4月9~10日の2日間、2025年MFJ全日本ロードレース選手権シリーズ PRE-TEST “Round ZERO”が栃木県のモビリティリゾートもてぎで開催された。開幕前のテストとして行われ、全4クラスが揃って走ったのは今年初。JSB1000クラスではどんなテストが行われたのかをトップチームのライダーへのインタビューから紐解いていく。

 今年は例年より開幕が遅れ、さらに年間レース数も全7戦と1戦減るが、毎年3月のテストでは怪我人や転倒者が多かったことを考えるとテストの開催時期は4月で良かったといえる。また、もちろん開幕戦から全4クラスが走ることが理想だが、今年の第1戦もてぎは2&4レースということもあり二輪レースはJSB1000のみとなる。裏を返せば、スーパーフォーミュラを観戦に来る四輪レースファンにも現地で1000ccマシンの音や迫力が届けられることは重要なことだ。

 さらに今年はファクトリーチームやワークス由来のパーツを装着したマシンも多くあることから二輪レースファン以外にも良い話題を届けられることだろう。それではテストで上位タイムに入ったライダーのコメントをもとに開幕前の状況をお届けする。

2025年JSB1000ライダー©Nobuki Ishizaki

■総合1番手:1分47秒221/水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)

 2024年からドゥカティ パニガーレV4 Rで参戦している水野。マシンは2023年にWorldSBKで使用されていたファクトリーマシンであり、今年も同年型の同じマシンを走らせるため、昨年よりセッティングを詰めることがチャンピオンへの鍵となる。

「一年終わってバイクは一度本国(イタリア)に送り返しています。今年もバイクは23年型です。去年と一緒ですね。車体も(ファクトリーでしか)触れない場所があるので、それを向こうでメンテナンスしたのだと思います」と水野。

 テスト初日からトラブルが続き「一日総じて走れない時間が多く、サーキット実走が今年初めてだったので、アウトインばかりでした。一本目もトラブルの後に転んだし、二本目も最後の赤旗までずっとトラブルで計測もできず結構災難な一日でした」というが、初日の最後には1分48秒753でトップだった。

「去年と比べると全然タイムも低いです。最後は普通に走れる状態にはなったので、一応トラブルは解決しました。全体的にタイムが遅かったので、あまり喜べる速さではないですが、タイムが遅くても1位で終えるってことはいいいことではあるんで前向きに捉えています。思わず帰ってきて『よっしゃ!』って言っちゃいました。ライバルに対して1位で終えることは大事だと思いますから。中身は全然ダメだったので、そこは反省しないといけない感じですね」

 2日目は1分47秒221までタイムを上げて連日首位でテストを終えた。セッティングは「ぼちぼち進みました。一本目もトラブルがありましたが、二本目でだいぶ大きく進めることができて、車体も少し進んだし、個人的には去年のテストタイムを超すことを目標としていたのでそこもクリアできたから、ひとまず無事に終わったという感じです」

「いけるなら1分46秒台に入れたかったですが、最後にハード目なタイヤであのタイムが出せたのはすごくポジティブです。初日に比べて気温も下がったので、レースウイークに寒ければソフトを履けばいいだけだし、どっちに転がっても良いですし、いい収穫になりました」

 もてぎ2&4レースのレースウイークには「コースレコードは超せると思いますが、1分45秒台を出したいです。入れたらめちゃめちゃ嬉しいです。あと1秒ぐらいは上がると思うので、目標は1分45秒台です」と本戦での自信もあるようだ。さらにライバルは「基本セクターで(ライバルの走りを)見ていました。タイムが上がっていないのが気になりますが、アベレージタイムを見ると中須賀選手が一番強敵になると思っています」とレースペース次第では優勝ライダーがわかないが、予選では水野がポールポジションを獲る勢いであることがわかった。

水野涼(DUCATI Team KAGAYAMA)©T.Yamaguchi

■総合2番手:1分47秒807/野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)

