【PR】岸田精密工業 文:栗田晃

排気ガス規制の波に呑まれて販売が終了した2ストロークエンジン搭載車。中でも2ストらしさを最大限に発揮したのが1980年代半ばに登場した250ccのレーサーレプリカモデルだった。ホンダNSR250Rはレプリカブームのトップを走り、今なおコアなファンに根強く支持される伝説の一台である。販売終了から30年を経過してエンジン、車体とも手入れが必要な車両が多い中、キャブレターのメンテナンスで愛用されているのがキースターの燃調キットである。

吸排気系パーツの交換やエンジンチューニングが珍しくなかった2ストレプリカモデル

1990年に登場したMC21型はNSR250Rの三代目で、外観上の特徴はチャンバーレイアウトのため右側スイングアームを「への字」形状としたガルアームを採用している点。これはワークスレーサーであるNSR500でも採用された技術で、まさにレーサーレプリカとしての装備である。

エンジンはクランクケースバルブの90度V型2気筒で、これは初期型のMC16型から最終モデルのMC28型まで共通。ただし共通なのは基本レイアウトだけで、クランクケースやシリンダー、シリンダーヘッドやクランクシャフトに至るまで形式により仕様は細かく変更されている。

吸気方式がクランクケースリードバルブなので、2個のキャブレターはV型シリンダーに挟まれるように並んで装着されている。後期型になるほどスロットルポジションセンサーなどのデバイスが増えていった。

1980年代のバイクブームでひときわ隆盛をきわめた2スト250ccレーサーレプリカ。バイクメーカーのワークスレーサーを模したレーサーレプリカモデルは、レースブームや峠人気と相まって若いライダーの憧れの的となった。
ヤマハTZR250/TZR250RやスズキRG250ガンマ/RGV250ガンマといったライバル車もある中で、当時一番の人気を誇ったのがホンダNSR250Rである。WGP250ccクラスのチャンピオンマシンRS250RW、その後のNSR250のレプリカモデルとして1986年に発売されたNSR250Rは毎年のようにモデルチェンジを繰り返しながら高いパフォーマンスを発揮、現在でも多くのライダーによって愛されている。
1993年に登場した最終型のMC28からでも30年以上が経過し、エンジンや電気系など様々な部分でトラブルを抱えている車両も少なくないのがNSR250Rの現状だ。新車販売当時はレプリカブームであると同時にカスタムブームだったから、チャンバー装着やエアークリーナーケース撤去は当たり前で、毎年ニューモデルが登場するレーサーレプリカの寿命は短く、乗りつぶされるように消費される例も珍しくなった。
だがそれから数十年を経て、現在では2スト250ccレプリカも堂々プレミアム付き絶版車の仲間入りを果たしていて、1970年代の絶版車と同様に改造車よりノーマル車が好まれるムーブメントが台頭している。
そうなると、かつては捨てるのが当たり前だったノーマルマフラーに高値が付き、エンジンも新車当時の性能を取り戻すためレストア級の整備が行われ、見よう見まねでジェット変更したキャブレターも一度は純正セッティングに戻すという流れが定着。
そこで脚光を浴びているのがキースターのキャブレター燃調キットである。
燃調キットはパイロットジェット、メインジェット、ジェットニードルの3要素で純正キャブレターのセッティング変更ができるのが最大の特徴だ。
そもそもキャブレターは、エンジンが空気を吸い込む際の負圧と流量に応じて、フロートチャンバー内からガソリンを吸い上げて適正な空燃比の混合気を作る部品である。ガソリンを燃焼室に今よりたくさん入れれば、よく燃焼してエンジン出力が向上すると考えがちだが、燃焼室で燃えるのは混合気だからガソリンだけ増量しようとしても、そう都合よくいくわけではない。

燃調キットを選ぶ際は車両型式だけでなくキャブレター号機で確認する

【ホンダNSR250(MC21)用キャブレター燃調キット 4,400円】
ジェットやニードルといったセッティング要素に加えて整備やオーバーホールに必要なOリングやガスケットも含むのが燃調キットの特徴。1キットで1個のキャブレターに対応するため、2気筒のNSR250Rには2キット必要。

本文でも説明しているが、MC21型の純正キャブは年式によってTA22AとTA22Bの2種類があり、さらにTA22Bは左右のキャブのセッティングが異なるため右用と左用が別々になる。そのため燃調キットを購入する際はキャブレター本体に刻印されているキャブレター号機を確認することが重要。

スタンダードサイズを中心として6種類のメインジェットと3種類のパイロットジェットが付属する。パイロットジェットはスロットル開度およそ1/2程度までの混合気、メインジェットはおよそ3/4以上の混合気に影響する。

