Photo:motoGP / ヤマハ発動機
1990年代に国内外のロードレースでその名を轟かせた青木三兄弟の次男、青木拓磨氏。全日本で王座に輝いた後、世界グランプリの500ccクラスにステップアップし、これからという時に1998年のテスト中の事故で下半身の自由が効かない身体になってしまい、現在は車いすレーサーとして4輪レースへ転向し、2023年のアジアクロスカントリーラリーでは総合優勝も遂げています。
今回は、FIM MotoGP™ 世界選手権の2027年シーズンに向けたその変化について語ってもらいます!
「青木拓磨のモータスポーツライフ」前回はコチラ!
ヤマハV4プロジェクトの真意 「パワー不足」からの脱却
2025年シーズンもバレンシアでの最終戦(11月14-16日)で終了というタイミングですが、2027年に施行される新レギュレーションにMotoGPの注目は集まっており、その話題はすでに次の時代へと移っています。
中でも、最も大きな変化の波を迎えるのがヤマハです。長年インライン4エンジンで戦ってきたヤマハが、ついにV4エンジンへと舵を切ることになります。これは、単なる技術変更ではなく、ヤマハMotoGP史上最大の賭けであり、ファビオ・クアルタラロのキャリアを左右する“運命の分岐点”でもあります。
ヤマハがV4開発に踏み切った理由は明白です。それは、近年のYAMAHA M1が抱える“パワー不足”への抜本的な対策です。スムーズで扱いやすい特性を持つインライン4は、ライダーにとって乗りやすい反面、近年のMotoGPで求められる絶対的な加速力とストレートスピードでは明らかに不利だったのです。
ライバルの各メーカーが空力と電子制御の進化で一気に差を広げていくなか、ヤマハはその流れに完全に取り残されていました。特に、ファビオ・クアルタラロが味わってきたフラストレーションは計り知れません。2021年の王座以降、彼の勝利は2022年ドイツGPで途絶えている状態ですから。
「勝てるマシンでなければ残れない」。その思いが、クアルタラロを激しく突き動かしています。
未知の領域に踏み込む“冒険” パワーは出ても「前に進まない」V4エンジンの壁
ホンダが1980年代からV4エンジンを貫いてきたのに対し、ヤマハはインライン4こそが勝利につながるということを信条としてきたメーカーです。V4をゼロから設計することは、ヤマハにとって未知の挑戦にほかなりません。しかも、ホンダですらV4エンジンを完成形に仕上げるまでには長い時間と莫大なリソースを費やしてきたのです。ヤマハがそれを短期間でモノにすることは、容易ではありません。ヤマハのV4開発は、まさに“時間との戦い”といえます。
パワーを上げること自体は技術的には可能です。が、それを「路面に伝える」ことはとても難しいのです。この問題こそが、V4エンジン開発の最も深い沼だといっていいでしょう。
僕自身、かつてホンダ時代にマシン開発に携わってきた経験からも、これは痛いほど分かります。明らかにパワーが出ているのに、ホイールスピンばかりして一向に前に進まない。結果としてタイヤを無駄に消耗し、序盤は速くても後半に一気に失速してしまうのです。
ヤマハのV4も、現段階ではまさにそのトラクション問題に直面しているのではないか、と推測できます。おそらく現行のインライン4よりは出力が上がっています。しかし、トラクションを確保できず、パワーが横に“逃げている”状態なのでしょう。しかも、現在のマレリ製の統一ECU(電子制御)では、そのパワー感やトルク感をメーカーとして理想的に引き出すこと自体が難しいのです。特にV4特有のトルクの立ち上がり制御が難しく、結果ライダーに“つながらないパワー”として伝わってしまっているように思います。
つまり、エンジン特性とハンドリング、トラクションが完璧に噛み合っていなければ、レースを制することはできません。この症状を解決しない限り、V4エンジンは、ただの“速いだけの実験テスト”でしかありません。
クアルタラロの焦り、そしてヤマハの覚悟
ヤマハは冷静に長期計画を進めていますが、ファビオ・クアルタラロには時間がありません。彼が28歳となる2027年、ライダーとしての黄金期を迎える彼にとって、1年1年が勝負なのです。
「もう僕には時間が残されていない」――
そう語った彼の言葉には、切実な焦りがにじんでいます。ライダーマーケットは例年以上に早く動いており、早ければ春先から主要チームの去就が決まって、夏前にはほとんどの契約が固まるといわれています。どこのメーカーでもいいわけではなく、「勝てるマシン」を手に入れることが、クアルタラロにとって、そのすべてなのです。
最終戦バレンシアGP直後のウインターテストに向けて、ヤマハは確かな進化を示し、ファビオに「残る理由」を与えなければなりません。でも、もし結果が伴わなければ・・・、彼は他の選択肢を模索することになるでしょう。その動き自体が、ヤマハに対する最大のプレッシャーとなります。
ヤマハのV4エンジンが本物の戦闘力を発揮するまでには、相当なテスト時間と開発技術が必要です。でもMotoGPは待ってはくれません。
クアルタラロが求める「今すぐ勝てるマシン」と、ヤマハが描く「長期的な再建プラン」――この時間軸のズレこそが、最大のリスクであり、最大のドラマでもありません。
果たしてヤマハは、V4エンジンで再び王座を狙えるのか? ファビオ・クアルタラロは、その瞬間までヤマハに残るのか? 未来はまだ霧の中ですが、一つだけ確かなのは――
ヤマハは今、MotoGP挑戦の歴史の中で最も大きな賭けに出ているということです。
<参考URL>
青木拓磨のモータースポーツチャンネル
(https://www.youtube.com/channel/UC6tlPEn5s0OrMCCch-4UCRQ)
takuma-gp
(http://rentai.takuma-gp.com/)
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「最大のドラマでもありません」だ?「最大のドラマでもあります」だろ。
拓磨の言葉を書き起こしたこの記事の担当編集は、自分の文章の推敲ってことをしないのかね…呆れる。
すごいフワフワとした記事。
長兄である宣篤氏の記事との落差に戸惑うよ。