2024年シーズンのMotoGP最終戦は、ソリダリティGP・オブ・バルセロナとして、バルセロナ-カタルーニャ・サーキットで開催された。

当初は最終戦としてバレンシアGPがスペイン・バレンシアのリカルド・トルモ・サーキットで行われる予定だったのだが、10月末にスペイン東部、バレンシア州などを襲った豪雨と洪水被害により、急遽、開催地がバルセロナ-カタルーニャ・サーキットに変更されたのだ。バルセロナ-カタルーニャ・サーキットは、バレンシアから350kmほど北上したところに位置するサーキットである。今年はカタルーニャGPが5月末に開催されており、同サーキットとしては今季2度目の開催となった。

大会名であるソリダリティGPの「solidarity」とは、「連帯」という意味がある。今大会は最終戦であるとともに、「RACING FOR VALENCIA」として、セッションの中継映像やパドックでの募金活動、チャリティ活動など様々な形でバレンシアでの洪水被害への寄付が呼びかけられていた。

そうして開催された最終戦ソリダリティGP・オブ・バルセロナでは、決勝レースまでチャンピオン争いがもつれ込んだ。2022年、2023年チャンピオンのフランチェスコ・バニャイア、そして、初タイトルを狙うホルヘ・マルティンとの2年連続のタイトル争いは“The Rematch”と銘打たれ、今年はポイント数で圧倒的に有利な状況で最終戦を迎えたマルティンが、チャンピオンに輝いた。

その一方で、この最終戦は中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)やMoto2クラスの小椋藍(MTヘルメット – MSI)にとって、一つの節目となったグランプリだった。

中上貴晶、最後のレースを完走。「悔いはない」

中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)は、フル参戦ライダーとして最後の決勝レースを17位でゴールした。

「すっきりしてますね」と、中上はレース後にそう言った。

木曜日や金曜日も、中上は「今のところ、気持ちにそれほど変化はないです」と語っていた。もちろん、心境の変化が全くないわけではなかったが、土曜日には「今はそれ以上に、抱えているリアの挙動の問題のほうが心配です」と、スプリントレースで苦戦を強いられたマシンの症状の方が気がかりな様子だった。

「自分の最後のレースであることに加えて、いろいろなものを考えないといけない状況です。通常どおり進んでいる感じですね。こうしたい、というのがいっぱいあるから。来年にはワイルドカードとして参戦もするし、この景色が最後、というわけではないとわかっているからこそ、そこまで『これでみんなと走るのは最後だ』と思えない自分もいるんです。また戻ってくる、という気持ちがあるから」

そう語っていた中上は、最後の決勝レースで、グリッド上にお母さんとお姉さんを招いた。家族をグリッドに招いたのは初めてのことだった。

お母さんに「ありがとう」と言われた瞬間、中上の目から涙がこぼれたという。それまで「最後のレース」であることを、外から見る者には感じさせてこなかった中上は、そのときに「最後としての」感情をあふれさせた。

「自分の母親には特にこれまでありがとう、という気持ちもありました。母も泣いていました。ずっと同じような思いで来たから……。感情が揺らいだままスタートするんじゃないかとちょっと心配だったんですけど、意外に切り替えることができました。グリッドに呼べてよかったと思います」

24周を戦い終えた中上の足元には、チームスタッフなどの顔がプリントされた特別仕様のブーツがあった。そのチームが、「タカ ありがとう」と書かれたお揃いのTシャツを着て、最後のレースを走り終えた中上を迎えた。

「ピットに戻ってきてサプライズのTシャツを見て、どんちゃん騒ぎをして。シーズンが終わった、ということに加えて自分がここを去るんだと、チェッカーを受けたときよりピットに帰ってきてからのほうが実感がありましたね」

「無事に転倒もなく、やっと終えられました。ハプニングもなくチェッカーフラッグを受けることができたので、チームも含めて、みんなに感謝の気持ちでいっぱいです。悔いもありません。『終わった~』って感じです」

晴れやかな表情で、中上はそう語っていた。MotoGPクラスで7シーズン、世界選手権で通算15シーズン。世界を舞台にした戦いが、幕を下ろした。

小椋藍のMoto2ラストレース

小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、Moto2クラスでの最後のレースを、4位でゴールした。レース終盤までは3番手を走っていたのだが、最終ラップにディオゴ・モレイラ(イタルトランス・レーシング・チーム)との攻防となり、最終コーナーの進入でかわされたのだ。

