写真・文/中村浩史

「もてぎ2&4」として、4輪レースとの併催で行なわれた全日本ロードレース開幕戦。JSB1000クラスのみの開催で、モビリティリゾートもてぎに、3日間合計で2万8800人を集めて行われました。好天に恵まれた開幕戦で光を放ったのは、今シーズンから全日本ロードレースに復帰する浦本選手でした!

中須賀&水野の強さと第3の男

4月9~10日の公開事前テストに続き、好天に恵まれたモビリティリゾートもてぎ。事前テストで見えたものは「黒船襲来」水野涼(DUCATI TEAM KAGAYAMA)と「絶対王者」中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)の突出した強さでした。岡本裕生のワールドスーパースポーツ600転出で、ゼッケン1不在のシーズンとなりましたが、昨シーズンのほぼ全戦で表彰台に上がったこの2人を軸に、今シーズンもシリーズが展開していくのは間違いなさそうでした。

金曜から始まった開幕戦の公式スケジュール。金曜のフリー走行は、水野が総合トップタイムをマーク。午前の走行では①高橋巧(ホンダHRCテストチーム)②水野③長島哲太(DUNLOPレーシングwithYAHAGI)④中須賀⑤津田拓也(TEAM SUZUKI CNチャレンジ)⑥野左根航汰(AstemoプロホンダSIレーシング)の順で、午後には①水野②高橋③野左根④中須賀に続き、5番手に浦本修充(オートレース宇部レーシング)が加わり、6番手に名越哲平(SDGハルクプロホンダ)と、この8人の顔ぶれが、そのままシリーズをリードしそうなのがよくわかります。

昨年「黒船襲来」として話題を集めた水野涼(DUCATI TEAM KAGAYAMA)

「絶対王者」として今年も突出する中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)

そして土曜の公式予選でサプライズが起きました。トップタイムは水野のドゥカティ・パニガーレV4Rで、これはまず順当。水野は昨年8月のもてぎ大会で「もてぎを走るのは2度目だから走行データがある」からと、独走優勝した勢いそのままの快走を見せました。
2番手には高橋とホンダCBR1000RR-R。高橋は今シーズンフル参戦を見送り、この開幕戦にも鈴鹿8耐をにらんでのスポット参戦。チーム母体はHRCで、全日本選手権へのHRCの参加は2017年シーズン以来。シリーズにフル参戦しているヤマハファクトリーレーシングと、HRCと同じく鈴鹿8耐をにらんで開幕戦にスポット参戦したチームスズキと合わせ、3チームのワークスチームが参戦することも、開幕戦の大きな話題となっていました。
そして予選3番手にビッグサプライズ。今シーズン、8年ぶりに全日本ロードレースに復帰する浦本が、ニューマシンBMW M1000RRをフロントロー最後のスポットに滑り込ませたのです。
「マシンは、先週の事前テストで走っただけで、まだベースセッティングを探っている状況。時間がないなかでチームがいい状態で送り出してくれました。予選3番手はちょっと予想以上でした」と浦本。昨年の鈴鹿サーキットでの開幕戦、悪天候で公式予選こそ開催されませんでしたが、予選グリッドを決めるフリー走行で、フロントロー2番手にドゥカティを滑り込ませた水野の時にも似たサプライズでした。

通常、浦本のBMWのような、日本に何の実績もないオールニューマシンが登場する時には、まずは日本のサーキット、セットアップに段階を踏むのが当然。その意味では水野とドゥカティの日本登場は、ドゥカティコルセでプリセットをしての登場だったため、さすがの適応力でしたが、浦本のケースはBMWのワークスエンジンが供給されているとはいえ、マシンのセットアップはオートレース宇部レーシングの手によるもの。チーム力の高さを実証する結果でもあったのです。

BMW M1000RRで予選3番手につけた浦本修充(オートレース宇部レーシング)

そして迎えた決勝レースでは、スタート直前にハプニングが起こります。全車がピットアウトし、スターティンググリッドに向かう「サイティングラップ」に、水野が出て来られない! 急きょメカニックがマシンチェックを始め、水野はグリッドまで歩いて向かうことになったのです。
ピットから出ようとしたらクラッチがつながらなくて、エンジンはかかっているんだけど前に進まない、って状態だったんです。でもサイティングに出なくてもダミーグリッドについてウォームアップに出られたらいいってわかっていたんで、まず僕だけでグリッドに行こうかと。ちょっとびっくりはしましたが、あそこで慌てても仕方ないですからね。きっとメカのみんなが直してくれるし、スペアマシンもあるし、って心境でした」(水野)

選手紹介も終わるころには水野の元にマシンも届き、無事ウォームアップラップがスタート。チームカガヤマでは、事前レースもレースウィーク中も2台のマシンそれぞれで走行していて、同じセットアップに仕上げていたため、この時点で水野は、届けられたマシンがスペアマシンだと気づいていなかったのだといいます。ここでも、チーム力がものをいったハプニング解消でした。

決勝レースがスタートすると、その水野が何事もなかったかのようにホールショットを獲得。予選2列目5番手からスタートした長島が好スタートを見せ、水野に続いて2番手で1~2コーナーへ、その背後に中須賀。短い直線のあとの3コーナーでは長島がトップに立ち、スタート直後のダンロップタイヤのウォームアップ性の良さを生かしたスーパースタートを見せます。4番手以降には野左根、名越、浦本、すこし間を開けて高橋がつけます。
1周目のダウンヒルからの90°コーナーでは水野が長島を逆転、2周目の1コーナーで長島が再逆転するシーンも見られましたが、3周目には水野が再逆転。この間、野左根が水野をかわして2番手に浮上するシーンも見られましたが、その直後に転倒し、リタイヤ。順位が落ち着き始めた4周目あたりでは、トップグループの顔ぶれは水野→長島→中須賀→浦本→名越→高橋といった順。この中ではレース中盤から長島がポジションダウンし、高橋が水野→中須賀→浦本の後方につけてのトップ4が完成していきます。

