
ブレーキのカスタムではミスは許されません。
需要保安部品であるブレーキ周りですが、自分で整備するのはとても勇気が要りますよね?
「いや、別に何とも思わない」という方は安全意識が低すぎるので要注意!
ブレーキ系は整備にしろカスタムにしろ最大限の注意を払うべき部分です。
減速・停止するための部品なので、何らかの失敗は即、命に関わります。
でもブレーキキャリパー交換は憧れのカスタムだし、いつか手を出してみたい……。
そんなブレーキキャリパー初心者の方に、ブレーキキャリパーのマウント方法について基本を復習します!
(キャリパーそのものの話も少々あります。)
目次
用途によってキャリパーの違いはあるの?
オンロード用とかオフロード用の区別があるのか?使用用途によってキャリパーを変える必要があるのか?使用用途ごとに専用キャリパーが用意されているのか?そういう疑問を持った事はありませんか?
答えは、全てのブレーキキャリパーはあらゆる天候を想定しているのでオンロード用/オフロード用といった区別はありません、です。
使おうと思えば何だって使えます。
しかし、車体側の様々な制約によってだいたい用途は決まっており、相当特殊な狙いが無ければオフロード車両用に設計された製品をオンロード車両で使うような事にはなりません。
例えばオフロード用として設計されたキャリパーをオンロードで使おうとすると良いパッドが選べないので選択肢から落ちますし、
オンロード用として設計されたキャリパーをオフロードで使おうとすると大きすぎて装着不可能なので選択肢から外れます。
このように、わざわざ設計用途と違うキャリパーを使う意味はほぼ無いです。
フロント用とかリヤ用とかの違いはあるの?
これも上記の用途と同じでフロント用/リヤ用といった決まりはありません。
何だって使えます。
ただ、これも用途の場合と同じく、リヤ用に設計された小型キャリパーをフロントに使うのは相当特殊な用途でなければ選択肢に入らないはずです。
フロント用は強力な制動力重視、リヤ用はコントロール性重視な事が多く、狙っている目的が違うからです。
ただし、軽量小型な車両のフロント用として設計されたキャリパーを大型車のリヤ用として使う事はあります。
これは純正キャリパーでも同じで、とある小排気量車のフロントに採用されているキャリパーが実は別の大型車のリヤキャリパーと共通というのはよくある話です。
前後共通のキャリパーを採用している車種も珍しくはありません。
右側用を左側に付けるとどうなるの?
あまり無いと思いますが、フロント右用のキャリパーを左側に使用したいと思う事があるかもしれません。
しかしこれは無理です。
理由は簡単で、物理的に装着不可能な形状だから!
本来ならフォークの後ろ側に装着すべきキャリパーをフォークの前側に持ってくれば一応装着可能ですが、基本的には止めておきましょう。
わざわざフロントフォークの前側にキャリパーを取り付ける意味は全く無いどころか、ステアリング軸から遠い位置に重量物を装着する事になるので体感できるほどハンドリングが悪化します。
70年代のレーサーでフロントフォークの前側にマウントしている例がありますが、アレはキャリパーを冷やすために止むを得ずそうなってしまっただけ(という説が有力)で、現代で真似する意味はありません。
ついでに言えば、「片持ち」とか「ピンスライド」と呼ばれているキャリパーのうち、パッドピンがブレーキパッドの前後位置決めをしているタイプのキャリパーは左右無視して使うのは絶対にダメです。
ダメな理由は設計された回転方向と逆向きに使うと、制動力をパッドピンだけで受ける事になるからです。
無理矢理使うといつかパッドピンが折れて事故になります。
こういうパッド形状の物は一方向からしか力を受けるようになっていないので逆向きでは使用できません。
余談ですが逆向き使用と同じ事はバックしている状態からのブレーキでも起こるので、そういったキャリパーを使用している車種の場合はバックの際に極力ブレーキを掛けない方が良いです。
人力でバックしている程度ならブレーキを掛けてもパッドピンが折れたりはしないでしょうけれど、キャリパーにとって良くはないです。
ラジアルマウントとは?
