写真・文/中村浩史
前戦・岡山大会で中須賀克行が13回目のチャンピオンを決めた後、JSB1000クラスの焦点は「ランナーアップ」つまりランキング2位争い。
雨はもともと得意なんです--と語る、とんでもない雨男が現れました。
役者がそろったと思ったら……
ついに最終戦を迎えた全日本ロードレース。今シーズンは、開幕戦で水野涼(DUCATIチームカガヤマ)が独走優勝を飾ったと思ったら、第2戦・菅生大会では水野が負傷欠場の中、中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)が仕返しのダブルウィン。
鈴鹿8耐をはさんで、今度は浦本修充(オートレース宇部レーシングチーム)がダブルウィンを決めると、浦本がボルドール参戦のために欠場した続くオートポリス大会→岡山大会の2戦3レースを中須賀が全勝。岡山大会までの5戦8レースで5勝を挙げた中須賀が、実に自身13回目となるチャンピオンを獲得しました。
水野が勝っても浦本が勝っても、中須賀はすべて2位を確保--5勝を上げながら、取りこぼしのない、この確実性が中須賀のチャンピオンを決定づけたといっていいでしょう。
最終戦は、ボルドール帰りの浦本、負傷から本格的に復調してきた水野がそろって中須賀に立ち向かう、ポイントを考えないガチンコバトルが展開されるものだと思われました。
しかし木曜日に行なわれた事前走行で、総合トップタイムをマークした中須賀が転倒。幸い大きなけがはなかったものの、金曜日の走行をキャンセルした中須賀は、土曜日の公式予選で2番手タイムをマーク。ポールポジションは浦本、2番手に中須賀、3番手に水野というフロントロウの顔ぶれは、2レース制で行なわれる最終戦の両レースで変わらないトップ3となりました。
土曜朝に会った時には「ケガ? してないしてない、大丈夫大丈夫。ちょっと痛いだけ」と笑っていた中須賀ですが、足を引きずりながら歩く姿は『ちょっと痛い』ようにはとても見えませんでした。中須賀にしてみても、3レースぶりの浦本と、負傷の癒えた水野とガチバトルするのが楽しみだったはずです。
しかし、土曜に予選を終えての決勝レースは雨模様。ピットアウトしてグリッドにつくサイティングラップの時点では、まだ霧雨でコースはうっすらと濡れている程度、ライダーがグリッドに留まっている間に、徐々に路面が濡れていきます。
グリッドでドライタイヤからウェットタイヤに交換をするライダーが多い中、なんと中須賀はスリックタイヤでウォーミングアップラップにスタート。場内がざわつきますが、中須賀は1周してそのままピットイン。レース出走を取りやめてしまいました。ケガで、特に下半身の踏ん張りがきかない時にウェット路面の走行は、実に危険なもの。中須賀とチームの判断は適切だったと思います。
土曜日に行なわれたレース1。スタートで飛び出したのは水野。浦本が追い、3番手以降に長島哲太(DUNLOPレーシングwith YAHAGI)、津田拓也(チームスズキCNチャレンジ)、岩田悟(チームATJ)、野左根航汰(Astemoプロホンダ SIレーシング)がつけますが、トップふたりが速い! オープニングラップで、一度は浦本が水野をパスしますが、水野はすぐに抜き返し、そのままトップに定着していきます。
考えてみれば水野→浦本の1→2フォーメーションは、言い換えればドゥカティ→BMWの戦い。序盤3周あたりでは3番手争いが激しくなり、岩田→長島→津田→日浦といったオーダーで、ここはホンダとスズキの争い。やはり、水野のドゥカティと浦本のBMWが3番手以下を引き離していくのは、マシンの持っているベースパフォーマンス、特にトラクションコントロールが優れているからというのも無関係ではないと思います。
特に水野のパニガーレV4Rも浦本のM1000RRも、パワーユニットはワークスマシン同等のものをJSB仕様としたもの。電子制御関連は、WSBKでトップを争っているマシンと同じもののはずです。
レースは水野が圧倒的に速くて、2番手の浦本も追いつけないまま周回を消化。次第に強くなっていく雨脚に転倒者が出始め、レースは14周の予定を消化できないまま赤旗中断からのレース終了。水野が浦本を6秒以上引き離しての独走優勝を決めました。2位は浦本で、3位には激しい3位争いを制した日浦大治朗(ホンダドリームRT桜井ホンダ)が入りました。3位争いをリードしていたかに見えた津田は、転倒でチェッカーを受けられませんでした。