スロットル開度およそ1/4以上3/4程度で影響力が大きいジェットニードルはスタンダードを中心に4種類付属する。ニードルの右にあるのがニードルが刺さるニードルジェットで、ジェットニードルとの隙間によってベンチュリーに吸い出される混合気量が決まる。

右からフロートニードルバルブ、エアースクリュー、ドレンスクリュー、スタータープランジャー。経年劣化によりニードルバルブの先端が摩耗すると、フロートチャンバー内のガソリンが増えた際の気密性が低下してオーバーフローの原因となるため、新品部品への交換は有効。

フロートチャンバーガスケットやトップカバーガスケットに加えて、キャブレターを連結するフューエルジョイント用Oリングが含まれている点に注目。経年劣化でOリングがひび割れるとキャブレター間からガソリンが漏れる原因となる。そのためオーバーホール時にはジョイント部のOリング交換が必須なのだ。

キャブレターセッティングは、吸排気パーツの変更やエンジンチューニングによってエンジンが吸い込める空気量がノーマルより増加したときに初めて行うべき作業である。そんな事情はお構いなしに大きなジェットや細いジェットニードルに組み替えられたキャブレターは、第一段階としてノーマルセッティングに戻すことが重要だ。
キースターの燃調キットは車種ごとの専用設計品で、人気モデルのNSR250R用にも当然設定がある。だがNSRは年式により車体デザインや各部の仕様が異なるのと同様、純正キャブレターの仕様やセッティングが異なる。
具体的には初期型のMC16からMC18、MC21、MC28の4つの型式がある。さらに燃調キットの区分にとって重要なキャブレター号機管理では、MC18型には2種類のキャブレターが存在する。
そのためキースターでは、車体の型式に加えてキャブレター号機によって製品を区別している。ここで紹介するMC21型の純正キャブレター号機は1990年モデルがTA22A、1991~1993年モデルがTA22Bとなっている。
フレーム番号からMC21型であることは確かだが年式までは分からない場合、キャブレターの刻印でTA22AなのかTA22Bなのかを確認することが必要だ。
ちなみにTA22AとTA22Bはパイロットジェットとメインジェットのサイズは同じだがジェットニードルのストレート径が異なる。さらにTA22Bは2個のキャブでジェットニードルのストレート径が異なるため、燃調キットは右用と左用で別の製品となる。
パイロットとメインジェットのサイズが同じなら大した違いはないだろうと考えるユーザーもいるかも知れないが、バイクメーカーが純正セッティングを変えているのには理由がある。ジェットニードルのストレート径はスロットル中開度における混合気に影響し、ストレート径が太ければ混合気は薄く、細ければ濃くなる。
このあたりの事情を無視してジェットやニードルを組み合わせれば、エンジン自体のコンディションは悪くないのに調子がイマイチ……ということにもなりかねない。セッティングであれオーバーホールであれ、まずはスタンダードセッティングで様子-具体的にはスパークプラグの焼け具合-を観察することが第一歩である。

キースターの燃調キットを使えば、バイクメーカー指定のノーマルセッティングからセッティング変更まで自由自在

一般的にバイクメーカーが設定するキャブレターセッティングは一種類なのに対して、サイズが異なるジェットやジェットニードルをキースターが独自に設定することで、セッティング変更を可能にするのが燃調キットの大きな意義である。
それに加えてガスケットやOリングといった、キャブレター本体のメンテナンスや整備に必要なパーツまでセットに加えているのも見逃せない特徴だ。ガスケットやOリングはバイクごとのパーツリストには純正部品番号を含めて掲載されているが、すべてのユーザーがパーツリストを所有しているわけではない。
絶版車の中には長期放置によってキャブレター内部に劣化したガソリンが溜まってしまっているものもあるため、ジェットやニードルのサイズをスタンダードサイズにするのと同様に、できるだけ完全に分解した上で細かい通路に至るまで徹底的に洗浄することが必須作業となる。
そんな時でも交換部品の注文忘れに落胆することなくオーバーホール作業を実施できるのは、燃調キットの大きな利点となる。
今後新車で発売されることがない2ストロークエンジンを搭載したレーサーレプリカモデルは、この先も価値が上がることがあっても下がることはない希少種である。その価値をできるだけ長く、良好に維持するためにも、キースターの燃調キットを活用してメンテナンスやセッティングを行ってもらいたい。

オーバーホールを行う際は、フロートチャンバー下部のドレンスクリューを緩めて内部のガソリンを排出し、3個のビスを緩めてチャンバーを取り外す。ガソリンタンク内部が錆びると、画像のようにチャンバー底部に赤サビの粉が溜まることがある。

