
motoGPで全車が採用するアルミツインスパーフレームこそ最強!
鉄フレームなど古臭い過去の遺物!
何がトレリスフレームだよ、バカじゃねーの?
……そんな風に思っていた時期が私にもありました。
しかーし!
別にアルミ製ツインスパーフレームが最も優れたフレームというワケではないのですよ。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回はフレーム形状ごとのメリットとデメリットを考え直してみます。
目次
「進化」という言葉が誤解を生む
バイクのフレームは自転車のフレームに無理矢理エンジンを搭載したところからスタートし、平面的だったフレームが立体になり、エンジンそのものを強度部材として利用するようになり、現代のアルミフレームへと時代と共に進化してきました。
確かにそうなのですが、これだとアルミフレームが進化の到達点で、それ以外のフレームはコストなどの関係でアルミフレームが採用できない妥協の産物というイメージになってしまいます。
実際に大多数の方はそう思っているのでは……。
オフロード車という例外を除けば、水冷4気筒DOHC4バルブの超高出力エンジンをアルミツインスパーフレームに搭載したリッターバイクこそがバイクの最高到達点であり、運動性能重視ならSS、トップスピード重視ならメガスポ、この条件に当てはまらなければ最新最強にあらず!
そう思っていませんか?
最初に断言しますが、それは大きな間違いです。
進化の過程で最後に出て来たのがアルミフレームというだけで、別にアルミフレームが進化の最終地点に居る全能の神というわけではありません。
むしろ性能で鉄フレームに劣っている部分も多々あります。
そう言うと「製造コストが高くつくとか、そういう性能の事だろ?(笑)」という方も多いでしょう。
それも間違いで、製造コストは鉄フレームの方が高い事だってあるのです。
『フレームはアルミフレームが最新最強である』と思っているとイロイロ見誤ります。
フレームに求められるもの
大昔はエンジンを搭載する事だけが目的でしたが、現代のフレームは走行性能の要として非常に重要なのは御存じのとおり。
もう少し細かく見ると、大きく「強度」「剛性」「コスト」に分解できます。
エンジンのパワーを掛けたら折れちゃってはダメですよね?
折れないために必要なのが「強度」
エンジンのパワーを掛けたらグンニャリ曲がってしまってもダメですよね?
曲がらないために必要なのが「剛性」
かと言ってエンジンのパワーに耐えるように強度と剛性を持たせたら制作費が100万円掛かってもダメですよね?
目的とする車種の価格帯に収まるようにするのが「コスト」です。
コストというと下世話な感じがしますが、フレームを語るうえで避けては通れない重要な要素になります。
ただし、無限にコストが掛けられれば全てのバイクがアルミツインスパーフレームになるかというと、そんな事は無いのが面白いところです。
ここからは代表的なフレーム形状ごとにどんな特徴があるのか、具体的に見ていきます。
ダブルクレードルフレーム
平面的な自転車用フレームにエンジンを搭載していた初期のバイクから、エンジン出力増大に合わせて立体的になったフレームがダブルクレードルフレームです。
大きく高出力なエンジンを囲むようにパイプを配置し、平面フレームとは比較にならないほどの剛性を得る事に成功した傑作です。
鉄パイプを曲げて形作るのですが、横から見た時にエンジンを囲んでいる部分をゆりかご(=cradle)に見立て、そのループが左右に2つあるので「ダブル」+「クレードル」でダブルクレードル。
エンジンを囲んでいるゆりかごが左右に分かれていない平面的な形状だとシングルクレードルフレームとなりますが、現代ではほぼ存在しません。
このダブルクレードル形状を世に知らしめたのはイギリスのノートンで、グランプリを含む世界各国のレースで大活躍しました。
それまでの平面的なフレームと比較して『羽布団のように乗り心地が良い』事からフェザーベッドフレームとも呼ばれます。
