
文/写真:中村浩史
目次
全日本ロードレース第2戦 モビリティリゾートもてぎ大会
2024年4月13-14日 栃木県・モビリティリゾートもてぎ
観客動員:土日合計:1万3200人
ドゥカティ初優勝への期待ふくらむ
レースウィーク中に、小雪がちらつくタイミングさえあった、極寒の鈴鹿2&4から1カ月。鈴鹿大会がJSB1000クラスのみの開催だったため、ST1000/ST600/J-GP3クラスにとっては、このモビリティリゾートもてぎ大会が開幕戦となる一戦だ。
今シーズンの全日本ロードレース、そのメインクラス最大の注目は、「黒船襲来」こと、ドゥカティ・パニガーレV4Rの日本初登場。長くスズキGSX-Rでレースを戦ってきた加賀山就臣率いるTEAM KAGAYAMAが、ドゥカティのワークススーパーバイクを貸与され、長くホンダCBRでレースを続けてきた水野涼を起用しての全日本ロードレース殴り込みに、新しいレースファンからも注目されている――そんなシーズンだ。
TEAM KAGAYAMAのパニガーレV4R。初戦では2位を獲得。
このもてぎ大会に先立って行われた公開テストでは、初日から長島哲太(DUNLOPレーシング with YAHAGI)、中須賀克行(ヤマハファクトリーレーシング)、さらに雨のセッションで榎戸育寛(TOHOレーシング)がトップタイムをマーク。2日目には岡本裕生(ヤマハファクトリーレーシング)が2セッション連続でトップタイムをマークすると、3日目には水野涼(ドゥカティTEAMカガヤマ)が4セッションすべてでトップタイムをマーク。セッションごとに参加ライダーが違い、3日目には中須賀、岡本、長島の参加はなかったが、4日間を通して、水野が3日目にマークした1分47秒494が総合トップとなった。
鈴鹿2&4では惜しくも中須賀に敗れて2位となったものの、水野+パニガーレV4Rがいよいよ優勝するか、に注目が集まっている大会でもあった。ちなみに、長い全日本ロードレースの歴史の中で、ホンダ/ヤマハ/スズキ/カワサキの国産4メーカー以外のマシンが最高峰クラスを制すると、これは史上初めてのことになる。
このもてぎ大会は、土曜/日曜に決勝レースが行なわれる2レース制。公式予選では、各ライダーのベストタイムが2本記録され、レース1はベストタイム、レース2はセカンドベストタイム(各ライダー2番目にいいタイム)で予選グリッドが決定される。
その公式予選では、まず中須賀がコースレコードを塗り替えてトップタイムマークすると、水野もすぐにレコードを更新。しかし、わずか0秒245届かず、中須賀がポールポジションを獲得。水野が2番手、岡本が3番手グリッドを獲得し、2列目に、ここもてぎをホームコースとする、今シーズンからホンダCBRをライディングする野左根航汰(AstemoホンダドリームSIR)、JSB1000クラスで唯一のスズキGSX-Rを駆る津田拓也(オートレース宇部レーシング)、開幕戦でポールポジションを獲得した長島が6番手につけた。
全日本ロードレースを海外メーカー機が制したことはないが、公開テストの結果はそんな期待を持たせるものだった。
そしてレース2のグリッドは、セカンドベストタイムで中須賀を凌いだ水野がポールポジションを獲得。中須賀が2番手、岡本が3番手となり、2列目は野左根、津田、長島と同じ顔ぶれが並ぶ。外国製マシンが最高峰クラスのポールポジションを獲得するのも、おそらく史上初めてのことだ。
「事前テストから、今年はこのレースから使われる新しい燃料(カーボンニュートラル燃料)でのセッティングを進めて、レースウィークにも少しずつ仕上げられました。ベストタイムは中須賀さんに負けちゃったんですが、セカンドベストタイムで上回って、僕自身のJSBクラス初ポールポジションを獲ることができました。決勝に向けてもすごくマシンをまとめられているので、レースが楽しみです。決勝では、中須賀さんとだけでなく、JSBのライダーみんなで盛り上がるレースをしたい」と水野。
対する中須賀は「コースレコードは僕が持っていて、いつも更新したいな、と思って走っているんですが、ここまでタイムを上げて更新できるとは思いませんでした。マシンは、もうデビューして9年も経ちますけど、毎シーズン、毎戦のように進化して、チームがいいマシンを作ってくれる。厳しい戦いになるとは思いますけど、自分の力を出し切りたい」と語っている。
決勝レース1:中須賀 水野の速さを完封しての勝利
土曜日に行われた決勝レース1では、2番グリッドからスタートした水野がホールショットを獲得。しかし、すぐに野左根が前に出て、レース序盤から激しいポジション争いがあり、3コーナーでは中須賀と野左根が接触しそうになるシーンも。コース後半、少し落ち着き始めたタイミングでは野左根→水野→岡本→長島→中須賀→津田というオーダー。このウィークでいちばん気温も路面温度も上がり、ダンロップタイヤの長島はやや苦しそうだ。
2周目の1コーナーでは、水野が野左根をかわしてトップに浮上。3周目には中須賀が順位を上げて2番手に上がり、岡本も野左根をかわして3番手へ。ここから逃げる水野+パニガーレV4Rを、中須賀と岡本のYZF-R1が追う、という展開になっていく。
