ついにスタートした、2026年シーズンイン前のプレシーズンテスト。テストが行われている、マレーシア・セパンサーキットに驚きが走った。ホンダRC213Vをライディングするジョアン・ミルがテスト2日目の午前のセッションでトップタイムをマークしたのだ! そのタイム1分56秒874は、昨年のこの地でのポールタイムを上回り、ミル自身の予選タイムをも0秒566上回るものだった。テスト初日には、ルカ・マリーニが2番手タイムをマーク。RC213Vに、何かが起きている--。
写真提供:Honda
25年モデルはニュージェネレーション2年目
シーズン22戦44レースを終えて、優勝はサテライトチームのヨハン・ザルコの1勝のみ、表彰台にはワークスチームのジョアン・ミルが3位に2回、ルカ・マリーニは表彰台まであと一歩の4位が最高位で、ザルコが優勝のほかに2位入賞を1回。これが2025年シーズンのホンダRC213Vのトピックだ。
ミルとマリーニがポイントランキングでレギュラーライダーのワースト2を占めてしまった24年シーズンより上向いたとはいえ、かつて自他ともに「最強」と認められていたホンダの成績にしては物足りない。ホンダが最後にワールドタイトルを獲ったのは、マルク・マルケスがライダーチャンピオンとなった19年。あれからもう、5年が過ぎた。
「25年シーズンは、24年に大きくマシンの方向性を変えての2年目で、トップ10にコンスタントに入って表彰台に何回か乗れるだろうな、と思っていたほぼ予想通りのシーズンになりました。もちろん、ファンの人たちにも、我々にとっても物足りない結果ですが、3年計画の2年目だと思えば、かなり良くなった実感がありました」というのは、HRCのレース運営室長、本田太一さん。ホンダが13年に、20年以上のブランクを経てダカールラリーに復帰した時の開発総責任者で、ホンダのラリーチームをゼロからチャンピオンチームに育て上げた功労者だ。
24年シーズン、ホンダは恒例のMotoGPマシン開発インタビューのなかで、RC213Vを思い切ってフルモデルチェンジした、と言っていた。具体的な内容については、当時「ありとあらゆるものをです」(本田さん)と詳細を語ってはもらえなかったが、1年が過ぎてその答え合わせができた。
「あの時言ったありとあらゆるもの、というのは、今までの枠組みを大きく取り払って、ということだったんです。もちろんMotoGPマシンは、毎年のように、いや1年よりもっと短いサイクルで変化を続けていて、市販車でいう『フルモデルチェンジ』にあたる変更を毎回重ねているわけです。それでも、24年モデルは、その枠を取り払って、エンジンはこう、フレームは、電子制御は、エアロはこう、という基本的なところから見直しました」(本田さん)
24年モデルから25年への変更は、やはりエンジンのパワーデリバリー。単純なパワーアップは当然、どの領域を、どういう風にパワーアップするかが現代レーシングマシンのエンジン進化だ。
「注力したのはトルクデリバリーの進化です。これはエンジンだけではなく、車体も制御も、エアロも関係してくる総合的な動力性能のことで、エンジンに関してはアクセラレーションやパワーマネジメントの改善ですね。どうトルクを発生させればタイヤをグリップさせ続けられるのかというのが、近代レーシングマシンの継続的な課題なんだと思います」というのは、25年型RC213Vの開発プロジェクトリーダーである辛島亮之さん。MotoGPにかかわって10年になる、車体設計のスペシャリストだ。
24年シーズン、コンストラクタータイトルで5メーカー中5位に沈んだホンダとライバルメーカーの差は、やはり動力性能。加速で、最高速で負けている、という事実をさらに細かくシミュレーションして、どこが、どのくらい劣っているのかを精度を上げて検証した。ライダーの印象と、開発陣の感覚をすり合わせて数字に落とし込む作業が、25年はグッと精度が上がったのだという。
加速、最高速、タイヤグリップに、タイヤをどれだけ持たせられるかのマネジメントに至るまで、劣っているところは改善し、勝っているところを伸ばしていこう。それを、ジャンプアップを狙ってフルモデルチェンジした24年モデルから整理して25年シーズンを戦ったのだ。
「24年シーズンの後半戦で手ごたえをつかんだ感があったので、25年モデルはその方向性で伸ばしていきました。レースは競争なので、ホンダがいくら良くなっても、ライバルもよくなっていくから、シーズンが始まると、その相対的な差が成績に現われます。ライダーからは『ウン、これはいいね』なんて1回も言われたことがありませんよ(笑)」(辛島さん)
方向性を掴んだ2025シーズン