フロートとともにフロートニードルを取り外す。キャブレターの種類によってバルブシートが外れるものもあるが、このキャブは本体に圧入されているので外せない。

ニードル後部のピンは内部にスプリングがあり伸縮する。このピンがフロートの調整板に接触して画像のように当たり痕が付くと、スムーズに作動しない原因となることもある。

パイロットジェットを取り外す。筒部分の横穴は空気とガソリンが混合するため重要な役割を果たす部分で、詰まっていても硬い針金などで突いて拡大してはいけない。

メインジェットホルダーをメガネレンチで押さえながら、キャブレタージェットドライバーでメインジェットを緩める。ジェットのマイナス溝はナメやすいので注意。

メインジェットを取り外したらメガネレンチでメインジェットホルダーを緩めて取り外す。このキャブは大丈夫だったが、フロートチャンバー内にガソリンが入ったまま長期放置すると、揮発した後のワニスでジェット類が詰まってしまうことがある。

トップカバーを外して、ラジオペンチなどでスロットルバルブ内のプレートを引き抜く。このプレートがジェットニードルを押さえて抜け止めとなる。

スロットルバルブからジェットニードルを抜き取る。純正ニードルにクリップ段数調整機能はない。従って燃調キットのニードルも高さ固定タイプとなる。

ベンチュリーに突き出しているニードルジェットをフロートチャンバー側に押し込んで取り外す。タールやワニスで貼り付いている場合は六角棒レンチなどで軽く押す。

ニードルジェットとメインジェットホルダーがキャブレターボディに内蔵され、ホルダー先端にメインジェットが付く。一方ジェットニードルはスロットル開度によってニードルジェットに潜る量が変化する。

ボディを洗浄した後に燃調キットを使用して復元する。ニードルジェットの先端部分(ベンチュリーに露出する部分)は筒の一部が切り取られており、組み付け方向が決まっている。切り取られた面がエンジン側に向くようにする。

ジェットホルダーを締め付けてニードルジェットを押さえてメインジェットを取り付け、パイロットジェットをセットしたらニードルとフロートを取り付ける。パイロットジェットとメインジェットはスタンダードサイズ。

オーバーホール前のキャブレターから取り外したフロートチャンバーのガスケットは経年劣化で潰れて硬化している。こうなっていたら交換が必要。

新品ガスケットは座面より盛り上がっており、キャブレターボディと密着することでシール性を発揮する。復元後のガソリン漏れの原因として多いのが古いガスケットの再使用だ。

フロートチャンバーの溝に収まったガスケットが外れないように気をつけながらキャブボディに取り付ける。ビスを締める際にゴムが潰れる感触が伝わるはず。

ベンチュリーに指を突っ込み、スロットルバルブ全開状態をキープしながらジェットニードルをセットする。その際にニードルの先端がニードルジェットに入るよう方向を定める。

トップカバーガスケットも燃調キット同梱の新品を使用する。セッティングメインであっても、こうした消耗品を動じ交換できるのが燃調キットを使用する利点である。

スロットル全閉から低開度の混合気調整に重要なエアースクリューを復元する。エアースクリューを規定の戻し回転数より締めると、パイロット系の空気が減少して混合気が濃くなり、緩めると空気が増えて混合気が薄くなる。

チョーク操作でスターター系のガソリン流量をコントロールするスタータープランジャー。長年使用することでプランジャー先端のゴム(黒い部分)に当たり癖がついた状態で硬化すると(右)、チョークを戻してもガソリンが僅かずつ流れて混合気が濃くなる場合がある。燃調キットにはゴムに柔軟性のある新品(左)が付属する。

プランジャースプリングも燃調キットの新品部品を使用してプランジャーを復元する。ジェットやニードルを含めて、こうした部品をすべて交換することでキャブを初期化でき、この状態で走行してスパークプラグの焼け具合を観察することで、必要に応じて混合気を濃くしたり薄くするセッティング変更ができるようになる。

ギャラリーへ (29枚)

この記事にいいねする

今回紹介した製品はこちら

コメント一覧
  1. あま より:

    「ホンダNSR250Rはレプリカブームのトップを走り、今なおコアなファンに根強く支持される伝説の一台である」
    まあズルをして得た栄光だけどね。

    まがりなりにもメディアとしてのプライドがあるなら今からでもNSR250Rの不正を糾弾すべきだと思うけどね。
    誰もが公然の秘密なのはわかってるだろうに。

コメントをもっと見る
コメントを残す

今回紹介したブランドはこちら