
文/写真:中村浩史
第2戦モビリティリゾートもてぎ大会から1カ月以上のインターバルが空いての第3戦スポーツランド菅生大会。このレースもトップカテゴリーであるJSB1000クラスは、もてぎ大会に続いての2レース制で、2024年の4/5レース目の開催となる。
打倒中須賀を狙う挑戦者たち
やはりこの菅生大会も、レースの注目は王者・中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)を軸とした「打倒・絶対王者」への戦い。ここまで3レースでは、すべて中須賀と、そのチームメイトである岡本裕生、そして今シーズンから全日本ロードレースに初参戦しているドゥカティのワークスマシン・パニガーレV4Rをライディングする水野涼(ドゥカティTEAMカガヤマ)の3人だけが表彰台に登壇。
さらに今シーズンからダンロップタイヤの開発を兼ねて参戦する、2022-23年の鈴鹿8耐を連勝中の長島哲太(DUNLOPレーシングwith YAHAGI)、WSBKから日本に帰国した野左根航汰(AstemoホンダドリームSIR)、今シーズンからJSBクラスに復帰した高橋巧(日本郵便ホンダドリームTP)らのチャンピオン経験者がズラリ。
レースに先立って行われた公開事前テストでは、初日に野左根→岡本→中須賀→伊藤和樹(ホンダドリームRT桜井ホンダ)→高橋がTOP5タイムを記録すると、2日目は岡本→水野→中須賀→野左根→高橋がTOP5、さらに雨となった3日目にも水野がトップタイムをマーク。この中でもコンスタントに好タイムをマークする岡本が目立つ事前テストとなった。
「菅生はヤマハのホームコースということもあって、好きなコースだし、得意なコース。比較的コンパクトなレイアウトで、峠コースというか、コンパクトなつくりが好きなんです。ハードブレーキングよりコーナリングスピード重視なところが自分に合っているんだと思います」(岡本)
絶好調・岡本にストップをかけるのは
5/24(金曜)の2回の事前走行でも、岡本がどちらのセッションもトップタイムをマーク。25日(土曜)の公式予選でも、岡本がコースレコードブレイクでトップタイムをマークして、土曜のレース1/日曜のレース2ともにポールポジションを獲得。先輩ライダーであり、チームメイトである中須賀も舌を巻くほどの絶好調だ。
「ここのコースは(岡本)ユウキが本当に速くて、アベレージも高く、ちょっと手が付けられないかんじ。予選でもユウキだけ速くて、何とかしなきゃ、とは思っている。レースではなんとか独走させないように、って作戦を採るしかないかも」(中須賀)
公式予選はフロントローが①岡本②水野③中須賀、2列目が④野左根⑤伊藤⑥長島の順。各ライダーのベストタイムのうち2番目のタイムで決まる日曜のレース2の予選順位は、①岡本②中須賀③水野④野左根⑤伊藤⑥津田拓也(オートレース宇部レーシング)となっていた。
そして土曜に行なわれたレース1では、スタートで水野と岡本が並ぶようにホールショットを獲得すると、2コーナーではふたりのインをついて野左根が前へ。野左根→岡本→水野→中須賀→長島の順でトップ集団を形成すると、3周目に水野が2番手、4周目にトップへ。水野、野左根、岡本、中須賀の順でレース序盤を周回し、徐々にこの4台がレースを牽引。長島、伊藤、津田、名越哲平(SDGホンダレーシング)、岩田悟(チームATJ)がセカンドグループを形成する。
トップグループ4台の中で、水野と野左根の2台がやや抜け出すシーンも見られたが、ヤマハファクトリーの2台がそれを許さず、5周目には中須賀が、6周目には岡本が野左根を攻略。岡本はそのまま9周目に水野をもかわしてトップに浮上するが、水野もすぐに巻き返す。レース後半の13周目には中須賀が2番手に上がり、16周目の110Rからラプラスシケイン区間で中須賀がトップに浮上。いよいよ絶対王者の勝ちパターンだ。
今度は、その中須賀を逃すまいと、17周目のバックストレートエンドで岡本が2番手に浮上。これで中須賀→岡本→水野の順となり、このままフィニッシュ。中須賀が岡本のアタックを凌ぎ切り、開幕戦の鈴鹿2&4から4連勝を決めたレースとなった。3位に2位の岡本から3秒8離れて水野、4位に水野から約9秒差で野左根、5位に伊藤、6位に名越が入賞した。