25年シーズン開幕当初も、ライバルとの差はさほど縮んでいないように見えた。ワークスチームのふたりはマリーニが安定してポイント圏内からトップ10に入る走りを見せ、ミルは巻き込まれを含めての転倒が続く。サマーブレイクを迎えた第12戦を終わって、ザルコがランキング8位、マリーニは同15位、ミルとチャントラに至ってはレギュラーライダーのワースト2を占める19位と26位だった。
「それでも、順位よりもトップとの差=我々はレースタイムというんですが、は徐々に縮んできた実感がありました。予選タイムも決勝順位も、順位ほどは大きく離されず、僅差の中で少しずつ前に進んでいる、と。特にシーズン後半は、その前進が徐々に数字になって表れたと思います」(本田さん)
興味深いデータがある。上で本田さんが言った「シーズン後半」をサマーブレイク明けの第13戦オーストリアGPからだとすると、目に見えてトップスピードが上がっているのだ。
例えば開幕戦、4台のRC213Vのトップスピードは22台中18/19/20/22位だった。トップスピードでホンダ最上位のマシンはトップ10に入るのが精一杯で、第12戦チェコGPまでの平均順位は実に9.75位。
しかし、サマーブレイク明けのオーストリアGPでミルが3番手のトップスピードをマークすると、コンスタントにトップ3に顔を出すようになり、第17戦・日本GPでは、ついにミルとワイルドカード参戦の中上貴晶がトップスピードで1-2番手を記録! ミルはマレーシアGP、バレンシアGPでもトップスピードをマークし、バレンシアGPではミル→マリーニの順で再び1-2番手を記録してみせた。
トップスピードが上がるだけでレースに勝てるわけではないが、トップスピードのアップは、ミルが日本GPとマレーシアGPで3位表彰台に上がったように、成績上昇ときちんとリンクしている。
「シーズン中は、エンジンを2回アップデートして3仕様を使ったことになります。フレームは中盤で変更して2仕様、エアロも2度の変更で3仕様使ったことになります。特にエアロは25年シーズン中盤に使った仕様が正解に近い手応えもありました。出力と燃費とか、最高速とブレーキング、エアロの効果など、組み合わせはどうしてもトレードオフ=メリットとデメリットの差し引きになります。そこを、どういうところでバランスさせたらいいのかが少しずつ分かってきたシーズンだと思います」(辛島さん)
「24年に思い切ってフルモデルチェンジしたことで、マシンの基本性能を上げられたと思うんです。ただし、変えすぎたがために振れ幅が大きく、成績が安定しなかった。でも、その振れ幅のおかげで、24年シーズン中にライバルが苦しんでいるところまで到達できました。そのマシンをさらに進めたのが25年モデル。その成果は少しずつですがレースタイムにも順位にも現われていて、この方向でよかったんだな、という手応えをつかめました。26年モデルもこの方向で進めていって、24年モデルからの3年計画を達成したい」(本田さん)
2026シーズンのホンダは…過去最高の仕上がりに?!
3年計画の3年目。総監督ともいえるポジションに就いた本田さんは、マシンづくりだけではなく、開発のプロセスや、レース現場でのスタッフの動きにさえ目を光らせたのだという。サーキットでの効率的なタイムスケジュールの進め方、マシンの用意やタイヤの準備、タイヤウォーマーのかけ方までオペレーションを見直して、チームのムードもかなり良くなった。
テストチームには、グランプリのフル参戦から退いたばかりのアレイシ・エスパルガロと中上を起用し、引き続きステファン・ブラドルもスタンバイ。開発チーム、グランプリチーム全体で、今年はやれるぞ、という思いが、シーズンオフをはさんで26年にも持ち続けられている。
決して望んだ成績ではなかったが、少しずつ光が見え始めた25年シーズンを終えた3カ月後。マレーシア・セパンサーキットに、躍動するRC213Vの姿があった。テストライダーとルーキーだけが走れるシェイクダウンテストでは、テストライダーとなって2年目のエスパルガロが貫禄のトップタイムをマークし、レギュラーライダーが合流してのテストでは、ミルが2日目午前にトップタイムを刻んで見せた。
エスパルガロ、ミルふたりのコメントは、当然おなじトーンのものだった。
「今年のマシンは、今までで最高だよ」
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ホンダはかつて2000年代後半にも低迷していた時期があったのだけど、
見事に復活して10年代は黄金期を呼べるものとなりました。
近年の成績はファンにとってもつらいものですが、
これも跳躍への準備と考え、揺るがぬ応援をさせていただきます。