
7月21日(日)のFIM世界耐久選手権(EWC)第3戦「鈴鹿8時間耐久ロードレース」。今年は上位勢の1周タイムが拮抗しており、予選も決勝も予想できない展開となり、SSTクラスは転倒も相次ぎ優勝候補が脱落する場面もあった。そんななかTeam HRC with Japan Postがレースを制して3連勝を達成、ホンダでは30勝目の記録を残した。日本チームも強さを見せた2024年シーズンのEWC第3戦での出来事やレース内容をレポートしたい。
予選からまさかの展開でYART - YAMAHA最速、SSTクラスはTERAMOTO@J-TRIP Racingがポールポジション
19日の予選1回目と2回目で強さを見せたのはフル参戦チームのYART - YAMAHAだった。2分05秒222を記録してまずは暫定ポールを獲得した。暫定2番手は2分05秒776のDUCATI Team KAGAYAMA、暫定3番手は2分06秒032のTeam HRC with Japan Postだった。
翌20日のトップ10トライアルで上位10チームのグリッドが決まるが、トップ3は変わらなかった。YART - YAMAHAのマービン・フリッツが2分05秒130を記録してポールポジションを獲得、フリッツが速いタイムを出したことからカレル・ハニカも気合を入れてアタックをして、セクター1を最速で通過したがNIPPOコーナーでクラッシュしてしまった。
さらに、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMのマーカス・ライターベルガーが2分05秒971を記録して4番手まで上げたサプライズも。Yoshimura SERT Motulは5番手、SDG Team HARC-PRO. Hondaが6番手と予選の暫定順位から入れ替わっている。
SSTクラスのグリッドは予選1回目と2回目で決定。2分08秒272を記録して17番手となったTERAMOTO@J-TRIP RacingがSSTクラスのポジションを獲得。Team Étoileが17番手(SSTクラス2番手)、Taira Promote Racingが21番手(SSTクラス3番手)だった。
EWCクラスのポジションを獲得したYART - YAMAHA
SSTクラスのポールポジションを獲得したTERAMOTO@J-TRIP Racing
決勝序盤はトップの奪い合いが白熱
決勝はスタート前に気温32度、路面温度56度とこのレースウイークでは一番暑い1日となった。ホールショットはBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMが奪い、YART - YAMAHA、Yoshimura SERT Motul、Team HRC with Japan Post、F.C.C. TSR Honda Franceと続く。最終の日立AstemoシケインでYART - YAMAHAがトップに立ち、オープニングラップを制した。
5周目の130Rでは毎ラップ順位を上げていたDUCATI Team KAGAYAMAがトップに立ち、6周目と7周目を引っ張った。その後はYART - YAMAHAが首位に戻り、10周目から14周目はTeam HRC with Japan Postがトップに浮上した。15周目はまたもDUCATI Team KAGAYAMA、16周目から27周目はTeam HRC with Japan Postが1番手でピットイン、最後まで1スティント目のピットストップを引っ張った28周目にはYoshimura SERT Motulがラップリーダーとなった。
ライダーも交代して2スティント目に入った29周目以降はTeam HRC with Japan Postが他車を寄せ付けず逃げていく。
SSTクラスに目を移すと、1スティント目から優勝候補のKawasaki Plaza Racing Team、NCXX RACING with RIDERS CLUB、Team TATARA aprilia、WÓJCIK RACING TEAM 777、TERAMOTO@J-TRIP Racingが続々と転倒。路面温度が50度を超えるとSSTクラスワンメイクのダンロップタイヤの感触が変わるようで、それが転倒の原因と推測される。
そのため、フル参戦チームのTeam Étoile、セパンやボルドールの経験があるTONE RT SYNCEDGE4413 BMW、ヨーロッパ戦はTeam Étoileに帯同するスタッフもいるTaira Promote Racingのトップ3となり、海外の経験が役立っている結果がコース上で確認できた。
序盤はトップからTeam HRC with Japan Post、YART - YAMAHA、SDG Team HARC-PRO. Honda、DUCATI Team KAGAYAMA、Yoshimura SERT Motul、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMのトップ6でホンダ勢は2台いるが、多くのメーカーが拮抗していた。
3時間20分には9番手のF.C.C. TSR Honda Franceがデグナーカーブ2つ目で転倒。マシンを起こし、ピットに入らずに走行を続けて13番手に落ちた。3時間30分が過ぎるとTeam TATARA apriliaがスローダウン、2度目のトラブルとなる。
