阿部真生騎は13歳で初めてバイクに乗り始めた。

真生騎の父は阿部典史だ。1990年代から2000年代にかけてロードレース世界選手権(WGP)で活躍し「ノリック」の愛称で世界中にファンを持つ天才ライダーだ。WGP500で3勝を挙げ、最高ランキングは5位、世界チャンピオンにも負けない存在感と人気を誇った。

その偉大な父を持つ真生騎は、今季から世界を舞台に戦い始めた。阿部真生騎はVFT Racing Webike YAMAHAから海外参戦を開始する。参戦するのは、ワールドスーパースポーツ入門者用で、欧州の9大会、18戦を戦う「ワールドSSPチャレンジ」だ。

文:佐藤洋美/写真:VFT Racing Webike Yamaha

ロッシのVR46マスターキャンプが世界への扉を開いた

2022年、阿部真生騎は全日本ST600にフル参戦。他にも鈴鹿8時間耐久レースやアジアロードレース日本ラウンド参戦などレベルを上げたレースにエントリーした。またイタリアにあるバレンティーノ・ロッシの「VR46マスターキャンプ」にも参加。このトレーニングの一環としてスーパーバイク世界選手権(SBK)に観戦に出かけたことが、真生騎を世界へと駆り立てた。

「2022年のシーズンが終わって、練習に行った帰りの車でヨーロッパに行く気はあるか? と突然、監督に聞かれて、ヨーロッパにトレーニングに行けるんだと思って、もちろん行きたい、って答えた。でも、それが練習じゃなくて、2023年のWSSP600参戦だった」

祖父である阿部光雄監督はすぐに真生騎をスペインに連れて行き、KSBトレーニングアカデミーに参加。Moto2やMoto3ライダーと共にダートトラックやモトクロス、モタードなどで走り込み、フィジカルトレーニングも行い日曜日だけ休みという生活を約2カ月間過ごしてきた。バレンシア、カルタヘナ、ヘレスという3つのサーキットで、初めて履くピレリタイヤで走った。

「イタリアやスペインの同世代くらいのライダーも参加していて、皆、意気込みがすごいって言うか…。山をオフロードバイクで走ったときは、すごく細い、崖すれすれの道を信じられないスピードで走る。アタマのネジが飛んでいるのかな〜。練習なのに、そんなに張り合う? そこまでしなくてもって思うくらい、ガツガツ、来る。

世界は、そういう気持ちじゃなきゃ戦えないんだなと思いました。自分も負けてられないから、必死でついて行ったし、ダメな時もあるけど、勝てる時もあって、少しずつだけど、自分が前進していると実感することが出来た。鍛えられたと思います」

「VR46マスターキャンプ」で真生騎はダートの速さを見込まれ世界への扉が開かれた。ノリックの息子ということで期待値が上がりチャンスが来たことは否定できないが、ヤマハも阿部監督も真生騎の底知れぬ可能性を感じているからこその決断だったに違いない。

シーズンオフにスペインでトレーニングを積んだ真生騎(右)。サグラダファミリアで記念撮影。

【WSSP第3戦】予選2周目に転倒し決勝進出ならず

真生騎が参戦するのは、ヨーロッパランドのみ開催の「WorldSSP Challenge」のため、真生騎のデビューは第3戦アッセンとなる。チームメイトのニコラス・スピネッリは、開幕戦から参戦し2位に入っていた。

「テスト走行の時には、チームがきちんとニコラスとデータを比較をしてくれて、あと何メートル奥まで突っ込め、ここからスロットルを開けろと具体的に指示してくれて、どんどんタイムが上がっていった。ニコラスの1.5秒落ちくらいまでは行けて、もっと、しっかり走りこめたら、ニコラスに届きそうだと思えたので、手応えを感じた」

真生騎のゼッケンは「98」。父、阿部典史(ノリック)が現役時代に愛用していた「17」と「81」を足した数字だ。マシンはヤマハYZF-R6。タイヤはピレリのワンメイクで争われる。ノリックの息子の参戦とあって、大きな注目が集まった。ノリックファンが、真生騎を訪ね、激励するシーンが見られた。

期待の開幕戦だったが、真生騎は予選2周目に転倒してしまい、基準タイムに届かずに予選落ちの苦い世界デビューとなった。

サインを求められる真生騎。ノリックのファンもいたという。

阿部真生騎コメント

VFT Racing Webike YAMAHA
予選:不通過
決勝:出場せず

「初めて走るアッセンは、コース幅も狭く、クネクネしていて、攻め所がわからずに難しいコースという印象だった。それでも、フリー走行を走って、予選ではタイムアップ出来たけど…。ヘアピンでギア抜けして転倒してしまった。転倒後に、エンジンがかからずにコース復帰できなかった。

ちゃんと予選時間を走ることが出来ていたら、予選は通過出来ていたと思う。決勝を走ることが出来ずにサーキットにいるのは辛かったけど、レースを見て過ごした。特に印象に残るライダーというのはいなかったけど、みんな速い。コーナーの立ち上がりスピードを乗せて行く走りが出来ないとダメだと思ったし、自分とはライン取りも違っていた。

バイクのコントロールもそうだけど、レースのコントロールも、全てが上だった。予選落ちは、さすがにへこんだけど、へこんでいるわけにはいかないので、前進したい」

第3戦オランダでWSSPにデビューした真生騎。予選1周目で記録したタイムは1分42秒298で、フリー走行のベスト1分42秒885を更新していた。コースレコードは1分36秒9。

【画像ギャラリー】オランダ・TTアッセンサーキット 2023年4月21日~23日

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