バイクに乗り続けて30年以上が経過したが、数年前に初めてアライヘルメットの榛東(シントウ)工場見学をさせていただくまで、僕はヘルメットがどのように作られているのか知らなかった。その制作過程は複雑で、まさに目から鱗が落ちる思いの連続。恥ずかしながら、ここまで人の『手』や『目』が介入しているとは想像できていなかった。連載『アライの違い』では、そんな目には見えにくいアライヘルメットのこだわりを全6回に渡って紹介していこう。
⚫︎写真:アライヘルメット/ホンダ/ヤマハ/トラックハウス
「世界のアライヘルメット」は1970年代のアメリカから
1960〜70年代。アライヘルメットは日本での知名度を着実に向上。趣味の世界だけでなく、警察、消防、競輪、ボート、郵便など、日本全国で様々な業種に採用されていた。しかし、先を見据えた際に今の形態で生き残るのは難しい、と判断。
そこで、ユーザーに夢を感じてもらうこと、さらにアライヘルメットのブランディングを高めること、将来的にアライヘルメットを被っていてよかったな、と思ってもらうには何が足りないかを考えた。
この頃、アライヘルメットは、頭を護る能力を高め、ヘルメット本来の品質で『誰にも負けないものをつくろう』という目標を明確化。世界中のライダーに認めてもらうには日本だけではダメだ、と考えてレースへの道を模索し、1970年代にアメリカのAMA(全米モーターサイクル協会)にヘルメットを持ち込んだのだった。
当時、現社長である新井理夫氏が自らヘルメットを持ち込んだものの、「日本人が持ってきたヘルメット」は、なかなか受け入れてもらえなかった。しかし、何人かのライダーは気に入ってくれた。試着すると「気持ちがいい」と声にするライダーが多く、さらに実際に着用したライダーが転倒しても脳震盪にならずに立ち上がる姿を見て、アライヘルメットは普及していったのである。

現在もアライヘルメットのフラッグシップを張るRX-7は1967に初代が登場(左)。その後、clc構造を採用した2代目(右)が1977年に登場している。「被り心地のよさ」は当時から継承されるアライヘルメットの伝統だ。

AMAは過去〜現在に渡って数多くのレースを主催。中でも有名なのは1973年にスタートし、1976年に「スーパーバイク」と改名された市販車改造クラスだろう。写真は1983年、ホンダVF750Fを走らせるM.ボールドウィン。
その後は、フレディ・スペンサー、ケビン・シュワンツ、ウエス・クーリーなど多くのアメリカンがアライヘルメットを使い、世界GPでも活躍。アライヘルメットは熱狂的なバイクブームとともに、瞬く間に世界へと飛び出していったのである。
この頃からアライの緩衝ライナ設計は多くのライダーにフィットしていた。今でもその設計はアライヘルメットの設計に生かされており、試着した時の気持ちよさはまさにアライヘルメットの『宝』なのである。
しかし、当然ながらレースで使用するには被り心地が良いというだけではダメである。ハイスピードで走ると「浮き上がってしまう」「動いてしまう」という声に耳を傾け、改良を重ねた。内装を締め付けるのではなく、ゆったりとしていても動かないフィット感を追求し続けたのだ。
モータースポーツは頭を護る学びの機会
きちんとしたものを作れば勝てる。そう信じたアライヘルメットは、ヘルメットの規格を通すことはもちろんだが、数値化&規格化できない『かわす性能』を持った、強くて軽いヘルメットを目指した。アライヘルメットはレースを開発の現場として、さまざまな問題を解消していったのだ。
転倒は時に想像を絶する衝撃をヘルメットに与える。しかし、それを検証するのはとても難しい。特に一般公道での事故は、どこで起こるかわからず、警察や医師に聞いてもそのデータを正確に得ることはできない。
しかし、レースには頭を護る学びの機会がある。転倒時の映像や速度はもちろん、どこでどのように衝撃があったのかがすぐに分かり、開発にフィードバックすることができるのだ。人間はバイクに限らずわざわざ危険なことをする。だから進化する。その人間の遊び心を大事にして、そこから学び続ける。それがアライヘルメットにとってのモータースポーツなのだ。
プロもアマチュアも同じサイズを使うのがアライ流儀
アライヘルメットは二輪&四輪レースのライダー&ドライバーに多くの製品を供給しているが、他のヘルメットメーカーと異なるのはプロライダー&ドライバーも市販品と同じサイズを使っているという点だ。プロも趣味や仕事でバイクに乗るライダーも命の重さは同じ。だから全てのヘルメットを同じ思いで作り続けている。
トップライダーが使用するのも我々が購入する製品も「同じ」なのがアライヘルメットの流儀。
そのこだわりのひとつが【アライの違い04】でも紹介した全製品の二重検査だ。アライヘルメットは二重検査専用のファクトリーを設け、全てのシェルを目視&計測している。プロライダー用も製品用も全て同じ流れで品質管理しているのだ。
アライヘルメットがレースに携わるようになってから50年以上の月日が経過。バイクは高性能化し、それと同時にヘルメットに求められる規格も厳しくなっている。しかしアライヘルメットは、かわす性能、そして被り心地を進化させながら、帽体の大きさをほとんど変えずにコンパクトなヘルメットを作り続けていく。
画像ギャラリー (8枚)
この記事にいいねする

