 ホンダ勢では初日に高橋巧(Honda HRC Test Team)が速さを見せたが、2日目の最後には野左根がホンダ勢トップタイムを記録した。「BMWやHRCが参戦してきたりしますけど、自分としては全く関係なく、優勝を目指すだけです。ライバルが増えることは自分自身も楽しみだし、今年もヤマハファクトリーとドゥカティが速そうなので、しっかりそこを追えるようにしたいです」と自身のタイムを上げることを狙っている野左根。

「マシンのアップデートがどんどん進んでいます。来週(レースウイーク)はまた試すこともあるので、もう一段、もう二段、レベルを上げられれば、しっかり戦えると思っています。上げるのはもちろん簡単じゃないですし、昨日から2日目の一本目にかけて、いろんなことを試して、ちょっとリズムを崩しがちでしたけど、しっかり二本目でまとめ上げられたのでまずはレースに向けてしっかり準備もできたと思っています。チームとも上手くコミュニケーションも取れているので、トップ争いできるように頑張りたいなと思っています」

 野左根は一発のタイム出しやレース序盤の走りは、昨年のパフォーマンスから見ても良いことがわかる。レース中盤にトップ争いから離されることが多かったが、「正直それが一番難しいです。レースは総合力で戦っているので、序盤の2~3周はフルパワーですべて使い切ってついていくことはできますが、後半は総合力的が足りずに、自分のライディングスキルも含めて、もう少しできることもあると思います」と語る。

「ライダー側としては、ライディングスキルをもう少しアジャストするなりで、ペースをうまくコントロールすることを考えます。バイクもアップデートしているので、そこも期待していますし、バイクのセッティング自体もうまくまとめないとできないので、すべてを当てはめて、レースウイークに向けて頑張りたいなと思います」

 開幕戦から優勝争いに加われるのかは未知数ではあるが、表彰台争いには絡んでくるだろう野左根。ホンダでの2年目はどこまで戦えるのか、そしてHonda HRC Test Teamの高橋巧とのパフォーマンスの違いも気になるところだ。

野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)©Nobuki Ishizaki

■総合3番手:1分48秒264/中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)

 今年も優勝そしてチャンピオン争いに絡んでくるのが中須賀だろう。テストでは3番手だったが、1周のアタックをしなかったためだ。

 また、ヤマハYZF-R1には今年からウイングレットが追加されたが「ウイングレットが付いた状態で、全日本ロードが開催されるサーキットを初めて走りました。ウイリー(を抑制する)効果があって、その分加速につなげられる状態になってきました。そこの部分の制御関係の細かな詰めがもう一歩進めば、全体的に底上げができるという手応えです」とマシンのセッティングを中心にテストしていた。

「セットアップはもう少し詰めていきたい個所があります。加速時にウイリーしないから、パワーが伸びきった後に細かな制御が入ったりするところはまだロスしているので、そういうところをもう少しうまくつなげていきたいのが現状です」

 上述の通りこのテストではアタックをしなかった中須賀だが、もてぎ2&4レースでは「スーパーフォーミュラが走ってまたコンディションが変わるので、ベースのセッティングをしっかり底上げで出しておいて、そこを出しておけばどんな状況でもうまく対応できると思います」と落ち着いている。

 強力なライバルが増えたことについては「テストのタイムを見る限りは、本当にみんな似ているので、ベースのセッティングをしっかり出していれば、レースウイークがどんな天候であれ、どういう路面の状況であれ合わせていけると思うので、一歩も二歩も先に進んでおきたいのが戦略ではありますね」という。

 今年も確実にトップを走るだろう中須賀を追い詰めるライダーが現れるのか、それともレースペースのいい中須賀が最後には1番でトップチェッカーを受けるのか予選も決勝も楽しみなところだ。

中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)©T.Yamaguchi

■総合4番手:1分48秒469/高橋巧(Honda HRC Test Team)

 全日本ロード開幕戦へのスポット参戦は、高橋が年間エントリーライダーではなくなったことと「テストを増やしてほしいという要望出していたのですが、サーキットの予約の関係でなかなかテスト日数が増えないっていう現状があり、全日本ロードを使ってテストをしようという話をしました」ともてぎ2&4レースに出場することになった経緯を語った高橋。