決勝レース序盤では水野がホールショットを獲得、長島、中須賀が続いた。

終盤はトップを独走した水野。

2番手争いは中須賀、浦本、高橋の争いとなった。

レースは、水野が周回ごとに2番手以降を引き離して独走態勢へ。観衆の注目は2番手争いに向きますが、2番手をキープする中須賀、そこに迫りながらもパッシング出来ない浦本、4番手の高橋は、レース終盤にはペースを落とし、上位3台との差が開いてしまいます。
結局、レースはこのまま水野、中須賀、浦本の順でフィニッシュ。水野は事前テスト、レースウィークのフリー走行からすべて総合トップタイムで、ポールtoウィン、いわゆる「スイープ」での圧勝。2年目のシーズンを迎え、昨年の最終戦の2ヒートダブルウィンからの3連勝をマーク。昨シーズンから「2回目以上のコースでのレースでは負けなし」記録も更新しました。

「事前テストからマシンも仕上がっていいフィーリングで走れていたんですが、4輪との混走になるレースウィークから路面状況がかなり変わって、セッティングもやり直し。それをチームがきちんと仕上げてくれて、決勝レース直前のクラッチトラブルも何事もなく解消してくれたんで、本当にチームに感謝です。チーム全体で勝ち得た勝利だと思います」と水野。予選のタイム出し、決勝レースの組み立てとも、水野の勝利に隙はないように見えました。

直前のマシントラブルにもかかわらずポールtoウィンを達成した水野。

ハプニング解消でも発揮されたチーム力で、抜きん出た速さを見せた。

その水野に敗れた中須賀は、事前テストからのセットアップに苦心しながらも、決勝レースにはきちんと仕上げての2位入賞。中須賀のYZF-R1は、25年モデルとなってウィングレットが装着され、ハンドリングに少し変化があったようだと言います。
「ウィングレットが装着されたことでフロントに荷重がかかって、たとえばコーナリング中にリアに荷重を移せないような症状をセッティングしきれませんでした。とはいえ、ウィングの効果は大きいし、次のスポーツランド菅生は、そのメリットが大きく出るコースなので、次はやり返したい。今日はナオ(注:浦本修充)がいい走りしてましたね。タイム出しだけじゃなくて、レースの組み立ても上手かった、さすがスペインでもまれてきたな、って感じ。もうひとりレースに面白いライダーが増えた感じですね」
自分の走りだけではなく、レース全体の盛り上がりまで考える、中須賀らしいひとことです。

その「絶対王者」に認められた浦本は、マシンの初乗りからわずか10日後の決勝レースで3位入賞と、衝撃デビューを果たしました。ハイパフォーマンスなマシンにありがちのレースタイム、つまり1周の予選タイムではなく、今回のレースでは20周回を走り切るだけのペースをキープできるマシンに仕上げてきたのは、まさに浦本のライダーとしての実力はもちろん、チーム力の高さも実証した3位入賞となりました。

「デビューマシンということで、時間がない中でマシンを仕上げてくれたチームのおかげだと思います。うまくいって表彰台に上がれたらいいなぁとは思いましたが、本当に上がれるとは。予選でフロントローにつけたのも予想外だったし、20周というレースをきちんと走り切れて、次につながるデータも持ち帰れたのが良かったです。3位で嬉しい気持ちだったんですが、レースが終わると3位で悔しいなぁ、って気持ちも出てきました。中須賀さんに仕掛けきれず、最後には離されてしまった、それに、さらに先に(水野)涼がいるのがまだまだです」(浦本)

2位には中須賀、3位には浦本が立つ。次戦での反撃が見どころになりそう。

4位に終わった高橋は、マシンに不具合があってのペースダウンだったようで、この後は実戦には出場せず、鈴鹿8耐へのテストを進めることになるようです。5位の名越は、昨年の不調をやや取り戻したようで、6位の津田は、HRCと同じく鈴鹿8耐を見据えた開幕戦スポット参戦を終えて「いつ次戦の菅生大会に出場するといわれても大丈夫な用意はしてあります」とのひと言。
7位の伊藤和輝(ホンダドリームRT桜井ホンダ)は激しいバトルの末に岩田悟(チームATJ)をかわしてのフィニッシュで、9位にはプライベーターとしてBMWを駆る関口太郎(SANMEIチームTAROプラスワン)が大健闘のシングルフィニッシュ、10位には九州・宮崎からの参戦を続ける児玉勇太(MARUMAEチームKODAMA)が昨年のもてぎ大会とオートポリス大会に続いてのトップ10フィニッシュとなりました。

水野の強さが目立った開幕戦。次戦・菅生大会はヤマハが5年9レース負けなしと、ヤマハのホームコースらしい相性の良さを見せるだけに中須賀の反撃は必至。「2回目以上のコースでは負けなし」記録を更新する水野の走り、BMWでの初走行でどこまで浦本が迫れるか、そして野左根の反撃がどうなるかといったところが見どころになりそうです。

ギャラリーへ (9枚)

この記事にいいねする


コメントを残す