中須賀は執拗に水野をプッシュし、パスしないまでも何度も仕掛けて存在をアピール。そしてレース中にずっとこの展開が続くと、中須賀はラスト5周でついに水野をパス! トップに立つとそのままスパートし、懸命についてい来る水野を振り切って開幕2連勝を決めたレースとなった。
2位に水野、3位に岡本が入り、野左根→津田→長島の順でTOP6。15周を通じて、ひとりの転倒者も出ない、クリーンなレースだった。

#1 中須賀克行 (YAMAHA FACTORY RACING TEAM)レース1を制したのは中須賀。開幕2連勝となった。
「スタートした直後、ちょっとガチャガチャしてポジションを落としてしまって、ちょっと焦ってはいたんですが、落ち着いて落ち着いて、って自分に言い聞かせてレースに入って行った感じでした。水野君が速くて、真後ろにいないと離されてしまうので、出遅れながらも、序盤のうちにポジションを上げられてよかった。しかしレースは、去年までよりレベルがグンと上がって、今までのもてぎ大会にはないハイレベルなレースでしたよね。水野君も(岡本)ユウキも、ライバルのレベルがグンと上がって、おかげで僕もペースを上げられました」と中須賀。
ライバルがレベルアップして、チャンピオンが今までにない引き出しをもうひとつ開けた――そんなレースにも見える戦いだった。
「ライバルのレベルがグンと上がって、おかげで僕もペースを上げられました」という中須賀。
決勝レース2:開幕戦から3戦連続同じ顔ぶれの表彰台
明けて日曜朝のウォームアップ走行でも、中須賀→水野→岡本の順。決勝レースでは、中須賀がホールショットを獲得し、水野、岡本が続きつつ、またも混戦模様となりながら野左根も長島も津田もトップ集団へ。4コーナーをクリアする頃には岡本が先頭、しかし5コーナーで野左根がトップに立つと、2番手以降は岡本→長島→中須賀→水野というTOP5のオーダー。しかし2周目のV字コーナーで転倒者があり、3周目の1コーナーでも多重クラッシュがありマシンが炎上し、レースは赤旗中断。周回数は変わらず20周でリスタートすることとなった。
リスタートでは、中須賀がホールショットを獲得し、野左根、岡本が続いて津田、水野、長島といったオーダー。1周目からスパートする中須賀、岡本がこれを追い、野左根と長島がポジション争いをしながら、水野は5番手あたり。この間にも中須賀がぐんぐん2番手以降を引き離そうという展開となっていく。
レース2も中須賀が先頭へ。ぐんぐん2番手以降を引き離しにかかる。
中須賀のハイペースについて行けるのは岡本のみで、やや離れて野左根、長島、水野がセカンドグループ。特に打倒中須賀が期待された水野は、セカンドグループに埋もれながら、3番手に上がったのは3周目。しかし、この時点でトップをいく中須賀との差は2秒以上。このまま中須賀と岡本もペースを落とさないまま、水野のペースアップも及ばず。レースは中須賀と岡本、2台のヤマハファクトリーレーシングのトップ争いに焦点が当たって行く。
中須賀と岡本の差はつねに2~3車身。この位置でふたりはほぼ同じタイムで周回を重ね、3番手の水野がその10秒ほど後方で単独走行。トップ争いはラスト5周あたりで岡本がジリジリ遅れ始め、テールtoノーズのトップ争いは、最終的に1秒839の差で中須賀が優勝! 2位に岡本、3位に水野が入った。
ヤマハファクトリーの中須賀と岡本が接戦。1秒839の差で中須賀が優勝となった。
中須賀はこれで開幕3連勝。岡本、水野が表彰台に並んだが、開幕戦から3レース続けて、この3人だけが表彰台に上っているというJSB1000クラスとなっている。
「なんとか中須賀さんについて行けましたが、昨日より少しはタイムが近づいたとはいえ、仕掛けるポイントを作れなかったし、勝負に出られる自分の強みを出せませんでした。完全に負け、最後には引き離されてしまうという、反省だらけのレースになってしまいました」(岡本)
ドゥカティの全日本ロードレース初優勝、ダンロップタイヤの11年ぶりの全日本ロードレース優勝が期待されるなか、さらに強さを見せつけている「絶対王者」中須賀克行。敵が強ければ、自分もさらにレベルアップするというV12チャンピオンの凄みを見せつけられたレースとなった。
中須賀は開幕3連勝。2位岡本、3位水野の決着。開幕戦からこの3人が表彰台を独占中だ。
「ストレートスピードがモノをいうもてぎのレイアウトで、水野もかなり中須賀に近づいて、正直言って優勝も見えるかな、というレースでしたが、まだまだチャンピオンの壁は高いね」とは、DUCATIチームカガヤマの加賀山監督。
チームメイトの岡本、「黒船襲来」水野、そしてダンロップタイヤの長島という敵のスピードを受け止めて、さらに高い壁であり続ける中須賀。今シーズンのJSBはこんなに面白い!
全日本ロードレース第3戦は5/25-26、宮城県・スポーツランドSUGOで行なわれる。
開国迫る「黒船」水野+ドゥカティに絶対王者がもう一段ポテンシャルアップ!~全日本ロードレース第2戦 モビリティリゾートもてぎ大会 ギャラリーへ (14枚)この記事にいいねする