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生ゴムグリップって何よ?
バイクデビューしてしばらくすると、誰もが必ず見聞きする「生ゴムグリップ」というキーワード。
何だかよくわからないけど輪ゴムみたいな色してるグリップで、純正グリップから交換するとレトロな雰囲気が出てカッコイイというイメージ。
実際、旧車やSR系カスタム車のオーナーであれば一度は装着を試みたり、装着していた過去を持っていたり、今まさに使用中という方が多いのではないでしょうか。
装着率の高い車種がレトロ系なため、単にファッション性だけを重視したグリップだと認識している方が大多数と思います。
ですが、果たしてホントにそうなのでしょうか?
確かに最新型のMotoGPマシンには装着されていませんし、やっぱり見た目だけ?
それに、仮に見た目だけのグリップだとしても、何で旧車系だと生ゴムグリップなの?と思いませんか?
普通の黒いグリップじゃダメなの?
そんな素朴な疑問の解決も含め、生ゴムグリップの謎に迫ってみたいと思います。
最後まで読んだらたぶん驚きますよ!
生ゴム=天然ゴム
実は『生ゴム』というのは通称で、天然ゴムを使っている事をわかりやすく表現した物です。
「天然ゴムグリップ」という名前では呼びにくいですから、誰が名付け親かはわかりませんが素晴らしいネーミングです。
逆に天然ゴムという名称にはしっかりJIS規格まであるので、安易に使用すると成分偽装などで大変な事になるのかもしれません。
通称である生ゴムには正確な規格は無いのですが、普通は天然ゴム製の事です。
つまり、生ゴムグリップ=天然ゴム製グリップ。
天然というだけあって原材料は木から抽出した樹脂
生ゴム(天然ゴム)ではないゴムとは?
生ゴムでないゴムは合成ゴムと言います。
生ゴムである事を売りにしていない、現在一般的に使用されている大多数の黒いグリップは合成ゴムを使用したものです。
だからこそ天然ゴムを使ったグリップはわざわざ「生ゴムグリップ」と言って合成ゴムグリップとの差別化を図っているわけです。
普通の黒いグリップはほぼ全てが合成ゴム製
それぞれのゴムの特徴
合成ゴム
石油・ナフサを主な原料とし、精製された材料を使って作られた人造素材です。
天然ゴムの特性を再現するために世界中で研究されまくった結果、天然ゴムには無い様々な特徴を持つ合成ゴムが生まれています。
耐油性に優れていたり、対候性に優れていたり、耐熱性に優れていたり……。
天然ゴムを越える様々な特性を持った膨大な種類の合成ゴムが存在しています。
合成ゴムのメリットは用途によってそれらの特性を極められる事と、原材料(石油)の供給が安定している事。
現代社会でゴムと言えば、ほぼ合成ゴムの事と言って間違いありません。
耐衝撃、耐熱など、何かの機能に特化したゴムなら合成ゴム
天然ゴム(生ゴム)
東南アジアで育てられたゴムの木から採取された樹液を原料とするゴムです。
一番安価なゴムであり、その価格の安さゆえに使い捨てで多用される輪ゴムの原材料だったりします。
独特のゴム臭さもあるし、安価で低性能なイメージが先行していますが……。
実は合成ゴムと比べて引き裂き強度が強い、ゴム弾性が大きい、長期間変形させていても元の形に戻る性能が高いという大きな特徴があります。
特にゴムとして最も大切な弾性の性能はズバ抜けており、高価な合成ゴムでも歯が立ちません。(!!)
植物が原料なのにちょっと驚きの高性能。
正直かなり意外ですよね!
もちろん人類の英知が詰まった合成ゴムも負けっぱなしではなく、天然ゴムに近い特性を持つ物も存在しますし、特定の条件に絞れば天然ゴムを凌駕する合成ゴムはたくさんあります。
しかし総合的なゴムの性能を見ると現代においても合成ゴムでは天然ゴムの性能には到達できず、未だに最高性能なのは天然ゴム!
ゴムと聞いて真っ先に思い付くタイヤでも天然ゴムは超重要素材で、天然ゴムでしか実現できない性能があるのだそうです。
だからこそ今でもタイヤに天然ゴムがガッツリ使われているというワケです。
薄手のゴム手袋で使用されている「ラテックス」は名前からして合成ゴムっぽいですが、実は天然ゴム。
合成ゴムでこの性能を出せる物は未だに存在していないのだそうです。
生ゴムグリップの弱点
基本性能の高い天然ゴムを使った生ゴムグリップですが、天然ゴムを使用しているから天然ゴムの弱点がそのまま出てしまいます。
具体的には耐熱性と対候性が合成ゴムに劣ります。
夏場にはベタベタになりがちだし、冬はカチコチになりがち。
しかし、実はこの天然ゴムの特性が丸出しな事で、意外な事が起こります!
