高速道路の一部区間の最高速度が120キロに引き上げられます

警視庁が2020年度中に最高速度の引き上げ容認するとの報道がありました。
日本初の高速道路として東名高速道路が開通した時に決まった高速道路の最高速度100km/h制限。
車の性能も道路環境も変化したのに60年近く更新されなかったのは『事無かれ主義なお役所仕事』の典型ですが、それがついに引き上げられるのだから画期的です。
歴史的快挙と言っても良いでしょう。
なんてったって日本史上初なのですから。

しかーし!
喜んでばかりも居られません。
4輪車ならいざしらず、生身の身体をむき出しで走る我々ライダーは『どんなネガティブ要素があるのか?』をしっかり理解しておく必要があります。
「120キロなんて簡単に出せるから関係ねーよ!」なんて単純な話ではないのです。

皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回は制限速度120km/h化に伴うデメリット・注意点の再確認です。

時速120キロでは何が変わる?

単にスピードが20%上昇するだけ……なのですが、裏では様々な事が起こっています。
体感できる事も体感できない事もありますが、そういう事が起こっているんだと知っておけば余裕を持って120km/hに対処できます。

「そうなる」と知って挑むのと単なる度胸だけで突っ込むのでは、結果は同じでも安全度が全然違います。
バイクの場合は特に、度胸で無茶するのはダメ、絶対。

風圧が上昇する

風圧は「1/2 x 密度 x 風速の2乗」という式で算出できます。
※厳密には単位も含めてイロイロあるのですが、ややこしいので今回はパス。
「速度の2乗で抵抗が増す」と思えばだいたい正解です。
つまり、最高速度が100km/hから120km/hになると速度は1.2倍ですが圧力は1.44倍になります。

これはザックリ計算すると、露出している上半身が30[Kgf]くらいの力で前から押されている計算になります。
結構な力ですよね。


伏せればいいじゃん!という意見もあるかと思いますが、ミラーで後方確認出来ないのでやめましょう。
それに、周りの車はエアコンが効いた車内で音楽を聴きながら歓談しているのに、自分だけベタ伏せしてるのは普通にダサいです。
ダサいってのはバイク乗りにとって致命的なので止めましょうね。

しかし風圧で前から押される力が増えるのは事実ですので、何とかして風圧に耐えねばなりません。
ついハンドルを引っ張る形になりがちですが、これはダメ。
バイクというのは構造上ハンドルが自由に動けないと直進すらできない乗り物なので、出来るかぎり手はプラプラにしておくのが安全運転の秘訣だからです。
※詳細は「セルフステア」で検索してみてください

ではどうやって耐えるのか?
それは軽い前傾姿勢と腹筋です。

前から押される風圧とバランスする位置まで少ーし前傾するとアラ不思議、ほぼ力を掛けないで風圧に寄り掛かる事ができます。
ウソっぽいけど本当なので、ぜひお試しあれ。

でも風圧は安定していないので、寄り掛かる以外は腹筋を固める事で上半身を固定します。
最初は大変ですが、慣れればこれ以上安定する方法は無いはずです。
一旦癖になってしまえば高速道路以外でも有効で、ブレーキング時に手でハンドルを押さえてしまうマズい体勢から脱出できます。
ブレーキング時も上半身を支えるのは背筋ではなく腹筋ですぞ。

制動距離が伸びる

慣性の法則に従い、同じ制動力では停止までの距離が伸びます。

今までだって高速道路上でフルブレーキングする事など無かったはずですから大した事無さそうに感じますが、緊急時にはそうはいきません。
望む速度まで減速することそのものがキツくなる事は理解しておくべきです。

対策は車間距離を取る以外にありません。
強力なブレーキに交換する、ハイグリップタイヤに交換する、といった制動力そのものを上げる方法もありますが、ちょっと現実的ではないですよね。
それに、急に「今までだったら転倒するようなブレーキング」など絶対できません。

車間距離は「〇メートルなら大丈夫」と言えるものではないですが、仮に100km/hで100mの車間距離だったとすると、120km/hでは計算上144mの車間距離が必要になります。
気持ちとして今までの1.5倍の車間距離を取るように心掛けましょう。