最近のロードスポーツのうち、高性能を謳う車種で採用されている形式です。
新車発表で「ラジアルマウントキャリパー採用」って紹介文言が書かれている事が多いはず。
ラジアルマウントは4輪の世界ではメジャーなキャリパーマウント方法でしたが、バイクでは2000年ごろから使用されはじめました。
バイク用としては登場してからまだ20年も経過していない新しいマウント形式という事です。
特徴は車体を横から見た際、アクスルシャフトから放射状に伸びている(ように見える)ボルトで固定されている事。
だから「放射状」意味する「ラジアル」という言い方になっています。
※ラジアルタイヤのラジアルと全く同じ意味です。
ではラジアルマウントではないマウントとは何でしょう?
ラジアルマウントではないマウント方法とは?
「ラジアル」の対語として「アキシャル(同一軸上の、といった意味)」という言葉があるのでアキシャルマウントと言います。
ですが、ハッキリ言ってあまり一般的ではないです。
カスタムマニアでは一般的な用語ですが、一般的には「普通のマウント」とか「横から止めるタイプ」と言った方が遥かに通じます(カッコ悪いですが)。
というより、キャリパーマウントと言えばラジアルマウントと言わない限り、普通はコッチ。
ラジアルマウントの項目で書きましたが、2000年ごろにラジアルマウントが登場するまではこちらのマウント方法しかありませんでした。
何しろ1種類しかないのでマウント方法の呼び方なんて存在せず、単に「キャリパーマウント」としか呼ばれていませんでした。
ラジアルマウントが登場したので区別するために従来のマウント方法をアキシャルマウントと言い出しただけ。
特徴は車体を横から見た際、アクスルシャフトと同じ向きのボルトで固定されている事。
車体に対して横方向、アクスルシャフトと同じ向き、ブレーキディスクの面に対して横から、そういう方向からキャリパーを固定する方式の事を言います。
ラジアルマウントのメリット
高性能がウリのロードスポーツで採用されている事から、ラジアルマウントが高性能な事は予想が付きます。
ではその「高性能」とはどんな事なのでしょう?
ブレーキディスク径の変更が容易
ブレーキディスクの外周から中心に向かってキャリパーを固定しているので、キャリパーの下にスペーサーを入れるだけでディスク径の変更に対応できます。
例えばΦ310のディスクからΦ320に大径化したかった場合、5mmのスペーサーを入れるだけで完了!
ディスク径変更に対応した専用のスペーサーも各社から販売されているので、簡単にディスク径の変更が可能です。
キャリパーが傾きにくくなる
ガッチリ固定されているキャリパーが傾く?!と思うかもしれませんが、キャリパーは傾きます。
まず、ブレーキングするとディスクの回転に合わせてキャリパーも前方に回転しようとします。
この時、キャリパーはディスクの外側でしか固定されてない(ディスクの内側にはキャリパーマウントが無い)ので、支えの無いディスク内側に捻る力が発生します。
また、キャリパーを横から見ると、ディスクとの接触面積を稼ぐために前後に長くなっていますよね?
このため、キャリパーの後ろ側はより強くディスクの内側に捻られる力が働きます。
ここまではマウント方法に関わらず共通なのですが……、
そこから先は結構違います。
普通のマウント方法だとキャリパー前後長を短辺側から支えなければならず、テコの原理でマウント部分に大きな捻り力が発生してしまいます。
これがラジアルマウントになるとキャリパーの前後長を長辺側で支える事になるので、マウント部分に掛かる捻り力がうんと小さくなります。
このため、ラジアルマウントの方が捻りが減り、キャリパーが傾きにくくなります。
キャリパーが軽くなる
ラジアルマウントのキャリパーはゴツい製品が多いので軽くなるというのは想像しにくいかもしれませんが、捻りに耐える為に必要な剛性が減る事と、マウントに必要なステー類が剛性を出しやすくなるのでトータルでは確実に軽くなります。
普通のマウント方式で同じくらい捻りに強くしようとすると大量に補強を入れて剛性を出す必要があるので、トータルでは重くなります。
ああ見えて、実は軽いのです。
結果としてブレーキフィールが良くなる
ディスク径の変更に対応しやすいのはあくまでも副産物で、本来の狙いは剛性アップに伴うブレーキフィールの向上です。
キャリパーそのものの剛性が高く出来る事と、キャリパーが捻られにくくなる事、この2点のおかげでハードブレーキングでもキャリパーがガッチリとしていて動かないので、カチッとしたわかりやすブレーキフィールになります。
また、キャリパーが傾かなくなるのでブレーキパッドが偏摩耗しにくくなります。
普通のマウントのメリット
ではラジアルマウントではないキャリパーは性能の劣る廉価版でしかないのでしょうか?
