
2月12日から13日にかけて、タイのチャン・インターナショナル・サーキットでMotoGP公式テストが行われ、ルーキーの小椋藍(トラックハウス・MotoGP・チーム)は開幕前最後の公式テストをトップから0.8秒差で終えた。
充実のテストを終え、MotoGP開幕戦へ
ブリーラム公式テストは、2025年シーズン開幕戦の地、タイのチャン・インターナショナル・サーキットで行われた。テストのタイムはあくまでも「テスト」のそれであることを念頭に見る必要があるが、開幕戦の開催地であることを踏まえれば、もちろん、ある程度の目安にはなる。また、MotoGPでは基本的に公式テストを除いてレギュラーライダーがMotoGPマシンを走らせることができないため、このテストが開幕前最後のMotoGPマシンを走らせる機会となる。
小椋藍(トラックハウス・MotoGP・チーム)にとって、チャン・インターナショナル・サーキットは、2024年シーズン、Moto2チャンピオンに輝いたサーキットである。小椋は、Moto2ライダーとしてチャンピオンを決めた4か月後、このサーキットにMotoGPライダーとして戻って来たのだ。
小椋はブリーラム公式テストの1日目、スプリントレースのシミュレーションに取り組み、アプリリアのMotoGPマシン、RS-GPを走らせた。MotoGPクラスでは、土曜日午後に決勝レースの半分の周回数で行われる「スプリントレース」がある。「スプリントレース」はMoto2、Moto3クラスでは実施されない。決勝レースよりも周回数が短く、燃費を考えずに攻められるレースとなるため、よりアグレッシブなレースとなる傾向にある。
また、1日目にはファクトリーチームのライダーがテストしていた、テールカウルに生えた角のような形状の空力デバイスをテストした。小椋曰く「(違いは)全くわからなかった」ということだったが、2日目もこの空力デバイスを装着したマシンを走らせている。
小椋が1日目に懸念していたのは、ブレーキングだ。実際のところ、ブレーキングの課題はセパン公式テストから持ち越していたものである。この日、囲み取材に来た小椋はどことなく不満気な表情を浮かべていたのだが、そうした「持ち越しの課題」もそんな表情をさせていたのかもしれない。小椋に最終コーナーでのブレーキングポイントと加速のポイントについて聞くと、「ブレーキングが全然だめなんです」と渋い表情を浮かべた。
「走っていて気持ちいいわけじゃないですね。最終コーナーみたいに“ぎゅっ”てブレーキを(しっかり)かけて、“どんっ”て出て行く(ストップ&ゴーの)コーナーは、あまりよくない感じです。今はそこをいちばん改善したいです」
そう語っていた小椋だが、2日目の午前中、1分29秒636のタイムを記録する。このタイムがブリーラム公式テストでの自己ベストタイムとなった。総合順位としては、トップのマルク・マルケス(ドゥカティ・レノボ・チーム)から0.781秒差の11番手。参考までに、2024年タイGPのQ2(予選2)に当てはめてみると、11番手のタイムである。小椋はこのテストでトップから1秒以内のタイムで終えることを一つの目標としていた。それをしっかりクリアした形だ。タイム自体としてもまずまず、と言える。
このタイムには、本人も「悪くはないと思いますよ。マルク(・マルケス)が一人だけ速いですけど(※1分28秒855。この日、唯一1分28秒台を記録)、その他のライダーと比べたら、もう少し(タイムが)近いので、いいんじゃないでしょうか」と、手ごたえをつかんでいる様子だった。
前日に渋い表情をさせていたブレーキングについても、うまく改善したという。
「(タイムアタックには)セパンでも昨日も、苦しんでいたんです。でも、今朝、壁を壊すことができて、0.2、0.3秒を縮めることができました。MotoGPマシンのタイムアタック・モードに慣れてきていると思います」
「昨日の午後はブレーキングの改善に取り組んだんです。今日の午前中、それが結果に出てくれました」
テストは順調に見える。ただ、小椋は開幕戦に向けて「MotoGPクラスでのレースウイーク中の流れを知らないので。(レースウイークでは)ただ単に走ってタイムを出しておけばいいわけじゃないし、好きな時間に好きなタイヤを履いて走れるわけでもないですから」と、慎重な姿勢を崩さない。
MotoGPクラスでは、スプリントレースがスケジュールされていることでMoto2、Moto3クラスとは異なる週末のタイムスケジュールで進む。小椋は開幕戦タイGPのレースウイークに入るまで、その実際を知らない。まずは開幕戦を戦い、週末のアプローチについて「実際のところ」を知ってさらに修正を加えていくのだろう。
また、テストでのタイムと順位は、あくまでのテストにおけるそれであるため、小椋の本当の意味での順位はレースウイークになるまでわからない。ブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリーレーシング)や、ドゥカティ陣営期待のルーキーであるフェルミン・アルデゲェル(グレシーニ・レーシングMotoGP)といったライダーが、ブリーラムの総合順位では小椋の下に控えている、という状況もある。
とはいえ、小椋がMotoGPマシンを走らせた8日間において重要なことは、ロングランやスプリントレースのシミュレーションでも順調に感触をつかみ、タイムアタックにおけるブレーキングの改善も実を結びつつあるということ。そして、「充実したテストになっている」と語っていたこと。つまり、「開幕に向けて着実に前進している」と本人が感じているということだ。
2025年シーズン開幕戦タイGPは、2月28日から3月2日にかけて、タイのチャン・インターナショナル・サーキットで行われる。小椋のMotoGPライダーとしての戦いが、間もなく口火を切る。
テールカウルの角のような空力デバイス。小椋はブリーラムで初テスト©Trackhouse Racing 小椋のピットの様子。走行を待つ©Eri Ito チームとのコミュニケーションもうまくいっているという©Eri Ito


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