は?そんなのハングオンに決まってんじゃん!
それにハングオンじゃねーよ、正しくはハングオフだよプププ。
……いや、ちょっと待て、ハングオンもリーンインも同じじゃん!
そんな皆さまの声を代弁して開始してみた今回のテーマ。
しかーし!
「ハングオン」と「リーンイン」というように言葉が違うという事は、両者にはちゃんと違いがあるという事なのです。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
いったい何の違いがあるんだ!
気になって夜しか眠れない!
目次
ライディングフォームは大きく別けて3種類
リーンイン、リーンウィズ、リーンアウトの3種ですね。
車体の傾きに対して上体をどの位置に持ってくるかが違いです。
リーンウィズは車体の傾きと上体の傾きが同じ場合。
リーンアウトは車体の傾きよりも上体が起きている場合。
リーンインは車体の傾きよりも上体の傾きが大きい場合。
ザックリこんなイメージです。
※ハングオンについてはちょっと後回し。
リーンウィズの特徴
最も自然な体勢と言えます。
全ての基本。
車体に対して特にライダーの動き無く、直線を走っていた体勢そのままでコーナーも走ってしまいます。
頭が車体のセンターにあるので車多の動きが掴みやすく、どこにも力が掛かっていなのでラクでもあります。
身体に力が掛かっていなのでハンドルの動きを阻害しにくく、ハンドルを掴んで曲がらなくなったり逆ハン気味の力が入ったりしにくいので、普通に乗っているには最も自然なハンドリングを得られます。
だからこそ全ての基本となる体勢なのです。
基本的に普通に乗るのはこの体勢で、このまま何でもできます。
リーンアウトの特徴
イン側の腕が伸びてアウト側の腕が曲がる独特なポーズになります。
メリットは視点が高く取れるので見通しの悪いブラインドコーナーで視界が得られる事と、車体の大きな振れに対して対処しやすい事。
だからこそオフロードではこのポジションが一般的です。
タイヤのスライドに対して身体が対処しやすいから。
また、極低速ではリーンウィズで乗るよりも車体を深くバンクさせる事が出来るので曲がりやすくなるメリットもあります。
Uターンなどでは特に有効で、身体のバランスが取りやすい事も併せて非常にラクにUターンが出来ます。
ちょっとやり過ぎじゃないか?と思えるくらい派手にリーンアウトの姿勢を取ると、信じられないくらいクルリとUターン出来るのでオススメです。
デメリットは車体の傾きが大きくなるのでスリップダウンしやすい事。
だからスリップの心配が無い低速では超有効でも、高速コーナーには向きません。
ハンドルに力が入れやすいので、ハンドルをこじってしまいやすい(=曲がらなくなる)のもデメリット。
逆に、Uターンの際には敢えてハンドルを自分の意志でイン側に切る事でグイグイ曲がれるメリットもあります。
低速ならハンドル入力でバランスも取りやすく、Uターンゴケ回避にとっても有効。
リーンインの特徴
リーンアウトとは逆に、アウト側の腕が伸びてイン側の腕が曲がる独特なポーズになります。
車体を傾けるのが怖い初心者が陥りがちな変な体勢……ではなく、重心を内側に落とせるので車体をあまりバンクさせなくても曲がれる効果があります。
車体を傾けずに曲がれるので、滑りやすい雨の高速コーナーなどでは非常に有効です。
デメリットはリーンアウトの正反対。
視点が低くなるのでコーナーの先が見えにくくなる事と、タイヤがスライドした際に対処しにくい事です。
速く走れるのはどれ?
これはシチュエーションによって異なります。
Uターン最速なら断然リーンアウトですし、高速コーナーなら重心を低く内側に持って来れるリーンインが最速です。
リーンウィズは高速道路や街中を淡々と走るなら疲れないので最速でしょう。
もっとも、公道では速ければ良いってものではないので、速さよりも安全性や乗りやすさを重視すべきだと思います。
ただし、速さに繋がる体勢なら速く走っていなくても安全性が高まっているという見方も出来ますし、意識して上体の位置を変えてみるのは体験しておくと良いです。
個人的にはUターン時のリーンアウト姿勢はもっと皆さんに体験してもらいたいところ。
自慢できるほどUターンが上手いわけではありませんが、そんな私でもリーンアウトUターンはハッキリ体感できるくらい乗りやすいので。
ではハングオン(ハングオフ)とは?
