
14年ぶりに全日本エンデューロ選手権(JEC)が福島県のチーズナッツパークに戻ってきました。2デイズで開催された今大会は、スペシャルテスト1本と、名物セクション「御柱」や「猿山」などを含むテクニカルなルート(IA・IB・NAのみ)を組合せた1周約10kmのコースが舞台となりました。約5kmに及ぶテストは、ハイスピードで爽快なレイアウトながら、タイムを詰めるには高度なテクニックが要求されるチャレンジングな設定でした。
しかし、エンデューロの常として天候がレースの様相を一変させます。レース前日の夕方から降り始めた雨はDAY1の土曜日まで続き、コースはヘビーマディコンディションに。DAY1はコンディション悪化によりコースカットやレース中断、タイムオーバーが続出。これを受け、主催側はDAY2に向けて緊急対策を講じました。前夜にも雨が降ったことで、路面はさらに水分を含み、強風による影響も見られる厳しい状況でDAY2はスタート。午後のIA・IB・NAクラスは、DAY1のNB・ウィメンズ・エンジョイクラス向けルートと、難所をカットしたスペシャルテストという、前日よりも走りやすい設定に変更されました。
目次
IAクラス 馬場亮太選手、DAY2も圧勝で総合優勝!
DAY1:序盤の苦闘を乗り越え、執念のトップフィニッシュ
気温の上昇とともに路面コンディションが刻々と変化する中、IAクラスのトップ争いは熾烈を極めました。ディフェンディングチャンピオンの馬場亮太選手は、レース序盤について「テストで2回転んでしまいましたし、ルートでもスタックしたり谷側に落ちたり……。本当にきつくて、手も腰も限界に近かったです。1周目がカットになったことを最初は知らず、2周目で転倒もしました」と、厳しいスタートだったことを明かしました。
しかし、ここから馬場選手は驚異的な集中力で立て直します。中断明けの3周目には5分19秒台というこの日のトップクラスのタイムを叩き出し、一気にトップ争いに加わると、「大きなミスなく走れてトップタイムを出すことができました。細かいエンストやミスはありましたが、最後までプッシュできました」という言葉通り、持ち前の安定感を取り戻し、後続の追い上げを振り切ってDAY1の優勝を飾りました。
DAY2:的確な状況判断と圧倒的なスピードで連勝
コース変更が施されたDAY2。IAクラスは特別に1周目が下見走行となりましたが、馬場選手は「1周目はまったくリズムに乗れず、今日は体が動かないかもしれないと不安を感じましたが、結果的にそれが良いウォーミングアップとなり、計測が始まった2周目からはしっかりと走れましたね」と序盤からトップタイムを叩き出し、1番時計の4分30秒をマーク。その後も、「今シーズンは4~5分のテストでヨシカズ(保坂修一選手)が数秒差に迫ってくるため、毎回もっと差を広げなければならないというプレッシャーを感じています。無理な走行は避けつつ、アクセルワークでバイクを高い位置でコントロールし、エンジンの回転数を落とさないよう、特にウッズ区間ではスムーズな走りを徹底しました」という言葉通り、高い集中力でラップを重ねます。
全5ラップ中4ラップ目に、「嫌な根っこが見えるので」とルート上でマシンを止めてテストの難所を下見したところ、その難所で転倒。「1回転倒してしまって6秒のロスはあったものの、テスト走行自体は非常に面白く、楽しむことができました」と語るように、この周回以外はすべてトップタイムを記録し圧勝。DAY1に続きDAY2も制し、見事総合優勝を果たしました。「昨日のテストでは2度の転倒と1度のエンストがありましたが、今日はテストでの転倒1回のみに抑えることができ、それ以外に大きなミスはなかったと感じています」と、2日間を振り返りました。
・リヤ:140/80-18 M/C 70M M+S MEDIUM
・ムース:前後メッツラー (DAY1:リヤ新品、フロントほぼ新品 / DAY2:リヤはDAY1使用の馴染んだムース)
2日間を通して馬場選手が選択したタイヤは、開幕戦と同じメッツラー・シックスデイズエクストリームでフロントはスタンダード、リヤはミディアム。「4月にチーズナッツパークを走った経験から、土質はある程度分かっていましたし、路面のミューが極端に落ちるような事態にはならないだろうと判断してミディアムを選びました」と、その理由を説明しました。
新品ムースとの組合せについては、「最初の1周目のルートのキャンバーなどでは少し硬さを感じて、食いつきが悪いかなと思う場面もありましたが、テストに入ってしまえばまったく嫌なところはありませんでした。ヌルヌルの下の黄色い粘土質のところでもグリップしてくれましたし、テスト区間の石が多いセクションでも弾かれることなく、尖った石でタイヤがダメージを負うこともありませんでした」と、コンディションへの適合性を高く評価。
「DAY1のテストでは、轍の中のギャップがどんどん深くなっても弾かれる感じはまったくなかったです。リヤのメッツラーミディアムは、しっかり踏んで下に押し込んでいくと、すごく安定してくれます。DAY2はリヤにDAY1で使って馴染んだムースを入れたのですが、これが良かったですね。新品ムースの初期のハリが取れて、フィーリングは抜群でした。特に登りのストレートで左右に振られるようなセクションでも、石がありながらも全開で攻められました。メッツラーのFIMタイヤは、ちゃんとアクセルを開けると前に進んでくれる推進力があります。モトクロスタイヤに近い感覚もありつつ、エンデューロタイヤとしての仕事もしっかりこなしてくれる。FIMタイヤなのに、ここまで進んでくれるのは本当にすごいです」と、その信頼性を強調しました。
