
オーストラリアの南部に位置するフィリップアイランドは、天候が読めない。木曜日の日中は、晴れていた。けれど金曜日と土曜日は一転して雨が降り、雨が止むと一部に青空がのぞいていたりもする。
そして、決勝レースが行われる日曜日は、好天に恵まれた。
なすべき仕事をした小椋藍のオーストラリアGP
小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、オーストラリアGPをトップ10位内で終えることを目標としていた。オーストラリアGPが行われるフィリップ・アイランド・サーキットは、小椋が得意ではないサーキットなのだ。寒くて風が強いことが、その理由の一つだった。加えて、オーストラリアGPの週末は、決勝日を除いて雨が降った。ウエットコンディションもまた、小椋にとって好ましい状況ではない。トップ10は、現実的な目標だったと言えるだろう。
ドライコンディションで行われた予選Q2で9番手を獲得した小椋は、3列目から決勝レースを迎えた。レース序盤からフェルミン・アルデゲェル(ベータ・ツールズ・スピードアップ)、アロン・カネト(ファンティック・レーシング)、アロンソ・ロペス(ベータ・ツールズ・スピードアップ)の3名が抜け出すが、小椋は落ち着いてその後ろを走った。この3人のペースのよさはわかっていたし、まずついていけないだろう、と思っていた。
一度だけ、小椋がはっきりしたミスをした。3周目の4コーナーでラインを外し、はらんだのだ。だが、それはタイトル獲得を目前に控えたがゆえのミスというわけではなかった。
「(前を走っていたマヌエル・)ゴンザレスが、左側に寄っていたのでロングラップ(・ペナルティ)に入るかなと思ったんです。それが計算ミスで、入らなかった。このままいったらゴンザレスに当たりそうになっちゃうな、と思って少しブレーキをかけたらリヤが浮いてシェイキングして、真っ直ぐいっちゃいました」
落ち着いて自分のレースをした小椋は、最終ラップのポジション争いを制して4位でゴールを果たした。
めったに自分に賛辞を送らない小椋だが、今回は「このサーキットで4位は、僕としては上出来すぎる」と、少し表情を和らげていた。レース後のピットで、クルーと言葉を交わしながら笑顔を見せてもいた。小椋にとって、そしてチャンピオンシップにとって、大きな価値のある4位だったのだ。
小椋は次戦に向けて「(チャンピオン獲得の)チャンスはかなりあると思います。そうしたいです」と言った。小椋は、不確かなことを言わない。彼が「チャンスがある」と言うのなら、それは「そういうこと」なのだ。
ランキング2番手とのポイント差を65とした小椋は、次戦タイGPで5位以上に入れば、チャンピオンが決定する。
小椋(#79)は確実に4位という結果を持ち帰った(c)Honda
中上貴晶、エアロ効果が期待されたフィリップアイランドは苦しい週末に
中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)のオーストラリアGPのレースウイークは、総じて苦しいものになった。苦戦を続けてきたホンダだったが、数戦前から投入された新しい空力デバイスによって、やや調子を上げていた。それはリザルトにも表れている。
この空力デバイスは、中上はインドネシアGPで投入されている。グランド・エフェクトを発生させるサイドカウルの空力デバイスで、高速コーナーでの旋回性向上を主な目的としたものだ。
この新しい空力デバイスが高速コーナーが連続するフィリップ・アイランド・サーキットで機能するのではと期待されたが、別の問題によって悩まされることになった。
一つは、路面のバンプを拾ってしまい、バイクが常に不安定になってしまうことだ。フィリップ・アイランド・サーキットの路面は再舗装されているが、その因果関係は不明である。金曜日を終えた中上曰く、「コーナーの旋回中も立ち上がりから次のコーナーに入っていくときも常にバイクがギャップを拾ってしまって、不安定なんです。ストレートでもそう。路面状況を吸収してしまって、バイクが常にがたがたしている」という。これは他のホンダライダー、例えばジョアン・ミル(レプソル・ホンダ・チーム)も同じようなコメントをしている。
もう一つは、最終コーナーでリヤのライドハイトデバイスが使用できなかったことだ。現在のMotoGPマシンは車高調整機構を備えており、それを使用して立ち上がっていくコーナーがある。フィリップ・アイランド・サーキットの最終コーナーも、そのうちの一つである。しかし中上を含むホンダライダーは、今大会でそれを使用できなかった。
「フロントのストロークが少ないので1コーナーでデバイスが解除されないため、僕たちだけ使えないんです。他社は普通に使えているんですが。ストレートはデバイスありきですし、それでエアロも考えられています。非常に乗りづらいです。ストレートも車高が高い分、非常に不安定ですし」
