“ハチタイ”鈴鹿8耐というとどうしてもライダーのラップタイムが注目されます。しかし、重要なのは、走るだけじゃないチーム力。ライダーが走っている間、そのはるか前からチームがフル回転している「レースシミュレーション」とは。
220周回するために必要な平均ラップタイムとは
ハチタイ本番へ向けて、レース直前の今、チームがいちばん頭を悩ませて準備を進めているのが、ライダーのコンディションとマシン整備だ。ハチタイ本番に向けて、猛暑対策のトレーニングを続けるライダーが、レース本番に万全な体調で臨めるかどうか、そしてハチタイ事前走行が始まる6月30日(火曜日)にきちんとマシン準備を終えられているか。
そしてもう一点。ハチタイをどう戦うか、というポイントについて、レース本番までチームスタッフが頭を悩ませている。それがレースシミュレーション。これは、8時間かけて「何周するか」、ハチタイで「周回する以外にどんなタイムコストがあるか」、そのために「ラップタイムは何秒を目標にするのか」、そのために「リッター何kmの燃費が必要か」というものを、レース前までに決定していく作業だ。
優勝を狙うチームは、まず目標周回数を決めるところからスタートする。これまでの歴代最高周回数は、2024年のTeamHRC(高橋巧/ヨハン・ザルコ/名越哲平組)の220周。そのため、26年ハチタイで優勝を狙うはずのチームの目標周回数は221周以上ということになる。今回は220周と仮定してシミュレーションしてみる。
まず8時間=480分=2万8800秒。ここから7回ピットと仮定してピット作業時間を7回分引いて、ル・マン式スタートで始まる1周目のスピードダウン分、ピット作業でのイン&アウトラップのスピードダウン分、フレッシュタイヤで走行するピットアウトあと数ラップのスピードダウン分がタイムコストだ。
もちろんハチタイの最中、雨が降ってのペースダウン、転倒車が出てのイエローフラッグやセーフティカーの介入、転倒やコースアウトの「アクシデントコスト」がない、という仮定の理想値で、実際にアクシデントコストがないハチタイというのはほとんどない。そのため、シミュレーションデータからズレた時=雨が降り始めたり転倒したりする瞬間、データ計算を瞬時に行なってどうシミュレーションを組み直すか、がトップチームの「チーム力」だ。
これに当てはめて2025年ハチタイの優勝チームのデータを計算してみる。優勝したのは高橋巧/ヨハン・ザルコ組のTeamHRC。レース終盤にセーフティカー介入があって、周回数は217周。ピット回数は7回だ。1周5.821kmの鈴鹿サーキットを217周すると1263.157km。24Lタンクに7回フルチャージするから、使用燃料は最大で168L、必要な燃費は7.518km/Lとなる。
まずピットイン&アウトの構成は、ピットロードに入る→ピットロードで減速→ピットロード制限速度区間の減速→ピット作業時間終了からピットアウト→ピットアウトまでの制限速度区間での減速→フル加速。このピットタイムコストについては、その1周前に計測ライン(スタート/フィニッシュライン)を通過してピット作業、次の計測ライン通過のタイムで表示され、25年のTeamHRCのピットタイムコストは以下のとおり。①28周目/2:50.882 ②55周目/2:55.848 ③83周目/2:52.215 ④111周目/2:53.404 ⑤139周目/2:53.667 ⑥167周目/3:00.980 ⑦197周目/4:59.166
およそ2分50秒から55秒くらいが目安で、6回目と7回目のピットタイムが長いのは、ちょうどセーフティカー介入の時のピットインだったことと、7回目のピットアウトのときのザルコのコースインが、集団通過後までピット出口で停止していたためだ。全ピットをミスなくこなすと2分55秒×7回=20分25秒、20分あたりが理想タイムあたりだろうか。
ル・マン式スタートでの1周目のタイムは2分14秒490。これで、周回からタイムダウンのない周は、1周目+ピットイン&アウト×7回の合計15周。この15周のタイムを合計すると29分36秒652。これを8時間から引くと、480分-29分36秒652=450分23秒348。
この450分23秒348を、217周のうちタイムダウンのない202周で割ると、平均ラップタイムは2分26秒146となる。このチームのベストラップは、176周目に出した高橋巧の2分06秒670なので、この平均タイムは遅そうに感じるが、約3分半ほどで周回するセーフティカーが介入していた周が約10周あり、そのロスタイムを加えるとこういったラップタイムとなるのだ。
シミュレーションでの目標は8時間走って220周。そのためには、1周目と7回の理想ピットタイムコストの20分を引いての480分-20分=460分で220周→約2分10秒。
あくまでおおよその、ざっくりした計算式だが、220周して優勝するには、燃費7.518km/Lをクリアするマシンで、平均2分10秒のラップタイムを確保しなければならないということになる。
刻々と変わる路面状況に対応し、限りなくあらわれるバックマーカーをかわし続けながら、フルタンクで18kgも車重が増えるマシンと、フレッシュタイヤがボロボロになるまで、灼熱の鈴鹿を約1時間、革ツナギを着て熱風にさらされながら25周以上を走り「続け」なければならないハチタイ。
だからハチタイは、年に一度、鈴鹿で行なわれる壮大なドラマなのだ。
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