
4月20日(土)〜21日(日)のFIM世界耐久選手権(EWC)第1戦「ル・マン24時間耐久ロードレース」。日本の鈴鹿サーキットで行われる「鈴鹿8耐」とは正反対の寒い気温のなかで争われた最長の決戦は、大きく荒れて完走率は56%だった。2024年シーズンを占うEWC初戦での出来事やレース内容をレポートしたい。
まさにサバイバルの耐久レース。ワークス勢も続々転倒
予選で強さを見せて2年ぶりにポールポジションを獲得したのはYART - YAMAHAだった。昨年は先頭を奪ったYOSHIMURA SERT MOTULは2番手、F.C.C. TSR HONDA Franceは3番手に並ぶ。HONDA VILTAIS RACINGは4番手、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMは5番手、KAWASAKI WEBIKE TRICKSTARは6番手に入り、決勝でもこの6台が引っ張っていくことになる。
気温11度でドライコンディションのなか行われた決勝は、YOSHIMURA SERT MOTULがホールショット。グレッグ・ブラックが得意なロケットスタートで1コーナーに進入していき、F.C.C. TSR HONDA France、YART - YAMAHA、KAWASAKI WEBIKE TRICKSTAR、KM 99、TATI TEAM BERINGER RACINGが続くがBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMが少し出遅れた。
3周目からはチームによりペースの違いが見え始める。YOSHIMURA SERT MOTULとYART - YAMAHAが2台でトップを争って順位を入れ替えて後ろにF.C.C. TSR HONDA France、少し差が開いてKAWASAKI WEBIKE TRICKSTAR、そしてHONDA VILTAIS RACING、KM 99、TATI TEAM BERINGER RACINGの3台が集団となり上位を走る。
そんななかレース開始約10分にF.C.C. TSR HONDA Franceのジョシュ・フックがスリップダウンを喫する。すぐに起き上がるが26番手から追い上げを余儀なくされた。その後、HONDA VILTAIS RACINGがペースを上げて単独で3番手となり、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMも第3集団までポジションを上げた。
約1時間が経過して各車がピットで給油をしてライダーを交代する。F.C.C. TSR HONDA Franceはマイク・ディ・メリオに代わったが数周でクラッシュ。バックストレート後にある9コーナーのブレーキングで転んだためマシンが回転して大きく破損。マシン修復に40分以上かけたためほぼ最後尾まで順位を落としたが、そこからもレースを続けた。
複数のチームで転倒が続出し、修復のピットインが繰り返された。
1時間40分には3番手だったHONDA VILTAIS RACINGのマシンにトラブルが発生してスローダウン。ピットまでマシンを押して戻るがリタイアした。
3時間が過ぎる前にはYOSHIMURA SERT MOTULが再びグレッグ・ブラックを投入したが、アウトラップの最終コーナー1つ手前でハイサイド転倒。原因はピットストップ時に誤ってトラクションコントロールシステムをオフにしてしまったことだった。マシンは左側を向いたまま滑ったため大きく壊れることはなく、5分以内で修復を終えてコースイン。18番手まで下げたが残り21時間で順位を回復させていく。
4時間を過ぎるとKM 99のランディ・ド・プニエが最終で転倒。マシンを修復して3番手から11番手までポジションを落としてしまった。これでYART - YAMAHA、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM、KAWASAKI WEBIKE TRICKSTARが1周ずつの差でトップ3となる。
夜間は順調な上位勢と追い上げる転倒チーム。しかし、首位のYART-YAMAHAにピンチが
5時間が経過すると上記のHONDA VILTAIS RACINGのほかにTEAM 33 LOUIT APRIL MOTOのリタイア。5時間54分には1コーナーで転倒があり、このレース唯一のセーフティカーが導入され、20分強の先導走行が続いた。現地時間は21時台で、この頃には暗くなり気温もどんどん下がっていき最も寒い時間で3度になる。
そしてレース3分の1となる8時間にはトップ3台は変わらないがYOSHIMURA SERT MOTULが4番手まで、KM 99は6番手まで回復させていた。8時間ごとに上位10チームにポイントが付与されるため、貴重な点数をゲットしたことになる。一方、F.C.C. TSR HONDA Franceは35番手のためこの時点ではノーポイントだ。
レース折り返しの12時間目には計7台がリタイア。レース3分の2の16時間には12台に増えた。その直前の15時間48分頃にYART - YAMAHAのカレル・ハニカが12コーナーでクラッシュ。後続に4周差をつけてレースをリードしていたために痛恨のミスとなった。