レースの折り返しとなる4時間にはTeam HRC with Japan Post、YART - YAMAHA、Yoshimura SERT Motulのトップ3となり、上位陣に動きはなく淡々とレースを進めていく。SSTクラスは同一周回だがTONE RT SYNCEDGE 4413 BMWがトップ。少し離れてTaira Promote RacingとTeam Étoileが競っていた。
そしてこのタイミングで負傷しているグレッグ・ブラックの代役としてこの週末からYoshimura SERT Motulに帯同したアルベルト・アレナスもコースに出た。また、6時間にはF.C.C. TSR Honda FranceがS字カーブで2度目の転倒。34番手までポジションを落として開幕戦ル・マン、第2戦スパと続き3戦連続転倒でポイントを大きく落とした。
6時間30分にはピットストップでタンクキャップを付け忘れたYoshimura SERT Motulがライドスルーペナルティを科されたが、4番手を守った。その後終盤まで転倒はなく、レース残り22分、Team HRC with Japan Postがピットに入り高橋巧に交代した。
EWCクラスもSSTクラスも数秒差の争い、最終周まで表彰台争いが白熱
このままの状況でレースが終わると思われたが、劇的な展開が待ち受ける。最後のピットストップで給油が完了する前にスタッフがマシンに触れたことで、残り11分にTeam HRC with Japan Postに10秒のストップ&ゴーペナルティが科された。しかし、チームはそれを消化せずに同等の40秒加算ペナルティを受ける判断を下した。
しかし、この時点でTeam HRC with Japan PostとYART - YAMAHAの差は同一周回で50秒ほどの差しかない。また、YART - YAMAHAの方がペースは速かったが、47秒860差でフィニッシュ。ペナルティが科されたことにより優勝したTeam HRC with Japan PostとYART - YAMAHAの差はなんと7秒860差という結果となった。
これにより僅差でTeam HRC with Japan Postは3連覇を達成、ホンダとしては30勝、高橋巧は単独首位の6勝目、ヨハン・ザルコと名越哲平が初優勝を獲得した。また、YART - YAMAHAは鈴鹿8耐では結果が残っていなかったが、ようやく鈴鹿での初表彰台を獲得した。さらに、220周という最多周回数の記録もこの2チームが作った。
また、3位争いは最後のスティントまで続いていた。7時間28分まで3番手だったDUCATI Team KAGAYAMAをYoshimura SERT Motulの渥美心がオーバーテイクしてチームに表彰台をもたらした。渥美自身もヨシムラに帯同してからはリザーブライダーだったが、初の起用でEWCクラス初表彰台という嬉しい結果となった。初参戦のDUCATI Team KAGAYAMAは4位となったが、レースウイーク中最後までピットに残り作業を続けていた加賀山就臣監督の目にも涙があり、1年目の活動で大きな結果を残したことになる。
Team HRC with Japan Post最後のピットストップ
SSTクラスはTONE RT SYNCEDGE 4413 BMWが淡々とペースを維持して優勝。2019年以来の鈴鹿8耐の頂点に立った。2位争いは最後までバトルが続き、Taira Promote RacingをTeam Étoileの亀井雄大が最終ラップのホームストレートでオーバーテイクして2位を奪取。Taira Promote Racingが3位となった。
EXPクラスのTeam SUZUKI CN CHALLENGEはトップ10圏内を走り、総合8位でフィニッシュした。カーボンニュートラルを目指し、サステナブルアイテムを投入して初年度ながら目標の完走を果たしたことや、上位でもバトルできることをスズキは証明して見せた。
Kawasaki Webike Trickstarは午前のウォームアップ走行でグレゴリー・ルブランが転倒して欠場。クリスチャン・ガマリノとロマン・ラモスの2名で戦ったが、ラモスも暑さでダウン。ガマリノが1名でレースを進めていき、最後にはラモスも復活して走ったが、123周でチェッカーは受けた。しかし、規定周回数に足りず、未完走となってしまった。
Team Kawasaki Webike TRICKSTAR
また、決勝日翌日のレース後車検でNCXX RACING with RIDERS CLUB、Team TATARA aprilia、TERAMOTO@J-TRIP Racingの3チームに車両規定の違反が見つかり失格となった。要因は今年から鈴鹿8耐も他のラウンドと同じくEWC規定でのSSTクラスで開催されたためで、昨年と同様の国内ストック規則での仕様ではなくEWCのSST仕様にしなければならなかったためだ。故意の改造で、失格となったわけではない。
チャンピオンシップポイントではYART - YAMAHAが116ポイントでトップに立ち、Yoshimura SERT Motulが110ポイントで2番手、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMが72ポイントで3番手となった。SSTクラスではNATIONAL MOTOS HONDA FMAが108ポイントで単独首位、Team Étoileは4番手で53ポイントと差は大きいが最終戦ボルドールは24時間レースということもあり、まだチャンピオンの可能性もある。
その第4戦ボルドール24時間は9月14~15日にフランスのポール・リカール・サーキットで開催され、両クラスのチャンピオンが決まる決戦となるため楽しみだ。
【レポート】2024年鈴鹿8耐は最終周まで白熱のバトルが展開 ギャラリーへ (11枚)この記事にいいねする