
MotoGPドイツGPの舞台であるザクセンリンクには、1927年に最初のバイクレースが行われた、古い歴史がある。当時はクローズドのサーキットではなく、公道でレースが行われていた。クローズドのサーキットとなったのは、1990年代のことである。公道レースの名残として、サーキットを出て10分ほど歩いたところにモニュメントがある。
モニュメントがあるのはサーキット近くのラウンドアバウトで、周辺には住宅が並んでいる。サーキットのすぐ近くに民家があるのも、ザクセンリンクの特徴だ。民家はあるが、それ以上に穏やかな田園風景が美しい。サーキットのメディアセンターやピットがあるパドックは高台に位置していて、そこからザクセンリンクのコースを視界に入れながら、民家と田園を眺めることができる。コースと民家を同じ視界に収めることができるサーキットは、珍しいのだという。
ザクセンリンクは、ロードレース世界選手権が行われるサーキットの中では珍しい左回りのレイアウトを持つ。そして、13のコーナーのうち10が左コーナーで、圧倒的に左コーナーが多い。このサーキットを大の得意とするのが、左コーナーを好むマルク・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)だ。
ドゥカティに移籍した今季、マルケスのザクセンリンクでのドゥカティ初優勝に注目が集まっていたが、マルケスは金曜日のプラクティスで転倒を喫して負傷。しかし、決勝レースでは優勝こそ届かなかったが、2位を獲得して弟のアレックス・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)とともに兄弟で表彰台に上がり、ドラマチックな形で週末を締めくくった。
そんなドイツGPで、Moto2クラスとMoto3クラスでは、日本人ライダーが表彰台に立ったのである。 過去にこの場所でレースが行われていたことを示すモニュメント/(c)Eri Ito
MotoGPクラスの決勝レースで2位(マルク・マルケス)と3位(アレックス・マルケス)を獲得したマルケス兄弟/(c)MotoGP.com
目次
Moto2小椋藍、3位獲得でランキングトップと7ポイント差に接近
小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、最終ラップの最終コーナーを勝負だと考えていた。小椋が争うのは3番手。チェレスティーノ・ビエッティ(レッドブルKTMアジョ)、ディオゴ・モレイラ(イタルトランス・レーシング・チーム)との三つどもえである。
まずは8コーナーでモレイラをかわし、11コーナーから下るストレートで、ビエッティのアウト側にポジションをとった。
「ビエッティのブレーキングがかなりよかったので、勝負するならダウンヒルよりも最終コーナーかなと思っていたんです。それで、下りの直線のアウトから仕掛けて、ワイドにさせて」
小椋は最終コーナーでビエッティのインサイドにマシンをねじ込み、先行して立ち上がった。わずかな差を守って、小椋は3位でゴールした。
「このサーキットでの表彰台は、“大きい”です」
レース後に話を聞いた小椋は、そう語気を強めた。小椋がそう語るのには理由があった。ザクセンリンクは小椋にとって、相性のいいサーキットではない。現実的な小椋はドイツGPでのターゲットを5位としていた。そこがドイツGPのラインだと考えていたことが窺える。そんなザクセンリンクで、接戦を制して3位表彰台を獲得した意味は大きかった。
「(レース終盤は)二人とも(ビエッティとモレイラ)リヤタイヤ(のグリップが)がなくて、自分のほうがほんのちょっとだけあったので、そこをうまく生かして3位になれたので、よかったです」
「最終的に、表彰台で終えることができました。シーズン前半戦のなかでも最悪のサーキットの一つなので、素晴らしい結果になりました」
シーズン後半戦は、否応なしにチャンピオン争いを意識せざるをえないシーンも増えていくだろう。どう考えていくか? と問えば、小椋は「うーん」と少し考えた。
「(チャンピオンシップを)考えるべきシチュエーションになったら考えて、そうじゃないときには自分たちのライディングに集中していけば、おのずと結果はついてくると思います」
小椋はドイツGPの結果により、チャンピオンシップでランキング2番手を維持しながら、ランキングトップのセルジオ・ガルシア(MTヘルメット – MSI)とのポイント差を7に詰めている。
ザクセンリンクでの3位表彰台を獲得に、会見での小椋の表情は明るかった/Eri Ito
Moto3古里太陽は「2位もうれしいですけど……」と複雑な表情
古里太陽(ホンダ・チームアジア)は、ドイツGPのMoto3クラス決勝レースを2位でゴールした。開幕戦カタールGP以来となる、表彰台獲得である。
