
2023年シーズンより、Team SRCからトリックスターレーシングに運営が委ねられることになったカワサキの世界耐久トップチームTeam KWTは、参戦初年度をランキング6位で終えている。
運営を引き継いですぐのシーズン、大健闘と言える結果だがチーム代表の鶴田竜二は、まだまだ満足できないシーズンなのだという。
写真:編集部/FIM EWC
EWCを戦うカワサキトップチームを継続させるために
世界耐久参戦マシンNinja ZX-10RRと。クラスはEWCクラス、今シーズンからカワサキのワールドスーパーバイク車と同じくMOTULオイルのサポートを受ける。
その話は、突然トリックスターレーシングの鶴田代表のもとに舞い込んだ。
――2022年限りでSRCカワサキのマネージャーから退こうと思うんだ。だからツルタが、このチームを引き継いでくれないか。
カワサキの世界耐久選手権トップチーム、SRCカワサキ。その代表、ジル・スタフラから突然のチーム代表就任オファーだった。トリックスターレーシングは当時、この名門チームと2020年にジョイントし、共同運営という形で耐久選手権に参戦していた。SRCカワサキとは、カワサキフランスを母体とした名門で、トリックスターとのジョイントの前年、2019年にはワールドチャンピオンに輝いている。
「2022年の鈴鹿8耐の時でしたね。SRCのジルさんがチーム代表から退く、って聞いて。それでチームを引き継いでくれなんて言われても……。それでも、世界耐久のカワサキトップチームだし、まずは僕がやるとかやらないとかは別にして、これまでSRCカワサキが担ってきた、世界耐久のカワサキのトップチームという存在を存続させなきゃいけないな、と思ったのです。」
鶴田の判断は早かった。まずはこの名門チームのチーム力、経験値や技術力をなくしてはならない。SRCでともに仕事をしてきたスタッフが散り散りにならないように、鍛え上げられた優秀なメカニック達が他チームへ流出しないように、という配慮だった。
「従来のフランス人を中心としたスタッフに加えて、日本人スタッフを合流させる形で新しいチーム編成としました。Webikeさんが引き続き支援してくださるということだったので、チーム名はKWT――カワサキ・ウェビック・トリックスター。日仏合同のチームになりました」
とはいえ、やはり新生チームの船出は多難だった。レーシングチームは、ただレースをするだけではなく、レースに出るマシンを作って、その業務を回すスタッフを揃え、レースに挑まなければならない。引継ぎも充分に行なわれなかったこともあって、開幕戦ル・マン24時間耐久はアッという間にやってきた。
「もともとのチーム力はあるし、そこに日本人スタッフが合流してさらに強固なチームにするのが僕の狙いだった。SRCは、決して大きなチームではないけれど、まとまりのある、よく鍛えられたいいチームなんです。だから、僕自身がすることは、マシン周辺の準備と、日仏合同チームのスタッフがうまく回るように、というマネジメントだけ。言葉の壁は、フランス人がフランス語だけで、日本人が日本語だけで固まることのないように、チーム内の共通語を英語にしました。もちろん通訳さんもいるのですが、それでも急を要することや時間がない時にはフランス語だけ、日本語だけ、って局面もありました」



