フランスGPで今季初の表彰台に立った小椋藍(©2024 MT Helmets-MSI)

ル・マン-ブガッティ・サーキットで行われるフランスGPは、独特の熱をはらんでいる。2023年はシーズン最多の観客数、週末合計で27万8,000人を動員した。2024年はその数をさらに上回り、週末合計で29万7,000人の観客数が発表されている。

ル・マンはFIM世界耐久選手権(EWC)ル・マン24時間の開催地としても知られている。また、四輪のFIA世界耐久選手権(WEC)ル・マン24時間は、世界三大レースの一つである。サーキットの近くにある大型スーパーマーケットの一角には、WECのコーナーや、先日行われたEWCル・マン24時間で優勝したヨシムラSERT Motulのセレブレーションコーナーが設けられていた。街中を走るトラムにも、WECル・マン24時間のレースの様子がデザインされている。サーキット周辺の街は、レースの雰囲気がとても色濃く漂っているのである。

そして、ル・マンに駆け付けたファンが熱い視線と歓声を送るのが、フランス人ライダーのファビオ・クアルタラロとヨハン・ザルコである。フランスでフランス人ライダーに声援を送るのはとても自然なとだと思われるかもしれないが、その熱心な様子は、スペインやイタリア、そして日本の雰囲気、そのどれとも違う。熱狂的、とさえ言ってもいいかもしれない。

そんなル・マンでの、日本人ライダーたちの戦いを追う。

ファビオ・クアルタラロはスペシャルカラーでレースに臨んだ(©YAMAHA)

ファビオ・クアルタラロはスペシャルカラーでレースに臨んだ(©YAMAHA)

フランスは木曜日が祝日だったので、すでに多くのファンがサーキットに詰めかけた(©Eri Ito)

フランスは木曜日が祝日だったので、すでに多くのファンがサーキットに詰めかけた(©Eri Ito)

Moto2小椋藍が待望の2位。今季初、チーム移籍後初の表彰台

「今日は表彰台を獲得できるとは思っていませんでした」

Moto2クラスに参戦する小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、レース後の会見でそう言って笑顔を見せた。

小椋は予選Q2を17番手で終えていた。15分間の予選では、通常、1回のピットインをしてタイヤ交換などを行い、再びアタックに入る。後半のアタックでよりタイムが詰まるのが常だ。しかし、前半のアタックを終えてピットインをした小椋は、トラブルによって2回目のアタックができなかったのだ。このため、決勝レースを6列目17番グリッドスタートで迎えることになる。

しかし、決勝レースの小椋は好スタートを切って11番手に浮上すると、少しずつポジションを上げていった。

「ただただ、全力で走っていました。何かを考えたりする余裕はなかったです」

トップを走るチームメイト、セルジオ・ガルシア(MTヘルメット – MSI)は一人、抜け出ている。だが、2番手以下のライダーたちは、レースが後半に入るにつれて、次第にペースを落としていった。対する小椋のペースは、追い上げてきたにも関わらず、序盤から落ちなかった。ペースを落としたライダーたちに小椋が追いつき、最終ラップまで表彰台争いがもつれた。これが、表彰台を獲得した一つの要因だった。

2024年シーズンは、5年間所属したイデミツ・ホンダ・チームアジアを離脱し、MTヘルメット – MSIに移籍した。チームメイトのガルシアは、フランスGPまでに1勝と1回の3位を獲得している。チームのポテンシャルは確かだった。だからこそ、「あとは自分次第」だと小椋は考えていた。

そうした状況での表彰台獲得に、常にクールな小椋も喜びを表した。ポディウムばかりではなく、会見で見せた笑顔と柔和な表情が、それを伝えていた。

「予選でのフロントロウやポール(ポジション)、決勝レースでの表彰台や優勝がないと、シーズンが始まらないですから。いいレースをした結果が2位表彰台だったので、よかったです。それから、(ガルシアが優勝して)チームとしてもワン・ツー。2位でも、うれしいものはうれしい。いい日になりました」

