ヶ島温泉の共同浴場「世古の大湯」(入浴料100円)。ここは早朝の6時から深夜の23時までやっている。湯船は2つに仕切られているが、右側は熱い湯で、左側はさらに熱い湯。そのさらに熱い湯にじっと我慢してつかると、身体は真っ赤になる。目の前を狩野川が流れているが、このあたりは渦を巻いて流れる世古峡だ。
▲湯ヶ島温泉の共同浴場「世古の大湯」の入浴料は100円。これは今でも変わらない
湯ヶ島温泉から修善寺温泉に戻ると、コンビニの「サークルK」で食パン(6枚140円)とスライスチーズ(6枚220円)を買い、それを持って戸田峠へ。戸田峠で2枚のパンに1枚のチーズをはさんで食べた。これが我々の朝食だ。
戸田峠を下り、戸田の町に入っていく。ここからは「西伊豆」の温泉をめぐる。
第4湯目は戸田温泉「壱の湯」(入浴料300円)。オープンは10時。1分の狂いもなく10時ピッタリに到着し、最高に気持ちいい一番湯に入った。
第5湯目は土肥温泉「大藪共同浴場」(入浴料200円)の湯。11時から21時までやっている。ここは昔ながらの共同浴場という風情で、前の店で入浴券を買い、共同浴場の番台で入浴券を渡して入る。土肥温泉の共同浴場の中ではここが一番古く、湯量も一番多いという。つづいて宇久須温泉「ふくしの湯」(入浴料120円)に行ったが、金、土、日、水が入浴可。その日は月曜日なので入れなかった。
▲土肥温泉の「大藪共同浴場」に入る。土肥温泉にはここのほかにも共同浴場がある
第6湯目は浮島温泉の共同浴場「しおさいの湯」(入浴料500円)。桧風呂には高級感があって気持ちよくつかれる。この湯に初めて入ったのは1991年の4月。その時は朽ちかけた湯小屋で無料湯だった。1995年の3月に来たときは、建物は建て替えられて、湯船も新しくなり、入浴料は500円になっていた。
▲浮島温泉の共同浴場「しおさいの湯」に入る。木の湯船がすごく気持ちいい!
第7湯目は堂ヶ島温泉「沢田公園露天風呂」(入浴料500円)。西伊豆の海と堂ヶ島を一望する絶景湯。ここでは入れ墨をしたお兄さんと一緒になった。内心、「ヤバイな」とビビったが、2歳になるという男の子連れのお兄さんは気持ちのいい人だった。
▲堂ヶ島温泉「沢田公園露天風呂」。ここは今も変わらぬ絶景湯!
第8湯目は祢宜ノ畑温泉「やまびこ荘」(入浴料500円)の湯。ここは廃校になった小学校を利用した温泉施設で湯は温め。降るような蝉の鳴き声を聞きながら木の湯船と石の湯船につかった。
▲祢宜ノ畑温泉「やまびこ荘」の湯につかる。う~ん、極楽、極楽!
第9湯目は松崎温泉の国民宿舎「伊豆まつざき荘」(入浴料210円)の湯。大きな石造りの湯船にどっぷりつかる。ここには何度か泊まったことがあるが、食事がすごくいい。西伊豆の海の幸を存分に賞味できる宿なのだ。
▲松崎温泉の国民宿舎「伊豆まつざき荘」の湯に入る。ここはその後、建て替えられ、今では「1万円旅」で入れるような温泉宿ではなくなった
第10湯目は大沢温泉「かじかの湯」(入浴料金500円)。県道15号の道の駅「花の三聖苑伊豆松崎」にある日帰り湯の温泉施設。内風呂と露天風呂に入った。
▲大沢温泉「かじかの湯」の露天風呂。ここは道の駅「花の三聖苑伊豆松崎」内にある温泉施設。第10湯目の温泉に入って喜ぶカソリ
松崎の町から国道136号を南下し、西伊豆の3連続の無料露天風呂に入っていく。
第11湯目は岩地温泉「ダジュール岩地露天風呂」。ここは砂浜に置かれたヨットが湯船。まさに湯船。混浴で水着着用で湯につかる。熱い湯だ。
▲岩地温泉「ダジュール岩地露天風呂」。水着着用で、ヨットの湯船につかる
