
2025年度D.I.D全日本モトクロス選手権開幕戦 HSR九州大会が4月13日(日)、熊本県HSR九州にて開催された。今季シリーズ全7戦の幕開けとなる本大会は、過去にはない試みとして、日曜日1DAY開催(通常は土曜日に予選などが行われる)+観戦料無料となった。より多くの人たちに国内トップレベルのモトクロスを観戦してもらおうという試みは成功し、昨年度(2日間開催)の総入場数を上回る2,849人の来場があった。
前日土曜日夜から決勝日の早朝まで降り続いた雨のため、路面はマディコンディション。しかし風が強かったこともあり、時間を追うごとに徐々にドライコンディションへと変化していった。
IA1クラス:王者ウィルソンがパーフェクトウインを達成。しかし強力なライバルが出現!
全日本最高峰クラスのIA1は主に4ストローク450ccのマシンで争われる。2023年、2024年と2年連続チャンピオンを獲得しているジェイ・ウィルソン選手(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)は今季も万全の体制で挑む。昨年度はオーストラリアでも活動する横山遥希選手(Honda Dream Racing LG)の全日本復帰や、チームメイトの大倉由揮選手(Honda Dream Racing Bells)などの活躍により勝率を落としたウィルソン選手は、「今季はマシン作りやレースに対する取り組みを見直して挑みたい」と語ってくれた。
決勝ヒート1は横山選手がホールショットを獲得しレースを牽引するも、早くも2周目にはウィルソン選手がトップを奪取。しかしここに刺客が現れた。シーズンオフから注目されていたイタリア人ライダー、ジュゼッペ・トロペペ選手(AutoBrothers)だ。彼は世界選手権MXGPで最高位17位を記録しているヨーロッパでの中堅ライダーだが、全日本においては優勝争いに絡んでくることが予想されていた。トロペペ選手はウィルソン選手の背後につき、9周目にトップを奪うとリードを広げていった。しかしマシンから白煙をふきエンジンストップ。そのままリタイアとなり、ヒート2も欠場するという残念な結果となった。
走行中にトロペペ選手のマシン不調を理解したウィルソン選手は、危なげなく周回を重ねて優勝。2位には今季からチーム全員がピレリタイヤを履く新体制で挑んだ内田篤基選手(Yogibo PIRELLI MOUNTAINRIDERS)が入る活躍を見せた。3位には横山選手。
決勝ヒート2はスタートからゴールまでウィルソン選手の独壇場へ。見事なパーフェクトウインを達成した。横山選手が2位、内田選手が3位という結果となった。
IA2クラス:昨年度チャンピオン中島は悔しい2位へ シューとの大接戦に興奮!
主に4ストローク250ccのマシンで争われるIA2クラス。昨年度チャンピオン争いを展開した中島漱也選手(YAMAHA BLU CRU RACING TEAM TAKA)と横澤拓夢選手(TKM motor sports いわて)は、今年もこのクラスの主役だ。昨年は中島選手がチャンピオンを獲得し、2年連続タイトルを目指して挑むが、IA1クラス同様こちらも海外からの刺客が参戦。ブライアン・シュー選手(AutoBrothers)だ。彼はドイツ出身のライダーでMXGP経験もあり、さらにヴァイオリンも得意という個性豊かなライダー。2023年にもスポット参戦しヒート優勝を飾る活躍を見せていただけに、こちらも日本人ライダーにとって強力なライバルとなることが予想されていた。
決勝ヒート1、スタートから飛び出したのは中島選手。しかしシュー選手は背後に迫り、中島選手のラインを攻略。中島選手が周回遅れのライダーの攻略に詰まった際に順位が逆転。シュー選手が今季初ヒートウイナーとなった。ヒート2も中島選手が見事なスタートを決めてレースをリードする展開に。シュー選手は大きく出遅れ、このまま決着がつくかと思われたのだが…。
残りわずかというところで、中島選手のミスもあって2台の差は一気に詰まった。そして最終ラップ終盤でシュー選手が逆転、僅差のままフィニッシュとなった。物静かな雰囲気のシュー選手だが、流石にこの展開に対して喜びをあらわにしてメカニックと抱き合う姿があった。一方中島選手にとっては限りなく悔しい結果となった。
シーズンオフの取り組みに確信を持てた開幕戦 2025年のカンフル剤となるBells Racing
今季IA1クラスに大倉由揮選手(Honda Dream Racing Bells/Honda CRF450R)、IA2クラスに16歳、IA2年目の吉田琉雲選手(Bells Racing /Honda CRF250R)が参戦するベルズレーシング。チーム監督の小島庸平選手(2015年IA1チャンピオン)は、本レースをこう振り返った。
「大倉選手はシーズンオフにイタリアなどヨーロッパで、ビクトル・アロンソ選手(2023年度IA2チャンピオン)やHRCのGPチームメンバーと共にトレーニングをしてきました。ジェイ(ウィルソン)選手を簡単に抜ける、負かせるくらいのレベルを求めてやってきただけに、結果的には不甲斐ないものになってしまいました(5/4位・総合4位)。ですが勝ちたいという気持ちは見れましたし、実力的にはトップと変わらないことは確認できましたから、あとはレース運びの問題です。ライダーというより僕の責任ですね。レースの組み立て方や走り方などしっかりと言及していたつもりでしたが、もっと踏み込むべきでした。まず予選で転倒したのもリズムが悪かったこともあり、コントロールしてあげるべきでした。ライダーは孤独な戦いをしていますが、どこまで寄り添えるか。大倉選手だからこそ信用しすぎた面もあると思います。言いすぎてもダメだし、言わなきゃダメだし。まだシーズンは始まったばかりなので、この経験を活かしていけるはずです」
「吉田選手に関しては、まずテクニックは明らかに上がっています。テクニックとスピードは昨年よりも2、3倍は上がっていますが、トップグループの中ではさらに努力しなくてはいけません。予選トップ、課題のスタートも決まってそこを克服できたのは大きいです。レース中の転倒はもったいなかったですが、その経験が大事ですし、ガッツある転倒なのでそれに対しては叱ったりはしませんでした(7/6位・総合7位)。大倉選手にはジェイ選手をぶっちぎりで勝つことを目標とさせていますし、吉田選手には、チャンピオンの中島選手はもちろん速いですけど、早くそのレベルに行くんだよ、と伝えています。さらにその先に何があるのか。が大事です。そんなに遠くない目標だと思っていますし、吉田選手は今年中に優勝を目指しています。怖い存在、カンフル剤になりますよ。二人とも引き続きチャレンジャーとして戦っていきます!」
開幕戦で二人の指標は定まった。「ネクスト」を目指すベルズレーシングの戦いに、今後も注目していきたい。
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