極太タイヤで無敵のグリップを手に入れたい

誰だってグリップに不安のあるタイヤでビクビクしながら走るより、絶大なグリップを誇るタイヤでスリップや転倒の心配をせずに気分良く走りたいものです。
しかも「サーキットでラップタイムを縮めたい」なんて特殊な話ではなく、公道で気分良く走りたい。
それこそ交差点で滑りコケる心配をしないでスイスイ曲がりたい、とかですね。
もしかすると、いつも一緒に走ってるアイツより速く走りたいなんて願望も含まれているかもしれませんが、それにしたって公道での話なのでラップタイムがどうこうという話ではないです。

だからタイヤを選ぶ時に大事なのは「耐久性」、「ウェット性能」、「価格の安さ」など……
その中で出来るだけグリップする(と思われる)タイヤを選んでいるのでは?!
そう、いかにもグリップの良さそうなできるだけ太いヤツをね!!

皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回は太いタイヤはなぜハイグリップなのかについてです。

よくあるカン違い

皆さんはタイヤが太ければ太いほどグリップ力が増すと思っていませんか?
極太タイヤの広大な接地面積で、ベッタリと路面に張り付く様にグリップ!
そんなイメージをお持ちの方が多いのではないかと思います。

実はココに大きな落とし穴があります。
イメージとは裏腹に、タイヤというのは接地面積が増えてもグリップ力は変化しないのです。(!)

太いだけではグリップは上がらない

そんなバカな!と言いたい気持ちはわかります。
実際、レースではレギュレーションで許される範囲で最大限に太いタイヤを履いてますしね。

しかし、タイヤがグリップするのは完全に物理法則に従っています。
そしてグリップとはつまり摩擦力の事ですが、中学校で習ったように、摩擦力は『荷重』と『摩擦係数』で決まります。

おや?太い細いを表す『接地面積』が無いですね?
そうなのです、タイヤの接地面積はグリップ力とは直接関係無いのです。
同じバイクで、同じゴムのタイヤであれば、タイヤが細かろうと太かろうとグリップ力は同じです。

なお、コーナーではコーナーリングフォースによって車体が路面に押し付けられるため、車両重量を超える大きな荷重がタイヤに掛かり、直線を転がっているだけの時よりグリップ力が増します。
その場合もタイヤの太さは無関係で、荷重で増大するグリップ力は同じです。
太いタイヤに荷重を掛ければ細いタイヤに荷重を掛けるよりもグリップする、なんてほど単純ではありません。
※実際にはもっと複雑な要素もあるのですが、解りにくいのでここでは割愛します。

ではなぜレースでは太いタイヤ履いているのか?

その理由は、グリップ力を決める荷重以外のもう一方の要素、『摩擦係数』を上げたいからです。

どういう事かと言うと……

    1. 摩擦係数を上げる為には柔らかいゴムを使いたい。
      (ベッタリと路面に張り付くような摩擦係数を持つゴムを使いたい)
    2. しかし柔らかいゴムを使うと、柔らかくなった分だけスゴイ勢いで減ってしまう。
      (減りが早すぎてレースの最後までタイヤが保たない)
    3. それを防ぐ為には接地面積を増やして面積あたりの荷重を減らさなければならない。
    4. 面積あたりの荷重を減らすには面積を増大させればいい。

これを繰り返した結果、タイヤが太くなってしまったという事です。
太いからグリップ力が高いのではなく、グリップ力の高いゴムを使った結果、摩耗を防ぐために太くなったというワケです。
順番が逆なのです。
ややこしいですね。

余談ですが、レースでは全員が好き好んで一番太いタイヤを履いているわけではありません。
柔らかくて太いタイヤは転がり抵抗が大きいので最高速が出にくくなりますし、コーナーリング中は接地点が中心から大きくズレるのでバランスする為に大きく体重移動する必要も出てきて、左右への切り返しでセッセと動かなければならなくなります。
ただ、そういったネガティブ要素があったとしてもコーナリングスピードの向上効果がそれを上回り、結果としてラップタイムが向上するので太いタイヤを使っているというワケです。
同じコーナリングスピードが出せて同じ耐久性があるのなら、タイヤは細いに越した事はないのですけどね。