また、他のライダーの選択にも触れ、「チームメイトのIBクラスで優勝した延原由祐選手(リヤ・ソフトコンパウンド使用)やNAクラスで優勝した河原廉弥選手(リヤ・ミディアムコンパウンド使用)もメッツラー。2日間タイヤ無交換でDAY2は優勝しています。特に延原選手はソフトコンパウンドでもまったく問題なく、むしろ非常に良かったと言っていたようです。リヤのミディアムはしっかり荷重をかけてタイヤを潰せるライダーには最高のパフォーマンスを発揮しますが、体重の軽いライダーや、タイヤを積極的に潰すのが苦手なライダー、あるいは雨でより接地感が欲しい場合にはソフトコンパウンドも非常に良い選択肢になると思います」とコメントしています。
IAクラス 太田幸仁選手、冷静な判断と安定した走りで総合4位
ベテランの太田幸仁選手も、この荒れたレースウイークを巧みな戦略とライディングで戦い抜きました。「DAY1が悪天候でキャンセルになったり、DAY2も下見ラップになったりと、レースフォーマットの変更が自分にとっては良い方向に働きました」と、変則的なスケジュールをポジティブに捉え、自身のペースを構築。持病の影響で「いつもレース序盤は体の動きが硬い」という太田選手ですが、「しっかりウォームアップしてからアタックに入れたので、トップとのタイム差を大きく離されることなくレースを進めることができました」と、状況を最大限に活かしました。
DAY2の下見走行後には、「ボクら(IAクラス)にはイージーでも、NAクラスでは遅着が出てしまうと思う。依然としてコンディションは良くない」と冷静にコース状況を分析。DAY1の厳しいマディコンディションについては、「確かに厳しかったですが、自分の中で『絶対走れない』という感覚はなく、『このくらいなら大丈夫だ』という気持ちで走りました」と振り返ります。特にレース後半の安定感が光り、「後半にタイムが良かったのは、メッツラータイヤが一度摩耗して馴染んでからのグリップ力が非常に優れているからだと思います。他メーカーのタイヤを履いているライダーがミスしやすくなるような状況でも、自分は安定してタイムを刻めました。DAY1をほとんどタイムを落とさずに周回できたのは、タイヤのおかげも大きいです。コンスタントに走るのが自分のスタイルですが、その安定性はメッツラータイヤが可能にしてくれている部分が大きいですね」と、長年培ってきた経験とタイヤへの信頼を口にしました。その結果、DAY1を4位、DAY2を5位でフィニッシュし、総合でも4位と上位をキープしました。
・リヤ:140/80-18 M/C 70M M+S MEDIUM
・ムース:前後メッツラー (DAY1:前後新品 / DAY2:リヤのみDAY1使用の中古ムース)
太田選手はタイヤ選択の意図を、「前回(Rd.1 広島)と同じフロント・スタンダード、リヤ・ミディアムです。ムースはDAY1は前後新品でしたが、DAY2はリアのみDAY1で使った中古のムースに入れ替えました。DAY1のフィーリングがとても良かったのと、ハリもほとんどなかったので、あの馴染んだ良い感触のままDAY2も走りたかったんです。特にDAY2もコンディションが悪化する可能性を考えると、馴染んだタイヤとムースのほうが最初からタイムを狙っていけると思いました。メッツラータイヤは、よく言われる『タレる』というより『馴染む』という表現がしっくりきます。走り始めは少し剛性が高く感じることもありますが、JECのテストで言えば1周もすればすぐにフィーリングが良くなり、そこからのライフが非常に長いです。2日間十分に走りきれるポテンシャルがありますし、不思議なことに、ある程度摩耗してきてから、さらにもう一段階グリップするような感覚があるんです。シックスデイズのようなイベントでは移動路が長くタイヤへのダメージも大きいので交換が必要になりますが、今回のチーズナッツではリヤのみの交換で十分でした」と、タイヤの「ライフの長さ」や「馴染んだ後のさらなるグリップ向上」といった特性を詳細に語りました。
変化するコンディションへの対応とライン戦略
太田選手は、刻々と変化するコースコンディションへの対応とライン戦略の重要性を強調します。「最近のJECでは、特に今回のように午前と午後でクラスを分けて同じテストを走る場合、ライン戦略が非常に重要になります。金曜日に下見したラインは土曜日にはまったく変わっていますし、自分たちが走る頃には前半クラスの走行で深い轍ができています。その轍が必ずしも自分にとってのベストラインとは限らない。下見の段階から、どういうアプローチをするか、轍から出てでも自分のラインで走るにはどうすればいいかを常に考えています」。「実際にレースが始まってからも、前半クラスの走行中にコースを見に行き、ラインの変化や他のライダーの走り方、バイクの動き、トラクションのかかり具合などを観察して、自分の戦略を組み立て直します。これは去年までとはまったく違う戦い方ですね。メッツラータイヤは、そういった刻々と変わる状況や、自分でラインを切り開いていくような走り方にもしっかり応えてくれるので、信頼してアタックできます」と、タイヤが戦略の実行を支え、コントロール性の高さを評価していることを示唆しました。
JEC Rd.2を終え、馬場亮太選手はIAクラスランキングトップを堅持し、4連覇に向けて視界良好です。太田幸仁選手も安定した成績でランキング3位(暫定)と表彰台を射程圏内に捉えています。次戦以降も、トップライダーたちの熱い戦いにご注目ください。
情報提供元 [ METZELERファンサイト ]
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