 チームがこのレースに参戦する目的としては鈴鹿8耐のテストがメインだ。エントリー名もTeam HRCではなくHonda HRC Test Teamなのもそのためのようだ。もちろんマシンはJSB1000クラスのレギュレーションに合ったものとなっているが、「すべてスプリント仕様ではなさそうな感じですが、基本は鈴鹿8耐車ベースです」という。

高橋巧(Honda HRC Test Team)©Nobuki Ishizaki

 昨年から比べるとフロントフォークとブレーキキャリパーが変わっている。フロントフォークはSHOWAからオーリンズとなったのは「WorldSBKで比較テストをした時に、今年はオーリンズで行こうとなったみたいで、それがベースでWorldSBKがオーリンズを使うなら鈴鹿8耐もオーリンズに合わせて、こっちも変わりました」といい、ブレーキキャリパーは「NISSINからは変わりないですが、スプリント仕様なのか鈴鹿8耐のものとは違います。用意されたものですが、出場するからには結果を残したいという気持ちの表れじゃないかと感じています」と語った。

 テストでは4番手となったが、「SHOWAでずっと作ってきた車両なんで、オーリンズに合わせてアジャストしていっている途中という感じです。出るからには当然優勝を目指して走りますし、そういうモチベーションを持ちつつ、マシンのいいところも探さなければいけないという使命もあるので、それが両立できたら最高だなという感じですかね」と彼もアタックはしなかったが、本戦にはさらに上げてくることが間違いないコメントを残した。

高橋巧(Honda HRC Test Team)©Nobuki Ishizaki

■総合5番手:1分48秒633/長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)

 上位勢で唯一のダンロップタイヤを履く長島。冬の間はセパンと岡山でテストを行っており、タイヤもマシンも開発を進めていた。

「マシンもアップデートが結構入っていたり、タイヤもいろいろ試しているので、そのなかで良かったものを今回投入しています。(マフラーもアクラボビッチに変わったが)細かいところはライダーが体感ですることはそこまでないですが、ストレートもそこそこ走っていますし、間違いなく去年よりかは進化しています」

 タイヤ開発初年度の2024年は一発タイムが出てもどうしてもレースではファクトリーチームに後塵を拝すことがあった。「去年はヤマハファクトリーにストレートで完全に前に行かれることも多かったですし、他のバイクを抜くのも苦労していましたが、今回は結構いい感じでストレートも走っていたんで、だいぶ進化しているし、タイヤも含めてだいぶ前に進むようにもなってきました。全体がいい感じに上がってきてるなっていう印象が強いですね」と長島はいい、どのように変わったのかも説明した。

「マシンは立ち上がりが良くなってきて、それに対して加速感のポイントがだいぶ早めに取れるようになってきたので、エンジンもそこから上までパワーを引っ張っていってくれて、全体的にトップスピードも伸びています。タイヤに関してもだいぶ落ち着いて走れるようになってきたので、アベレージタイムも良くなってきましたし、そこの進化は大きいです」

「自分もそんなにアタックはまだしていない状況なので、まだまだネガが多いというか、もっとしたいことはいっぱいあります。そこを詰めればもっともっとタイムが出せると思います」

 3年計画でダンロップでのチャンピオンを目指す長島。2年目の開幕戦からブリヂストン勢にはないパフォーマンスを見せてくれることだろう。

長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)©Nobuki Ishizaki

■総合7番手:1分49秒074/浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)

 久しぶりに国内でのフル参戦をする浦本。チームもBMWのワークスエンジンを導入しており、他のBMW勢とは違った走りを見せていた。

 このテストがシェイクダウンとなったが、第一印象は「乗りやすいというか、意外に普通に乗れました。周りも僕もラップタイムが上がっていないですが、その中では大きな差がないので良かったです。思っていたよりすんなり乗れてよかったです。気持ち的にはホッとしたが一番大きいですね」と語る。

