
5月から続いた異常高温もひと休み、レースイベントを楽しむには絶好の天候に恵まれた、6月9日開催のJD-STER第2戦。今回のレポートは、昨シーズンあたりからバラエティー感あふれるマシン群で賑わう、ストリートE.T.クラスにフォーカス! ドラッグレースで想像しがちな、大排気量車やハードチューニングだけでは勝ちきれない『腕で勝負!』という、同クラスの魅力をお届けしよう。楽しさが分かればきっと参加したくなるはず!
目次
マシンもスキルも関係なし! 頭脳と腕、冷静さで勝負だ
JD-STERドラッグレースで開かれるストリートE.T.をひと言で書けば、事前のタイム申告をベースに競うクラスだ。一般の、同時スタートでゴールを目指すレースとは違い、予め対戦する左右レーンのライダーがスタート前にE.T.(エラプストタイム。0→1/4マイルの区間タイム)を申告し合い、そのタイム差でスタート。
両者が申告通りに走り切れば、ゴール地点で同着となるがそれは難しく、ゴールに先着した方が勝ち。実際はR.T.(リアクションタイム。スタートシグナルからバイクが動き出す間のタイム)での差も付くし、さらに申告タイムより早くゴールするとタイムオーバーで失格となってしまう。
ストリートE.T.クラスのスタートをイメージしたイラスト。右:11秒、左:10秒の申告タイムを想定。左右のスタートランプが別々に、1秒の申告差に合わせて作動するのだ。
上図はストリートE.T.でのスタートをイメージしたイラストだ。実際のスタート進行を上の連続イラストに表している。ここでは事前に左車は11秒、右車は1秒差の10秒でタイム申告をしたことを想定しよう。上段の左端は左右レーンで両車が準備出来たことを示す、ステージランプが点いた状態。この後、スターターがスタートスイッチを押す。上段中から下段の左端は0.5秒刻みで先に右レーンのアンバーランプが次々点灯を進めている状態だが、一方で下段の左端では右アンバーランプ点灯開始から1秒後に左レーンのアンバーランプも点灯をスタート。下段の左から2番目のイラストで右レーンがスタート! 左はまだアンバーランプ点灯中だ。下段の右端、右レーンスタート後に1秒の間をおいて左レーンもここでスタートとなるのだ!
こちらは実際のスタートシーン。4秒050の申告タイム差に合わせて、左レーンのRZ350が先にスタート。右レーンはまだスタート前のアンバーランプが点灯を続ける状態だ。
実際のスタートのワンシーンがこちら。14秒450で申告した左レーン・RZ350の小橋清隆選手(左)と、10秒400申告の右レーン・KATANAの前田憲明選手の対決だ。申告差となった4秒050先にスタートした小橋選手を追おうとする、前田選手側のスタートシステムはまだ1秒前のアンバーランプが点いている状態。そのスタートシステムの下の電光掲示板には、L=小橋選手のリアクションタイム(R.T.)、R=まだスタート前の前田選手の申告タイムが表示されている。前田選手がスタートすれば、こちらもR.T.が表示される。このタイムラグのあるスタートに慌てず焦れず、いかに対応できるかも勝負のポイントなのだ。
ここまででルールを難しく感じるかもしれないが、注目すべきはこれによって排気量やパワーなどのマシン差が帳消しとなること。言い替えればどんなバイクでも戦える。いかに現状の自分を理解したタイム申告ができるか、理想通りの走りができるかが勝負のポイントなのだ。まさにライダーの『腕』と『自らを俯瞰する力』、そして走行時の『冷静さ』がモノをいうクラスというわけ。
「しまった! 申告より速く走りすぎたかもしれない」なんて、走行中にスロットルを緩める...というのも同クラスならではの話だろう。
そんなストリートE.T.では、小排気量車がビッグバイクを倒すジャイアントキリングが少なからず目撃されるし、2023年シーズンのシリーズチャンピオンがNinja ZX-25R(中村 進選手)というあたりも、同クラスの楽しさと難しさの、何よりの証明と言えるのではないか。
最近ではストリートE.T.の奥深さを知って、街乗りのライトカスタムやあえてミニバイクでチャレンジするライダーも急増中だ。念のため書き加えれば、先の中村 進選手(実はJD-STERが始まった2004年以前からドラッグレースを楽しむ大ベテランでもある)のNinja ZX-25Rは、マフラーすら換えられていないストックバイクだったりする。
上の2点は、その第2戦のストリートE.T.クラスに参加したマシン群の一部。多種多様なジャンル、排気量の大ベテランも、ドラッグレースを始めたばかりのライダーもアッという間にのめり込むストリートE.T.。レースの現場を観る機会があれば、より具体的にその面白さに気づくはずだ。
ライダー/セッティング以外も壁があるから面白い!