また、土曜日午前中のフリープラクティス2で中上のマシンにエンジントラブルが発生した。MotoGPクラスは通常、2台のマシンを備えているが、このために中上は1台のマシンでこの日のセッションを走らなければならなかった。
予選では21番手となったが、マシントラブルが発生したフリープラクティス2でオレンジボールのフラッグ(該当のライダーのマシンにトラブルが起こっていることを知らせるもの)が提示された際、すぐにコースを離れなかったとして、3グリッド降格ペナルティを受け、最後尾の22番手からスプリントレースをスタート。14位でレースを終えた。
日曜日は前のライダーが欠場したことから21番手スタートとなり、18位だった。難しい週末ではあったが、「ペースはよかった」と中上は言う。
「レース序盤の遅さが大きな原因ですね。中盤から後半はいいペースで走れています。簡単に言うと、もったいないレースでした。この順位で終わってしまったのが残念です。ただ、ペースはいいので序盤にうまく走れればトップ10も見えてきています。タイではそれをクリアしたいですね」
オーストラリアGPは思わぬ症状に悩まされることに(c)Honda
Moto3山中琉聖が好レースで6位フィニッシュ
佐々木歩夢(ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)は、Moto2ルーキーとして挑むフィリップ・アイランド・サーキットながら、予選で自己ベストグリッドの14番手を獲得した。決勝レースもポイント圏内、そして自己ベストリザルトも期待される12番手を走行していたが、18周目の2コーナーで転倒を喫し、リタイアとなった。
「昨日よりもいいフィーリングで走れていたんですが、レース後半にタイヤが落ち始めたとき、リヤブレーキを使うとチャタリングが出るようになってしまいました。それでフロントブレーキでバイクを止める走りに切り替えたんです。フロントタイヤが垂れてきて、コーナリングスピードが高すぎたようでフロントが切れ込んでしまいました。フロントから転ばないように走ってはいたのですが。ポイントも獲得できたと思うし、Moto2で自己ベストのレースができたと思うので、ほんとに悔しいです」
Moto3クラスでは山中琉聖(MTヘルメット – MSI)が6位でゴールを果たした。1周目に最後尾にまで後退したものの、そこからトップ集団と変わらないペースで追い上げ、レース中盤には表彰台争いにも加わった。表彰台は逃したものの、山中としては好感触のレースだったようだ。レース後に話を聞いたとき、山中の表情には明るい笑顔が浮かんでいた。
「(1周目)2コーナーで内側のライダーが転倒しそうになった影響を受けて、最後尾まで後退してしまいました。そこから追い上げて、レース中盤くらいにはトップグループに追いついたのですが、毎周、2コーナーで立ち上がりを意識してラインをためすぎてしまい、インサイドから(他のライダーに)入られてしまうシチュエーションが何度もあったんです。それが今回の反省点ですね。もったいなかったです。でも、レース自体はすごく楽しかったです!」
古里太陽(ホンダ・チームアジア)もまたトップ集団でレースをしていたが、残り2周、接触によって後退したことが響いた。7位でフィニッシュしている。古里によれば、今回は接触が多いレースだったという。Moto3クラスは予選しかドライコンディションでの走行時間がなかった。また、大きな集団でのレースだったこともあり、こうした状況が原因だったようだ。
「ドライでのセッションがなくて、みんな、どれだけいけるのかわかっていなかったんだと思います。また、あれだけの集団のレースもあまりないから、スリップストリームが利きすぎて、止まり切れなかったのだと思います。スリップでのブレーキでたぶん思ったより突っ込んでしまった。そういうブレーキングをしていたライダーが多かったです」
鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)もレース前半はトップ集団の後方にいたが、10周以降にタイヤのグリップが落ちたことでペースを落とし、15位でゴールした。
MotoGP第18戦タイGPは、タイのチャン・インターナショナル・サーキットで、10月25日から27日にかけて行われる。
得意とするフィリップアイランドでポイント圏内を走行していた佐々木(#22)。惜しくも転倒リタイアに(c) 2024 Yamaha Motor Co., Ltd.
山中(#6)は手ごたえを感じる6位(c) 2024 MT Helmets-MSI
接触が多かったという決勝レース。古里(#72)は惜しくも7位だった(c)Honda
鈴木(#24)は10周目以降、タイヤのグリップが落ちたことでペースダウンを余儀なくされた(c)IntactGP
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