生ゴム製品の代表選手、輪ゴムでみなさん体験済みのはず
生ゴムグリップのメリット
住んでいる地域の気温特性に合わせて最適化する
最適化って何の事?
そう思われた方が大多数でしょう。
実は天然ゴム由来の生ゴムという素材は、製品として完成した後も装着されたバイクの環境の変化に対応して素材が変化するという特性を持っているのです。(!!)
温度、湿度の変化があった際には自動的に対応し、最適な状態になるのだとか。
この不思議な事象の事を『風乾』と言うのだそうです。
例えば、夏の直射日光の生ゴムグリップを付けたバイクを晒していると、ゴムが溶けてグニャグニャになります。
しかしこれでグリップが壊れたのではなく、実は生ゴムグリップが一旦溶けただけ。
夜になって冷えて固まり、また翌日の日中に溶け、夜に冷え固まるという事を一週間ほど繰り返すと……、なんと生ゴムグリップが昼の暑さ、夜の涼しさ、地域の湿気に対応して再構成され、その土地土地にあった最適なタッチに変わるのだそうです。(!!)
まさかの超性能!
正直に告白すると、話に聞くまで私も全く知りませんでした。
生ゴムは気候によって溶けたり固まったりを繰り返し、装着された車両にとって最適な特性に変化する!
生ゴムグリップと言えばキジマ!
さて、上記の話ですが、実はキジマから聞いた話です。
年配の方なら蛍光ピンクでお馴染みのKISSレーシングで有名なキジマです。
様々なバイクパーツを製造している事で有名なキジマですが、歴史を紐説くと実はゴム製品のスペシャリストである事がすぐに解ります。
その証拠をサラッと紹介すると……
創業は1958年、その名も『不二屋ゴム商会』なのでいきなりゴム!
1960年に社名変更したけど『東洋ゴム商会』なのでやっぱりゴム!
1967年に再度社名変更したけど『木島ゴム工業株式会社』なのでまだまだゴム!
1982年(史上最大のバイクブーム直前)に再度社名変してお馴染みの『木島』になったのでやっとゴムっぽさは消えたけど、バイクブームの頃は交換用グリップならキジマ製を選択するのはド定番になっていました。
とにかくゴムに強いキジマなので、今でも様々な種類のグリップを発売しています。
現代のSSにピッタリな超軟質ゴム(合成ゴム)を使ったシリーズも一級品ですが、生ゴムグリップもしっかり作り続けてくれています。
さすがキジマ。
キジマの生ゴムグリップは合成ゴムに生ゴムっぽい着色をしたニセモノではなく、今でも本当に天然ゴムを使用しています。
ビニール製では出せない天然ゴムならではのソフトな感触が最大のウリですが、吸振(防振)性、フィット感、雨の日のグリップ性能でも勝っているのだそうです。
性能なんか無視した単なる見た目だけのグリップだと思ったら大間違いなのですね。
生ゴムグリップの性能を侮ってはいけない……
生ゴムグリップの魅力
天然ゴムと合成ゴムの見分け方
意外な事に見分けるのは不可能だそうです。
ゴムを極めた一部の職人には見分けられるそうですが、一般の人間ではまず無理。
色で見分けようにも、天然ゴムの強化剤としてカーボンブラックを混ぜると合成ゴムと同様に真っ黒になるので見た目で判断する事は不可能。
もっと明確に違うイメージなので意外ですよね。
なぜ旧車では生ゴムグリップが人気なのか?
キジマ製の生ゴムグリップは天然ゴム製である事のアピールのために敢えてカーボンブラックを入れておらず、昔ながらの見た目を保っているのが魅力です。
そしてその事が旧車に似合う理由に直結しています。
なぜ似合うのか?
実は昔は当時は合成ゴムグリップの性能が低く、最新レーサーがこぞって採用していたのは最高性能の天然ゴムグリップ(生ゴムグリップ)だったのです。
当時の生ゴムグリップはファッションではなく、最高性能を持つ究極のグリップを採用した結果の必然。
その往年の姿を再現できるのが生ゴムグリップ!
だからこそ、今でも旧車で天然ゴムグリップ(=生ゴムグリップ)が人気なのです。
もちろん今となってはファッションの為に生ゴムグリップを使用されている方が大多数でしょう。
ですが、上で書いたように生ゴムグリップならではの地域の気候に合った最適なタッチに変化していくという知られざる性能も持っています。
予想外に高性能だった生ゴムグリップ、次回交換の際にはぜひ候補に入れてみてください。
見た目も激変するので交換後の満足度も高いですよ!
現代の車両でも装着するだけで……シブい!
もちろんファッション優先でオシャレ系スクランブラーに装着したりするのもOK!
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