高速道路上で急停止するほどの緊急事態は滅多にあるものではありませんが、80km/hまで急減速しなければならない事態はそこそこあります。
今までなら20km/h分減速すれば済んだものが、120km/hでは40km/h分の減速が必要で、これは2倍の減速をしなければならない事を意味しています。
そう考えると、たかが20km/hとナメた事は言えないはずです。

曲がりにくくなる

これも慣性の法則に従い、遠心力が増大します。
その結果、今まで簡単に曲がれていた高速道路のカーブがかなり明確に曲がりにくくなります。
車体が重く、頑固になる感じです。
さらに高速回転するタイヤが生むジャイロ効果の影響も大きくなり、曲がりにくさに拍車が掛かります。


落下物の回避などでも重く曲がらなくなるので事前の発見が重要になってきます。
まだ遠い状態で発見できれば今までと同様に回避可能なので、ここでも車間距離が重要です。

また、曲がらない事の副産物としてバンク角が増えます。
同じカーブなら100km/hで曲がるより120km/hで曲がる方がバンク角が増えるのはイメージしやすいですよね?

これが何を意味するかというと、スリップダウンしやすくなるという事です。
120km/h化が予定されている区間は山間部を陸橋とトンネルで繋いでいる事が多く、橋の継ぎ目の鉄板、トンネル内の湧水、山間部の強風など、ツルッと行きそうな物が多々あります。
特に夜間はそういった危険に気付きにくいので、おっと…という事があります。
この「おっと…」の時、今までよりもバンク角が大きいと「おっとっと!」くらいにはなります。
『夜間で雨で風の強い日に陸橋にある継ぎ目』などでは、今までよりも遥かにスリップダウンしやすい状況に居る事は理解しておきましょう。

余談ですが、曲がりにくくてバンク角が増える事でタイヤの端の方まで使う事になります。
さらに高速走行でタイヤが発熱している事や、カーブでの荷重が増える事で、タイヤの中央より少し横の部分が結構減ります。
さすがに120m/hでトレッドの端まで接地してしまう事はありませんが(接地してしまう場合は空気圧が低すぎる可能性大)、予想外の範囲まで接地して減るのは事実ですので、サービスエリアで休憩する際はタイヤの状態をチェックしてみる事をオススメします。

燃費が悪化する

最初に風圧が増大すると書きましたが、120km/hを維持するためにエンジンは風圧に対抗する出力を出さねばなりません。
より多くの空気と燃料を混ぜて燃焼する必要があり、燃料を多く使うので燃費が悪化します。
※超高性能車では稀に燃費が良くなる事もありますが、長い話になるので今回はナシ。

燃費悪化の度合いは車両によって異なりますが、120km/hが限界に近い車両ほど悪化する傾向にあります。
最近人気の150ccなどがこれに当たり、常に全力運転する事になるので燃費が悪化してしまいます。


ただし、燃費は乗り方によって大きく差の出る部分です。
とくにスロットル全閉時に燃料供給がカットされるインジェクション車ではハッキリ差の出る部分で、工夫次第で燃費悪化は最小限にできます。
(キャブレターはスロットル全閉でも燃料が吸い出されてしまうので、燃費の差が出にくい)

省燃費運転のコツは「スロットル全閉時間をできるだけ取る」です。
下り坂はもちろん、平地でもスロットル全閉で空走する時間が長ければ長いほど燃費向上します。
ただし、速度にムラがあると後続車に迷惑なので、影響のない範囲で行ってください。
感覚的には120km/hに到達したらスロットル全閉、115km/hになったら120km/hまで再加速する感じです。

これは交通の流れと道の起伏を先の先まで読み、急加速やブレーキングを避ける必要がありますが、それは上手い運転の基本なので、普段から心掛けておく事をオススメします。
(4輪車の運転でもバッチリ使えます)

ライダー自身にはどんな影響が出る?

