チーム対抗・電動バイクレース FIM E-EXPLORER WORLD CUP 万博記念公園大会レポート!

2024年2月16日(金)・17日(土)、大阪府万博記念公園特設会場(お祭り広場)にて『FIM E-EXPLORER WORLD CUP』が開催された。本シリーズは2023年からスタートした電動オフロードバイクのチーム対抗ワールドカップで、2年目の今年はアジア初開催となる大阪で開幕し、その後ノルウェー、フランス、スイス、インドの全5戦を開催。

特徴的なのは男女二人で1チームを形成することで、いわゆる男女混合チームであるということ。男子、女子ともに3レースを行い、その総合成績で争うことになる。主催はMFJ(一般財団法人日本モーターサイクルスポーツ協会)とE-XPLORER S.A.で、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)格式のレースだ。電動によるモータースポーツといえば四輪の「フォーミュラE」、二輪ロードレースの「MotoE」が知られているが、このE-EXPLORERは電動オフロード初の世界選手権という位置付けだ。

チーム対抗・電動バイクレース FIM E-EXPLORER WORLD CUP 万博記念公園大会レポート!

本大会には8チームが参加。日本からはホンダ「HRC」が今季フル参戦を表明。HRCの電動オフロードレーサー「CR ELECTRIC PROTO」は、昨年10月28日・29日に埼玉県オフロードヴィレッジで開催されたD.I.D全日本モトクロス選手権IA1クラスに参戦し話題を集めたが、3ヒート中2ヒートをリタイアする結果に終わっており、その真価が問われる今回の参戦でもあった。

他にはスペインの電動バイク「STARK」や、オーストリアの「KTM」、近年日本でも人気の高い中国メーカー「Surron」、また地元大阪の「CAOFEN with BIVOUAC OSAKA」が「CAOFEN(中国メーカー)」でワイルドカード参戦を果たした。技術規則に関してはMFJのウェブサイトでも抜粋されており閲覧が可能だ(https://www.mfj.or.jp/2023/12/20/46888/)。

前述のように、このレースは男女ペアでそれぞれのレースを戦い、総合結果で争うフォーマット(各順位ごとの獲得ポイントの合計)となっている。朝のフリー走行を見て感じたのは、コースが想像以上に難しく、またライダーのレベルも高いこと。スーパークロスのような巨大なジャンプやリズムカルな高難易度のセクションはないものの、板で作られたジャンプは全て鋭角に尖っており、それはすなわち正しいライディングフォームで通過しないとキックバック(リアからの突き上げ)を食らうことになるのだ。そしてモトクロスでいう「フープス(かつては「ウォッシュボード」とも呼ばれた洗濯板状の小さな連続コブ)」も極厚の板で製作されていた。実は金曜日のフリー走行では、CR ELECTORIC PROTOなどのパワーに負けて、何度も高速で走行するうちに板が破損してしまい、急遽強度を高めて本番に挑んだのであった。

さて、本イベントは事前告知がほとんどなかったが、蓋を開けてみれば土曜日には1082人の観客が集まった。開会式では全日本トライアルチャンピオン小川友幸選手や、ヤマハの電動トライアルバイク「TY-E2.2」で全日本トライアル選手権を戦う黒山健一選手も駆けつけ、軽快なトークを披露。二人はレース中にも解説をしてくれたが、電動ならではの無音の会場内でよく声が通り、プロ目線からの解析で大いに観客を楽しませてくれた。さらにサプライズ演出として、全身モトクロスウエアに身を包んだ吉村洋文氏(大阪府知事)も登場し、自身のバイクへの想いを披露。CR ELETRIC PROTOにまたがった吉村府知事は「本当は走らせてもらうつもりでしたが、流石に止められました。転倒でもしたら記事に書かれてしまうので(笑)」と名残惜しそうにバイクにまたがる姿が印象的だった。

海外のトップライダーが集結

HRCのトーシャ・シャレイナ選手(スペイン人・男性)は2024年ダカールラリーに参戦したライダー。プロローグランで自身初のステージ優勝を果たし期待されたが、翌日のステージで手首を骨折してリタイアしている。その影響がまだ残る中、見事な走りをしてみせた。女性のフランチェスカ・ノチェラ選手もイタリアのトップエンデューロライダーとして輝かしい戦績を残している。また、インドのKTMチーム「インデレーシング」」のサンドラ・ゴメス選手は、スペイン出身の世界的に有名なトライアルライダー。オーストラリアのチーム「AUS-Eレーシング」から参戦する自国女性ライダー、ジェシカ・ガーディナー選手もまた、ISDE(インターナショナルシックスデイズエンデューロ・国別世界対抗戦)で活躍したトップライダー。参加チーム、ライダー数はまだ少ないながらも全体的にハイレベルなレース展開が見られた。

レースの方も白熱のバトルが展開され徐々に盛り上がりを見せていく。男子レース1はロビーマディソンレーシングのホルヘ・ザラゴサ選手(STARK)が優勝。小川選手の解説によると、ザラゴサ選手はライダーとしてのレベルが極めて高く、一人だけ違うラインを攻める姿も見せた。フリー走行、予選ともに頭一つ抜きん出た存在だったが、ヒート1でそれを証明した。続くヒート2、3も制し圧倒的な強さを示した。対するHRCのシャレイナ選手はヒート2、3で2位を獲得した。

勝負の行方を決めた、女性ライダー達の闘い!