誰よりも小椋自身が渇望していた表彰台に、ついに立ったレースだった。

MTヘルメット - MSIのレーシングスーツ姿で初めて臨んだMoto2の決勝トップ3会見(©Eri Ito)

MTヘルメット - MSIのレーシングスーツ姿で初めて臨んだMoto2の決勝トップ3会見(©Eri Ito)

小椋藍(MTヘルメット - MSI))(©2024 MT Helmets-MSI)

小椋藍(MTヘルメット - MSI))(©2024 MT Helmets-MSI)

MotoGP中上貴晶、進化のない3日間に悲嘆

中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)のフランスGPは、金曜日のコメントに集約されていた、と言っていいかもしれない。グリップがとにかく「悲惨」だという。

「スピニングも(昨年と比べて)今年のほうが多いですね……。旋回もかなりひどく、バイク自体の旋回が引き出せていない。それに加えて、なぜかここでは特にリヤのグリップが非常に低く感じています。アクセルを開ける前から、リヤの感覚がわからないんです。アクセルを開けてちょっとずつ感覚を引き出そうとしているんですけど、開けると同時にリヤが逃げてしまうんです」

「(コーナー進入でも)リヤの感覚がすごく薄くて、バイクを倒しこんでいけない。バイク自体がレーシングラインをフォローしてくれる感じが皆無なので、乗りづらいですね。いいところがないです」

スペインGP後にはヘレスで公式テストが行われていたが、新しいアイテムは投入されなかった。ファクトリーチームも同様だったようで、ジョアン・ミル(レプソル・ホンダ・チーム)は、金曜日の時点で「以前と同じバイク、同じパッケージなんだ。だから、いい結果は期待できないよ」と述べていた。

土曜日、中上は短めのスイングアームを使用した。リヤグリップの改善をねらったものだ。これによってリヤグリップのわずかな改善はあったが、今度は立ち上がりでウイリーの傾向が出た。それでも、決勝レースで再びそのパッケージを選ぶ状況だった。

「(バイクを)抑え込んで走らないといけないので、すごく疲れます。バイクを信頼して預けて曲がっていけない。だから、すごく乗りづらいんです。レース後半は、腕上がりに近い状態でした。かなしいですね。こんなに遅いのに、こんなにフィジカル的に厳しいっていうのは……」

中上は土曜日のスプリントレースを16位、日曜日の決勝レースを14位で終えている。6名の転倒リタイアが発生して獲得したポイント圏内の14位だが、完走を目指した尽力がそこにあったことは確かだ。

フランスGP後、ホンダはプライベートテストを行っている。次戦に向け、改善の糸口が見つかるか(©LCR Honda)

フランスGP後、ホンダはプライベートテストを行っている。次戦に向け、改善の糸口が見つかるか(©LCR Honda)

中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)(©Honda)

中上貴晶(イデミツ・ホンダLCR)(©Honda)

佐々木歩夢、Moto2で初の完走を果たす

佐々木歩夢は決勝レースを22位で終えた。開幕戦カタールGP、第2戦ポルトガルGPは転倒リタイア。ポルトガルGP後に受けた両腕の腕上がり手術のため、アメリカズGPを欠場した。スペインGPでは走行したが、土曜日のプラクティス2で転倒し、その影響で決勝レースを走れなかった。フランスGPの決勝レースが、Moto2クラスにステップアップした今季、初めての完走となった。

「金曜日はフィーリングがすごく悪かったし、自分の走り方も悪かったけど、土曜日はフィーリングがよくなりました。今日のレースはもう少しいけた気もするけど、転びたくなかったし、完走を目指しました。まだまだ改善しなくちゃいけないところもあるし、自分の乗り方に(バイクが)合っていないところもあります。ここがほんとのスタートだと思うので、一歩一歩前にいけるよう頑張ります」

Moto2で初の完走を果たした佐々木歩夢。マシンへの順応も進んでいる(©Eri Ito)

Moto2で初の完走を果たした佐々木歩夢。マシンへの順応も進んでいる(©Eri Ito)

佐々木歩夢(#22/ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)(©2024 Yamaha Motor Co., Ltd.)