短い準備期間でも全戦完走を達成
トリックスターレーシングは世界耐久参戦のためも含めて新工場を設立。ここで世界耐久マシンも、トリックスターブランドのマフラーも生まれていく。
新生KWTの初戦は4月のル・マン24時間耐久。チームには強力な日本人ライダーのひとり、渡辺一樹をレギュラー加えて、ル・マンには全日本ロードレースを走る岩戸亮介が助っ人に加わってくれた。岩戸にとっては、もちろん初めての24時間耐久だ。
「チームはランディ・ドゥ・プニエを軸に、クリストフ・ポンソンがいて、(渡辺)一樹を起用しました。一樹のスピードは世界レベルですから、フランス人2人の安定したハイペースに、もうひとつアクセントをつけたんです。ル・マンには岩戸くんもサポートに来てくれて、当初はリザーブ(控えライダー)の予定だったんですが、ポンソンが予選で転んだこともあって本調子ではなく、安定してハイペースで走れる岩戸くんにレースでも走ってもらうことにしたんです」
10番グリッドからスタートした決勝レースでは、スタートから徐々にポジションを上げ、序盤は3番手争いの位置を走行。夜間走行も無難にこなしたものの、夜が開けて霧のかかったコースで岩戸が転倒。ピットワークも早く、マシン修復に総時間がかからなかったため、10番手あたりで再スタートし、ここからペースを上げながら9位フィニッシュ。
「レースの1カ月ほど前から事前テストに参加し、開幕戦に備えたんですが、やはり準備不足な感じでした。ル・マンは気温が低く、雨が降ったりやんだりと、いちばん厄介なコンディションでしたが、チームは9位とシングルフィニッシュを果たしてくれた。僕たちの目標からすると、とても満足できる結果ではありませんでしたが、まずは24時間耐久を走り切った、という結果は残せましたね」
第2戦は6月のスパ・フランコルシャン24時間。ライダーはドゥ・プニエと渡辺に、グレゴリー・ルブランが加入。しかし、このレースでは決勝前夜に渡辺が体調を崩してしまい、ドゥ・プニエとルブランに負荷がかかる中、ガス欠やエンジン始動トラブル、ヘッドライトが片方切れてしまうなどのトラブルも発生し、それでもチームは5位フィニッシュ。
第3戦は8月の鈴鹿8耐。ライダーはスパ24時間に続いてドゥ・プニエ/渡辺/ルブランのトリオで、強豪日本チームがひしめく中、予選は12番手スタート。レース序盤は渡辺、ドゥ・プニエの力走で5番手あたりを走っていたものの、レースが中盤を過ぎた頃にマシントラブルが発生してタイムロス。さらに終盤にもトラブルが発生し、フューエルタンクを乗せ換え、さらに一時的な雨でレインタイヤを装着して走ったこともあり、15番手まで順位を落としながら、最終走者のドゥ・プニエの力走で12位フィニッシュ。
そして最終戦は9月のボルドール24時間。予選7番手からスタートし、路面に雨の残るスタートから、カットスリック→スリックタイヤとタイヤ交換をしながら、2番走者のドゥ・プニエが最高2番手まで浮上。渡辺もルブランもハイペースで周回を刻み、レース序盤は5番手前後を走行する。しかしレース中盤で駆動系トラブル、スロットル制御系トラブルが発生し、夜間走行を順調に消化するものの、20時間を過ぎた頃にドゥ・プニエが転倒し、マシン修復に時間を要したものの、最終的に5位でフィニッシュ。



勝負の2年目。目標を達成していきたい
これでKWTは、選手権の4戦をすべてポイント圏内で完走し、初戦のル・マン24時間を除いてすべてカワサキ最上位でフィニッシュ。年間ランキングでは6位を獲得した。チーム運営を一新した新規チームとしては上々の結果だが、それでも鶴田は満足しているわけではない。
「時間のない中で準備不足という制約はありましたが、精一杯やったし、この順位は納得しています。でも僕らの目標は、あくまでも世界チャンピオン、満足はしていません。ホンダ、ヤマハ、スズキ、BMWとほぼワークスチームといったライバルがいるなかで、最低でもランキング4位にいなきゃならないとは思っています。最終戦ボルドールが終わってからは、2024年シーズンへの準備を始めて、僕らの活動にカワサキ本社はもちろん、MOTULさん、アクティブさんが応援してくれることになりました。初年度の結果と反省を生かして、もっといいレース、いい結果を残したい。まずはKWTとしての初優勝を挙げて、世界チャンピオンになりたいですね」
24年シーズンはライダーラインアップも大きく変わり、フランス人のルブランに、イタリア人のクリスチャン・ガマリーノ、スペイン人のロマン・ラモスの3人を軸に戦うKWT。ルブラン以外は日本で知られていないライダーだが、ガマリーノはボルドールのテストであっさりとドゥ・プニエのタイムを更新するほどのスピードの持ち主だし、ラモスはスペイン選手権スーパーバイクで実績を残しているライダー。
「厳しい世界です、そんなに簡単に行くわけではないけれど、僕らの目標はあくまでも世界チャンピオン。まずはスポンサーさんのおかげで2年目のシーズンを迎えられることに感謝して、一歩一歩進んでいきます。日本でも注目度の高い世界選手権で、日本チームが戦っているんだぞ、って応援してもらえるようなチームにしていきます」



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