でもそんな事はありません。
全て劣るなら全車種のキャリパーはラジアルマウント方式になるはずです。
ラジアルマウント登場後でもそうならないのは、普通のマウント方式にメリットがある場合があるからです。
正立フォークでは剛性に大した差が出ない
剛性が高くブレーキフィールが良くなるラジアルマウントですが、それは倒立フォークの下から生えているキャリパーマウントがゴツくて剛性が高いからでもあります。
しかし正立フォークだとキャリパーマウントをフォークの下から生やす必要は無く、アウターチューブの途中からキャリパーマウントを生やせば済みます。
下から生えていないとステーの距離が短くて済むので、自動的に高剛性なキャリパーマウントステーとする事ができます。
そうなるとラジアルマウントでも普通のマウントでもキャリパーマウントの剛性に大きな差は出にくく、わざわざラジルマウントにするのはあまり意味がありません。
キャリパーの位置がある程度動かせる
ラジアルマウントは縦方向にマウントする為、前後左右への調整代がほぼありません。
ピッタリとディスクの真ん中にキャリパーが来るようにするには、かなり高い精度でフロントフォーク周りを製造する必要があります。
対して普通のキャリパーはマウントステーにガバガバのボルト穴が開いており、そこにマウントボルトを通して固定します。
横から見ると前後や上下に結構動かせるので、多少の車両個体差なら調整代で吸収できます。
また、マウント面にシムを入れたりすればキャリパーのセンターをディスクのセンターと一致させるのも容易。
精度が低い事を逆手に取って、最適な位置にキャリパー本体を持って行きやすいのです。
マウントの位置決めがガバガバなので『装着時にどの位置にキャリパーを持ってくるか?』という作業のコツがあったりしますが、上手く利用すれば効きもタッチもグッと向上できます。
安い
ゲスな理由で申し訳ないですが、これも大事な理由です。
フロントフォークにキャリパーマウント部分を加工しようとした場合、普通のマウント方法はアクスルシャフトを加工する際に同じ向きの穴を開けるだけなので、一度フォークを固定したら向きを変える事なく同時に穴あけ加工ができるのです。
ラジアルマウントではこうは行きません。
最低でも1度はフォーク固定を外し、90度向き変えして固定し直す必要があります。
『位置決め』という難しい工程が1つ増えてしまうので、その分だけ価格が高くなってしまいます。
ラジアルマウントが高性能で高級で高価な車両でしか採用されていないのは「マウントを加工する費用が高いから」という大きな理由があるので、価格を安く抑えたい車両の為に普通のマウントは今後も無くなったりはしません。
後からラジアルマウント化は出来る?
不可能ではありません。
そういうキャリパーサポートも発売されています。
しかし、ここまでの説明で解説したように、ラジアルマウントは剛性の高いステーでガッチリ固定して捻じられないようにしてこそ効果があります。
従来型のマウント方式のフォークにキャリパーサポートを使ってラジアルキャリパーをマウントしても、結局キャリパーサポートの根本は従来の位置で普通の固定(アキシャルマウント)をしている事になるので、ラジアルマウントのキャリパーを装着してるという見た目以外は正直言って効果があるとは思えません。
高性能欲しさにラジアル化するのであればキャリパーサポート方式ではなく、フォークと一体化したゴツいステーが伸びていなければダメです。
ラジアルマウントはキャリパーステーの剛性が命なのです。
縦方向のボルトでキャリパーを固定すれば超性能が出るとか、そんな単純な話ではないのです。
失敗は許されない
最初に書きましたが、ブレーキは減速・停止するための部品なので、僅かな失敗が即、命に関わります。
ちょっとしたミスでも重大な事故に直結するので、絶対大丈夫!という自信が無い場合は安易に手出ししないようにしましょう。
100%の自信が無い場合は最初から最後まで全部プロにお任せした方が良いです。
「キャリパー交換を考えてる」と伝えればマウント方式の変更が有効かどうかも含め、最適キャリパー選びの相談にも乗ってくれるはずです。
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