
リッターバイクのタイヤサイズと言えば大昔から「120/70-17」と「180/55-17」がド定番。
リム幅だと「3.50」と「5.50」が最もメジャーなサイズです。
でも、適合リム幅でよく似たタイヤサイズもラインナップされています。
「120/60-17」とか「190/50-17」とか。
適合するのはわかるけど、変えるといったい何がどうなるのか??
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回はラジアルタイヤの扁平率を変えると何が起こるのかを解説します。
目次
ラジアルタイヤの話です!
まず最初に、今回の話は(オンロードの)ラジアルタイヤの扁平率を変えたらどうなるのか?という話です。
扁平率を変えると起こる事がラジアルとバイアスでは全然違うので、結果を同列に語る事はできません。
バイアスタイヤは構造的にタイヤ全体が同じような強度と剛性で出来ており、サイズ変更による形状変化がタイヤ全体的に発生します。
対するラジアルタイヤはトレッド面(路面に接地する部分)は高剛性高強度で、サイドウォール(タイヤの横の部分)がしなやかに変形するような構造になっています。
ですので、タイヤサイズ変更した際に影響の出る部分がまるで異なるのです。
この説明無しに「扁平率変えるとこうなりまーす」って書いてある記事は……、信用できないと思いますよ。
タイヤサイズの構成要素
そもそもタイヤのサイズは以下の要素で構成されています。
1:リム径
2:幅
3:扁平率
「フロント用/リヤ用」「オンロード用/オフロード用」「ハイグリップ系/ツーリング向き」などの要素もありますが、タイヤサイズとは無関係。
サイズだけに的を絞ると構成要素は上記の3つしかありません。
さらに、リム径は変えようがありません。
17インチのホイールに18インチのタイヤは履けないので変更する事は不可能。
ホイールごと変更すれば履けますが、それは今回の趣旨と話が違うので除外!
すると、残りは「幅」と「扁平率」だけです。
幅を変更するとどうなる?
例えば「5.50」というリム幅に対して純正指定タイヤサイズが「180/55」だったとします。
ところが世の中には「190/50」というサイズのタイヤが存在します。
「適合リム幅は5.50~6.00だから履ける!これを履けばリヤタイヤが太くなってカッコ良くなる!太くなるからグリップが上がる!太くなるから倒し込みは重くなるかもしれないけどきっと大丈夫!」
スーパースポーツ系が好きな方なら、誰もが一度はこんな事を考えた事があるのでは?
確かに履く事はできます。
許容リム幅の範囲内なので走行中にバーストしたりリムから外れたりもしません。
しかし、期待しているような事は全く起こりません。
幅だけは「僅かに」太くなるかもしれませんが、それにしたって期待しているほど見た目が太くなったりはしません。
履いて問題が無いのと理想的なのは別の話なのです。
180/55はリム幅5.50で使う事を前提にしており、190/50はリム幅6.00で使う事を前提にしています。
履けるには履けるけれど最適なリム幅ではないので、デメリットばかりでタイヤ本来の性能は全く発揮できません。
太いタイヤを履くと具体的に何が起こってどんなデメリットがあるかと言うと……、
タイヤトレッド面のプロファイル(断面形状)が変形する
タイヤの下側(リム側)を絞られた事になるので、全体的には尖った形状になります。
だから「太くなるから倒し込みが重くなる」というイメージとは正反対の事が起こります。
しかも、ラジアルタイヤはトレッド面が変形しにくい構造なので、全体的に尖るのではなく、トレッドの端の部分が捲れ込むように変形します。
もしも全体的に尖るなら「軽快なハンドリング」とか「フルバンク時の接地面積アップ」が期待できるかもしれませんが、現実は甘くない。
センター部のプロファイル変化はほぼ体感できません。
なぜならほぼ尖ってないから。
タイヤは頑丈なカーカスコードで締め上げられているので、中央が盛り上がるように変形できないのです。
ところが捲れ込んだサイドのプロファイル変化は容易に体感できます。
倒せば倒すほど不安定になる、とても怖いハンドリングになりますよ!