しかし、パルクフェルメにやって来た古里の顔には、ぎこちない笑みばかりが浮かんでいた。それはそうかもしれない。古里は得意とするザクセンリンクで、優勝を狙っていたのだ。
「(2周目に)コリン(・ベイヤー)がこけたときに、もうペースは上がらないなと確信したんです。タイヤの左側は特に減りが激しいので、左側はあまり寝かさないように、でもスピードを落とさないように走っていました」
ただ、最終ラップの10コーナーでバイクが振られた。前のダビド・アロンソ(CFモト・Gaviota・アスパー・チーム)に接近すべく、ストレートで足りない部分のアクセルをコーナーで足したところ、スライドが多すぎたのだという。
「ちょっとしたミスで、最終的に(アロンソに)アタックはできなかったんですけど。それまでの展開は、ほとんど完璧に近かったと思います」
チェッカーを受けた直後、古里は左手でタンクを叩き、悔しさをあらわにしていた。トップ3会見のあと、「今となれば、少しうれしい気持ちもありますか?」と尋ねてみた。
「んー。2位あたりは、今年のフィーリングだったら何度か表彰台は乗れるかなと思っていたんです。ミスで逃したことも多かったけど、その周辺のポジションにいることは多かったので」
「2位もうれしいですけど……。1位と3位はうれしいと思うんですけど、2位だとやっぱり悔しいが出ちゃうので」
そのときの古里の表情は、久しぶりの表彰台のうれしさよりも、悔しさを感じていると雄弁に語っていた。だからこそ、シーズン後半戦の古里のレースが、より楽しみになるのだ。
優勝が見える位置での2位に、古里の表情は硬い……/(c)Honda
MotoGP中上貴晶、ホンダ勢最上位の14位
MotoGPクラスに参戦する中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)は、決勝レースを14位で終えて、2ポイント獲得を果たした。ホンダ勢として最上位。これが、ホンダの現状だ。
「ポイントを獲得できたので、現状はベストを尽くせたし、ホンダトップでゴールできた。一つクリアできたかな、と思います」
苦しい戦いが続くホンダは、サマーブレイク明けにアップデートがあると言われていた。ただ、中上の話によると、シーズン後半戦が明けて最初のグランプリであるイギリスGPではないだろうということだ。
「旋回性、リヤのグリップ、加速面のトラクションは他車に比べて明らかに劣っています。まだまだ差は大きいです」
「(アップデートが)アラゴンやミサノになるかもしれない、とは聞いています。アッセンの前からそう聞いていました。大きなアップデートが転機となれば、とみんなが期待しています。それを待つしかないな、というのが正直なところです」
シーズン後半戦のアップデートと、それによる改善が待たれる。
Moto3山中琉聖は3回のペナルティを科されるも6位でゴール
Moto2ルーキーシーズンを戦っている佐々木歩夢(ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)は、レース中盤に左肩に力が入らなくなり、ペースダウンして24位だった。とはいえ、土曜日に話を聞いたときは「しっくりきて、攻められるようになってきました」と明るい表情を浮かべていた。シーズン後半戦に期待だ。
そしてMoto3の山中琉聖(MTヘルメット – MSI)は、プラクティス2でのスロー走行に対して決勝レース中のロングラップ・ペナルティが科された。これに加え、決勝レースでジャンプスタートと判断されたことで、ダブル・ロングラップ・ペナルティを受け、合計3度のロングラップ・ペナルティを消化することになった。ロングラップ・ペナルティを消化して後退したところから、それでも6位でゴールしているのだから、素晴らしい追い上げだ。今季のスピードは、健在である。
また、鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)は9位でゴールした。タイヤを温存していたし、フィーリングもよかった。ただ、イタリアGPとオランダGPで転倒が続いていたため、攻めきれなかったのだ。「自分の中で不完全燃焼でした」と、声を落としていた。
MotoGPは約3週間のサマーブレイクに入る。サマーブレイク明けのMotoGP第イギリスGPは、イギリスのシルバーストン・サーキットで、8月2日から4日にかけて行われる。
※ロングラップ・ペナルティ:
レース中に課されるペナルティ。コースに設定された特定のエリアを通過しなければならない。通常のコースよりも大回りとなるため、ペナルティを消化するとラップタイムは数秒ロスとなる。
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