
文/Eri Ito
ヘレスにひしめく観衆が放つ熱は、激しい感情をはらんでいる。そんな中、6名の日本人ライダーが戦った。彼らのスペインGPについて、触れていく。
目次
18万人のMotoGPファンを集めたヘレス
スペインGP(4月26日~28日)が行われたヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトは、シーズンの中でも独特の盛り上がりを見せるグランプリである。サーキットのエントランス前にある広大な二輪駐輪場には、次から次へとバイクがやってくる。駐輪された膨大な数のバイクが並ぶ様は、素晴らしく感銘的だ。
スペインGPの週末は土曜日午前中まで雨が降り、午後には天候が回復した。こうした天候の影響で、ウエットパッチが残ったMotoGPクラスのスプリントレースは、参戦ライダー25名中、15名が転倒を喫するサバイバルレースとなった。スペインGPの週末は、一筋縄ではいかない天候だったことを付け加えておく。
決勝レース当日、スタンド席はもちろん、サーキットを囲む丘をびっしりとファンが埋めた。MotoGPのプロモーターであるドルナ・スポーツの発表によれば、週末を通じての観客動員数は約18万人だったということだ。
日曜日、MotoGPクラスの決勝レースでは、2022年、2023年チャンピオンのフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ)と、今季ホンダからドゥカティに移籍し、過去に6度のタイトルを獲得してきたマルク・マルケス(ドゥカティ)による、接触も厭わない激しい優勝争いが展開された。サーキットにひしめく観衆は、スペイン人ライダー、マルケスの活躍と好勝負に、天を突くような歓声を上げていたのだった。
日曜日は8万人を集めた。レース前、ライダーたちの戦いを待つファンの熱が伝わってくる(©Eri Ito)
Moto3山中琉聖はアメリカズGPに続く4位でゴール
2024年シーズン、MotoGPには3クラスで6名の日本人ライダーが参戦している。MotoGPクラスに中上貴晶(ホンダ)、Moto2クラスに小椋藍(ボスコスクーロ)、佐々木歩夢(カレックス)、Moto3クラスに山中琉聖(KTM)、鈴木竜生(ハスクバーナ)、古里太陽(ホンダ)である。
スペインGPのMoto3クラスでは、山中が4位でゴールを果たした。今季、チームを移籍して2022年に所属していたMTヘルメット – MSIに復帰した山中は、序盤の2戦で転倒が続いた後、アメリカズGPで2番手争いを展開して4位でフィニッシュしている。アメリカズGPでの結果は山中の気持ちを楽にした。
ヘレスは開幕前にテストが行われたサーキットだった。山中は金曜日午前中のフリープラクティスで、一度もピットインすることなくロングランを実施している。これは、テストの段階で山中のセッティングがほぼ決まっていたからこそできたことだ。ウイークに入った時点で、すでに1ステップ進んだ状態だった、と言える。
Q2(予選)ではフロントロウ(1列目)まであと0.15秒に迫る5番手を獲得。いい流れがあるように見えた。実際に、レース序盤は山中が思い描いていた通り、トップ集団で走っていたのだ。ただ、集団の中で前に出るペースがなかった。レース終盤、山中は表彰台争いのグループから遅れていった。
「ミッションをロング気味にしてしまって、厳しかったです」と、レース後、山中は説明した。レース直後に話を聞いたからかもしれない。表彰台が見える位置にいながら、2戦連続で4位だった、ということもあるだろう。気持ちを抑えようと努めているように見えた。
このレースでファステストラップを記録したのは山中だ。8周目に記録したそのタイムによって、自身が2023年に記録したベスト・レースラップを更新している。ただ、山中は今後に向けてレースペースが課題だと語る。
「まだ表彰台にはペースも足りていないので、表彰台を獲得するために、その課題に取り組まないといけないかな、と思っています」
Moto3クラス参戦5年目のシーズン、山中は初表彰台獲得を目指している。
山中選手はアメリカズGPに続き4位でゴール。次は表彰台獲得だ(©Eri Ito)
MotoGPライダー中上貴晶、決勝は14位
中上のスペインGPに触れる前に、ホンダの現状を語る必要があるだろう。ホンダは過去数年にわたり、長いトンネルに入ったままだ。2023年、ホンダのコンストラクターズランキングは、最下位の5位だった。そして苦戦の状況は、2024年シーズン序盤も続いているのである。
ヘレスは、中上にとって得意なサーキットだった。現時点におけるMotoGPクラスでのベストリザルトの4位も、2020年にヘレスで記録されたものだ。ヘレスでどうしたら速く走ることができるのか、中上はよく知っていた。だから、現状のホンダRC213Vのウイークポイントをはっきりさせることができた。
初日を終えた中上は、「低速コーナーについては、去年と同じくらいです。一方、高速コーナーが、かなり遅いですね。特に、コーナーエントリーからのコーナリングのボトムスピード。そこでタイムが稼げていない」と指摘した。結局のところ、この問題は決勝レースまで続いた。