サイドウォールはもっと変形する
柔らかいサイドウォールが内側に引き込まれる形で変形するので、ラジアルタイヤが性能を発揮するうえでとても重要なサイドウォールの接地角がおかしな事になってしまいます。
サイドウォールの接地角はラジアルタイヤの要の一つなので、ここが最適角でないとダンピング性能は悪化するし、剛性感は無くなるし、ホントにロクな事になりません。
形状以外もデメリットだらけ
幅が増えた分だけタイヤが大きくなるので重くなります。
私も含めて大多数の方には体感はできないと思いますが、バネ下が重くなる事によって路面追従性も悪化します。
重いので加速は悪化するし、燃費も悪化するし、タイヤ代は高いし、結構悲惨。
しかも大して太くならない
リムに合わせてサイドが捲れ込むように変形するので、期待するような「ぶっといタイヤ」にはなりません。
しかも捲れ込んだトレッドサイド形状になるので、今までと同じバンク角でも接地する範囲が変わり、見た目を気にされる方なら気になるであろうアマリング領域が盛大に出来るようになります。
アマリングを消したいと思ってもプロファイルが変だから乗りにくいし、倒せば倒すほどグリップ感が無くなって怖いし、気合いで無理にフルバンクさせるとスリップダウンの可能性まで高まってしまいます。
このように、適合リムの許容範囲内であっても最適リムより幅の広いタイヤを履こうとするのは全くオススメできません。
敢えて細いサイズのタイヤを履かすと逆の事が起こりますが、最低な事に変わりはありません。
妙に平らなタイヤ端っこの形状はフルバンクしていくと急にスッポ抜けますし、サイドウォールの角度がマズイのは太いタイヤの時と同じ。
これまた全くオススメできません。
全くオススメできない事は一応全部試してみた私が保証します。
扁平率って何?
次に変更可能な『扁平率』についてです。
でもその前に、そもそもタイヤの扁平率とは何でしょう?
軽くおさらいしておきます。
扁平率とはタイヤの高さの事
「率」っていうくらいだから計算式もあります。
めんどくさいから覚えなくて良いですけどね。
一応書いておくと、
扁平率=タイヤの高さ÷タイヤ幅X100 です。
うーん、わかりにくい!
もっと単純に『タイヤの高さがタイヤ幅の何%なのか?』と考えてもらえばOKです。
例えば、200mm幅のタイヤで扁平率50ならタイヤの高さは200mmの50%に相当する100mm。
ほら、コッチの方がわかりやすいでしょ!
基本がわかったところで、次の項目から扁平率を変えると何が起こるのかを具体的に説明します。
扁平率を上げた場合
扁平率50を55にした場合などですね。
タイヤを横から見た際の厚さが増える方向になります。
どんな変化が起こるかというと……、
外径が大きくなる
最初に書いたようにリム径は変更しようがないので、扁平率の変化はそのままタイヤ外径の変化になります。
タイヤ外径が大きくなるという事は車高が上がる事を意味しています。
当然だけど足付き性は悪化しますし、フェンダーやスイングアームと干渉する事もあります。
また、前後同時に同じ量だけ車高が変化する事はまずありません。
扁平率を変えるのは「前後どちらかのタイヤだけ」という場合が多いので、車体前後の車高がどちらかだけ上がる事になります。
これは非常にマズい事態で、ハンドリングが激変します。
しかも「リヤタイヤの扁平率を上げたからリヤの車高が上がって(ケツ上げ状態になって)、クイックなハンドリングになる」というような単純な話ではありません。
車高変化とハンドリングの話は別の記事で詳しく書いているので詳細は省きますが、バイクはそんなに単純な乗り物ではないです。
このあたりの影響をよく理解したうえで扁平率を変えないと、何が何だかわからない事になってしまいます。
熱の影響を受けにくくなる
タイヤの体積が増えるので、中に入っている空気の量(エアボリューム)も増えます。
空気量が増えると同じ発熱で膨張しても空気圧変化が緩やかになり、安定した空気圧を維持しやすくなります。
公道で温度変化に伴う空気圧変化を体感する事はありませんが(公道用タイヤはもともと空気圧高めの設定で圧力変化に強く設計されているため)、公道走行不可のレース用タイヤでは大いに効く部分です。
重くなる
ゴムの使用量が増えるので重くなります。
しかも高速回転する大径の回転体の一番外周部分が重くなるのでジャイロ効果が出やすくなります。
軽量ホイールに交換されている方ならホイール軽量化の効果が帳消しになるくらい。
悪く言えばクイックでなくなる、よく言えば安定感が出る感じになります。
路面追従性が増す
タイヤのサイドウォールが高くなるので、路面からのギャップを吸収するゾーンが広く取れるようになります。
