バイクに乗り続けて30年以上が経過したが、数年前に初めてアライヘルメットの榛東(シントウ)工場見学をさせていただくまで、僕はヘルメットがどのように作られているのか知らなかった。その制作過程は複雑で、まさに目から鱗が落ちる思いの連続。恥ずかしながら、ここまで人の『手』や『目』が介入しているとは想像できていなかった。連載『アライの違い』では、そんな目には見えにくいアライヘルメットのこだわりを全6回に渡って紹介していこう。

ヘルメットに規格がない時代から、「かわす性能」を追求してきた

ヘルメットのフォルムはメーカーによって様々だ。近年は特徴的なデザインのものも多いが、アライヘルメットは、美しい曲率を持つ丸みのあるフォルムを採用し続けている。

それはなぜだろう?

アライヘルメットは多くのモデルを、JIS規格に加えスネル規格適合品として販売している。そして、すべてのヘルメットにどの規格よりも厳しいアライヘルメット独自の「かわす性能」を持たせている。ヘルメットに必要な規格が定まっていなかった時代から、独自の規格を厳密に定め、そのこだわりを頑なに継承しているのだ。

すべては、「ライダーを護る」ため。他社との違いは真上から見るとわかりやすく、前頭部から側頭部、耳へのラインを見るとフォルムの違いは一目瞭然だろう。「かわす性能」とは、ヘルメットの中に衝撃を入れないこと。ヘルメットの安全規格は衝撃吸収性能を確認する為のもので、数値で表すことのできない「かわす性能」については明記されていない。

しかし、現実にライダーを襲う衝撃エネルギーは安全規格をはるかに上回る巨大なもの。アライは限界のある衝撃吸収性能だけでなく、衝撃エネルギーをヘルメットの中に入れない為のかわす性能を高めることを安全性能の大きな課題として取り組んでいる。これは、規格を通すための物づくりでなく、世界一安全なヘルメットを作るというアライヘルメットのフィロソフィーである。

しかし、「かわす性能」を満たす帽体とフォルムの開発は、困難を極める。バイクの性能が上がったり、規格が厳しくなったりすれば、当然ヘルメットは重く大きくなる方向にいくからだ。

前頭部から側頭部、耳へのラインをシールドを含めて見てみると、アライヘルメットらしさがすぐにわかる。人の頭に沿った滑らかな形状が衝撃を逃す。

レースで得たデータを蓄積。改良を進めていった

そんな「かわす性能」を追求するために、アライヘルメットはレースにも積極的に参戦していった。「レース=PR」とイメージする方も多いと思うが、アライヘルメットがレースに参戦するのは安全性のフィードバックを得るためだ。

事故は、世界中色々なところで起きるが、その都度、医師や警察からフィードバックを貰うのは難しい。しかしレースであれば、転んだ状況がすぐにわかるしフィードバックもある。頭を護るための機会や学びを得るために、アライヘルメットはレースに参戦し続けているのである。

今でこそ多くのライダーがレースでアライヘルメットを使っているが、その道のりは困難だった。まずは1970年台にアメリカのAMAにヘルメットを持って出かけたが、ベルヘルメット全盛の時代だけに「アジア人が持ってきたヘルメット」の反応は厳しかった。しかしアライヘルメットの情熱も含めてプロダクトを気に入ってくれた若きライダー、テッド・ブーディー・ジュニアが活躍したり、転倒後にライダーが脳震盪を起こさずに立ち上がったりしてくる姿を見て少しずつ普及。これがアライと海外レースの始まりである。その後はフレディ・スペンサーと契約が決まるなど、多くのライダーがアライヘルメットと共にレースを走っている。

そしてレースで得たデータを蓄積。改良を続けながら、現実の衝撃で最も重要なのが「フォルム」であることに辿り着いたのだ。ヘルメットの衝撃吸収性能は、その大きさや構造のため限られる。限界があるのは想像に難しくない。しかし、いかなる衝撃も受け止めるのでなく、かわして逃すことで回転加速度が生じる可能性を極力抑えることができるのだ。だからフォルムは丸く滑らかでないとならないのである。