「乗り心地が良い」というイメージが先行している事と、古い鉄フレーム車で採用されている事が多いため『剛性が低いのが特徴』と思われがちですが、そうではありません。
平面的なフレームと比較すると圧倒的な強度と剛性を持ち、車体(とエンジン)がガッチリしているので効果的にサスペンションを動かす事が出来るようになる事と、フレーム剛性が足りずにヨレで不安定な挙動となってしまう事が劇的に減ったのを「乗り心地が良くなった」と言ったのが発端のようです。
「グニャグニャだから乗り心地が良い=フェザーベッド=ダブルクレードル」このように認識している方は認識を改めましょう。
しかし時の流れは残酷で、今となっては特別剛性や強度の高い形状ではありません。
でも必要十分な性能が出せる傑作形状なのも事実で、だからこそこのダブルクレードルフレームを採用する新型車は今でも多数あります。
例えば大人気なネイキッドは今でもほぼこのダブルクレードルフレームです。
CB-SFも、XJRも、INAZUMAも、ZRXも、全部この形。
旧車レースではダブルクレードルの鉄フレーム車がとんでもないタイムを叩き出しており、単なる乗り心地重視のグニャグニャフレームではない事がわかります。
変わり種として後半だけダブルクレードルで前半部分はシングルクレードルな「セミダブルクレードル」というものもあります。
ダブルクレードルほどの強度や剛性は必要なく、それよりも軽さやスルムさを優先したい場合に採用されます。
代表的なのはオフロード車。
本格的なコンペモデルでもステアリングヘッドから下に伸びるフレームが1本しか無い場合が多々ありますが、それで強度と剛性を確保出来れば軽くてスリムに越した事はないというワケです。
メリット
・シングルクレードルと比較して圧倒的に高剛性
・パイプを曲げるだけである程度フレームが完成する
・補強を追加するだけで剛性コントロールが容易
デメリット
・シングルクレードルと比較して重い
・エンジンが着脱しにくい
・製造に熟練が必要
バックボーンフレーム
ダブルクレードルフレームの進化形がバックボーンフレームです。
特徴はダブルクレードルフレームの下側が丸ごと無い事。
背骨の部分しか無いのでバックボーン。
それまで剛性を確保するために存在したフレーム下側が無くなるのでグニャグニャになりそうなイメージがありますよね?
確かにフレーム単体ではダブルクレードルと比較してグニャグニャです。
ではどうやって剛性を確保しているのかと言うと、エンジンそのものをフレームの一部として使います。
というより、エンジンそのものを最初から強度部材に見立てて剛性を持たせた設計としておく事で初めて実現したフレーム形状です。
曲げた鉄パイプよりもエンジンそのものの方が剛性が高そうな気がしますよね?
だからエンジンを積極的に使う事でフレームの一部を不要として、軽量化と高剛性化を両立させた形式です。
とても固いエンジンを強度部材として使うから(?)ダイヤモンドフレームとも呼ばれます。
代表車種はカワサキGPZ900Rニンジャ。
登場当時は世界最速の称号を欲しいままにした事からも、この形式がダブルクレードルに対して優位であった事がわかります。
現代では250ccクラスのロードスポーツ車に採用例が多く、CBR250RRもYZF-R25もGSX250RもNinja250も全部この形状です。
例外として、エンジンを強度部材として使用しないでバックボーンフレームだけで強度を確保している車体もあります。
代表的なのはスーパーカブやモンキー。
エンジンは吊り下げてあるだけで一切フレーム強度に関係していませんが、これで十分ならわざわざアンダーパイプを設ける必要も無いという事です。
メリット
・ダブルクレードルよりも軽い
・エンジン着脱が容易
デメリット
・エンジンを強度部材として使うように設計する必要がある
・エンジン結合部分の精度が必要
ツインスパーフレーム
バックボーンフレームを更に発展させたのがこのタイプです。
別名ツインチューブフレーム。