佐々木歩夢(#22/ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム)(©2024 Yamaha Motor Co., Ltd.)

Moto3山中琉聖がトップ集団で走行、7位でゴール

2戦連続で4位獲得を獲得している山中琉聖(MTヘルメット – MSI)は、フランスGP決勝レースでも終盤まで表彰台を争うトップ集団で走行した。ただ、表彰台争いがもつれた最終ラップに3コーナーで一人に抜かれ、その後、さらに後退。7位でゴールした。

 レース後、山中は「(最終ラップで)二つ順位を落としてしまったのは完全に自分のミスでした。レースはミスなく終えるのがいちばんのカギです。前回もミスからトップグループと離れてしまいましたし、今回もそのミスで二つ順位を落としてしまいました。次戦はミスなく、毎周的確な走りがしたいです」と言って、表彰台獲得へ力を込めていた。

表彰台に近いところでのレースが続いている山中。初ポディウムは近いはずだ(©Eri Ito)

表彰台に近いところでのレースが続いている山中。初ポディウムは近いはずだ(©Eri Ito)

山中琉聖(#6MTヘルメット - MSI)(©2024 MT Helmets-MSI)

山中琉聖(#6MTヘルメット - MSI)(©2024 MT Helmets-MSI)

鈴木竜生(リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)は、スタートで後退したことが響き、9位だった。

「(スタート以降)思うように序盤で順位を上げることができなかったです。なんとか第2集団の前に出て、第1集団を追いかけていったんですが、追いついたのがラスト3周だったので、最後に順位を上げることができずに終わってしまいました。ただ、前戦の(アクシデントによる)ノーポイントからしっかりトップ10以内に戻っているので、もちろん満足はしていませんが、納得の結果にはなりました」

鈴木は14番グリッドスタートから9位でゴールした(©Eri Ito)

鈴木は14番グリッドスタートから9位でゴールした(©Eri Ito)

鈴木竜生(#24/リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)(© IntactGP)

鈴木竜生(#24/リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP)(© IntactGP)

レース中、コースをショートカットしたと判定されてロングラップ・ペナルティ(※)を課された古里太陽(ホンダ・チームアジア)は、1回目のペナルティ消化で白線にタッチし、2回目のロングラップ・ペナルティを消化せねばならず、最終的に14位フィニッシュだった。

「ペース的には最後まで悪くなかったので、残念ですね。予選もチームとしてミスがあって、決勝では僕のミスがありました。ウイーク通してミスがあった週末でした。でも、フィーリングとしてはよくなっています。ミスがなければいいウイークになっていくんじゃないかと思います」

ミスが続いて惜しい週末となった古里。次戦の奮起を目指す(©Eri Ito)

ミスが続いて惜しい週末となった古里。次戦の奮起を目指す(©Eri Ito)

古里太陽(#72/ホンダ・チームアジア)(©Honda)

古里太陽(#72/ホンダ・チームアジア)(©Honda)

次戦、MotoGP第6戦カタルーニャGPは、5月24日から26日にかけて、バルセロナ‐カタロニア・サーキットで行われる。

※ロングラップ・ペナルティ:
レース中に課されるペナルティ。コースに設定された特定のエリアを通過しなければならない。通常のコースよりも大回りとなるため、ペナルティを消化するとラップタイムは数秒ロスとなる。

MotoGP日本人ライダーの戦い【第5戦フランスGP】:Moto2小椋藍がチーム移籍後初の表彰台で見せた笑顔 ギャラリーへ (14枚)

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