YOSHIMURA SERT MOTULは13時間を前に表彰台圏内の3番手に入り、16時間には上述したYART - YAMAHAの転倒もありトップに躍り出ていた。2番手はYART - YAMAHA、3番手はBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM、4番手はKAWASAKI WEBIKE TRICKSTARだ。
トップを抑えていたYART-YAMAHAも転倒により順位を大きく落とし、波乱を呼ぶ。
また、YART - YAMAHAとしてはカレル・ハニカが先の転倒で肩を怪我してしまい再びの走行はできなかった。また、ニッコロ・カネパも先日参戦したデイトナ200での転倒で身体は万全な状態ではなかった。そんななか、残りの8時間をニッコロ・カネパとマービン・フリッツの2人で走るという過酷な状況が待ち受けており、4番手から走行を続けた。
さらに19時間半頃にはF.C.C. TSR HONDA Franceが10番手までポジションアップしてなんとかポイント獲得圏内まで追い上げた。しかし、3度目のトラブルが起きる。22時30分頃にチェーンが切れて、それがエンジンブロックを叩いてダメージを与えてしまい、走行不可能に。残り1時間半で、昨年ウイナーがリタイアすることになった。
4番手に喰い込むKawasaki Webike TRICKSTAR。過去最高順位の実績を獲得。
その後は大きなトラブルはなかったが、トップのYOSHIMURA SERT MOTULと2番手のBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMは2周も差がなく油断ができない状況。マージンが少なく、ライダーも最後まで手が抜けなかったようだが、序盤に転倒もあったYOSHIMURA SERT MOTULが857周を走りきり優勝を飾った。スズキとしては15勝目となり、ホンダとカワサキの14勝から一歩リードさせた。
2位はトラブルはなかったが優勝に届くペースではしれなかった1周差のBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM、3位は終盤に辛い展開だった5周差のYART - YAMAHAがなんとか死守して、4位は13周差のKAWASAKI WEBIKE TRICKSTARが入った。KM 99は13番手、HONDA VILTAIS RACINGやF.C.C. TSR HONDA Franceは上記の通りリタイアした。
チャンピオンシップポイントではYOSHIMURA SERT MOTULが61点、YART - YAMAHAが52点、BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMが51点、KAWASAKI WEBIKE TRICKSTARが39点、F.C.C. TSR HONDA Franceが5点を稼いだ。
YOSHIMURA SERT MOTULが857周を走りきり優勝となった。BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMが2位、3位はYART-YAMAHA。
SSTクラスは綿貫舞空を擁する3ART BEST OF BIKEが大健闘
SSTクラスでは、NATIONAL MOTOS HONDAがポール・トゥ・ウイン、2位にChromeburner-RAC 41-HONDAが入った。3位表彰台の3ART BEST OF BIKEは予選順位は28番手、オープニングラップはほぼ最後尾に落ちて、綿貫舞空も終盤に転倒したが、コンスタントに順位を上げており綿貫自身は初表彰台となった。
ル・マンは最低気温3度となり、夜間の転倒が多かったSSTクラスは、昨年クラス優勝のTECMAS MRP BMW RACING TEAMも転倒しておりリタイア。両クラスで計19台がリタイア、2台が未完走、27台が完走を果たした。
SSTクラスでは3位表彰台の3ART BEST OF BIKEから、日本人ライダー綿貫舞空が初表彰台へ立った。
また、2024年から新規参戦のTEAM ETOILEは序盤からハイペースで走り、中盤にはクラス3番手まで順位を上げた。しかし、13時間40分が経過した朝方4時40分頃に亀井雄大が8コーナーの進入で転倒。約2時間のマシン修復後に再度コースインしたが再び同じ場所で転倒を喫してしまい、レースが16時間半の段階でリタイア届けを提出してデビューレースを終えた。
ワールドカップとしてはNATIONAL MOTOS HONDAが65点、Chromeburner-RAC 41-HONDAが54点、3ART BEST OF BIKEが42点、TEAM ETOILEも8時間目に5点を獲得している。
EWC初挑戦となるTEAM ETOILEだが、クラッシュにより16時間半にリタイアとなった。
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