©YAMAHA

MotoGPイギリスGPで、ヤマハのファビオ・クアルタラロが決勝レース中盤までトップを走った。クアルタラロは、予選(Q2)で3戦連続のポールポジションを獲得していた。ヤマハは、復活の兆しを見せている。どのように前進しているのか。そして、度々話題に上がるV4エンジンの開発は……?

ヤマハ発動機MS統括部MS開発部プロジェクトリーダー、増田和宏さんにインタビューを行った。なお、インタビューはイギリスGPの木曜日、つまり走行が始まる前であったことを付け加えておく。

フランスGPで投入の新エンジンとV4エンジンの開発状況

2024年シーズンを未勝利、未表彰台に終わったヤマハは、しかし今季はファクトリーライダーのファビオ・クアルタラロがスペインGPで2022年インドネシアGP以来となるポールポジションを獲得した。さらにクアルタラロは母国のフランスGP、インタビューを実施したイギリスGPでも、ドゥカティのファクトリーライダーであるマルク・マルケスや勢いに乗るアレックス・マルケスを抑え、3戦連続のポールシッターになった。

ヤマハはじりじりと上位との──ここ数年のMotoGPを席巻しているドゥカティとの差を詰めつつあるように見える。

「正直に言うと、思ったよりも早く、ファビオが結果に結び付けてくれたなと思います」

ヤマハ発動機MS統括部MS開発部プロジェクトリーダー、増田和宏さんは、2025年シーズン、フランスGPまでの評価をこう語る。

「その点は評価できると思います。ただ、ほかの3人のライダーも調子は上向いてきているものの、目に見える結果が出せていないので、そこはまだ課題ですね。いいところと悪いところ、両方ある、というのが今の自分の受け止め方です」

第6戦フランスGPから、ヤマハは第5戦スペインGP後のヘレス公式テストでテストしたエンジンを投入した。イギリスGPでも使用されたこのエンジンは、トップスピードのパフォーマンスを向上させることを目的としている。トップスピードの改善はヤマハの積年の課題であるが、フランスGPから実践投入されたこのエンジンは、「失うものがなくトップスピードが改善された」という。というのも、トップスピードの改善を求めた結果、これまでの強みであったハンドリングを失ったことが過去にあったからだ。今回のエンジンは、強み(ヤマハYZR-M1のアドバンテージ)を生かしたまま、トップスピードを向上できたということだ。

「トップのパフォーマンスを出すことだけに注力すると、ハンドリングが悪い方向に変わってしまったり、ライダーのスロットルを開けていくフィーリングと実際のパワーの出方のマッチがネガになってしまう、ということがよくありました。そうした苦い経験を積んできて、ネガを『こうやって抑えよう』と開発をしてきました。今回のエンジンについては、ネガがなくトップスピードの向上だけが得られ、結果に結び付けられたので、即レース投入という判断をしました」

現在のヤマハのMotoGPマシン、YZR-M1は並列4気筒エンジンを搭載している。今やMotoGPの中では唯一の並列4気筒エンジンのマシンである。そんなヤマハが、V4エンジンの開発に着手しているというニュースが流れて久しい。

じつは、増田さんに2024年末に昨シーズンのMotoGPについて取材する機会があり、そのとき、増田さんはV4エンジン開発について「並列4気筒エンジンがV4エンジンに劣ると思っているから(開発している)、ではないんです。今となっては、並列4気筒エンジンはうちだけです。ということは、V4エンジンが持っているパフォーマンスのいい面があるはずです。ただ、僕たちは、MotoGPマシンにV4エンジンを搭載して検証したことがありません。じゃあ、検証しましょう、というのが(開発を始めた)理由です」と説明していた。

今回、V4エンジンに触れると「ああ、(V4エンジンも)ありましたね」と、今思い出した、という風に増田さんは笑った。状況は変わらず、ヤマハはV4エンジンのメリットを理解、検証している段階だ。

「まだ判断のタイミングには至ってないです。今の段階は、“我々が作ったV4エンジンを、理解する”という途中です。幸か不幸か、注目していただいていますけど(笑)、あまり焦ることはなく、予定していた『このように理解して進めていきましょう』というスケジュールにのっとって進めている最中です」