第12湯目は石部温泉「平六地蔵露天風呂」。平六地蔵が見守る広々とした露天風呂にどっぷりつかる。混浴だが、水着の着用可。
▲石部温泉「平六地蔵露天風呂」。横浜からやってきた温泉大好きな人と「温泉談義」で盛り上がるカソリ
第13湯目は雲見温泉「海浜露天風呂」。ここも混浴の露天風呂で、水着の着用可。温めの湯で長湯できる。沼津からやってきた小さな子供連れの若いお母さんと一緒に入った。
▲雲見温泉の「海浜露天風呂」は混浴露天風呂。ここでは子連れの若いお母さんと一緒に入った
西伊豆から南伊豆へと舞台を移す。
第14湯目は弓ヶ浜温泉の温泉銭湯「みなと湯」(入浴料300円)。塩分を含んだ熱い湯。湯から上がると、日が暮れ、あたりは暗くなった。
第15湯目は下田温泉「昭和湯」(入浴料340円)。ここも温泉銭湯で、下田の漁港近くにある。昔風のげた箱に木札の鍵。浴衣を着た女性客がやってきた。ここは深い湯船で、中腰になって湯につかった。
▲下田温泉の温泉銭湯「昭和湯」の湯につかる。下田は日本開国の町。ここからは黒船艦隊の「ペリー上陸の地」碑が近い
伊豆急の終点、下田駅近くの「下田とうきゅう」で特価の食料を買った。カツオの刺身(300円の150円引き)、カレイのあんかけ(250円の30円引き)、サンマの塩焼き(100円の30円引き)、キューリ3本(58円)、ニンジン2本(100円)、ミョーガ(100円)、それと「下田温泉ビール」(227円)。
下田からは国道135号を北上し、南伊豆から東伊豆に入っていく。
第16湯目は稲取温泉の温泉銭湯「都湯」(入浴料340円)。熱い湯につかる。稲取の町は夏まつりでにぎわっていた。湯から上がると、海岸で野宿。夕食は「1万円旅」とは思えないような豪華版!?まずはカツオの刺し身を肴にして、「下田温泉ビール」をキュ~ッと飲み干した。次にキューリとニンジン、ミョウガを生かじりした。そのあとで飯を炊き、味噌汁をつくる。サンマの塩焼きとカレイのあんかけをおかずにして炊き上がったご飯を食べたが、もう動くのも苦しいくらいの満腹感。これだけ食べて食費は808円(米と味噌は家から持参)。
▲稲取の海岸で野宿。「1万円旅」とは思えないような豪華版!の夕食だ
翌朝は夜明けとともに行動開始。
6時にオープンする第17湯目の北川温泉「黒根岩風呂」へ。ここは入浴料が600円で上限の500円を超えるが、どうしても入りたい湯なので例外とした。長湯を決めこみ、缶ジュースを片手に湯につかった。
じつはこの缶ジュースを買うのには、かなり迷った。缶ジュース代の120円で20湯に届かなくなるのではないかと危惧したからだ。結局、「清水の舞台」から飛び下りるような気分で缶ジュースを買い、水平線に昇る朝日を見ながら飲んだ。
▲北川温泉の混浴露天風呂「黒根岩風呂」に入る。朝日にきらめく太平洋!
第18湯目は赤沢温泉の無料露天風呂。ここでは埼玉県からやって来た「若者2人組」に出会ったが、なんとも気分のいい2人で、すっかり意気投合した。大学生とフリーターの2人。夜中の1時に突然、「海に行こうゼ!」ということになり、オンボロ車を走らせてやってきたという。
▲赤沢温泉の無料露天風呂に入る。湯の中では2人の若者とすっかり意気投合。ここは今では入れない
第19湯目は熱川温泉。ここでは海辺の露天風呂「高磯の湯」(入浴料500円)に入った。海の見える露天風呂というのはいいものだ。湯につかりながら沖を行く船を見る。
いよいよ第20湯目の大川温泉だ。ここでは「磯の湯」(入浴料500円)に入った。露天風呂の湯につかり、伊豆大島を見た。感動のシーン。これで目標とした20湯制覇の達成だ。
▲大川温泉の海辺の露天風呂「磯の湯」に入る。ここをもって20湯達成!