冒頭にも書きましたが、ハングオンではなくハングオフが正しい名称です。
『落ちるようにブラ下がる』からハング+オフ、でハングオフ。
なぜか日本ではハングオンという言い方が定着していますが、なぜそんな言い方になったのかは謎。
そんなハングオン(ハングオフ)ですが、リーンインとの違いは車体に対して下半身がイン側に移動している事です。
リーンインと同様に車体よりも内側に重心を持ってくるのが狙いですが、
リーンインは上半身がイン側に、ハングオンは下半身がイン側に移動する事で重心をイン側に移動させ、車体をあまりバンクさせなくても曲がれる効果があります。
デメリットはいちいちシート上を左右に移動しなければならないので結構疲れる事と、両足で車体を挟んで人車一体になれない事。
そのことが原因でハンドルにしがみつく様に力が入りやすく、そうなるとハンドルの自然な動きを妨げて曲がりにくくなる事。
でもリーンインと違って頭は車体のセンターに残っているので、視点はリーンインほど低くはならない事が違いです。
実は難しいハングオンの姿勢
ハングオンはシートの真ん中に座った通常のバイク乗車姿勢の基本から大きく外れて見た目が派手なので、
いかにも速く走れるライダーを演出しやすい事からか、
「レースに憧れるタイプの方」や「速さこそ正義なタイプの方」に絶大な人気を誇ります。
ポーズを真似るのはわりと簡単です。
腰をイン側にズラしてイン側のヒザを開けば完成。
しかし、これはポーズだけであり、実際にリーンイン並みの重心移動効果を出せている方は滅多に居ません。
リーンインは上体をイン側に入れさえすればしっかり効果が出るのに対して、ハングオンは下半身を開かねばならないのが問題です。
正しいハングオンは難しいのです。
ハングオンは下半身が開いた体勢のままリーンウィズの時と同じように下半身をバイクと一体化させなければなりません。
そして、あんな体勢ですが、ハンドルには力が入っていない状態でなければなりません。
重心移動のためにハンドルを握ってセルフステアを妨害するなど、本末転倒も甚だしい事になってしまいます。
身体を支えるためにハンドルに力が入ってしまうと、リーンインどころかリーンウィズよりも曲がらなくなります。
ところが……、正しくハングオンが出来ていないと曲がらないからいっぱい倒さなければならなくなり、倒せばヒザが接地し、いっぱい倒してるからタイヤは端まで使い切るし、いっぱい倒してるからタイヤが滑ったりもするし、いっぱい倒してるから見た目は派手だし、何だかんだでスピードは結構出してるし、全部合わせると「俺速ェェェ!」という感覚になりがちです。
錯覚にすぎませんが。
速いと思ってサーキットに行ったら全く話にならなかった、こっちはフルバンクで頑張ってるのにヒザなんか全く擦らないで流してるライダーにブチ抜かれまくって意気消沈……なんてのは良くある話です。
まぁ若かりし頃の私の事なんですけどね。
ハングオンは難しい
このように、正しくハングオン効果を得るのは相当難しいです。
峠道を大暴走したとしても、公道だけで習得するのは実質無理なのでは……?
サーキットで経験しないと納得できるハングオンは会得できないのでは……? と私は思います。
公道で速いのはどっち?
そもそも公道で速いとか遅いとかに拘るのはアホっぽいので止めましょう。
そういうのはマンガの中だけでOK。
ではサーキットで速いのはどっち?
重心をイン側に移動する、重心を下げる、できるだけ車体を倒さないようにする。
目的と結果が同じなので、リーンインでもハングオンでも効果は同じ。
なので、どちらが速いとかはありません。
どちらも同じです。
ちょっと意外でしょ?
「じゃあ何でmotoGPでリーンインのライダーが居ないの?」
そういう意見もあるでしょう。
確証はありませんが、現在サーキットでハングオンが主流なのは下記のような理由があると思います。
理由その1:乗りやすいから
サーキットは一般公道と比較すると圧倒的にコーナリング時間が長いです。
そうなると、無理に上半身をイン側に入れなければならないリーンインよりも、下半身を移動させてしまえば後は足を引っかけてブラ下がっているだけで済むハングオンの方が乗りやすくてラクだから。
無理してるように見えるあんな姿勢なのに、リーンインではもっと無理な姿勢になってしまうという事です。
ラクだと体力が温存出来るのでレース後半で有利に決まってますよね?
