2024年に開発が明かされたヤマハのV4エンジン。その存在はヤマハのMotoGPマシンにとって、大きな転換の可能性を秘めている。その開発の内情を、ヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長、鷲見崇宏さんに伺った。

V4エンジン開発は、まったく新しい挑戦

2025年シーズン現在、MotoGPにはドゥカティ、アプリリア、KTM、ホンダ、ヤマハの5メーカーが参戦している。このうち、並列4気筒エンジンを搭載したバイクは、ヤマハのYZR-M1のみである。他の4メーカーはV4エンジンを採用している。

しかし、2024年9月、ヤマハ・モーター・レーシングの元マネージング・ディレクター、リン・ジャービスさんは「V4エンジンを開発中」だと認めた。長年、特に4ストロークマシンのMotoGP時代(2002年)になって以降、並列4気筒エンジンで戦ってきたヤマハがV4エンジンに転換するのかと、注目を集めているのだ。

V4エンジンの開発状況について、第13戦オーストリアGPでヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長、ヤマハ・モーター・レーシング社長の鷲見崇宏さんに話を聞いた。

「将来に備えた、完全に新しい挑戦です。一大決心で取り組んでいます。ヤマハにとっては未経験、ということに加え、今シーズンを戦いながらまったく異なるバイクを開発するというのは、現在、過去を振り返ってもなかなかありません。かなり大きな挑戦ですね。今までのやり方は通用しないので、いろいろとやり方を変えながら、この並行開発をなんとか進めています」

「我々にとっては初めて(のV4エンジン)ですから、本当に機能するのか、まだまだ手探りの状況です」と言う鷲見さんだが、同時に「テストは順調」とも語る。

といっても、V4エンジンが完成して2026年にただ走ればいい、というわけではない。V4エンジンを開発すること自体が目的ではなく、V4エンジンを検証することが目的だ。それは、V4エンジンの開発についてヤマハに尋ねるたび、繰り返されてきた回答である──つまり、言うまでもないことだが、導入されるとしたらV4エンジンが並列4気筒エンジンのYZR-M1よりも車両パッケージとして優れていなければならない。

「勝つための新しい道具として開発をしています。ですから、少なくとも今のマシンに対して優位性が確認できることが、最初の目的になりますね。まだたくさんやることが残っていて、今の時点では確信が持てるところには至っていません。ただ、来季に向けて開発の佳境を迎えている状況になります」

©YAMAHA

「エンジンの形が変われば、それを支えるシャシーも周りの部品も変わります。エアロの形状も含めてね。だから、まったく別のバイクを作っている、ということなんです」

シーズンを戦い、現行のYZR-M1の開発と改善を行いながら、まったく新しいV4エンジンのバイクを開発するというのだから、途方もない労力だ。しかし、いつかは検証を終え、V4エンジンを選ぶのか否か、その選択をしなければならない。それはいつになるのだろうか。

鷲見さんによれば「もちろん早ければ早い方がいいですよね。早く性能の優位性を確認できればいいのですが、まだその段階にはありません。(選択を下すのが)いつ、というのは、今は言えないですね」ということだった。

新しい形式のエンジンとなれば、2027年が思い浮かぶ。2027年、MotoGPの技術規則が変更され、そのうちの一つとしてエンジンの排気量が850㏄となるのだ。新しいエンジンを投入するには最適なタイミングに見えるが……。

「(2026年は)1000㏄最後の年になるのに、新しいエンジンを開発するというのは、見ようによっては、『何で?』と思われるところもあるかもしれないですね。でも、今はご存知の通り、我々はコンセッションのランクDを受けて、開発の機会を優遇されている状況です。そのチャンスを活用することが、非常に大事だと判断しました」

ヤマハは2024年からコンセッションの「ランクD」を受けている。「ランクD」によって開発においていくつかの規制が緩やかになるのだが、そのうちの大きな恩恵の一つが、エンジンの仕様が凍結されない。つまり、「シーズン中にエンジンのアップデートが可能」である。

ランクAのドゥカティ、ランクCのアプリリアとKTMは、シーズン前にエンジンの承認を受け、シーズンを通して承認を受けたエンジンで戦わなければならない。しかし、ランクDのヤマハとホンダは、シーズン中にエンジンのアップデートが可能である。また、テストに使用できるタイヤの本数も多く、プライベートテストにレギュラーライダーが参加できるなど、多岐にわたって開発が優遇されている状況だ。

2027年シーズンには850㏄エンジンとなるが、当然ながらすでにその検討も進められている。では、そのエンジン形式は?

「それはちょっと言えないですね」と、鷲見さん。「その前に大きなチャレンジを抱えているので、まずはそこに集中している状況です」

このインタビューを行った後、8月25日にヤマハ・モーター・レーシングのマネージング・ディレクター、パオロ・パヴェジオさんが、サンマリノGPでV4エンジンの実戦投入を目指すとSNSで明かした。テストライダーのアウグスト・フェルナンデスが走らせるということだ。

決断の時期は迫りつつあるのだろうか。

ヤマハ発動機モーターサイクル車両開発本部MS統括部MS開発部長、
ヤマハ・モーター・レーシング社長
鷲見崇宏(すみ たかひろ)さん

©Eri Ito

量産モーターサイクルとYZR-M1の車体設計を主に担当。2019年からYZR-M1プロジェクトリーダーを担い、2022年、MS開発部 部長、(兼)ヤマハ・モーター・レーシング(イタリア)社長に就任。

ギャラリーへ (2枚)

この記事にいいねする


コメント一覧
  1. スキスキサンダーキャット より:

    2027年シーズンからはV3でしょ

コメントをもっと見る
コメントを残す