1978年の初期型から2021年のファイナルエディションまで、43年に渡って不変のスタイルで多くのライダーに親しまれたヤマハSR400。排気ガス規制に対応するため2010年以降はフューエルインジェクションを採用したものの、それまでの30年以上は3タイプのキャブレターが吸気系を担ってきた。「純正キャブレターでセッティング変更ができる」ことを最大の特長とするキースター製燃調キットは、3タイプのキャブすべてに用意されており、DIYでセッティングやメンテナンスを行うユーザーにとって頼れる存在となっている。
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目次
ノーマルでもカスタムでも楽しさを実感できるSR400

今回取り上げたSR400は2005年式のRH01J型。車台番号は2001~2008年式まですべてRH01Jから始まるが、キャブレターは2001~2002年式と2003~2008年式で異なり、2003年式以降はTPS(スロットルポジションセンサー)付きミクニBSR34となる。

車体左側(キャブレター左側)に、冷間始動時に使用するチョークノブがある。このノブを引くと始動時に必要な濃い混合気が供給される。そのノブの下にある黒い部品が、スロットル開度を検知するTPS(スロットルポジションセンサー)だ。
ヤマハSR400のように長年にわたり基本設計を変えずに生産され続けたモデルは、構造がシンプルであるがゆえに整備やセッティングの良否がそのまま走行フィーリングに直結する。特にキャブレター車は、吸排気の状態や経年変化に応じて混合気を最適化する必要がある。
バイクメーカーが市販車を開発する際、当然のことながらキャブレターやマフラーは純正部品で仕様を決定している。キャブレターセッティングはエアークリーナーボックスの吸気口サイズからマフラーの先端まで、ノーマル状態でベストなパフォーマンスが出るようになっているのだ。
アイドリングからフルスロットルまで、エンジンの運転状態によって必要な混合気量はその都度変化し、キャブレターは「パイロットジェット」「ジェットニードル」「メインジェット」の3要素によってガソリンを計量して供給している。バイクメーカーが設定するのはノーマル状態でのキャブセッティングであり、一部の車種を除けば補修パーツのジェットやニードルは1サイズしか設定されていない。
そのため、エアークリーナーを撤去してパワーフィルターを装着したり、マフラーをキャブトンタイプに交換すれば、キャブレター内を通過する吸入空気の負圧や流量が変化するため、空気量に対して適切なガソリンを供給することが必要だ。
そこで重宝するのがキースターの燃調キットである。燃調キットはキースターが独自に開発したジェットとニードルによって、純正キャブのセッティングを変更できるのが最大の特長だ。つまり単なるリペアパーツの集合ではなく「純正キャブを活かしたまま最適化する」という思想のもとに構成されている点に価値がある。
ノーマルでもカスタムでもビッグシングルらしい鼓動感を満喫できるヤマハSR400には、年式によってピストンバルブのVMキャブと負圧タイプのBST、BSRの3タイプの純正キャブレターが存在するが、キースターは全タイプの燃調キットをラインナップしており、SRユーザーの期待に応えている。
整備やオーバーホールに必要な消耗部品も同梱

【燃調キット SR400(RH01J/BSRキャブレター)用 2001~2008年 FY-5156N 税込4,400円】
燃調キットにはセッティングや整備で必要なこまごまとした部品まで含まれるので、すべて単品で注文しなくてはならない純正部品より入手が簡単。同梱されている説明書の裏にはキャブセッティングの手順も記されている。

スロットル開度が小さい領域の混合気に影響するパイロットジェット(右)、バキュームピストン開閉に連動してメイン系のガソリン吸い出し量を決めるジェットニードル(中)、メイン系統のガソリン流量を決めるメインジェット(左)がキャブセッティングの三要素。ジェットやニードルを変更すればガソリンの供給量が増減するわけではなく、エンジンが吸い込む混合気が濃いか薄いかに応じてガソリンの量を決めるのが正しい手順だ。