2022年シーズンのMotoGP第9戦カタルーニャGP、スタート直後の1コーナーで中上貴晶選手が実際に転倒した際のヘルメット。数値で表すことのできない「かわす性能」。しかし、予測できない大きな衝撃に一番効果を発揮する性能である。

中上選手のヘルメットについたタイヤ痕。走行中のタイヤに顔から突っ込んでいくのはとても恐ろしかったと思う。転倒後、中上選手は入院し、2日後に退院。石が当たったことで顔は腫れていたが大事には至らなかった。

後頭部にもタイヤがヒット。頭や首に強い衝撃が加わったことは明確だが「R75シェイプ」がそれを軽減。

こちらは全日本ロードレースでも活躍中である中須賀克行選手が実際に使用していたヘルメット。側頭部に痛々しく残るキズは、2013年頃のレースによるものだ。

規格が厳しくなっても軽量&コンパクト。小さな積み重ねを繰り返す

現在、アライヘルメットは卵形のフォルムになっている。昔のフルフェイスと比較すると変わっていないようだが、よく見ると全然違う。アライヘルメットは「丸く」「滑らか」「強い」帽体づくりを守り続けてきた。

1977年のCLC(複合基材積層)構造は、それまでのグラスファイバーより20%の軽量化を実現。1980年のスーパーCLC構造では現在で言うとカーボンと同じくらい高価なケブラーを全面に使い、スネル規格を取得しているヘルメットで最軽量を実現。1985年にはスーパーファイバーを採用し、その後もARマットや高強度繊維を採用。

2000年にはSNC(ネット)を導入し、さらに頭頂部に特殊繊維を使うことで、頭頂部の厚さを0.1mm抑え、従来のCLCより10%軽量化。2015年からはPB-SNS2(新たなる樹脂を使用し帽体の厚みを0.1mm薄くすることに成功)構造とし、進化。「かわす性能」に必要な強靭な帽体を追求し続けている。

特筆すべきは、この50年もの間に規格の変更があったにも関わらず、帽体の大きさはほとんど変わっていないことだろう。

そしてコストを惜しまないという精神も変わっていない。手に入りにくい材料や高価な材料、また管理の難しい樹脂などがあっても様々な素材に挑戦。改良に取り組んできた。

それは小さなことの積み重ねの連続だ。やらないよりやったことのいいことの積み重ねで、スタッフ全員がそれを実践。ヘルメットに「これをやれば安全」というものはない。「絶対に護れる」というものもない。しかし、「ライダーを護る」確率を高めるための追求をこれからもアライヘルメットは続けていく。

50年以上をかけて進化してきたフォルム。シルエットは砲弾型から卵形へ。衝撃を点で受けるのでなく面で受けることで、ヘルメット内に入る衝撃を軽減。

【アライの違い03】丸く滑らかなフォルムは「かわす性能」を生み出し、衝撃からライダーを護る ギャラリーへ (6枚)

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コメント一覧
  1. 匿名 より:

    ここはケチるとかじゃない。死なないために必要な装備です。高いだけでポンコツなヘルメットもあるけどアライは絶対大丈夫

  2. より:

    荒井さんも昔はよかったって思う回顧ジジィです。
    かわすのも大事ですがサーキットと異なり一般公道ではどうしてもかわせない状況があります。モノにぶつかったり、モノがぶつかってきたりと。そんな時に脳に対するダメージを減らすのは脳にかかる加速度を下げるしかありません。それにはヘルメットの大きさが必須なんです。
    脳にかかる加速度を下げるって具体的には脳と障害物との距離、つまりヘルメットの厚さが物理的に絶対条件なんですよ。どんなに高価な材料でも、どんなにハイテクな材料でもダメです。物理法則なんです。
    小さいヘルメットっていうのはぶつからないことが大前提なんです。事故っても何かにぶつからないように祈るしかないんです。まぁ魔除けやお札のペイントぐらいしても良いかもしれませんw
    私もサーキットではアライのかわす形状でやたら硬い帽体も選択肢に入りますが、一般公道だと絶対に選ばないです。
    >アライさん、まともな技術者(少なくとも理科がわかる程度)を雇いましょう。昔のマトモだった頃に戻ってほしい。。。

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