
2024年の全日本ロードレースを終えて、最大のトピックのひとつとなった、JSB1000チャンピオン・岡本裕生のワールドスーパースポーツ600(=WSSP600)挑戦。ついに難攻不落の先輩、中須賀克行を倒し、日本ロードレース最高峰クラスの頂点を制した男が、2025年に満を持して世界の舞台に挑戦します。
結果を出した者が次のチャンスをつかむ――ST1000クラスチャンピオンの國井勇輝がMoto2世界選手権に、さらにST600クラスチャンピオンの阿部恵斗がアジア選手権ASB1000クラスに挑戦するのを含め、24年の全日本ロードレースは、ハッピーエンドで幕を閉じた、そんなシーズンでした。
2025年からのニューマシンYZF-R9を初公開
そのヤマハが2025年からWSSP600に投入するのが、ニューマシンYZF-R9です。
新設計のアルミデルタボックスフレームに、MT-09系の水冷並列3気筒エンジンを搭載するYZF-R9は、2024年10月に、鈴鹿サーキットで日本初登場した際に開発チームが語っていたように、決してスーパースポーツ「過ぎない」スポーツバイク。
それでも、単にMT-09をフルカウルとしただけではなく、スーパースポーツ的なハードブレーキングに耐えうる車体に設定。強力なエンジンと、高剛性としなりを両立する車体設計で、乗りやすさを犠牲にしない、それでも高荷重のライディングに対応できるモデルをコンセプトとしていました。
発表されたテンケイトレーシングYZF-R9、ゼッケン31が岡本裕生だ。
テンケイト車はオーリンズ製サスペンション、モトマスター製ディスクローターを使用。
もちろん開発チームは、設計段階からサーキットランを想定したキットパーツ装着も想定。そのため、スタンダードの状態からデルタボックスフレームや前後サスペンション、ブレーキまわりにYZF-R1やR6同等のパーツをチョイス。さらに、そこからレーシングマシン的なパーツにグレードアップしても十分対応できる車体設計としていたようです。
公表された、ヤマハがWSSP600に参戦するオフィシャルサポートの3チームに供給するYZF-R9は、基本的に同じ仕様。各チームのサポートサプライヤーやセッティングで違いが出ているようです。
岡本裕生が所属するテンケイトレーシングは、かつてホンダCBRでWSBKにも参戦していたオランダの名門チーム。ジョナサン・レイや清成龍一が在籍していたことで、日本でもおなじみのチームです。
テンケイトレーシングのYZF-R9は、前後サスペンションをオーリンズに換装し、オランダ・モトマスター社のディスクローターを使用。エバンス・ブロスレーシング車はビチューボ製サスペンションとガルファー社製ディスクローターを使用しています。
アクラポビッチ製マフラーを使用。各チームの違いでは、他2車がRKチェーンを使用しているのに対し、テンケイト車はレジーナチェーンを使用。
ヤマハ車で初めてウィングレットが純正装着されているYZF-R9。これもエバンス・ブロス車のみ同形状の非純正ウィングレットを使用している。
マフラーは基本仕様がアクラポビッチ製で、これもエバンス・ブロスレーシング車のみアロー製を採用。公開された写真では、テンケイト車とGMT94車はマフラー材質にも違いがあるようです。
ヤマハはこのシーズンオフに、ヤマハヨーロッパを主体に開発を進めてきたのだといいます。900ccの3気筒というというまったく新しいエンジン、従来のYZF-R6ほどスーパースポーツに振っていないベースモデルのパッケージをレーシングマシンに仕上げるべく、24年11月のイタリア・クレモナでのシェイクダウンテストをはじめ、スペインの様々なサーキットでプレシーズンテストプログラムを敢行。公表されてはいませんが、競争力あるタイムをマークしたといいます。
ハンドルスイッチもモディファイ済み。右スイッチはキルスイッチとセルで、写真の左スイッチはパワーモードスイッチとピットレーンリミッターを装着。
