MotoGPサンマリノGPは、イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで開催される。2024年シーズンは、サンマリノGPの翌々周(9月20日~22日)にスケジュール調整されたカザフスタンGPが中止となって、代わりにミサノ・サーキットでエミリア・ロマーニャGPが行われることになった。このため、ミサノ・サーキットで2連戦というスケジュールである。
このミサノ・サーキットに関して、ぜひとも触れたいことがある。メインエントランスの前の通りに、2001年WGP 250ccクラスチャンピオン、加藤大治郎の名前がつけられているのだ。道の中央分離帯に立つ、通りの名称が書かれた標識にも「Daijiro Kato」という名前が刻まれている。
そして今回、Moto2クラスで優勝を飾った小椋藍(MTヘルメット – MSI)が、加藤大治郎が2001年日本GPで優勝したときに使用した日本国旗を手に、ミサノ・サーキットを走った。
Moto2小椋藍が優勝。“乗り切った”山場
チャンピオン争いを展開する小椋藍(MTヘルメット – MSI)にとって、オーストリアGPで負った右手の骨折は懸念材料だったはずだ。右手が回復するまで、いかにランキングトップのセルジオ・ガルシア(MTヘルメット – MSI)とのポイント差の拡大を抑えるかが重要、だったのではないだろうか。
しかし、どうだろう。オーストリアGPを欠場し、復帰したアラゴンGPでは痛み止めを使用しながら力走を見せ、8位でゴール。そして、サンマリノGPでは今季3勝目を飾って、ランキングトップに躍り出たのだ。
金曜日の時点で、右手の具合は「痛くて攻めたりブレーキングできないわけじゃないけど、まだ忘れて乗れるほど痛みがなくなってはいない」という状態だった。この時点では、土曜日以降で痛み止めを使用することも視野に入れていた。だが、最終的に、小椋は土曜日も日曜日の決勝レースも、痛み止めを使わずに走った。土曜日になって状態がいい方向に向かったからだ。
「土曜の朝から手の感じがすごくよかったし、昨日からよく走れていたので、痛みよりも感覚重視で痛み止めを飲まずにいきました」
小椋は決勝レースを1列目3番手からスタートすると、前半はトニー・アルボリーノ(エルフ・マークVDSレーシングチーム)とアロン・カネト(ファンティック・レーシング)に次ぐ3番手を走り、アルボリーノが後退してからは、トップのカネトにぴたりとつけた。タイヤを温存し、終盤に攻める。それが、小椋が描いていた展開だった。
「トップに近いところで走っていれば、タイヤの減り方はトップと同じか、それよりもセーブできます。相手の走りも見られますしね。レース展開的にはうまくいったかなと思います」
カネトを逃さずに追従していた小椋は、残り4周でカネトをとらえた。このタイミングも、絶妙だった。そして、トップでチェッカーを受けたのだった。小椋のタイヤマネジメントの強みを生かしたレースであり、完治していない右手の影響を感じさせないレースでもあった、と言えるだろう。
「残り2周で抜くと、相手も(終盤なので)最後の力を振り絞ってやり返される可能性があるな、と思ったんです。僕の方がいいペースなら、残り4、5、6周くらいで前に出て、少し攻めて、ギャップを作るほうが利口かな、と」
一方、小椋とタイトル争いをしているガルシアは、サンマリノGP前から抱えていた右肩に加え、金曜日に喫した激しい転倒により、左肩にも負傷を負っていた。ガルシアは24番手からスタートして、12位でゴールし、獲得したのは4ポイントにとどまっている。
この結果、小椋がチャンピオンシップのランキングトップに浮上し、ランキング2番手に後退したガルシアとの差を9ポイントとした。次戦エミリア・ロマーニャGPには右手もさらに回復するだろう。小椋は一つの山場を乗り切った。ガルシアの状況もあったとはいえ、山場をものともしなかった、と言えるかもしれない。
今季初めてランキングトップに浮上した小椋に、終盤を迎えつつあるシーズンにおいて、チャンピオンを獲得するために、チャンピオンシップを戦う上で何が重要だと考えているのか、と聞いた。
小椋は「金曜、土曜のレースまでの組み立てと、それをできる限り毎戦やる、ということですね」と答えた。
「チャンピオンシップ(のことを考えなければならない段階)となってくればくるほど、スピードがあれば抑えて走れるようにもなります。例えば僕がぶっちぎりで速かったら、抑えて走っても2位になれる。スピード次第だと思いますね。自分が有利になるように、僕はできるだけそういうところを詰めていく。そういうレースにしていけたらいいかな、と思います」
チャンピオンシップを戦うには安定した結果が何よりも求められる。速さがあれば、結果の選択肢にも幅が生まれる。小椋は金曜、土曜で速さを積み上げ、決勝レースでその速さを結実させるレースを、1戦1戦、繰り返したいと考えている。
そして、今回のレースのチェッカー後、上田昇さん(元WGPライダー)から小椋に、加藤大治郎が2001年日本GPで優勝したときに使った日章旗が手渡された。小椋はその日章旗とともに、クールダウンラップを走ったのだった。