直進している状態で路面追従性アップを体感する事は基本的に無いでしょう。
サイドウォールがしなやかになった以上に、タイヤが重くなって路面追従性が悪化してしまう影響があるのかもしれません。
でもコーナーは別です。
バイクは倒れてコーナリングする乗り物なので、コーナーを曲がっている際に大きなギャップがあった場合はどうしても横方向からの衝撃が入ってしまいます。
この衝撃吸収性が上がるのでコーナーリング中の路面追従性アップ、つまりコーナーでのグリップが上がります。
グリップはともかく、コーナリング中の乗り心地の良さであればタイヤの銘柄によっては普通のツーリングでも体感できると思います。
メーターの速度表示が狂う
車速は純正タイヤで転がった時、タイヤ1回転で何cm進むのか?をベースに算出しています。
扁平率を上げるとタイヤ1回転で進む距離が増えるので(外周の周長が長くなる)、以前と同じ速度で走っているとメーター表示が遅くなります。
逆にメーター上で以前と同じ速度を出すと、実際にはもっとスピードが出ている事になります。
速度違反には注意しなければなりません。
扁平率を下げた場合
今度は逆にタイヤを横から見た際の厚さが減る方向になります。
効果は扁平率を上げた場合の正反対。
外径が小さくなるので車高が下がり、エアボリュームが減るので熱の影響を受けやすくなり、軽いので安定感が減り、サイドウォールが低くなるので路面追従性が劣るものの、ダイレクト感が増す感じになります。
今でこそフロントタイヤは120/70-17が主流ですが、かつて存在した120/60-17という扁平率の低いタイヤはサイドウォールの高さが10mm程度しか無く、物凄いダイレクト感でした。
この低扁平タイヤが主流にならなかったのは、120/70で設計された車体に対して反応がダイレクト過ぎたのが原因でしょう。
4輪車のように低扁平率でペラペラのタイヤが主流にならないのは、そういったバイク特有の理由があるのだと思います。
グリップを語る話ではない
扁平率を変えると、つまりタイヤサイズを変えるとグリップがどう変化するのか?とか、幅を広くするとグリップがどう変化するのか?とか、そういった話を書いてあるサイトは多数あり、どれも人気のようです。
レース経験豊富な方が書いていると説得力もあるような……。
たしかに扁平率を変えるとグリップ力、特にコーナリング時のグリップ力には変化があります。
しかし……、
それはサーキットなどのクローズドコースでタイムを削りに行った時の話で、我々一般のライダーはグリップの限界を上げる事で得られるメリットなどほぼありません。
峠をスッ飛ばしているような方でも、です。
僅かに上がる(かもしれない)グリップを求めて扁平率や幅を変えるべきではありません。
タイヤの話になるとすぐにグリップ!何は無くともグリップ!という話になりがちですが、ハッキリ言ってコーナリング時の限界グリップの向上など気にしなくて大丈夫。
なぜなら現代のタイヤ性能は素晴らしく、公道を走る我々一般ライダーが限界グリップを語れるようなレベルでは無いからです。
車体側にしても現代の車体であれば膨大なテスト走行を経てメーカーが決定したタイヤサイズなのですから、グリップを求めてサイズ変更(扁平率変更)しても良くなる事は何も無いと言って過言ではありません。
バランスを崩すだけ。
タイヤの銘柄によって変化するポイントが違う
同じ扁平率変化であっても、タイヤの銘柄によって『どの部分の高さがどのぐらい変化するのか』が違います。
え?サイドウォールの高さが変化するんじゃないの?と思うでしょうけれど、物によってはサイドウォールの高さはさほど変化せず、トレッド面のプロファイルが尖ってセンター部分の外径が大きくなっているタイヤもあります。
ハイグリップ系でフルバンク時の接地面積を稼ぎたいタイヤほどこの傾向が強まります。
なので、上で書いた扁平率変更で起こる事はあくまでも「普通」の範囲内の話です。
用途がレース用に近いほど普通の範囲から外れ、トレッド面のプロファイル形状変化による影響が大きくなります。
最後に、バイクは趣味の乗り物ですので見た目重視で太いタイヤにする事は否定しません。
扁平率を上げた大きなタイヤでmotoGPを気どるのもアリでしょう。
でも、ホイール幅に対して適正でないサイズのタイヤを履かせたせいで「気持ち良く走る性能」が最低な事になるのは避けたいものですね。
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自分の経験を語るのであれば,何本のタイヤを比較したのか,具体に示してほしい。
他人の研究や文献を引用したのであれば,その出典を示すべきだ。
根拠のない私的見解は,鵜呑みにできない。