大川温泉「磯の湯」の入浴料を払っても、2173円が残っている。まだ余裕があるということで、東伊豆観光を開始した。
東伊豆随一の海岸美を誇る城ヶ崎海岸に行く。岬突端の切り立った断崖上に立ち、まっ青な東伊豆の海を見下ろした。次に一碧湖に行き、神秘的な湖のまわりを歩いた。城ヶ崎や一碧湖の観光では、ここだけで1万円の大半が吹っ飛ぶところだが、170円のソフトクリームで済ませるというのが我々の「1万円旅」。
「もっとやろう!」と、目標の20湯を達成しても、さらに「温泉めぐり」をつづけることにしたカソリ&ヒラシー。
第21湯目の伊東温泉では「湯川第一共同浴場」(170円)の湯に入った。ここは伊東の駅前にある共同浴場。熱い湯につかりながら地元の常連客の方と「湯の中談義」をした。伊東温泉にはほかにも何ヵ所もの共同浴場がある。
▲伊東温泉の「湯川第一共同浴場」に地元の常連客の方と一緒に入る。ここは伊東駅の駅前にある共同浴場。現在の入浴料金は250円。22年間で80円、上がっただけだ
第22湯目の宇佐美温泉では温泉民宿「おっとっと村」(入浴料500円)の湯に入った。ここは宇佐美湾を見下ろす絶景湯。
▲宇佐美温泉の温泉民宿「おっとっと村」の湯に入る。宇佐美の海を見下ろす絶景湯なのだが、残念ながら今はない
最後の第23湯目の熱海温泉では「熱海駅前温泉浴場」(入浴料350円)の湯に入った。泉質自慢のいい湯だ。
▲熱海に到着。第23湯目の熱海温泉「熱海駅前温泉浴場」の湯に入った。「やったネ!」という気分
ここまでの23湯の入浴料は6710円。熱海駅前でガソリンを満タンにすると253円が残った。
合計9747円の「温泉めぐりの伊豆半島一周」。全部で23湯の温泉に入れて大成功の「1万円旅」になった。
カソリ&ヒラシーは熱海駅前でガッチリ握手をかわし、しばし感動に酔いしれた。普段ではわからないお金のありがたさ、食べもののありがたさを実感したのだった。
たかが1万円、されど1万円!
ふつう伊豆あたりでは、立ち寄り湯でさえ1000円ぐらいするのが当たり前だが、今回は23湯も入った。しかも数だけではない。北川温泉での感動の朝日や赤沢温泉での若者たちとの出会いもあった。行くべきか、止めるべきかという駆け引きの連続の1万円旅だったが、この1万円という制約が旅をこの上もなくおもしろいものにしてくれた。
▲第23湯目の熱海温泉でもって「伊豆半島一周」の「温泉めぐり」、終了!
熱海駅前をゴールにした「温泉めぐりの伊豆半島一周」の「1万円旅」だが、そのまま東京に帰るようなカソリ&ヒラシーではない。徹底的に「1万円旅」にこだわり、残金の253円と残りの食料で「最後の晩餐」をすることにした。
残っている食料というのはパン2枚とチーズ1枚、ニンジン1本。ここはヒラシーと勝負だ。同じ253円を持ってスーパーに行き、「ソレーッ!」とばかりに、1円でも安くてうまいものを買う。お互いに何を買うのかわからないところが、この勝負のおもしろさ。制限時間15分の1本勝負だ。
カソリは完熟トマト大1個(100円)、バナナ1本(40円)、ヨーグルト200グラム(98円)、消費税11円で合計249円の買い物をした。残金は4円。 ヒラシーは安売りコーラ(39円)、ヒレカツ(100円)、ヨーグルト90グラム(70円)、消費税10円で合計219円の買い物をした。残金は34円。
さー、「最後の晩餐」の開始だ。
カソリはまずは完熟トマトをガバッと食らい、次にニンジンをまるかじりしながらパンにチーズをはさんで食べる。デザートはバナナヨーグルト。バナナにヨーグルトをたっぷりつけただけだが、これがメチャうま。ヒラシーはコーラを飲みながら、チーズ&ヒレカツサンドにして、肉を味わった。
我々は「1万円旅」の最後にふさわしい豪華絢爛!?の「最後の晩餐」で、この旅をしめるのだった。
※文中の温泉の入浴料、入浴時間、温泉の状況などは1998年7月13日~7月14日の取材当時のものです。
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