フロートチャンバーガスケットやフロートニードルやバルブシート、パイロットスクリューはセッティングの土台を決めるための重要パーツ。これらが不安定な状態ではセッティングはままならないので、年式が古いバイクはこれらの見直しも重要。
燃調キットには純正サイズを中心に、3サイズのパイロットジェットと6サイズのメインジェット、4サイズのジェットニードルが入っており、ノーマルセッティングに対して混合比を濃くすることも薄くすることもできる。
そもそも現状のセッティングが濃い(ガソリンが多い)のか薄い(ガソリンが少ない)かを判断るにはスパークプラグの焼け具合で確認する。変更前のプラグのガイシや電極が白い場合は混合気が薄いと判断してジェットのサイズを拡大し、ジェットニードルは細くする。逆にプラグが黒くくすぶっている場合は混合気が濃いと判断してジェットのサイズを小さくして太いジェットニードルに交換する。
混合比をどのように変更するかは吸排気系パーツの組み合わせによって変化し、吸排気系パーツの組み合わせが純正通りでも、年式が古く走行距離が多いバイクではエンジン本体のコンディションによって吸気状態が変化することもある。
燃調キットに同梱された説明書には、スパークプラグの焼け具合の判断方法を図解してあり、セッティングを変更する際のジェットとジェットニードルの組み合わせ例も表記してあるので、キャブセッティング未経験のライダーも参考になるはずだ。
さらに見逃せないのが、オーバーホール用途としての完成度の高さである。フロートチャンバーガスケット、フロートニードル、バルブシート、パイロットスクリューなど、セッティングの前提となる部品が一式揃うため、パーツ一点ずつをピックアップして注文しなくてはならない純正部品に比べて圧倒的に効率がよい。その上キットの価格は純正部品よりも圧倒的にリーズナブルな点も、バイクいじりを楽しむ上では非常にありがたい。
減速時のアフターファイヤーが気になる時はエアカットバルブに注目

エアカットバルブはキャブボディの左側に2本のビスで固定されたカバーの内側に組み込まれている。通常走行時はエアカットバルブのピンが押し込まれてスローエア通路が開いている。開いているバタフライバルブが急激に閉じると、バルブカバー内側に負圧が生じてスプリングを縮めながらエアカットバルブが引き戻されてスローエア通路が閉じ、エアの流量が減少する分ガソリンが吸い上げられて混合気が濃くなり、アフターファイヤーを抑止できる。