ここまでは主に車体が受ける変化とその変化に伴う操作を書きましたが、バイクの場合はライダーがむき出しなので、乗っている人間にも大いに影響があります。

体感温度が下がる

一般に「風速1mで体感温度は1℃下がる」と言われています。
実はコレが真っ赤なウソ
実際は風速が上がるほど体感温度への影響度は下がっていくので、100km/h(= 風速27.8m/秒)が120km/h(= 風速33.3m/秒)になったからと言って体感温度が5.5℃も下がったりはしません。
※詳細は「リンケの体感温度」で検索してみてください

とは言え、体感温度が下がるのはホントです。
正に体感になりますが、1~2℃くらい下がるような気がします。

体感温度が下がるという事は奪われた体温を取り戻すためにエネルギーが必要になるという事なので、体力を消耗するという事になります。
短距離ならともかく長距離になってくるとジワジワ効いてきて、疲れやすくなります。

視野狭窄

高速になると視野が狭くなるというアレです。
交通教本に書いてありましたよね?
免許取得時に全員見た事があるはず!

その視野狭窄ですが、+20km/hでは明確に体感できません。
少なくとも私にはその差がよくわからないです。
まして予定されている120km/h制限区間は道も広いので尚更体感しにくいでしょう。

実例を出すと、新東名を120km/hで走るより狭くて曲がっている旧東名を100km/hで走る時の方が視野が狭いと感じるくらいです。
高い速度では近くの景色が流れるので視野が狭くなるのですが、新東名などは側壁までの距離が旧東名より離れているので全然流れている気がしないのですね。

ただし、120km/hを出した事が無い人の場合、かなりの視野狭窄が起こるのではないかと思います。
それは下記の理由です。

恐怖心

今までより高い速度には純粋に恐怖心があるはずです。
「無い」という方は危険に対する自覚が足りないので、結構アブナイ状態だと認識してください。
スピードが怖くないのは決して自慢できる事ではないですよ。

ただし、スピードは慣れます。
レース経験者なら高速道路を120km/hで走行しても恐怖を感じる事はないでしょう。

しかし、そういった高い速度を体験した事がない場合、120km/hは純粋に怖いはず。
未知のスピードに対する恐怖は前方への視界集中を生み、後方安全確認不足と視野狭窄を生じます。

影響のまとめ

疲労度が上がる

コレに尽きます。
風圧に耐えつつ車間距離に注意し、交通の流れを読みつつ恐怖心を克服していく……
これで疲れないわけがありません。

しかし、普段の運転から意識していれば済む事もありますし、高速道路特有の問題も大半は慣れで解決してしまう問題です。

『スピードには慣れろ』の一言で片付けてしまう事もできますが、慣れるまでの間に何かあっては困ります。
「怖いけど耐えろ」というのは「無茶しろ」と言ってるのと同じです。

抜本的な解決策は『徐々にスピードを上げる』以外に無いと思います。
バイクは恐怖と戦いながら乗る乗り物ではなく、楽しく乗ってナンボの乗り物のハズ。
なので、スピードに慣れるまでは無理して120km/h出す必要はありません。
120km/hは最高速であり、無理してそのスピードで走らなければならないわけではありません。
徐々に慣れて行けば良いですし、それでも怖ければ100km/hのままでも良いのです。

120km/h化で目的地まで短時間で到達できるメリットはもちろん魅力ですが、その区間が「快適」や「楽しい」ではなく「怖い」や「苦痛」だったりしたら本末転倒。
たかが20km/hの速度アップですが、120km/hというスピードそのものに対する警戒を怠ってはなりません。

怖いなら無理はしない、疲れたら休む、これが大切です。

絶対に確認しておかねばならない事

実際に120km/h出すにあたって、絶対に事前確認しておかねばならない事が1つだけあります。
命にかかわる最重要項目です。
それはタイヤのスピードレンジの確認!

スピードレンジって何?

タイヤには走行可能な最高速度が決められています。
これが結構細かくて、高速道路で使う領域では100km/h、110km/h、120km/h… という感じに10km/h単位で設定されています。

もし最高速度設定が120km/h以下のタイヤで120km/hを出すと……
どんな事が起こるか誰にもわからない、命がけの大博打みたいな状態になります。
ホントに危険。

スピードレンジを無視して使用した際に予想される事としては、トレッド剥離、タイヤ破裂(タイヤバースト)、リムから外れる、などなど……とんでもない事がズラリと並びます。
転倒間違いなし!そんな事は絶対に避けねばなりません。

スピードレンジの確認方法

タイヤの横、路面に接地しない部分(サイドウォールと言います)にメーカーロゴやタイヤ名称と一緒にイロイロ書いてありますが、そこに書いてあるタイヤサイズ表記の記号で読み解けます。
必ず書いてあるので探してください。
探すのはタイヤサイズ表記(110/70 ZR 17 などと書いてある部分)です。