 JSB1000仕様に乗るのは久々だったため、キット車とワークスエンジンの違いは「わからない」というが、「チームのモニターで見ていて、ストレートスピードはかなり速いとは言っていました。シェイクダウンで、まだ煮詰める部分がある中で周りと比較した時に、そこまでの差がないのはバイクのポテンシャルだと思っています」という。

 テスト2日目は「初日の延長線上で問題に応じて、セッティングを煮詰めたような感じです。足踏みもしましたが、最後のセッションはアタックせずに、ユーズドだけで自己ベストも出たので、来週に向けてはよかったかなと思います。気持ちよく終わりたかったですが、来週に向けて温存しておこうかなという感じです。でも最後のセッションもセッティングを煮詰められましたし、良かったと思います」といい、レースウイークへの目標を話した。

「どこまで行けるかわからないし、レースペースとかも正直わかんないですが、(トップ争いに)絡めるならどんどん争おうと思っています。ポテンシャルはすごく感じました。ストレートスピードも速いし、そんな簡単にはいかないだろうなとは思っていたので、着実にやるしかないかなと思います。ただポテンシャルはあるので、落ち着いて煮詰めていこうと思ってます」

「(課題は)主に電子制御です。やれる部分も広いですし、感じる部分も結構あるので、そこを含めてやろうと思います。ラップタイムもまだまだ必要だとは思っていたので、落ち着いて頑張ります」と時間が必要だというため、開幕戦でのポジションはわからないが、シーズンを通して見ると上位に食い込んでくることは間違いなさそうだ。

浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)©Nobuki Ishizaki

■総合8番手:1分49秒366/津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE)

 鈴鹿8耐のエクスペリメンタルクラスに参戦する同チームだが、第1戦もてぎと第2戦SUGOはテストの目的で参戦する。また、スズキファクトリーとしてGSX-R1000Rを走らたことはスズキにとっては大きな意味があっただろう。

 全日本ロードのテストでは「ルールが違うので、カウリングは再生カーボンを使いますが、燃料も含めて全日本ロードのレギュレーションにあったものにしています。特に全部がカーボンニュートラルの部品ではないですが、鈴鹿8耐を見据えて、カーボンニュートラル部品にした時にうまく機能するように、ベースのマシンの開発を進めています」とプロジェクトリーダー兼チームディレクターの佐原伸一氏は語った。

「来週のもてぎ2&4レースを目指してセッティングをしながらって、そのその先に鈴鹿8耐を見据えてのいろいろテストをしてます」テストで走らせたマシンはフェンダーのみカーボンニュートラルのパーツだったが、「それも正確に言うと、今年の鈴鹿8耐に使うものがついているわけではないですが、機能的には同じものがついてますね」という。

 また、スズキとヨシムラが共同で開発したマシンで、昨年のテストでは赤いカウルで走らせた時もあったが「共同で開発したものではあるので、そこはファクトリーマシンと言っていいのではないですかね。例えば燃料タンクとかは新しい今年仕様の鈴鹿8耐で使うものになっていたりするので、そういう意味ではもうヨシムラのマシンから一歩進んでいる部品もあります」と昨年との違いも話した。

 ライダーの津田は「(昨年走らせていたマシンと)キャラクターが違いはあるものの、若干速い感じはありますがエンジンがとんでもなく違うわけではありません。ヨシムラさんがやってきたものをベースに引き継いでやっているので、作り方の違いはあります。このバイクは鈴鹿サーキットしか走ったことがないので、そのセットで走って、ほぼ確認という感じでした」という。

「パーツの確認をしていましたが、ファクトリーならではのやることが結構多いです。選別しなきゃいけないものがあったり、鈴鹿のデータしかないので、レースに向けて何を使うかの選別をして終わりました」

「タイムはあまり気にせずに走りましたが、普通には走れた印象なので、手応えはありました。とはいえ、(AutoRace Ube Racing Teamの)BMWやドゥカティは速いなと思いました。去年も思っていましたが、ホンダは少し離されるだけで済みますが、BMWは同じ1000ccとは思えないくらい、加速の単純なパワーはドゥカティを上回っている感じがします」

津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE)©T.Yamaguchi

ギャラリーへ (10枚)

この記事にいいねする


コメントを残す