バックボーンフレームが基本的に背骨1本で形成されているのに対し、もっと剛性が欲しくて背骨を2本化。
どうせ2本にするならバックボーンフレームのようにわざわざエンジン上部を湾曲させる必要は無いので、エンジン左右に振り分けた方が効率的。
エンジン左右を通せばスイングアームピボットとステアリングヘッドを直線的に連結する事ができ、最もストレスの掛かる部分が直線的に出来るので最も効率が良いという考え方のフレームです。
鉄パイプ以外にアルミ素材を使う事が広まり出した時期に登場した形状ため、ほぼアルミフレームを前提として進化していきました。
(鉄パイプのツインチューブフレームも存在します)
アルミ板で箱状の物を作り、左右2本でエンジンを挟むと必然的にツインスパーフレームになります。
アルミ板ではなく押し出し材を用いたフレームも広く利用されていました。
現在のところ最も効率的なので、スーパースポーツと呼ばれる車両は極一部の例外を除いて全てこのフレーム形状を採用しています。
motoGPでもほぼ全車がこのフレーム形式。
近年では場所によって部材の厚さを変えて剛性をコントロールする事も一般的になり、ますますアルミツインチューブ有利になっています。
メリット
・横から見た際に理想的な直線形状に出来る
・溶接などの作業工程が少ない
・剛性コントロールが容易
・非常に軽量に作れる
デメリット
・エンジン幅が広い場合、上から見ると理想とは程遠い湾曲形状になる
・幅が広くなる
・アルミの場合は素材が高価
・アルミの場合は製造用の金型が非常に高価
モノコックフレーム
バックボーンフレームをツインスパーとは別の方向から発展させたのがこの形式になります。
基本的な考え方はバックボーンと同じですが、フレームそのものに外装やエアクリーナーボックスなどの一部機能を兼用させているのが特徴です。
もはやパイプを組み合わせた形状ではなく、板を組み合わせたようなボックス形状になります。
剛性を確保するために巨大な箱型でフレーム形成し、その巨大さを生かして様々な機能を兼ねるようにしたとも言えます。
代表的なのはZX-12RやZX-14Rで、フレームそのものをエアクリーナーボックスやバッテリー収納としても使います。
更に発展させたのがDUCATIパニガーレ1198系で、エンジンを強度部材として完全に利用した結果、フレームっぽい物はもう存在しません。
一応ステアリングヘッドとエンジンを連結するフレームがありますが、それはエアクリーナーボックスそのもので、これをフレームと呼んで良いのか悩むレベルです。
エンジンにエアクリーナーボックスを結合し、そのエアクリーナーボックスにステアリングヘッドを一体化した物なので一応モノコックという扱いですが、実質フレームレスと言えるかもしれません。
メリット
・様々な機能を兼ねられる
デメリット
・設計変更が難しい
アンダーボーンフレーム
バックボーンとは逆にダブルクレードルの背骨を無くしたのがアンダーボーンです。
フレームの下側しか無いのでアンダーボーン。
強度や剛性に特にメリットは無いのですが、何しろ上側が何も無いので、ウォークスルー型の足置き場が欲しいスクーターで採用されています。
スクーター=アンダーボーンと思っていただいてOK。
また、東南アジアを中心とした実用車でも広くアンダーボーンが採用されていますが、これも足元の空間を確保したいため。
足を上げなくても股がれる事や荷物積載性に優れる事などを優先した結果です。
メリット
・レッグスペースを確保しやすい
デメリット
・剛性が無い
トラスフレーム
バイクというより4輪車のバードケージ(鳥かご)フレームを参考にバイク用へと発展させたような形状で、長年DUCATIで採用されていて有名になったのがトラスフレームです。
トレリスフレーム(トラスフレームのイタリア語読み)などとも言います。
国産車では滅多に採用されない形式ですが、スポーツ度の高い高級外車ではかなり一般的なフレーム形状で、DUCATI、KTM、BMWなどで採用されています。