「(岡本)ユウキを逃がさないように、という作戦しかなかったんで、混戦に持ち込んで、ユウキの持ちタイムで勝負させないようにしていました。ユウキ、いいリズムで走っていたし、ロングランも速かったから、逃げられたら追いつけない。だからトップに立っても、いつ抜かれるか、ずっと気を走っていました。僕の持ちタイムくらいで走って、そこについてくるライダーだけで勝負に持ち込もうと思っていました。それが勝ちにつながったのかな」(中須賀)
レース1の展開から決めるレース2の戦略
日曜に行なわれたレース2では、またも岡本が好スタートを見せ、インから水野、アウトから野左根が並ぶように1-2コーナーをクリア。岡本→水野→野左根→中須賀→高橋→長島の順でレースをスタート。しかし、バックストレートエンドで水野がトップに浮上すると、メインストレートで岡本がトップを奪回。土曜のレース1の展開を考え、序盤からトップグループのペースが激しいスタートとなった。
このレース2では、レース1から変わってヤマハの2台とドゥカティが抜け出し、4番手の野佐根は先頭3台から遅れ始める。序盤から3台のトップ争いの中から、徐々にトップ岡本と2番手水野が、3番手の中須賀との差をつけ始め、スタートからスパートする岡本、そこに食らいついていく水野に対し、中須賀がやや遅れ始める。4番手争いは野左根と高橋のホンダCBRが対決しはじめる。
トップ争いは岡本と水野のほぼ一騎打ち。両者の差は開かず縮まず、ミスの許されない戦いとなりながら、揃って1分26秒台中盤のラップタイムで走行。このペースは、さしもの中須賀も追うことができず、トップ2台と3番手の中須賀との差も広がってしまう。
結局レースは、終盤までハイペースをキープ出来た岡本が、ラスト3周のラップタイムを1分27秒台に落としてしまった水野を2秒弱引き離して優勝! 岡本はこれがJSBクラスの2勝目で、23年の菅生大会以来、約1年ぶりの優勝となった。
2位水野から10秒遅れで中須賀が3位、その14秒後方に4位の野佐根と5位の高橋、その5秒弱後方に6位の岩田がフィニッシュした。
「レース1の結果を見てセッティングを見直そうと考えていたんですが、あまり効果がなく、テストから使っている仕様で走りました。あとは自分勝負、と序盤から攻めていけたのが良かったんじゃないかと思います。スタートが上手く決まって、一度水野くん、野左根くんにも前に行かれたんですが、ここで行かなきゃ、とすぐに抜き返したのが良かった。トップに立ってからは、あとはミスのないように走り切れました」(岡本)
これで開幕戦から5レース連続でヤマハファクトリーレーシングが5連勝。しかし、注目すべきは、ここまで3戦5レースすべてで表彰台に上がるものの、まだ「優勝」のない水野。ドゥカティのワークスマシン、パニガーレV4Rに乗り換えてすぐの開幕戦から好タイムで走れているものの、まだまだ理想の走りができていないのだという。
「まだまだドゥカティの本領を発揮できていないし、乗りこなせていない。車体だって、サスペンションも電子制御も、まだまだ出来上がっていない感じです。それが、きのうのレース1から変更したセッティングで大きく改善されて、今までの自分たちのネガをきょう一日で大きく改善できました。確実にレースごとによくはなっているので、今回は今までよりもかなり大きくステップできたし、レース1よりもかなりペースの上がったレースができたと思います。今日のレースというより、今後の戦いに有効なマシンに近づきました」(水野)
これでJSBのレースは、鈴鹿8耐を除くと、8月のもてぎ2&4まで長いインターバルを迎えることとなる。おそらく鈴鹿8耐にも出場する水野は、ここからテストや本戦で飛躍的に走行時間が増えることが予想されるため、8月のもてぎ2&4での走りが楽しみになってきた。
いよいよ黒船ドゥカティが絶対王者の牙城を崩すのか、それともYZF-R1がパニガーレV4Rをハネ返すのか!
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