結果として、太いタイヤはハイグリップ

太いからハイグリップなのではなく、太くせざるを得ないほど柔らかいゴムを使っているからハイグリップ、というワケです。

例えば、極端に走行時間が短くて良いのであれば、太いハイグリップタイヤと同じゴムを使った細いタイヤにするのが最良です。
タイヤ本体は軽くなるし、空気抵抗は少なくなるし、荷重が増えるので太いタイヤよりも更にグリップするようになります。
ただし、アッという間にタイヤが寿命を迎える事になります。
※実際には荷重に比例してどこまでもグリップが向上するわけではありませんが、解りにくいのでここでは割愛します。

純正指定サイズが太い車両というのは、つまりその太さを要求してしまうほどの柔らかいゴムを使って高いコーナリングスピードを出しつつ、ある程度の耐久性を持たすように設計されている事を意味しています。
タイヤが太いのはイメージ通り高性能の証と言えます。

まとめ

基本的に太いタイヤはハイグリップです。
ただし、太いからハイグリップなのではありません。
ハイグリップ狙いで柔らかいゴムを使ったけど、そのままでは減りが早すぎるので、面圧を減らすために止むを得ず太くなってしまった、が正解。
「接地面積が増えるから摩擦力が上がる」は間違い。
言い換えると、同じゴムなら細いタイヤの方がハイグリップだけど、その代わり減りが早い、となります。

ホイール流用などで細いタイヤを履く事が可能な方は機会があればお試しください。
ツーリング用タイヤなど、もともとトレッドゴム素材によって絶対的なグリップを狙っていないタイヤであれば、細い方がグリップが上がるのを体感出来るかもしれませんよ?

あと、車体ごとに「想定されている荷重」「想定されているゴム」が異なるので『見た目が太い大排気量車の方がグリップする』なんて事もありません。
200mm幅だけどヨロヨロと過重が掛け切れていない軽量なスーパースポーツより、100mm幅だけどしっかりスロットル開けて過重の掛かっている重いミニバイクの方がグリップするなんて事は普通に有り得ます。

【オマケ】細いのにハイグリップというタイヤは有り得るのか?

これは有り得ます。
大荷重を掛けてもすぐに寿命を迎えない固めのゴム(コンパウンドと言います)を使い、その固めのゴムで摩擦係数を上げるために大荷重を掛ければ良いのです。
接地面積あたりの荷重を上げるためにはタイヤを細くして……  って、これは太いハイグリップタイヤと真逆の設定ですね。

ではなぜそういったタイヤが無いのかというと、細くて固いゴムを使ってハイグリップタイヤを作ると、荷重変化に弱くなってしまうからです。
理論上、大荷重を掛け続けられれば細いタイヤでもハイグリップは可能ですが、路面の僅かなギャップで荷重が抜けたりすると一気に滑ってしまいます。
極端に荷重に頼るとそういった事が起こるのは、最初に書いた物理法則のとおり。
荷重が多少変化しても突然グリップを失いにくい『太くて柔らかいタイヤ』が主流な理由はこのためです。

4輪車ではウイングを使って大きなダウンフォース(つまり荷重)を使う事で劇的にグリップを上げてコーナリングスピードを上げるジャンルもありますが、大きなギャップ通過などで急にダウンフォース(荷重)を失うと一気にスピンする事があるのはこのためです。
また、雪道を走る4輪レースではそもそも路面に張り付くようなゴムの摩擦が期待できないので、荷重を増やしてグリップを上げようとします。
その結果、信じられないくらい細いタイヤで走ったりするジャンルもあります。

いやはや奥が深い。

アスファルトならボディ幅ギリギリまで太いタイヤを履いていますが、雪上だとメリ込むほど細いタイヤになっています。

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