細いパイプを三角形(トラス形状)に組み、その大小トラスを組み合わせる事で理想的な強度と剛性を自由自在に追及できるのが特徴です。
パイプが目立ちますが、実質的にはパイプで組み合わされた三角形の面によってモノコックのような大きな塊として機能していると考える事もできます。
他には「見た目が美しい」と言われるのも特徴でしょうか(この辺りは個人の主観によると思いますが)。
理想的な部分に理想的なパイプを配置出来るので性能は非常に高いのですが、短いパイプを正確無比に溶接して全体を作らねばならないため、製造に相当な熟練が必要な事が最大の弱点です。
また、パイプが多いのでそのままでは重くなってしまいがちな事と、重くならないようにするとパイプ径が極細になったり肉厚が激薄になったりし、ただでさえ難しい製造の難易度が更に跳ね上がります。
そもそも溶接個所が非常に多いので量産には全く向きません。
国産車での採用例がほとんど無いのは「量産向きでないから」に尽きます。
逆に外車で採用例が多いのは少量生産するならこちらの方が向いているからでしょう。
熟練工に頼って製造したとして、予定している台数の製造ができるのか?ここが分かれ道。
国産車のようにある程度の台数を製造しなければならない場合には採用したくても出来ない、という事になります。
メリット
・非常に高性能
・見た目が美しい
・非常に軽量に作れる
デメリット
・製造には熟練技が必要
・量産に向かない
適材適所
例えば50ccの買い物スクーターでアルミツインチューブフレームを採用すると、足元が平らでなくなってしまうので利便性に欠けたものになります。
スッと跨がれない代わりにやたら高剛性な買い物スクーターは……普通は要らないですよね?
ZX-14Rがモノコックの代わりにアルミツインスパーフレームを採用すると、とんでもなく幅広な車体になってしまいます。
幅広のままでは狙っていたスポーツ性は確保できないでしょうし、幅を減らすためにエンジン上を通すとツインチューブのメリットを捨ててしまいます。
そんなZX-14R、要らないですよね?
250ccスポーツにトラスフレームを採用すると、車体価格が急上昇してしまいます。
素晴らしく高剛性でしなやかで軽量だけど300万円の250ccを求める人は……ほとんど居ないですよね?
オフロード車をアルミツインチューブ化すると、ガレ場走行で岩がエンジンに当たるようになります。
岩がエンジン直撃するのを避けるにはアンダーガードが必要で、ガードを付ける為の支えが必要だとしたらそもそもエンジン下にフレームが存在した方が良いはず。
このように、車両の目的(狙い)によって必要なフレーム形状はだいたい決まってしまいます。
ムリヤリ最高峰の形状と素材を採用してもメリットを生かせないのです。
そうは言うけどなぜアルミ化しないの?
アルミは鉄よりも比重が軽いので、同じ形状なら軽量にできます。
そこだけ聞くとアルミ最高!となりますが、同じ形状では鉄と同じ強度が出せないのです。
そこで鉄と同じ強度を出すべくパイプを太くしていくと……、最終的には鉄と同じ強度のまま少ーしだけ軽く作る事が出来るはずです。
そらみろ!やっぱりアルミ最高!鉄はコストダウンの為の妥協!と言いたいところですが、その時の体積が鉄より大きくなってしまうのが問題です。
大きいのは空力や運動性など、別の部分で不利だからです。
しかもフレーム面積が大きくなる事で剛性が極端に高くなってしまい、今までフレームで吸収していたストレスが他の部分に行ってしまうのです。
このように、鉄フレームは別にコストの問題だけで鉄なのではなく、ちゃんと理由があって鉄を採用しているのです。
何でもかんでもアルミの方が良いというわけではありません。
実は「アルミ製であること」を優先して製造された結果、かえって重くなる例は4輪車のホイールで多発しています。
アルミで作れば軽く作れてしまうほど単純ではないという事ですね!
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