MotoGP中上貴晶が苦しんだブレーキング時のリヤ
ホンダはオーストリアGPで、新しいエンジンを投入した。シーズン後半のアップデートにかかる期待は大きかったが、それはライダーの期待には届かないものだった。
旋回性の向上をターゲットにした新エンジンは、中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)によれば、「旋回がすごくいいかというと、本当にちょっとよさが感じられる部分があるだけ。どのサーキットに行ってもすごくバイクが旋回するわけではないので、エンジンだけではまだまだ解決していないです」と言うことだ。
そして、中上はサンマリノGPで、リヤの跳ねに苦しみ続けた。ブレーキング時にリヤが跳ねてしまう。それは、コースサイドで見ていてもわかるほど大きなものだった。
「(ブレーキングで)リヤが跳ねるし、きれいにスライドしてエイペックスにバイクをもっていけない。ブレーキングを開始して減速、ターンインをして寝かし始めるところまで、バイクのバランスとバイク自体のパフォーマンスが非常に悪いんです。乗りづらいですね」
「アラゴンでも1か所のコーナーでこの症状が出ていましたが、ここではどのコーナー、スピード域でも出ています。アクセルを戻した瞬間にリヤがすごく跳ねる。フィーリングは相当悪いです」
路面グリップが悪かったアラゴンに対し、ミサノは路面グリップがいいサーキットだ。こうした路面グリップの高さに加え、レースではリヤにソフトタイヤを履いており、タイヤのグリップのよさ、つまりハイグリップの影響もあったのではないか、と中上は考えている。原因はわかっていないが、電子制御ではなく、エンジンかシャシーなのではないか、とも語っていた。
22番手からスタートした中上は、土曜日のスプリントレースを20位、決勝レースを13位で終えている。
サンマリノGPの翌日、9月9日にミサノ・サーキットで行われた公式テストでは、ホンダは新しい空力デバイスをテストした。旋回の改善に重きを置いたものだ。しかし、「リヤのグリップや加速時のトラクションがすごく不足している」と中上は訴えている。これは、以前よりホンダが改善すべき点として抱えているところだ。
「ホンダのバイクは、地面に伝わる力が不足しています。そうするとバイクが振られやすくなったりするんです。きちんと路面に吸い付くようなフィーリングがないんですね。それははっきりしているんですが、ずっと改善はされていないです。根本的に抱えている問題は一緒ですね」
中上はサンマリノGPのレース後、「正直言って、(他メーカーと)同じカテゴリーでレースをしている感覚がないです」とまで言っていた。ホンダは依然として、厳しい状況が続いている。
Moto3古里太陽、0.033秒差の4位
Moto2クラスのルーキーシーズンを戦っている佐々木歩夢(ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)は、シーズン後半に入って平均的にポジションを上げている。前戦アラゴンGPでは12位でゴールし、ポイント獲得という一つの壁をクリアした。
今回もまた、Moto2クラスで初めて予選Q2へのダイレクト進出を果たしている。決勝レースでは終盤にタイヤが落ちた際、チャタリングに苦しんで16位でゴールとなったが、レース中は13番手付近で争っていた。佐々木自身も「コンスタントによくなってきている」と、明らかにシーズン前半とは違う位置でのレースに手ごたえを感じている。
Moto3クラスの決勝レースでは、古里太陽(ホンダ・チームアジア)が好レースを見せた。トップ集団に加わる走りで、古里としては優勝をねらっていたという。ただ、レース終盤、追い上げてきたアンヘル・ピケェラス(レオパード・レーシング)が優勝争いに加わってさらに混戦となり、古里は自分の展開にすることができなかった。3位とはわずか0.033秒差の悔しい4位となったが、次戦に期待を抱かせるレースだったことは間違いない。
23番手という後方からのスタートながら、鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)は、序盤から攻めたあとにポジションを守って8位でゴールを果たした。ただ、鈴木にとっては、金曜、土曜に速さが足りず「残念なウイークだった」ということで、次戦での改善を誓っていた。
また、13番手からスタートした山中琉聖(MTヘルメット – MSI)は、1周目2コーナーで発生したアクシデントの影響を受けてコースアウト、スローダウンを余儀なくされ、大幅にポジションを落とし、17位でゴールした。
MotoGP第14戦エミリア・ロマーニャGPは、2戦連続で同じサーキットでの開催となる。イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで、9月20日から22日にかけて行われる。
MotoGP日本人ライダーの戦い【第13戦サンマリノGP】右手骨折から3週間。Moto2小椋藍、懸念を払拭する今季3勝目でランキングトップに浮上 (5枚)この記事にいいねする