今回のレース全般の傾向はといえば、第1戦より気候が高温/多湿化したからか、トップコンテンダーとみられるライダーたちが軒並み前戦からベストタイムを落としたこと。そして前日のオープントラックデー(以下、OPD。誰もがタイム計測に参加できるコース開放日だが、エントラントにとっては練習日の側面もある)でマシントラブルに見舞われ、この本戦をリタイヤするライダーが散見されたこと。
OPDでは望めば10本以上の走行も可能なのだが、走りすぎてクラッチを焼いてしまったり……というトラブルリスクも合わせ持つ。それが分かっていても、どんどん走ってセッティングを詰め理想のタイムに近づけたい、といのもライダーの心情だから難しい。走行を重ねデータを集めるのも大事だが、どこで終えるかの見極めも、実は翌日のレースを左右するポイントだったりするのだ。
一方で、決勝トーナメントに駒を進め着実にポイントを積んだライダーもいて、あと3戦が残される今シーズンのシリーズチャンピオン争いはまだ、混沌の中にある。
ところで、レースとは関係ないが、今シーズンのトピックに上げておきたいのは、お昼休みに開かれるギャラリー向けの体験走行に、多くの参加者が集まるようになったこと。こちらは当日予めブリーフィングを受けた後、コースを知るための完熟走行を行ってから1本だけ、タイム計測走行ができる無料サービスで、望めばバーンナウトの仕方も丁寧に教えてもらえる。
ここでまず、広大なドラッグスリップをフルスロットルで走る爽快感(走りきった先のブレーキングゾーンも800m近く取られているから安心だ)と、今の自分の立ち位置(タイム)が分かれば、そのまま主軸クラスのオープントーナメントクラスに進んでレースを楽しむもよし、まだ自信がなければテスト&体験クラス(1万円で4回のタイムトライアルができる)に参加して、さらに腕を磨きこむのもよし。
まずは7月14日(日)に開かれる第3戦をじっくり観戦して、先のストリートE.T.同様、その楽しみ方を目にしてみてほしい。
プロオープンは300PS超のモンスター対決! クレイジー8はJD-STER理事同士の顔合わせに?!
プロオープンクラス
プロオープンクラスを開幕2連勝で制したのは、手前の田邊選手+ZX-14R。300ps超のパワーを支えるリアタイヤのつぶれ具合にも注目!
改造はほぼ無制限! JD-STERドラッグレースの頂上対決として300PS超のモンスターを操るライダーたちが集うプロオープンクラスの決勝は、#8の前年同クラス・ランキング2位の田邊康彦選手と#60、今季からプロオープンにステップアップした矢嶋晴也選手による、ZX-14R同士の戦いとなった。軍配は田邊選手で今季2連勝! シリーズポイント争いでも他をリードする。
クレイジー8クラス
手前が一般財団JD-STER代表理事にしてピンチヒッター出場となった中村圭志選手。奥の横田千里選手はクラスフォー・横田正彦代表の奥様で、本場・アメリカ遠征を含めドラッグレース経験豊富。
オープントーナメントの予選上位8台がトーナメントで競うクレイジー8クラスの決勝は、一般社団法人JD-STERの代表理事を務めるレッドモーターの中村圭志選手と、同理事のクラスフォーエンジニアリング、横田千里選手による、稀有な理事対決となった。優勝は中村選手の手に。そもそもは中村選手の乗る#95・ZX-14Rの小山智大選手が急遽欠場したことでのピンチヒッターだったが、抜群の安定感で決勝に駒を進める様は圧巻。かつて開かれた全日本ドラッグレース選手権で7回の王座を獲得した腕は未だ鈍らず。「多くの方から代表理事が勝つなんて大人気ないよと叱られまして、反省しています(笑)」と、中村選手。でも、多くのエントラントに、その走りは刺激となったはずだ。
VSBアウトロークラス
神田選手のZ1-R。決勝トーナメントではあわや8秒台に迫る、9秒057のコースレコードも。もはや無双と呼べる状態。
80年代の空冷エンジン+スチールフレーム車で争うのがビンテージスーパーバイク(VSB)各クラスで、その頂点と言える何でもアリ! なのがアウトロークラスだ。第2戦も神田佳治選手+Z1-Rが開幕戦から2連勝。昨年の最終戦からの連勝も3に伸ばした。
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