V4エンジンの開発が、並列4気筒エンジンの改善に貢献しているところがあるのだろうか? 前述のように、ヤマハは強みを維持したままトップスピードを向上させつつある。ドゥカティとコース上で戦うライダーたち、クアルタラロなどは新エンジンについてその向上は大きくはないとコメントしており、劇的な改善ではないようだが、現行の並列4気筒エンジンについて一歩前進したことは確かだ。

しかし、増田さんによれば「どちらかというと、逆ですね」ということだ。2025年シーズンも、並列4気筒エンジンの開発は続いている。特に、ヤマハは今季もコンセッションのランクDのため、シーズン中のエンジンのアップデートが可能である。

「本社のメンバーにはかなり無理を強いているんですが、現在、二つの異なるエンジンを並行して開発しています。並列4気筒のエンジンで見えてきた、今までうまく解決できなかった背反事項を今回はうまく解決できた……そういう知見や経験は、すぐにV4エンジンにも生かされていきます。並列4気筒エンジンでやったことを、V4エンジンに生かしている最中です」

再び優勝するために必要なもの

クアルタラロは3戦連続のポールポジションだけではなく、スペインGP決勝レースで2位表彰台を獲得している。これは、2023年インドネシアGPで3位を獲得して以来、1年以上ぶりの表彰台だった。ヤマハの総合力は上がっていると、増田さんも認める。

「決して何か特別な魔法を見つけたという話ではないんです。エンジン、制御、車体、空力……、それから現場の回し方やライダー本人。ありとあらゆるところで努力を積み重ねてきて、その結果が見えるようになってきたと理解しています」

それでも、ヤマハはまだドゥカティに勝つことができていない。確かに、イギリスGPの決勝レースでは、クアルタラロがトップを走った(その後、マシントラブルでリタイアし、クアルタラロはコース上に突っ伏して泣き崩れた)。

だが、このレースは赤旗中断があり、最初のレース(赤旗中断前のレース)で、優勝候補であったアレックス・マルケスやマルク・マルケスが転倒していた。彼らはスペアマシンに乗り換えてフィーリングが十分ではなく、精神的にも「一度転倒している」という背景があった。つまり、“完全にいつもの”レースというわけではなかった。クアルタラロがトップを快走するためには、今はまだ、そうした“イレギュラー”が必要だ。もちろん、そうした背景があったとしても、マシンの改善やクアルタラロの力走がトップ走行につながったことは間違いないのだが、まだ必要な改善があることもまた、事実だ。

「残念ながら、今の我々とドゥカティさんを比較したときに、我々の強みと言えるのは、直立のブレーキングくらいでしょうね。ありとあらゆるほかのフェーズでは明らかに劣っていますので、やらなければならないことは山積みだと思っています」

特に改善したいのは、リアのグリップである。これも、ヤマハが改善に取り組み続けているパートの一つだ。2024年にファインチューニングされたミシュランのリアタイヤは、うまく適応できればパフォーマンスを発揮するが、そこを“外す”ことができなくなり、バイブレーションがついてまわる。ヤマハはこのリアタイヤに苦しんでいたのだ。

「いろいろなことをやってリアグリップが少しずつよくなっている感覚はありますけど、それでもなお、我々のいちばん注力すべきポイントがリアグリップだというのは変わっていません。まだ改善の途中です」

その改善の糸口は「いくつか見えている部分はあります」ということだ。

「昨年の後半ごろからつかみ始めたものをさらに伸ばし、別の方法でもう一度伸ばしてみたり……。様々なことをトライしています」

ドゥカティに勝つために、再び表彰台の頂点に立つために。ヤマハは前進を続けている。そしてその前進は、今、目に見える結果となって現れ始めている。

クアルタラロは、スペインGPからイギリスGPにかけて3戦連続のポールポジション獲得を達成した©MotoGP.com

イギリスGPでは、プライベートテストで使用した新しい空力デバイスをクアルタラロが使用。こうしたアップデート、トライが随時行われている©Eri Ito

ヤマハ発動機 MS統括部 MS開発部 プロジェクトリーダー
増田 和宏(ますだ かずひろ)

2005年、ヤマハ発動機入社。モトクロス車両の車体設計、2016年よりMotoGP車体設計。2022年、MotoGPのテストチームリーダーを務める。2024年からMotoGPのプロジェクトリーダーに就任した。

©Eri Ito

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