小椋藍はタイGPで鮮烈なデビューを飾り、負傷による欠場もありながら、前半戦を戦い抜いた。小椋は、前半戦で何を得て、どう成長したと感じているのだろうか。そして、今の課題とは何だろうか。
タイGPの5位で始まった最高峰クラスの1年目
2025年、MotoGPクラスにステップアップした小椋藍(トラックハウス・MotoGP・チーム)のルーキーシーズンは、開幕戦タイGPのスプリントレース4位、決勝レース5位という鮮やかな結果で口火を切った。
といっても、順風満帆というわけにはいかない。小椋にとっては、ほとんどがMotoGPマシンで走る初めてのコースである。
特にスペインGP以降、つまりヨーロッパラウンドに入ってから、小椋は少しずつ苦戦し始めた。開幕戦から第4戦までは、ヨーロッパを離れてタイ、アルゼンチン、アメリカ、カタールでのレースだが、第5戦スペインGPから9月のサンマリノGPまでは、ヨーロッパでのレースとなる。MotoGPライダーの多くを占めるヨーロッパ人にとっては、主戦場である。スペインGPの開催地であるヘレスは、とりわけスペイン人ライダーが速い。ルーキーの小椋がスペインGP以降に「相対的に」厳しい戦いを強いられていったのは、そう不思議なことでもない。
イギリスGPでは、金曜日のフリープラクティス1で転倒を喫して右ひざを負傷した。小椋はスペインのバルセロナで手術を受け、イギリスGPのほとんどと、翌アラゴンGPを欠場した。長引くけがにならなかったことは幸いだった。小椋は、イタリアGPで復帰を果たしている。
チェコGPまでの前半戦を終えて、小椋は51ポイントを獲得し、チャンピオンシップのランキングとしては16番手につけている。
小椋が考える「問題」
MotoGPクラスのルーキーシーズンの前半戦、開幕戦タイGPから第12戦チェコGPまでを戦って、小椋自身は「何を得て」「どう成長した」と感じているのだろうか。チェコGPでそう尋ねると、小椋は「うーん……」と、少し考えてから答え始めた。
「金曜、土曜のアプローチの仕方は、レースウイークをこなしていくことでしか得られません。そういうものは身に付いてきたと思います」
MotoGPクラスの場合、小椋が戦ってきたMoto2クラスとはレースウイークのスケジュールが少し異なる。金曜日の午後に予選のQ1とQ2を分けるプラクティスがあり(ただし、今年からは全クラスが金曜日午後はプラクティスになった)、土曜日にはスプリントレースがあり、メディアやイベント対応も増える。
「システムがわかっていても金曜日(の午後・プラクティス)でトップ10にいられるかといえばそうではないんです。レースウイークの流れはわかってきましたけど、ちょっと速さが足りない。だから、そこまで大きな変化につながっているわけではない感じはします」
そして、「ライディング面に関しては……。バイクやタイヤに対する理解度が深まっている感じは、あまりしていないです」と、打ち明けた。
「今のところ、頑張ってトライしたときに転倒しています。その先にいってようやく(バイクやタイヤへの理解が)見つかるものだと思うんですが、そこ(転倒)で毎回振り出しに戻されてしまうんです」
「そういうところをつかんでいくには、もう少し絶妙なところで走らないといけないと思うんですけどね。今は遅いときは遅すぎるし、いくときはいきすぎて転んでしまう。まだ、限界のところで走る、ということについて丁寧になれていない。そこが問題だと思います。だから、あまり理解が深まっていないのだと思います」
今、取り組んでいるタイヤのこと
小椋は、シーズン前半戦を終えて、通算11回の転倒を喫している。現在の最多転倒回数ではないが、最もクラッシュしているジョアン・ミル(ホンダHRCカストロール)とヨハン・ザルコ(カストロール・ホンダLCR)が15回であることを考えると、決して少ない数字でもない。
元々、小椋は転倒の少ないライダーだった。それが、今季のルーキー勢としてはいちばん転んでいる。チェコGPの金曜日、午前中のフリープラクティス1でも、小椋はハイサイドを喫して転倒した。確かに、このセッションはウエットからドライに変化する複雑なコンディションではあったのだが。小椋は転倒直後、大破したマシンを見て両手でひざを叩く仕草をした。
今、小椋が頭を悩ませているのは、タイヤだ。Moto2、Moto3クラス時代、小椋は寒いコンディションを苦手としていた。MotoGPクラスではそれを改善したいと取り組んでいるところなのだ。チェコGPの金曜日、転倒について小椋はこう説明していた。
「もちろん、走り始めはそこまで攻められないんですけど、それでも絶妙なところで走りながらタイヤを温めていかないといけないんです。でも、そこがまだよくわかっていない。その感覚が……、たぶん、へたくそなんだと思います」
開幕戦タイGPは、多くのライダーが熱に苦しんだレースだったが、小椋は見事にタイヤをマネジメントした。しかし、その逆の状況になると、途端にマネジメントが難しくなる。端的に言えば、タイヤの温度を上げていく作業が苦手なのだ。
「タイではみんな、タイヤをヒートさせてしまったけれど、僕はヒートさせずに走るのは問題ないです。でも、たぶん、冷えているところから機能する温度にもっていくのが下手なんですよね。(タイヤを)ヒートさせないで走るのはできるほうだと思うんですけど、温度を上げていくのは、へたくそなんです」
小椋はそれを改善しようと力を尽くしている。それでも、「頑張って走ると、どうしても転んじゃう」のである。ライダーは転倒を重ねて「限界」のラインを見定めていくものだが、11回転倒をしても、今の小椋にははっきりとした手ごたえがないらしい。
「頑張って走っての転倒なら、糧になる転倒では?」と尋ねると、「うーん、でも、そういうときの転倒って、あまり納得できる転倒じゃないんです」と、難しそうな表情で答えた。
「(転倒しても)『ああ、また一歩進んだ』って感じがしないんですよね。だから、つかむまではこんな感じなんじゃないですか」
これだけ聞くと小椋が低迷しているようだが、そうではないだろう。タイGPで華々しいデビューを飾ったとはいえ、MotoGPクラスのルーキーなのだ。マシンも、タイヤも、チームも、何もかもが1年前とは違う。むしろ、小椋が抱えている苦悩はルーキーとして自然なものだろう。「鮮烈なデビュー」にも今の状況についても、小椋はしっかりと説明できる理由を持っているし、自分に必要なものを理解している。それが重要だ。
チェコGPの日曜日、レース後の囲み取材で小椋に「前半戦の評価」を聞いた。
「100点で言ったら、50点くらいじゃないですか。いいレースもあり、悪いレースもあったから」
「サマーブレイクは、もっとオートバイを上手に乗れるように頑張ります」
小椋はそう言う。MotoGPライダーが「オートバイをもっと上手に」とは不思議に聞こえるけれど、小椋は本気で「もっと上手に」を求めているのだ。この飽くなき向上心が、小椋藍である。模索し続けているものを「つかんだ」ときに、小椋は再び開花するはずだ。
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