だからハングオン。
理由その2:バンク角が解りやすいから
ヒザが接地する事でバンク角が容易に判断できるメリットがあります。
リーンインではヒザが接地した時は既にバンク角の限界ですが、ハングオンなら限界の遥か手前から接地するのでどのくらい倒れているのかが解りやすいのす。
だからハングオン。
理由その3:レースでセパレートハンドルが主流になったから
空気抵抗を減らして最高速を上げる為に登場したのがセパレートハンドルです。
カン違いしている方も多いのですが、コーナーで最適なポジションを得る為にセパレートハンドルになったのではありません。
あくまでも最高速のため、空気抵抗削減のため。
とにかく最高速重視で採用されたセパレートハンドルですが、位置と形状が変なのでリーンインには全く向いていません。
特に初期のセパレートハンドルは物凄い絞り角と物凄い垂れ角で空気抵抗削減に余念が無かったので、リーンイン体勢は実質不可能。
リーンインでは手首が折れるってほど曲げないといけませんし、そんな体勢で細かいスロットルコントロールなんて無理です。
でもハングオンなら上半身はセンターに残っているので大丈夫。
だからハングオン。
理由その4:流行りだったから?
ロードレースの世界に大々的にハングオンを持ち込んだのはケニー・ロバーツです。
ケニー以前にもハングオンスタイルはありましたが、ハングオンスタイルで世界チャンピオンになったのはケニー・ロバーツが初めてです。
いつの時代でもチャンピオンがカッコいいのは当然で、世界中のライダーが憧れました。
まして、それが独特のライディングフォーム(ハングオン)だったのですから、「アレが速さの秘訣だ!」となっても仕方ありません。
みんながハングオンスタイルで乗るようになれば車体もハングオンに合わせて進化するので、今ではハングオンスタイルで乗る事が前提の車体構成になっています。
車体がそういう構成になると、もうハングオンでないと速くは走れません。
だからハングオン。
そういう歴史があるので現在ではリーンインで乗る人は誰も居らず、全員がハングオンスタイルというワケです。
どちらが速い?ではなく、ハングオンしか受け付けてくれない車体なので、ハングオンでないと速くは走れません。
逆にそこまでハングオンを前提としていない車体(例えばスクランブラー系など)であればハングオンに合わせる必要は無いので、ハングオンでもリーンインでも効果は同じで速さも差が無いです。
最近のサーキットでは両方使う
できるだけ車体を倒さなくても曲がれるようにする為のワザであるハングオンとリーンインですが、上記のような様々な理由があってハングオンスタイルが主流になりました。
それがだいたい1980年代半ばごろの話。
ケニー・ロバーツがチャンピオンになって以降、ハングオンはすっかり市民権を得て一般的になります。
それに異変が起きたのは2010年代ごろでしょうか……。
タイヤの性能が格段に上がった事と、電子制御が普及した事でバンク角が強烈な事になり、もはやイン側の足は開くどころか閉じないとならなくなってきました。
足を畳まないと車体と路面との間にはもう隙間が無い状態です。
もともと重心低下とイン側への重心移動を目的としたハングオンでしたが、もう身体を入れる隙間がありません。
うーん!困った!
というワケで、今ではリーンインスタイルも併用するようになりました。
ベッタリ倒した車体にハングオンスタイルでブラ下がりつつ、足を開く隙間は無いので畳み、その状態のまま上半身をイン側に落とし込むのが今のスタイルです。
いや、そりゃあ昔から今のこのスタイルが理論上は最強だとわかってはいましたよ?
でもそれをやると僅かな操作ミスでアッと言う間にハイサイドで飛んで行く事になるので誰にも出来なかったのです。
その無茶を電子制御が可能にしました。
コンピューター制御でハイサイドにならない事を信じて、ライダー全体がイン側に思いっきり体重移動し、完全にブラ下がった状態になるのが現在のレーシングポジションです。
シフト操作のためのスロットル操作も無いので、ライダーがコーナリング姿勢制御に集中出来るからこそ可能になった物凄いライディングフォームです。
このハングオンとリーンインを併用したスタイルのチャンピオンを見て育った世代のライダーは、(かつての若者が自然にハングオンスタイルを身に付けたように)リーンイン併用スタイルを自然に身に付けていくのでしょう。
車体のポジションもリーンイン併用スタイルに合わせて変わってきており、バイクはそういう方向に進化しているという事です。
同じセパレートハンドルでも、かつてのセパレートハンドルとはポジションが全く異なります。
(低い位置にあるフラットバーハンドルのような形状になっている)
そんな乗り方に違和感しか感じない私は既に時代遅れなのでしょう。
老兵は死なず、ただ頭がセンターに残っちゃうのみ。(泣)
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>『落ちるようにブラ下がる』からハング+オフ、でハングオフ。
ハングオフの由来についての門脇誠の珍説は、おもしろいが、
正しくは、体重を横にずらす(オフセット offset)するから、ハングオフという。