1990年代に国内外のロードレースでその名を轟かせた青木三兄弟の次男、青木拓磨氏。全日本で王座に輝いた後、世界グランプリの500ccクラスにステップアップし、これからという1998年のシーズン開幕前のテスト中の事故で下半身の自由が効かない身体になってしまう。しかし、その逆境にめげることなく、車いすレーサーとして4輪レースに転向し、2023年のアジアクロスカントリーラリーでは総合優勝も遂げています。今回はMotoGPクラスで活躍する小椋藍選手についてのお話です。

「青木拓磨のモータースポーツライフ」前回はコチラ!

来るべきものが来た! 藍くん、ついにやってくれました!!

小椋藍くん(トラックハウスMotoGPチーム)が、フランスGPで3位表彰台。いやぁ、“ついにこの日が来たな”というのが正直な感想ですね。MotoGPの最高峰クラスで日本人ライダーが表彰台に立つのは、2012年の中須賀克行くん以来、実に14年ぶりですよ。長かったですよね、本当に。

ただ、僕の実感としては「驚いた」というよりも、「来るべきものが来た」という感覚のほうが強いです。開幕戦からずっと見てきましたが、上位争いをするのが当たり前と思えるほどのパフォーマンスを見せていました。いつ表彰台に上がっても不思議ではないと感じていたので、今回の結果にはしっかり納得できます。

勝因、その核心は秀逸なタイヤマネジメント

小椋選手の強さについてはさまざまな角度から語られていますが、僕が今もっとも注目しているのはタイヤマネジメント能力です。これが本当に素晴らしいのです。

MotoGPライダーはレース序盤、トップグループから離されたくないという意識が強く働きます。そのため、多くのライダーが限界までプッシュします。しかし、タイヤに厳しいコースでは、その代償として後半にグリップが大きく低下してしまいます。

ところが小椋選手は違います。レース序盤にトップグループから多少離れたとしても、周囲のペースに惑わされず、自分のリズムを崩しません。タイヤをしっかり温存しながら、思い描いたレースプランを着実に遂行していきます。

言葉で言うのは簡単ですが、実際に行うのは非常に難しいことです。周囲が激しくプッシュしているなかで、「今は我慢の時間だ」と冷静に判断し、自分のペースを守れるかどうか。それができるライダーは決して多くありません。

特にMotoGP参戦2年目でありながら上位争いに加わっている若いライダーが、この“我慢”を貫けるというのは本当に“見事”のひと言に尽きます。普通なら、目の前のライダーが離れていけば無理をしてでも追いかけたくなるものです。それを抑えられる精神力こそ、小椋選手の大きな武器だと思います。

そして、序盤に温存したタイヤが後半にしっかり効いてきます。これこそが、小椋選手の勝ちパターンなのではないかと僕は見ています。

レース後半の強さが際立つレース展開

今シーズンの小椋選手を見ていて、そのタイヤマネジメント能力とともに、僕がもっとも印象的に感じるのはレース後半の追い上げです。これが本当に素晴らしい。レース終盤に向けてタイヤが消耗し、他のライダーのペースが落ちていくなか、小椋選手は逆にペースを上げていきます。先ほど触れた「序盤の我慢」が、まさにここで活きてくるのです。

マシンセッティング、タイヤの使い方、そして体力。そのすべてが高いレベルで噛み合わなければ実現できない走りです。元ライダーの視点から見ても、その完成度には驚かされます。

そして、その脅威をもっとも感じているのは、実は他のライダーたち自身ではないでしょうか? 象徴的だったのが、第7戦イタリアGP ムジェロでの一戦です。最後まで3位を争った相手は、2度の世界王者ペッコ・バニャイア選手でした。

レース後、バニャイア選手は「最終ラップの12コーナーで、藍がすぐ後ろにいるのを感じた。本当にギリギリだった」と語っています。あのバニャイア選手が思わずそう口にするほど、小椋選手の存在を強く意識していたのです。小椋選手はMotoGPのトップ中のトップが「負けられない相手」と認めるレベルにまで到達していると言えるでしょう。

ハンガリーGPでも見せた“いつもの追い上げ”

直近の第8戦ハンガリーGPでは、バラトンパークという比較的新しいサーキットが舞台となりましたが、ここでも小椋選手らしいレースを見せてくれました。予選は10番手で4列目。決して理想的なポジションではありませんでした。土曜日のスプリントも11位に終わり、本人としても納得のいかない内容だったかもしれません。

しかし、日曜日の決勝では違いました。じわじわと順位を上げ、終盤にはルカ・マリーニ選手をかわして4番手に浮上。今回は1コーナーでアプリリアワークス勢のファビオ・ディ・ジャンナントーニオ選手がリタイアする展開もありましたが、そのなかでしっかりと上位入賞を果たしました。

レース後、小椋選手は「パフォーマンス的には全然納得できていない」とコメントしていました。この4位という結果に満足していないあたりが、いかにも彼らしいところです。すでに優勝や表彰台争いを基準に物事を考えている証拠でしょう。予選順位が多少悪くても、決勝で必ず順位を上げてくる。この“日曜日の男”ぶりは本当に頼もしい限りです。

優勝の日はそう遠くない

ここまでの戦いぶりを見ていると、小椋選手が優勝する日は決して遠くないように感じます。フランスGPでの初表彰台、ムジェロでの王者バニャイア選手との激しい争い、そしてハンガリーGPでの4位。流れは確実に小椋選手のほうへ向いています。しかもシーズンはまだ折り返し地点です。残されたレース数を考えれば、チャンピオン争いに加わる可能性も十分にある位置につけています。

もちろん、トップを走るベッツェッキ選手やマルティン選手、そしてマルク・マルケス選手といった強豪たちが簡単に道を譲ることはないでしょう。それでも、今の小椋選手の終盤の追い上げを見ていると、誰もが警戒せずにはいられないはずです。

僕が現役だった500cc時代、日本人ライダーが世界の頂点で勝利を挙げることは本当に大変なことでした。だからこそ、小椋選手が今こうしてMotoGPの最前線で戦う姿には、心を動かされるものがあります。

シーズンはまだ半ばです。チャンピオンを十分に狙える位置にいる若き侍に、ぜひ最後まで全力で戦い抜いてほしいと思います。次のレースが本当に楽しみです。

参考URL

青木拓磨のモータースポーツチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UC6tlPEn5s0OrMCCch-4UCRQ

takuma-gp

http://rentai.takuma-gp.com/

ギャラリーへ (3枚)

この記事にいいねする


コメントを残す