キースターのエアカットバルブはダイヤフラムとスプリングのセットとなる。エアカットバルブは単品での販売がなく、燃調キットとのセット製品となるため、減速時のアフターファイヤーが気になる場合は燃調キット購入前にダイヤフラムの状態を確認しておこう。
パイロットジェット、ジェットニードル、メインジェットの3点で、アイドリングからスロットル全開まで全領域の混合気を作り出すキャブレターが苦手なのが、減速時に生じる混合気の変化である。
加速中はエンジン回転上昇に伴って吸入空気量も増加するが、エンジンブレーキを使用する際は回転が高い状態でスロットルを閉じることもある。この時、回転が充分に下がるまでエンジンは吸いたい空気が吸えない窒息状態になり、空気とガソリンの比率がアンバランスになり、マフラーからパンパンッと破裂音を伴うアフターファイヤーが生じることがある。
減速時に生じるアフターファイヤーはキャブレターセッティングとは別次元の症状で、ジェットやニードルを変更して対処するものではない。もしキャブセッティングによって減速時のアフターファイヤーを封じようとすれば、加速時の混合気に悪影響が及ぶ可能性がある。
そこで機能するのがエアカットバルブだ。エアカットバルブはスロットル開度が小さい領域の吸入空気径路(スローエアー系統)に組み込まれていて、エンジン回転数が高い状態でスロットルバルブが閉じた際の負圧変化に連動して作動する。
ヤマハSR400の純正負圧キャブであるミクニBSTおよびBSRの場合、走行中にスロットルバルブが閉じてインテークマニホールド負圧が設定値以上に上昇するとスローエアー系統の一部が閉鎖される。それにより、エアカットバルブが開いている時より吸入空気量が制限される代わりに、パイロットジェットから吸い上げられるガソリンの量が増えて混合気が濃く補正され、アフターファイヤーを抑制することができるのだ。
すべての負圧キャブレターがエアカットバルブを装備しているわけではないが、エアカットバルブ付きのキャブにとって「急減速時専用の補正装置」として機能しており、通常のジェットセッティングでは補えない領域をカバーしている。
しかしこの機構は、ゴム製ダイヤフラムの状態に大きく依存する。長期間の使用やガソリン成分への曝露によりダイヤフラムが硬化・亀裂・破損を起こすと、負圧に対する追従性が失われ、スローエア通路が適切に閉じなくなる。その結果、急閉時の混合気は補正されず、アフターファイヤーが頻発する。この症状を「スロー系が薄い」と誤解してパイロットジェットの番手を上げてしまうと、通常走行域では過濃状態となり、プラグかぶりやレスポンス低下を招く。
このように、エアカットバルブの不調はセッティング全体の判断を誤らせる要因となるため、特に年式の古い車両では優先的にチェックすべき項目となる。キースターのSR400用燃調キットには、「燃調キット単体」と「燃調キット+エアカットバルブ」があり、以下の5種類を販売している。
・VMキャブレター用 1978~1987年 FY-5003N 税込4,400円
・BSTキャブレター用 1998~2000年 FY-5164N 税込4,400円
・BSTキャブレター用エアカットバルブ付き 1998~2000年 FY-5164N+KACV010M 税込6,050円
・BSRキャブレター用 2001~2008年 FY-5156N 税込4,400円
・BSRキャブレター用エアカットバルブ付き 2001~2008年 FY-5156N+KACV018M 税込6,050円
注意しなくてはならないのは、燃調キットは単体で購入できるが、エアカットバルブだけでは購入できない点。キャブ最終となる2008年モデルでもすでに18年を経過しているので、アフターファイヤーが発生している車両は無条件でエアカットバルブ付きのキットを選択すべきだろう。

ゴムの薄膜であるダイヤフラム中心のピンがスローエア通路の鋼球を開閉することで、スロットル急閉時の混合気を調整するエアカットバルブ。経年劣化などでダイヤフラムが破損するとスローエア通路が閉じなくなり、減速時に混合気希薄となりアフターファイヤー発生の原因となる。
長期不動車の再生で使用する際は事前の徹底洗浄が重要
燃調キットはキャブセッティングはもちろん、整備やオーバーホール用パーツとして重宝するが、劣化したガソリンなどで内部が汚れたキャブに使用する場合は、純正ジェット類などをすべて取り外した上で、キャブレター本体の通路をすべて入念に洗浄することが重要だ。
特にフロートチャンバー内のガソリンを抜かずに放置してしまったキャブのガソリン通路には、劣化したガソリンがワニス状となって付着している可能性がある。この汚れを洗浄せず燃調キットのパーツを組み込んでも、ガソリンやエアーの流量に問題が発生する懸念が残り、セッティングの方向を誤る恐れもある。そうした不安要素や心配を払拭するには、ボディ内部の詰まりや汚れを取り除くことが不可欠なのだ。
徹底的に洗浄を行った後にキースターのジェット類を組み込む際は、吸排気系パーツがノーマルならジェットやジェットニードルもスタンダードサイズを組み込んで状況を確認しよう。前述の通り、混合気が濃いか薄いかはスパークプラグの焼け具合で判断するのが大原則で、純正よりジェットサイズを大きくすればパワーが出るはず? と考えても、それに見合った空気が吸えなければプラグがかぶるだけで効果はない。
長期間不動車であれば、まずはスタンダード仕様でアイドリングから高速まで淀みなく走行できることを確かめてからプラグを確認して、必要ならばセッティングを変更するようにしよう。
惜しまれながら販売終了となったヤマハSR400は、間違いなくこれからも長く愛されるレジェンドモデルとなるはずで、キースターの燃調キットは名車のコンディション維持にきっと役立つことだろう。
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