「スーパーすぎない」YZF-R9だが、スタンダードからトップブリッジ下にセパレートハンドルをセット。メーターはレースマシン専用品。
リアサスはテンケイト車とGMT車がオーリンズ製。エバンス・ブロス車はボチューボ製で、写真のショックユニット向こう側にストロークセンサーが見える。
チーム体制も正式に明らかに! 岡本はゼッケン31を選んでWSSPへ挑む
シーズンオフには精力的にニューマシンYZF-R9での走り込みを重ねていたという岡本裕生。その2025年の体制も正式に明らかになりました。
まずヤマハはWSP600に並列3気筒900ccエンジンを持つニューマシンYZF-R9を投入。ヤマハWSSPチームはPata Yamaha TenKate WorldSSP/GMT94 Yamaha WorldSSP/bLUcRU Evans Bros Yamaha WorldSSPの3チーム6台をオフィシャル車両としてサポートし、岡本はそのトップチームといえるテンケイトレーシングに所属。チームメイトは2年連続WSSP600ランキング2位のステファノ・マンツィです。
「今シーズン開幕戦で、YZF-R9がデビューするのは重要な出来事です。我々は、ヤマハのニューモデルであるR9を、開幕戦フィリップアイランド大会で力強いスタートが切れるように懸命に取り組んできました。従来モデルのYZF-R6はWSSP600のレジェンドであり、最後まで優勝争いを繰り広げたモデルでした。そして我々は、ニューマシンR9をR6のような強力なマシンにするべく、デビューイヤーから優勝争いをできる自信があります。ライダーとチームのみんなの健闘を祈っています」とは、ヤマハモーターヨーロッパのモータースポーツ部門マネージャー、アンドレア・ドソーリ。
「YZF-R9がWSSP600にデビューすることをとても楽しみにしています。経験豊富なライダーと若手ライダーが混在するラインアップは、R9に大きなチャンスをもたらしてくれるでしょう。マンツィは2年連続ランキング2位だったことから、今シーズンはチャンピオン獲得に燃えていますし、オカモトはニューマシンと新しいサーキットを学ぶことから始めなければなりませんね。チームは1月中ずっとテストを続けてきて、開幕前の最終テストに向かう今、いいフィーリングに仕上がっています。まったくゼロからのプロジェクトだから目標を立てるのは難しいけれど、我々の狙いは最初から可能なかぎりの戦闘力を発揮することです」とは、昨年までEWC世界耐久選手権を走っていた、ヤマハモーターヨーロッパのマネージャーを務めるニッコロ・カネパ。
念願の初タイトルを獲得した岡本は、当初はWSBK参戦も噂されていたが、まずは海外のサーキット、世界選手権に慣れるためもあり、WSSP600への参戦を決意。
「最終戦の第2レースまで同ポイントという、レベルの高い戦いを中須賀さんと見せられることができた。その中で自分が勝つことができて、2025年につながる、とてもいいシーズンになったと思います。WSSP600のレースは、もちろん初めての世界選手権、初めての海外のコースですが、日本のチャンピオンとして胸を張って頑張っていきたい」と岡本裕生。
岡本が選んだゼッケンは31。いうまでもなくこのゼッケンは、ヤマハの大先輩である原田哲也さんがワールドグランプリGP250クラスに初参戦し、チャンピオンを獲ったゼッケンだ。
■岡本裕生(おかもと・ゆうき)
小学生の頃に父に連れられてバイク教室に参加、14歳でチームノリック入りし、2015年にはSUGO選手権と筑波選手権のタイトルを獲得。16年には全日本選手権に出場をはじめ、ケガを乗り越えながら17年にST600クラスに参戦し、18年にチャンピオンを獲得。20年に2度目のST600タイトルを獲得し、21年にST1000クラスにステップアップし、22年にヤマハファクトリーチームに迎えられ、JSB1000クラスに参戦を開始。24年にはJSBクラス3年目で全日本チャンピオンを獲得した。
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