
1990年代に国内外のロードレースでその名を轟かせた青木三兄弟の次男、青木拓磨氏。全日本で王座に輝いた後、世界グランプリの500ccクラスにステップアップし、これからという時に1998年のテスト中の事故で下半身の自由が効かない身体になってしまい、現在は車いすレーサーとして4輪レースへ転向し、2023年のアジアクロスカントリーラリーでは総合優勝も遂げています。
今回は、9月26日(金)から28日(日)にかけて、モビリティリゾートもてぎで開催された「2025 FIM MotoGP™ 世界選手権シリーズ 第17戦 MOTUL 日本グランプリ」について語ってもらいます!
「青木拓磨のモータスポーツライフ」前回はコチラ!
マルケス:これぞ“圧倒”という支配力
今年のMotoGPを振り返るなら、やはり主役は マルク・マルケスですね。そして、その陰で密かに熱を帯びていたのがペッコ・バニャイアの“完全復活”劇。もてぎという舞台で、両者の物語が鋭く交差しました。今回は、そのドラマを僕なりに整理してみたいと思います。
まずはマルケスの話から入りましょう。今年、彼の強さは“異次元”でした。ここまでの17レース終了時点で、勝利数はすでに11勝(グランプリレース)を数え、スプリントレースの14勝を含めたら、彼の“実質勝利数”はとんでもない数字となります。でも、この“支配力の影”には、長い苦難の道があったことを忘れてはならないでしょう。
契機となった大事故とその後の停滞
2020年7月、スペイン・ヘレスの4コーナーでマルケスは大クラッシュを喫し、右上腕を大怪我。選手生命に関わる重傷であり、以降のキャリアに暗い影を落とすことになります。その後コロナ禍でレース/開発が中断。ホンダ、ヤマハらは開発で立ち遅れ、ドゥカティが一歩抜け出す状況となっていきます。マシン性能差が明確になる中、マルケスは転倒を重ねて苦しむ時期を迎えました。
ここで彼はプライドを捨て、敢えて“ワークスライダー”という称号を持つポジションを離れる決断をします。その移籍先となったのが、ドゥカティ・サテライトチームであるグレシーニ・レーシングでした。最初はマシン特性の違いに戸惑いもあったようですがシーズン後半にはきっちり適応してきて3勝を挙げて見事な復活を遂げました。
そして迎えた今季、ワークスドゥカティの一員として、開幕戦からその強さを見せつけました。幾多のヒヤリとする場面もありましたが、もてぎでは冷静なレース運びで2位表彰台を掴み、見事世界チャンピオンに返り咲きました。
スランプに陥ったライダーが、6年ぶりに世界王者に返り咲き、しかも圧倒的な強さでというケースは、近年では記憶にありません。マルケスが自身の身体を調整し、メンタルとフィジカルの両輪を高めてきたからこそ、この帰還劇はひときわ輝きを帯びる結果となりました。
彼の、予選、スプリント、決勝、全てを “100%” で臨む姿勢こそが、容易には得られない勝利だったのだろうと思います。今年は残り6戦(インドネシアを含む)。優勝回数、獲得ポイントの最高記録更新がかかる今、僕もファンとしてワクワクが止まりません。
その背後に見えたもう一つの物語、バニャイアの「完全復活」
マルケスの陰で、今回のもてぎでは “もう一つの主役” がいました。それがペッコ・バニャイアです。今年、バニャイアは苦戦を強いられていました。開幕からGP25マシンの適性に苦しみ、特にブレーキング時のフロント荷重のかかり方が自身の走りに合わず、手をこまねいている場面もありました。マルケスがGP25型を乗りこなして成果を挙げているのを横目に、“マシンの方向性”への不安も浮上していました。
そこでバニャイアは声を揚げ続け、GP24年型シャーシに戻す、エアロを変えるなど試行錯誤を重ねていき、ついにもてぎでは 完全にGP24年型「寄り」セット(GP24ではない)に立て直してレースに臨んだのです。これが功を奏したのか、予選でのブレーキング、決勝での走りどころにかけて、彼の“らしさ”が戻ってきました。
バニャイアの常識を超えたブレーキングアート
今回のもてぎで僕が最も印象に残ったのは、3コーナーのブレーキングアプローチでした。あの瞬間を目にしたとき、僕は「ペッコの本来の走りが完全に戻ってきた」と確信しました。
もてぎの3コーナーは非常に大きなブレーキングが必要となるコーナー。もてぎの中でもかなり強くフロントブレーキを握るポイント。フロントサスが沈み込み、リアサスは伸びて車体が前のめりになる。そこにリアブレーキを使って、リアを伸びないように抑え、フロント荷重を分散させながらバイクを安定させて走るのがセオリー。大抵のライダーは、このバランスで減速していく。ところが、今回のペッコのブレーキングアプローチは明らかに違っていました。
最初のフルブレーキングではセオリー通りにリアを踏み込んで安定させているように見えますが、ブレーキングの中盤に差しかかると、リアタイヤが路面から完全に浮き上がっていた。それはすなわちフロントタイヤに荷重を載せていることを示します。
通常ならマシンは暴れ、転倒のリスクが一気に高まるはずですが、彼はその浮いたリアを“意図的”にコントロールしていました。さらに驚いたのは、その浮いたリアタイヤがクリッピングポイントに近づくと、スッと接地し、そこから一気に駆動をかけて、立ち上がっていったこと。
まさにペッコは、意図的にリアタイヤで路面を捉えマシンを押し出すタイミングを計っていて、まさにアンダーコントロールしていたのです。
これはもはや「フロントで止め、フロントで向きを作り、最後にリアで蹴り出す」という独自のリズムであり、僕にはそれが ペッコだけの“ブレーキングアート” に見えました。
この瞬間、彼の過去数戦の不調は完全に吹き飛びました。迷いや不安が残っているライダーには絶対できない芸当です。あそこまでフロントを信じ切り、マシンの挙動を支配下に置けるのは、精神的にも技術的にも“完全復活”を果たした証拠だろうと思います。
かつての栄光を取り戻す男と、新たな王者として眩さを放つ男。今後、ドゥカティ陣営内でも、バニャイアとマルケスの戦いが俄然面白くなることは間違いない、そう言い切れます。
<参考URL>
青木拓磨のモータースポーツチャンネル
(https://www.youtube.com/channel/UC6tlPEn5s0OrMCCch-4UCRQ)
takuma-gp
(http://rentai.takuma-gp.com/)
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