この中の英文字部分がスピードレンジで、最高速度指定が低い方から順にA → Zという並びになっています。
120km/hに耐えるにはスピードレンジ記号が「L」より大きければOK!
逆に「L」以下だった場合は120km/hで走ってはダメ、絶対。

最高速度が数字で書いてあれば解りやすいのですが、残念ながら英文字で略されているので解りにくい…
でも1回確認しておけば毎回見る必要は無いので、確実に確認しておきましょう。
最高速度指定が120km/h以下の可能性が高いのはスクーター用、オフロード用、小排気量向けのタイヤなので、該当する方は入念なチェックを!
スピードレンジの確認は下の画像を参考にしてください。

速度差に注意

速度制限が120km/hに引き上げられても、全車が120km/hで走っているわけではありません。
遅い車両も走っています。

そもそも高速道路の最低速度は50km/hですし、大型トラックの制限速度は80km/hです。
さすがに下限の50km/hで走っているような車は1度しか目撃した事がありませんが、80km/h以下で走る車はかなりの頻度で目撃します。

大型トラックには90km/hの速度リミッターが付いていますが、リミッター限界の90km/hで追い越し車線に出てくるトラックは皆さんも何度も目撃した事がありますよね?
それはつまり、遅い事を自覚しているはずの大型トラックが追い越しを掛けねばならないほど遅い車両が走行車線に存在している事を意味しています。

120km/hで追い越し車線走行中に大型トラックが追い越し車線に出てきた場合、相対速度は30~40km/h。
100km/hの時なら10~20km/hだった速度差が2倍以上に拡大している事をしっかり理解しておきましょう。

走行車線にある落下物を避けるために、件の遅い車が追い越し車線に飛び出してくる事も十分あり得ます。
自身を守るためにはそうなる事を事前に察知しておく必要があり、それは前後左右で見える範囲の交通状況を先の先まで見通しておく事がとても重要です。
そして、先の先まで見通すためには適切な車間距離が必要になってくるという事です。

120km/hは制限速度!

絶対に120km/hで走れという話ではありません。
別に100km/hでも90km/h良いのです。

ただし、その場合は120km/hで追い越していく車両の邪魔にならないように注意しなければなりません。
と言っても、追い越し車線をいつまでも塞いだりしなければOKで、あとは今までのように普通に運転していれば大丈夫。
トラックの制限速度は今後も変わらず80km/hなので、90km/hで走っていても今までと同様に十分流れをリードできるはずです。

最後に、120km/hが予定されている区間は道幅も広くて走りやすい区間なので、案外退屈だったりします。
居眠り運転になりやすい区間でもあるので、疲れたなと思ったらすぐに休憩するようにしましょう。
私の知人は居眠り運転で路肩にある非常電話に激突して電話ボックスを破壊していましたが(本人は骨折)、そういうのは全方位で迷惑なのでやめましょう。

オマケ:初めて高速道路を走った想い出

私の父はスピード耐性が全く無く、100km/h出すと冷や汗ダラダラ。
家族でドライブ中、陸橋上の左カーブで「飛びそうだ…」と呟いていたのを目撃した事すらあります。

その残念なDNAは私にもしっかり受け継がれており、初めてバイクで乗った高速道路では必死で走ったのにコーナースピードは80km/hが限界でした。
後続の車にクラクションまで鳴らされる屈辱体験、忘れもしない旧東名下り、御殿場手前の左コーナー。
本人的には「これは大幅速度超過してるんじゃないか?!」という感覚だったのに、恐る恐るメーターを見てあまりの遅さに衝撃を受けた記憶は今も鮮明です。

世間一般の方よりビビリなのは仕方ないので、努力と経験と理論武装でスピード耐性を身に付けました。
未だに250km/hを超えると「楽しい」「気分が良い」よりも「怖い」ですけどね。

何が言いたいかというと、これを読んでいる皆様には余裕で出せるかもしれない120km/hは、別の誰かにとっては決死の覚悟でも届かない神の領域かもしれないという事です。
遅い車両が居ても、ちゃんと走行車線を走っているなら、優しさと思いやりを持って接しましょう。
ビビリミッター強めな私からのお願いです。

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