ポールポジションからのスタートも、決勝レースではタイヤの影響で後退を余儀なくされた/(c)2024 MT Helmets-MSI

約3週間のサマーブレイクが明け、MotoGPはシーズン後半戦に入った。後半戦の初戦は、シルバーストン・サーキットを舞台とする第10戦イギリスGPである。

シルバーストン・サーキットは、第二次世界大戦中はイギリス空軍爆撃機部隊の訓練基地だった。このため、サーキット全体の土地が非常に開けている。多少の起伏はあるが、コースをまたがる橋などを除けばほとんどなだらかだ。

サーキットは全長5.9kmで、現在MotoGPが開催されているサーキットの中で、最も距離が長い。高速コーナーが多く流れるようなレイアウトを持つ、高速サーキットである。

今大会は1949年に始まったロードレース世界選手権の75周年を記念し、MotoGPクラスの全チームが決勝レースにビンテージカラーのマシンで挑んだほか、過去に活躍したWGPマシンなどの展示も行われた。

それでは、イギリスGPの日本人ライダーの活躍を追っていこう。

Moto2小椋藍の今季初ポールと決勝レースの後退

Moto2クラスに参戦する小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、予選Q2でポールポジションを獲得した。2分2秒940を記録してオールタイムラップ・レコードを更新。今季初、2022年マレーシアGP以来となるポールポジションだった。

だが、小椋は「予選のタイムは自分でも予想外。全体的にタイムが上がりましたね」と言う。また、このタイムは前のライダーを追って出したものということもあり、久しぶりのポールポジションとはいえ、小椋としては大きな喜び、とはいかなかったようだ。「一人で出したタイムだったらうれしかったかもしれないけど」と、淡々と語っていた。

小椋としては、決勝レースは序盤からアロン・カネト(ファンティック・レーシング)が攻めてくる、優勝争いに絡んでいければ、と考えていた。だが、決勝レースも、今度はネガティブな方向に想定外の展開となった。カネトは確かに序盤から攻めていたが、小椋のペースが明らかに上がらない。巧みなタイヤマネジメントでレース後半に強い小椋だが、この日の走りは何かに苦しんで後退を余儀なくされているようだった。その後も少しずつポジションを落として、14位でレースを終えた。

「2周もしたら、リヤタイヤのグリップが全くなくなって、何もできませんでした」と、レース後に小椋は説明した。

小椋が選んだのはフロント、リヤタイヤともにソフト。今回の決勝レースでは、全ライダーが同じタイヤ選択である。Moto2クラスは今季からタイヤサプライヤーがピレリとなったため、もちろん全員がピレリを装着している。そして、チームメイトのセルジオ・ガルシア(MTヘルメット – MSI)は、16番手からスタートして4位でゴールした。

「いろいろな可能性があると思いますけど、原因はまだわかっていません。これまでで一番今回に近いタイヤの終わり方としては、カタールじゃないでしょうか。カタールは全員がそうでしたけど、今回は僕だけでした」

おそらく、小椋のリヤタイヤに普通ではない何かが発生していたのだろう。この結果、チャンピオンシップでのランキングは変わらないものの、ランキングトップのガルシアとランキング2番手の小椋とのポイント差が、7から18に広がった。

MotoGP中上貴晶、決勝レースでは大きな変更で改善にトライ

MotoGPクラスで苦戦を続けるホンダは、イギリスGPでも大きなアップデートを投入しなかった。このため、中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)も苦しい戦いになるだろうことは予想していた。

土曜日のスプリントレースでは17位。決勝レースでは16番手でゴールし、前のライダーが結果に16秒加算のペナルティを受けたため、最終結果は15位となった。

中上は、土曜日の時点でかなりの苦戦を強いられていた。特に苦戦したのは、得意とする高速コーナーだったという。

「減速区間や高速コーナーでのバイクのフィードバックがかなり悪い。極端に言うと、コーナーのエントリーからすごく減速しないと、エイペックスに向かうことができないんです。それに、高速コーナーでのコーナリングのボトムスピードが遅いです」

こうした状況を踏まえ、日曜日にはマシンに大きな変更を加えた。「今までやらないような大きなところ」に着手、改善を試みたという。

「今日はセットアップをかなり変えて、よりフロント荷重になるようにしました。金曜や土曜のベースで走るくらいなら、違うことをしたほうがいい。例えそれが外れたとしてもトライしたほうが次につながると思ったので」

現在、ホンダはファクトリーチームとサテライトチームの4名のライダーによって、異なるエンジン仕様(といっても、新しいエンジンという意味ではない)や空力デバイスの仕様を使用するなどしているのだという。レースウイークの時間までも使って、この先に向けた改善を探っている状況、と言える。中上もイギリスGPでは、HRCの要望により他の3名とは異なるアプローチをしていたということだ。

「今は、4台でいろいろなベストなスペックを探っています。僕も違うスペックで今週は走っていました。でも、まだ解決には至っていません。次戦までに4台のデータを解析してもらって、オーストリアでは少しでもいい状態で走りたいと思っています」

なお、待たれるホンダの「大きなアップデート」は、中上の話によれば、アラゴンGPあるいはサンマリノGPで予定されているということだ。

Moto3山中琉聖、トップ集団で戦い6位

Moto2クラスのルーキーシーズンを戦っている佐々木歩夢(ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)は、28番手からスタートして21位でゴールした。予選ではそれまでから一転、フィーリングが悪く自己ベストを更新できずに終わったが、決勝レースではフィーリングが戻ったのだという。チャタリングの問題はあったが、「(Moto2で)初めて最後まで全開で走れた、と言っていいのかな」と語った。Moto2にステップアップした今季、決勝レースでは転倒やフィジカル面の問題などが続いていたのだ。

「体力も腕も問題なくレースができました。セットアップを変えたので新たにチャタリングの問題が出てしまって、それがネガティブではあったんですけどね。終盤は(デニス・)フォッジアと(イザン・)ゲバラと一緒に走ることができて、いろいろと学ぶことができました。すごくポジティブなウイークになったかなと思います」

Moto3クラスの山中琉聖(MTヘルメット – MSI)は、2列目5番手からスタートし、最後まで混戦のトップ集団の中で戦った。惜しくも表彰台には届かなかったが、6位でゴールを果たしている。

同じくMoto3クラスを戦う鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)は、3列目9番手からスタートした。フィーリングがよくトップ5を目指していた鈴木はトップ集団の中にいたが、終盤の状況や接触などが絡み合い、10位フィニッシュとなった。

「序盤は様子を見て、残り5、6周でアタックしようと思っていたんですけど、そのタイミングでほかのライダーにぶつけられてポジションを落としてしまったんです。なんとか前の集団に追いつこうとしたんですけど、ポジションを上げられずに終わってしまいました。今週はフィーリングがよかっただけに残念ですが、次のオーストリアGPはもう少しよくできればと思います」

なお、Moto3クラスに参戦中の古里太陽(ホンダ・チームアジア)は、サマーブレイク中のトレーニングで転倒し、鎖骨を骨折して手術を受けたため、イギリスGPを欠場した。

MotoGP第11戦オーストリアGPは、オーストリアのレッドブル・リンクで、8月16日から18日にかけて行われる。

MotoGP日本人ライダーの戦い【第10戦イギリスGP】ポールポジションの小椋藍、決勝レースで14位の理由は (9枚)

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