
写真・文/中村浩史
全日本ロードレース・開幕戦もてぎ大会から1カ月。5月24~25日には、スポーツランド菅生で第2戦が行われる。スポーツランド菅生はヤマハのホームコース。開幕戦では水野涼+ドゥカティに屈した“絶対王者”中須賀克行の巻き返しが見られそうだ。
明らかになった2025年の勢力図
開幕戦のもてぎ大会で明らかになったのは、DUCATI TEAM KAGAYAMAの水野涼+ドゥカティ・パニガーレV4Rの圧倒的パフォーマンスでした。レース一週間前に行なわれた事前テストから、レースウィークのフリー走行からすべてトップタイムをマークし、公式予選と決勝レースでポールtoウィン。全勝を表わす「スイープ」という状態での圧勝劇でした。
その水野に敗れたのがヤマハファクトリーレーシングの中須賀克行。中須賀にとって、モビリティリゾートもてぎは苦手なコースのひとつで、高い勝率を誇る中須賀の全日本ロードレース史の中でも、もてぎ大会での勝率は開催サーキットのなかで一番低いのです。
さらに中須賀は、2025年モデルとなったYZF-R1が、新たにフロントカウルにウィングレットを装着したことで、出力特性やハンドリングに変化があり、それを決勝レースまでに合わせ込めなかった、と言います。
「(25年モデルのR1は)ウィングレットが装着されたことでフロントに荷重がかかって、たとえばコーナリング中にリアに荷重を移せないような症状をセッティングしきれませんでした。とはいえ、ウィングの効果は大きいし、次のスポーツランド菅生は、そのメリットが大きく出るコースなので、次はやり返したい」と開幕戦後に語っていた中須賀。
さらに中須賀に有利な点がひとつ。それは、スポーツランド菅生が路面改修を行なってグリップ感が大きく増したことです。
5月13~15日の3日間にわたって行われた事前テストでは、各ライダーともこの新路面に苦戦。グリップが上がったからタイムが上がる、という表面的なメリットはあるものの、その分タイヤへの攻撃性が増してタイヤ選びやレース中のマネジメントが難しくなる、というデメリットもあるのです。
かつて路面改修を行なったオーストラリア・フィリップアイランドサーキットで、グリップが上がってタイヤへの攻撃性が増したという理由から、決勝レース中にタイヤ交換をしなければならない、ということもあったほどです。
このポイントでも、ホームコースである中須賀にとってはデータもあるし、おそらくテストも済ませているはずです。さらに中須賀は、タイヤのマネジメントに関しては誰にも負けないほどのスキルを持っていると言われているライダーです。ニューマシンの合わせ込みに時間を使えたこと、新路面への対応と、タイヤマネジメントの上手さ――菅生大会の最注目は、やはり中須賀の巻き返しでしょう。
一方、開幕戦をスイープした水野は心配な状況にあります。上記の事前テスト、2日目に登場した水野は、この菅生大会が昨年に続いて2回目の走行。前戦もてぎ大会での優勝で、24年のもてぎ大会、最終戦の鈴鹿大会の両ヒートと「2度目以上の開催のサーキットでは負けなし」の記録を更新している水野は、もちろん記録更新、もてぎ大会に続く2連勝を、菅生大会で達成したいはずですが、そんな水野にアクシデント。なんとテスト初日に大転倒を喫してしまったのです。
水野の転倒はテスト2日目の午後。テスト序盤に、スポーツランド菅生のSPアウトコーナーを脱出、シケインにさしかかる右コーナーで転倒。マシンはコース外に投げ出されて炎上、そのままコース外にも火が及び、コースマーシャルが消火活動をするほどの転倒だったのです。
幸い、水野のダメージは走行不能とまではいかなかったようで3日目にも姿を見せましたが、この3日目にも水野は転倒。このダメージも深刻とまではいかなかったようですが、スポーツランド菅生の新路面に対するテスト不足は明らか。レースウィークに入ってからの金曜のフリー走行40+30分、土曜の公式予選30分で、どこまでマシンを仕上げられるかに注目です。
しかし、5月20日早朝に残念なニュースがDUCATIチームカガヤマから発表されました。上記の転倒で、水野の肩部骨折が判明、菅生大会を欠場するということです。ケガの重さはまだ不明ですが、鈴鹿8耐に向けて、テストやトレーニングの大事な時期ですから、水野の早期回復を祈っています。
水野-中須賀に続き、表彰台の一角に食い込んできそうな顔ぶれは、前戦もてぎ大会でサプライズな走りを見せたオートレース宇部レーシングの浦本修充、もてぎ大会ではレース序盤に転倒を喫してしまったAstemo ProHondaSIレーシングの野左根航汰、もてぎ大会に続いて2戦連続のスポット参戦を果たすチームスズキCNチャレンジの津田拓也といった面々でしょう。
浦本は日本初登場のBMW M1000RR・ワークススペックエンジンを駆っての全日本ロードレース参戦で、まだまだおろしたてのマシンで開幕戦3位入賞! しかも一発のスピードだけでなく、レース終盤にペースを大きく落とすことなく3位表彰台に登壇。浦本とMパワーにかかっては7年ぶりのスポーツランド菅生も苦にならないのかもしれません。
野左根はヤマハからホンダに乗り換えて2年目のシーズンで、毎レースのように調子を上げ、マシンのセッティングも仕上げている状態。前戦もてぎ大会では3周目に転倒を喫してしまいましたが、ヤマハ在籍時代からスポーツランド菅生を得意としているだけに、ここで潮目を変えたいでしょう。事前テストでも、中須賀に次ぐタイムをマークしており、野左根の24年最終戦以来の表彰台登壇が見られるかもしれません。
津田は、前戦もてぎ大会に続いて、25年鈴鹿8耐に向けてのテストでのスポット参戦。もちろん、スズキワークスチームによるCN(=カーボンニュートラル)チャレンジの一環ですから、CNチャレンジ号に使用している各コンポーネントやパーツの実走チェックがメインの参戦目的ですが、そこは日本のトップライダーである津田を擁してのレースだけに、ひとつでも上の順位を狙ってくるでしょう。
他の注目は、昨年の不調をやや取り戻し始め、テストでも好タイムをマークしたSDGホンダレーシングの名越哲平、ここ菅生を得意だという伊藤和輝と、MFJグランプリへの出場権を獲得(注:全日本ロードレースでポイントを獲得すること)すべくスポット参戦する日浦大治朗のホンダドリームRT桜井ホンダコンビにも注目です。
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