「(モレイラは)いつもならレース終盤に離れるんですけど、今回は調子がよかったのか、ずっと後ろにいたし、がつがつしていました。いつもならそこまででもないんですけど」

レース後は「ものすごく悔しかった」という。けれどチームが最後のレースを終えた小椋を温かく迎えると、小椋もバーンナウトでそれに応えた。

「(レース後に)あんな感じで迎え入れてくれたから、そこで『そうだ、チームのためのレースでもあったんだな』って。今日、起きた出来事じゃないですけど、あらためてチャンピオンシップを喜んだりもしました」

今回のレースは、Moto2クラスで最後のレースであり、MTヘルメット – MSIでの最後のレースでもあり、そして、クルーチーフやメカニックとの最後のレースでもあった。小椋は、クルーチーフのノーマン・ランクやメカニックたちと、世界チャンピオンを獲得するために、ともにMTヘルメット – MSIに移籍してきたのだ。しかし、2025年からのMotoGPクラスへのステップアップとともに所属するトラックハウス・MotoGP・チームでは、新しいクルーチーフやメカニック、エンジニアが小椋を担当することになる。

小椋はMoto2やチーム、スタッフに別れを告げ、MotoGPクラスという新たな戦いの舞台に挑む。2025年、MotoGPライダー小椋藍がデビューするのである。

Moto3山中琉聖、今季ベストの走りで5位

Moto3クラスの決勝レースでは、山中琉聖(MTヘルメット – MSI)がレース終盤、表彰台争いに加わった。しかし他ライダーのオーバーランに影響を受け、追突されたこともあって、5位でゴールした。

「(アドリアン・)フェルナンデスがオーバーランしてロングラップから戻ってきて、その影響を受けたり、(ダビド・)ムニョスに後ろから追突されたりしました。フェルナンデスもムニョスもペナルティを受けましたけど、危険行為でもありましたし……、それが少し影響しましたね。(表彰台)いけるかなと思ったんですけど。……難しいですね」

「結果は5位でしたが、今年いちばんの走りができました。ブレーキングでの戦い方などは、いちばんよかったのかなと思います」

山中は、来季もMTヘルメット – MSIからMoto3に参戦する。「チームを変わらないのは初めてのこと。今日の状態から(来季を)始められるので、それが大きいですね」と、来季に向けて期待を込めていた。

古里太陽(ホンダ・チームアジア)は、大きなトップ集団のなかでおおよそ7、8番手付近を走り、7位だった。

「直線が上り切れなかったので1、2、3コーナーで追いつくしかなくて、オーバーテイクが難しかったです。難しいレースでしたが、そこそこの順位でゴールできたことはポジティブだったと思います」

来季、古里も今季と同じチーム、ホンダ・チームアジアから参戦する。今季は3度、表彰台を獲得したが、優勝には手が届かなかった。今季のホンダのMoto3マシンは、他メーカーに比べて直線で後れをとっており、ライダーがその不利をカバーしながら戦っている状態だった。

「(来季は)自分とバイクで向き合っていきたい。チャンピオン争いは、しなければならないと思います」

鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)は、原因不明のメカニカル・トラブルによって13位だった。前戦マレーシアGPでもトラブルが発生しており、これについても「原因はわかっていない」という。2戦連続で、トラブルに見舞われた。

「バイクにちょっと問題が出て、うまく走れずに終わってしまいました。まだ原因もわかっていないですし、何が引き金となってそれが起こったのかもわかっていないので何とも言えないですけど。2戦連続で自分のせいじゃないところでレースを終えなければならないのは悔しいです」

来季については「まだわからないです」と語るにとどめた。

また、今季のMoto2ルーキーである佐々木歩夢(ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)は、マレーシアGPの転倒で右手、右足を骨折し、今大会を欠場してシーズンを終えた。来季はRW - Idrofoglia Racing GPに移籍し、引き続き、Moto2に参戦する。

MotoGP日本人ライダーの戦い【第20戦ソリダリティGP】中上貴晶、MotoGPライダーのキャリアに終止符 ギャラリーへ (16枚)

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