バイクに乗り続けて30年以上が経過したが、数年前に初めてアライヘルメットの榛東(シントウ)工場見学をさせていただくまで、僕はヘルメットがどのように作られているのか知らなかった。その制作過程は複雑で、まさに目から鱗が落ちる思いの連続。恥ずかしながら、ここまで人の『手』や『目』が介入しているとは想像できていなかった。連載『アライの違い』では、そんな目には見えにくいアライヘルメットのこだわりを全6回に渡って紹介していこう。

アライヘルメットの護りの精神の礎とは?

アライヘルメットの新井理夫社長は大学卒業後、アメリカに留学。帰国後、家業のヘルメットづくりを手伝うものの、常に「もっと大きなことをやりたい」と思っていたのだという。

そんな時、新井家に劇的な事件が起きた。1977年9月28日、当時の代表である新井広武さんが日航機ハイジャック事件の人質となったのだ。犯人は600万ドルの身代金と、拘束中の日本赤軍メンバー9人の釈放を要求。10月1日、福田赳夫首相は世界を驚かせる決断を下した。日本政府はハイジャッカーの要求を受け入れると発表。福田首相はその理由を「人命は地球より重い」という言葉で説明したのだ。この事件は、当時39歳だった新井理夫さんに強い影響を与えた。

「父の仕事を継いだとき、自分に問いかけたんです。『なぜ自分はこれをやるのか?』と。そんな時、福田首相の『人命は地球より重い』というメッセージが、強く心に残りました」と新井社長。

これがアライヘルメットの護りの精神の礎となり、新井社長は「人命の尊さ」と「護ることの大切さ」を深く意識し、「命を護るビジネスに大きい小さいはない」と日本でのビジネスを決意。以後、アライヘルメットは『売れる商品』ではなく『人を護る商品』を作り続けている。

現在、アライヘルメットの開発に携わるメンバーに話を聞いても「社長が安全や命を護ることであれば、いくらコストをかけてもいい、と言ってくれるんです」と皆が口を揃える。

ヘルメットの規格が定められるよりも前、オートバイ用のヘルメットがまだ日本に存在しない時代に、先代の新井広武さん(写真)が日本で最初に頭を護るためのギアを発明。1930年、陸軍からの要請で『通気性に優れた日よけ帽』を開発したことが、ヘルメット作りの始まりだった。

新井理夫社長。1938年、東京生まれ。幼少期より身近にバイクのある生活を送る。若かりし頃には二輪&四輪レースにも参戦。ライダーを護るために、誰にも負けないヘルメット作りに邁進する。

かわす性能を保持するためのシールド形状とは?

その『護りの性能』を飛躍的に向上させたのは、ヘルメットの衝撃吸収性能と同じくらい大切となる『衝撃をかわす性能』の気づきだ。

『衝撃をかわす性能』とは、ヘルメットの中に衝撃を入れないこと。どんな大きな衝撃でも、そのエネルギーを逃し続ければライダーを護れるという考えだ。これは、規格を通すための物作りでなく、世界一安全なヘルメットを作るというアライヘルメットのフィロソフィーでもある。

そして、このかわす性能に欠かせないのが、この連載で何度も登場している滑りやすく、丸く滑らかなエッグシェイプドフォルムと、一定の衝撃まで破壊されずに衝撃をかわす『強靭なシェル』だ。

軽量で強靭なヘルメットのシェルは、究極の素材と職人技で生み出される。

丸く滑らかなフォルムは「かわす性能」を生み出し、衝撃からライダーを護る。

 

しかし、アライヘルメットの衝撃をかわす性能のこだわりは、シェルの剛さや形状だけに止まらない。前頭部側面の衝撃をかわしやすい形状を優先するため、シールドの形状も一定の曲線でなく、異なる曲線を連続的に繋いでいるのだ。もちろん異なった曲率のシールドを制作するのは手間とコストはもちろん、非常に高い生産技術を必要とすることである。

この強靭なシェルとシールドの形状は、ヘルメットを真上から見るとわかりやすい。前頭部から側頭部、耳へのラインを他のヘルメットと見比べるとフォルムの違いは一目瞭然だ。実は前頭部から側頭部にかけては転倒時にヒットする可能性が高い部分。だからこそこの形状が大切になる。こういった規格や試験のデータで大きな差が出ない性能を、ライダーを護るために追求し続けるのがアライヘルメットなのだ。

前頭部から側頭部、耳へつながるラインが独特なアライヘルメットのフォルム。この形状を実現するためにシールドの曲率にもこだわる。

『アライの違い』を生み出すのは作り手の想い

アライヘルメットは、すべて職人よる手作りだ。人の目、手、そして技術によって一つひとつ生み出されている。その作業手順は作業仕様書に則って行われ、ひとつの工程で作業手順が16項目に及ぶ過程もあるのだという。そのひとつ一つの工程は、やはり人の手でしかなし得ないものなのだ。

ヘルメット生産工程の様々な場所に重量を計測するための測りが置かれ、シェルは全て二重検査。組み立て工程の多くに人が携わり、それが簡単に量産できないことを物語っている。

「人間の手は神様がくれた最高の贈り物なんです。そんな人の手がヘルメットを作るのです。さらに仕事に携わる皆が『ライダーが少しでも助かりますように』と祈りながら作れば、それは最高の集団だと思います」と新井社長。

もちろんアライヘルメットで働く全ての人々が『ライダーを護る』仕事に従事しているわけではない。しかし、ステッカーを貼る人、塗装する人、出荷をする人、事務処理をする人、組み立てる人、それぞれのスタッフが『護る思い』を込めて、ヘルメット作りに携わっているのがアライヘルメットなのである。

「少しでも良いものを作りたい」「一人でも多くのライダーを護りたい」。そんな人の思いがアライヘルメットらしさを創造し“アライの違い”になっていくのだ。

シェルのベースとなるプレフォーマを目視で確認。重量が規定内に収まっているかも確認する。

ヘルメットが軽ければ、走行時の疲労を軽減できる。シェル成形部門が手作業で研ぎ、軽く仕上げたシェルを、0.1gでも軽く薄く綺麗に仕上がるよう、塗装に神経を集中させる。

ライダーを護るには、まずアライのヘルメットを使ってもらわなければ始まらない。ライダーの顔になるヘルメットに選んでいただけるよう、美しさを追求しながら仕上げていく。

組み立て工場内には、緊張感のある張り詰めた空気が漂う。皆が一つひとつの工程に責任を持ち、正確さはもちろん『ライダーの頭を護ろう』という気概を持って作業を進めている。その祈るような想いが『護る性能』をさらに高めていく。

 

全6回にわたってお届けした「アライの違い」はこれにて終了となります。アライヘルメットのこだわりや独創性、そしてクラフトマンシップや社風を多くの方に知っていただけたら嬉しいです。連載を読んでいただいた皆さま、ありがとうございました。(小川 勤)

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    何度か助けられています。アライを信頼しています。

  2. 匿名 より:

    アライの若き職人たちが、その卓越した技量に見合う報酬を得ていることを祈りたい。そして彼らの技術が、その次の世代にも脈々と受け継がれていくことも。

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