スペインGPの翌日、ヘレスで公式テストが行われた。ここで中上は、空力デバイスなどの形状が異なるプロトタイプマシンを走らせている。これは、ファクトリーライダーのジョアン・ミルがスペインGPの前週、カタルーニャでテストしたものだ。今季、ホンダはコンセッションのランクDを受けているため、レギュラーライダーによるシーズン中のプライベートテストを行うことができる。だが、テスト後、中上はこのプロトタイプマシンについて「乗っている感じはほぼ同じ。曲がらないし、グリップがない」と語っていた。ホンダの浮上には、まだ時間がかかりそうだ。
中上にとって得意のヘレスで、マシンの現状を確認した(©Eri Ito)
得意とするヘレスで、スプリントで10位、決勝レースで14位だった中上(©Honda)
Moto2小椋藍は課題の残る6位
今季、Moto3デビュー以来5年間所属したホンダ・チームアジアを離れ、MTヘルメット – MSIに移籍した小椋藍は、6位でスペインGPの決勝レースをゴールした。ヘレスは得意とするサーキットのはずだったが、全体としていい週末にはならなかった。
土曜日午前中まで降った雨の影響により、Q2(予選)で17番手に沈んだということもある。ウエットパッチが残っていていつも通りのラインで走れなかった、という。だが、コンディションは全てのライダーにとって平等ではある。
レースを終えた小椋に、土曜日よりもポジティブな気持ちで終えられたのか? と尋ねた。17番手スタートだったことを考えれば、確かに前のライダーの転倒があったとはいえ、少しは前向きにとらえられる結果ではないか、と。だが、小椋の評価は厳しい。
「んー……」と考え込み、それから「(よかったのは)ゴールできたということくらいですね」と答えた。
「ただ自分のペースで走り切って、その結果が6位だった、というだけです」
週末を通じて厳しい表情を浮かべていた小椋。初日は5番手だったが「よくなかった」と語っていたのだ(©Eri Ito)
小椋(#79)にとって、スペインGPは不本意な週末となった(©2024 MT Helmets-MSI)
Moto3からステップしたMoto2で1年目のシーズンを送る佐々木は、土曜日午前中、ウエットコンディションで行われたプラクティス2の転倒により、決勝レースを欠場した。転倒時に頭を打ったため病院で検査を受け、転倒から72時間はバイクでの走行不可、となったためだ。佐々木はポルトガルGP直後に両腕の腕上がりの手術を受け、アメリカズGPは欠場。今大会では初日を走り、午後のプラクティス1では好感触をつかんでいた。
「ここ4戦、運が悪くて全く走行できていないんですけど、時間があれば少しずつ前との差が縮まってくるとわかりました。次に向けて、火曜日のテストを頑張っていきたいと思います」
佐々木は4月30日にヘレスで行われたテストには参加しており、フランスGPで復帰するとみられる。
欠場となったものの、Moto2マシンへの適応が進む佐々木(©Eri Ito)
Moto3古里太陽、タイヤ選択により後退
21番手からスタートした古里は、一時、12、13番手を走っていた。そこから後退したのは、タイヤがもたなかったからだ。多くのライダーがフロント、リヤともにミディアムタイヤを選択する中、古里はフロント、リヤともにソフトタイヤを選択していたのだった。
「僕たちの予想ではソフトが持つと思っていた。でも、意外にもたなかったです。僕たちとしてはベストを出したつもりですが、厳しい結果になってしまいました」
「ヘレスはホンダが苦手とするサーキット」だという。レースはタイヤ選択が合わず、後退した(©Eri Ito)
古里(#72)は、一時は12番手を走るも、後退した(©Honda)
今季、リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGPに移籍した鈴木は、9番手からスタートしてポジションを上げていた。だが、ハンドルのすきまに物がはさまるアンラッキーが発生してハンドルが切れず、ピットインを余儀なくされる。鈴木は再びコースインして、25位でゴールした。ただ、気持ちを割り切った様子の鈴木は、スペインGP全体としては前向きに考えていた。
「スタート直後からちゃんと順位を上げてタイヤもいたわりながら走っていたので、結果ともかく、ポジティブなウイークでした。(トラブルは)誰のせいでもないですからね。そこばかり考えとらわれてしまうと、ネガティブなエネルギーをもらっちゃうので、自分たちがやってきたことだけを考えて頑張ります」
トラブルは残念だったが、スペインGPはいい流れがあった(©Eri Ito)
トラブルにより25位だった鈴木。完全なアンラッキーだった(©IntactGP)
次戦、MotoGP第5戦フランスGPは5月10日から12日にかけて、ル・マン-ブガッティ・サーキットで行われる。
MotoGP日本人ライダーの戦い【第4戦スペインGP】:2戦連続の4位、Moto3山中琉聖の表彰台獲得へ向けた課題 ギャラリーへ (11枚)この記事にいいねする