女子レースはHRCのノチェラ選手とインデレーシングのゴメス選手の白熱のバトルが続く展開に。午前中の3本のフリー走行は全てノチェラ選手がトップタイムをマーク。しかし予選はゴメス選手が僅差で制する形に。決勝レースも白熱し、ヒート1はゴメス選手が優勝。しかしヒート2に続きヒート3をノチェラ選手が優勝し、HRCがロビーマディソンレーシングを制して総合優勝を果たしたのだった。HRCの獲得ポイントは132、対するロビーマディソンレーシングは131という僅差。ヒート1はシャレイナ選手が3位、ノチェラ選手が4位と出遅れたHRCはチーム総合3位という、やや苦しい滑り出し。先の全日本モトクロスで優勝を逃し2ヒートをDNFという悔しい結果だけに不穏な空気が会場に流れ、大人数で挑んだHRCスタッフの表情もこわばっていたのが印象的。しかしヒート2、3でロビーマディソンレーシングの女性ライダー、ビアジニ・ガーモンド選手が4位に終わったのに対して、ノチェラ選手が2連勝したのが大きかった。ヒート1、2のチーム総合結果ではロビーマディソンレーシング(88)、HRC(85)だったが、ヒート3の結果、前述のように1ポイント差でHRCが逆転優勝を果たしたのだった。HRCスタッフやライダーの喜びと安堵の表情が印象的だった。

地元大阪のワイルドカードチームも奮闘

地元大阪のエンデューロライダー保坂修一選手と菅原悠花選手も健闘し、全6ヒートを完走。マシンのパワー面ではHRCやSTARKなどとは正直なところ雲泥の差があり、その意味ではSurronも含めてトップ争いをするマシンとは勝負にならない面もあるが、両選手は最後までマシンをいたわる走りを心がけて完走してみせたのだった。特に菅原選手はヒート1でスタートが決まり、全8台中5位でフィニッシュして、日本の観客に実力をアピールしてみせた。保坂選手は従来のオフロードレースとの違いを楽しみ、「まずは電動バイクの認知度の向上が必要ですが、今後も積極的に参加したいです」と話してくれた。

保坂修一選手は、「すべてが初めての経験でとても楽しかったですし、学ぶことも多かったです。根本的にエンジン搭載車とは挙動もパワーの出方、路面の荒れ方などが異なっていました。ヤマハTY-Eはアイドリング機能があるので別格だと思うのですが、基本的にモーターなのでジャイロ効果がなく、想像以上に車体を寝かせにくいんです。アクセルオンオフのメリハリも強くて、ジャンプ着地点に轍ができたり、轍そのもののでき方もまるで違います。モトクロッサーで例えるとHRCやSTARKは450ccで、カオフェンは85ccくらいのパワー差なので勝負は厳しいですが、それでも初めてでもすんなりと乗れましたし、性能の良さを体感することができました」とコメントしてくれた

菅原悠花選手はヒート1で5位と健闘。ヒート2、3はマシン破損のため全力で攻めることができなかったが、完走を果たした。「日頃250ccに乗っているのでパワーはさほど感じませんが、車体が軽くて動かしやすいですね。スピードを落とさずに走るためには轍やギャップを避けないと飛べないジャンプがあったり、パワーの出方なども、いつもとはちょっと違いました。また機会があれば参加してみたいです」

レースグループのプロデューサー小島庸平氏は、元全日本モトクロス選手権IA1チャンピオンで、自身のチームを率いて全日本に参戦中。

「まずは大きなトラブルもなく無事に終えることができて安心しています。3日間という短い期間で会場内に土を入れたり木製のセクションを作り上げなくてはいけませんでしたが、想像以上に面白いレースができてお客さんに喜んでいただけたと思います。電動レーサーは立ち上がりのパワーもすごくて、慣れは必要だと思いますが、やはりモトクロスと共通しているところはありますね。タイトなレイアウトになりましたが、低速トルクを活かした走りが見ものですから、結果的には良い面もありました」とコメントしてくれた。

本イベントはまだ始まったばかりで色々と改善の余地はあるようにも思える。例えば2時間近くあった昼のランチタイムでは、黒山健一選手らによる電動トライアルマシンのデモ走行を見たかったし、サステナブルなレースを目指すのであれば、板で製作されていたセクションも解体&各会場で再使用可能なものにできたら面白いのではないかとも思った(実際にはモトクロスコースをそのまま使うなど、各大会ごとに会場施設は大きく異なるそうだ)。フォーミュラeのアタックモード(一時的に高出力を得られる)など、電動ならではのギミックやレギュレーションがあっても面白いかもしれない。今回は、万博記念公園に遊びに来た人もふらっと観戦しにくる姿もあり、これは無音、無臭の電動ならではのモータースポーツの醍醐味なのかもしれない。FIM管轄のレースといえど、まだスタートしたばかりのイベントでもあり、パドックも比較的オープンな雰囲気に満ちていた。この先、このレースがどう発展していくのか見守っていきたい。なにはともあれ、黎明期の電動オフロードバイクレースの姿を生で見ることができたのは、とても価値があると感じた。何事にも「最初」はあるのだから。

「FIM E-XPLORER WORLD CUP」今後の開催スケジュール

第2戦 5月3日(金)・4日(土) ノルウェー/オスロ
第3戦 6月22日(土)・23日(日) フランス/ヴォルロール・モンターニュ
第4戦 9月21日(土)・22日(日) スイス/クラン・モンタナ
第5戦 11月30日(土)・12月1日(日) インド/ハイデラバード

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