明けて日曜も雨。すると再び……
明けて日曜は、朝から土曜よりも雨量の多いウェットコンディション。木~金曜のドライ路面から土曜のウェット路面への変化は、多くのライダーが対応しきれていなかったようですが、
土曜のレース1でウェットレースを経験した後は、日曜朝のフリー走行で雨用セッティングの確認ができます。ちなみに、中須賀はこのレース2も欠場してしまいました。
土曜のレース1で水野に圧倒的大差をつけられた浦本も、セッティングを変更してレース2へ。そして朝のウォームアップ走行では浦本がトップタイムをマークしました。愛機M1000RRでの雨走行経験がないと言っていた浦本ですが、すぐに雨セッティングを合わせてきました。
朝のウォームアップ走行では2番手に水野がつけ、このふたりが3番手の岩田に実に1秒半近くの差をつけています。これはもう、決勝レースがこの路面コンディションのままなら、水野と浦本が独走するというレース1の再現は確定的、というウォームアップ走行でした。
そして、レース2ではその予感が的中。またも水野がトップを走り、2番手に浦本、それでも浦本は水野に追いつくことができず、これはもう、水野と浦本のライダーとしてのパフォーマンスが互角とするならば、ドゥカティの雨セッティング、トラクションコントロールが、BMWのそれよりも優れている、ということになるかもしれません。
序盤数周で早くも浦本を引き離し始めた水野でしたが、転倒者が出たことで、コースにセーフティカーが介入。これで水野がつけた浦本との差は帳消しになってしまいましたが、セーフティカーがコースオフ、レースが再開されてからは、またも同じ展開で水野が独走。
結局、水野が浦本を10秒近く引き離して最終戦をダブルウィン。これで水野は、23年にホンダで、24-25年はドゥカティで最終戦を3年連続ダブルウィンを決め、3年をかけて最終戦MFJグランプリ6連勝で2025年シーズンを締めくくりました。
2位には2レース連続で浦本、3位には野左根が入り、4位以下には岩田、負傷欠場の名越哲平の代役として2戦連続の出場となった阿部恵斗(SDGチームハルクプロホンダ)、レース1で3位に入った日浦、ヨシムラから岡山大会に引き続きスポット参戦した渥美心(ヨシムラSERT MOTUL)、レース1では最後の最後に転倒してしまった津田と長島、関口太郎(SANMEIチームTAROプラスワン)がベスト10フィニッシュを決めました。
「最終戦、2つとも勝てて嬉しいです。雨のレースが得意って意識は特にないんですけど、今週は木~金曜のドライセッションで浦本選手がやはり速くて、2日間の雨で天候に味方された優勝だったかもしれないですね。実はミニバイクの時も全日本の時も、初優勝は雨のレースだったんですよ。今回は自信をもって走ることができました」と水野。
もし雨でなければ浦本が速いだろうな、水野はどこまで負傷から回復してるだろうな、そこに中須賀はどう絡むんだろう、というのが関係者の一致した見方で、やはり雨が水野をリードに導いたのだと思います。
それにしてもチャンピオン中須賀以下では、ランキング2位がドゥカティ+水野、3位がBMW+浦本。最終戦で決着した水野→浦本→野左根のランキング2→3→4位のライダーは、水野が2レース、浦本が4レース、野左根が3レースでノーポイントレースを演じての獲得ポイントと順位。今シーズンのJSB1000クラスでは、ポイントを獲得した延べ30人のライダーのうち、チャンピオン中須賀と、ランキング5位の伊藤和輝(ホンダドリームRT桜井ホンダ)のみが全戦ポイントを獲得という低調さとなりました。
ドゥカティ、BMWの強さにさらされた日本車と、日本のトップカテゴリーのレベルが決して上がっていない、と感じてしまったシーズンとなりました。
これで2026年シーズンは、まだ決定ではないものの、オートレース宇部レーシングチームが世界耐久にフルエントリーを予定していることで、浦本が全戦に参戦できないことが濃厚で、シーズンは中須賀vs水野の一騎打ちに野左根がどこまで食い下がるか、伊藤が確実性に加えてどこまで強さを見せられるか、長島はどこまでダンロップタイヤのパフォーマンスを高められるか、が焦点となりそうです。
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