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バイクライフを豊かにするサスペンションカスタム
ノーマルとSHOWA製サスペンションを装着したカワサキZ900&Z900RSを乗り比べると、同じ道を走っているとは思えないほど違いがある。サスペンションのカスタムはベテラン用、もしくはスポーツ思考のライダー用と思っている方は多いと思うが、実は誰にでもわかるカスタムで、その効果はとても大きい。
この日は景色の奥の山々に雪が残っている通り、気温は低め。路面は前日の雨が残るハーフウエットでスタート。タイヤの銘柄などを考えると、バイクからのインフォメーションはもっと少ないはずだが、走り出した瞬間からSHOWA製サスペンションを装着したZ900は安心感に溢れていた。
正直、最初はこのコンディションに憂鬱だった。しかし、走り出した瞬間に憂鬱はポジティブに変換された。サスペンションカスタムは走りにおける様々なメリットがあり、バイクライフを豊かにしてくれる物だということを僕は再認識したのだった。

今回装着されていたサスペンションは、BFF(バランス・フリー・フロントフォーク)とBFRC(バランス・フリー・リヤ・クッション)lite。写真はZ900用。Z900とZ900RSは、 2機種ともに同じフィロソフィーで作られる。Z900RSはフロントのボトム部分がアルミ削り出しで、Z900用はアルミ鍛造となる。
SHOWAだからできる高精度&高性能サスの量産
SHOWAはリプレイスというよりはOEMとして様々なメーカーにサスペンションを供給しているイメージが強いメーカーだ。その高い製造技術は、世界中のメーカーの信頼を得ている。
ここで紹介するBBF(バランス・フリー・フロントフォーク)、BFRC(バランス・フリー・リヤ・クッション)liteは、OEM生産の技術を活かしたリプレイスサスペンションで、前後ともに部品点数が多く、複雑な構造だが、それを高精度で量産している。Z900RS用は3年ほど前から販売。今回、Z900用が新たに登場した。
驚くのはその価格。Z900RS用BFRC lite(リヤ)は19万8000円、BFF(フロント)は33万円。Z900用BFRC lite(リヤ)は19万8000円、BFF(フロント)は25万3000円。リプレイスサスペンションとして決して高くはないのである。
今回は栃木県にあるSHOWAのテストコース『塩谷プルービングラウンド』で試乗。直線路とワインディング路があり、直線路は往路が平坦で、復路は凹凸のある路面。ワインディング路はアップ&ダウンの中に欧米の路面(日本とはアスファルトが異なる)があり、所々に意地悪なギャップがあるいかにもテストコースといったシチュエーションだ。
Z900、Z900RSともにノーマルとSHOWAの比較試乗が可能だったため、その効果がとてもわかりやすかった。

SHOWA製BFF(バランス・フリー・フロントフォーク)とBFRC(バランス・フリー・リヤ・クッション) liteを装着したZ900RS。発売から3年ほどが経過し、すでに多くのユーザーが愛用している。
スポーツ性を高めたZ900×SHOWA製前後サスペンション
SHOWA製前後サスペンションを装着したZ900に跨ると、かなり減衰力が効いているのがわかる。押し引きしてみてもしっとりはしているが、動きは鈍く感じるのだ。路面はハーフウエット…大丈夫だろうか。しかし、直線路を走り出すと軽快。直進安定性も高い。前後サスペンションの初期の作動性がよく、路面追従性が高いのだ。
直線路の奥にある旋回路では様々なコーナーを想定して旋回を繰り返すが、前輪の舵の入り方が早くスポーティな感じ。高速コーナーではレールに乗ったようなラインの乗せやすさが際立ち、ヘアピンでもふらつかずに安定感がある。減衰力が強い印象はあるものの、不思議と重さはないのである。
そして凹凸路では減衰力の効いたサスペンションが衝撃を素早く吸収。凹凸は伝わるものの、不快な感覚はない。
同じコースをノーマルのZ900でスタート。走り出した瞬間から路面からのフィードバックが希薄で思い切った操作を躊躇してしまう。リヤが低く前輪の舵の入りが穏やかなため、向きが変らず旋回時間が長いイメージ。マシンが起きてこないためなかなかスロットルを開けられないのだ。凹凸路では身体全体にショックが伝わり、腰に衝撃がくる感じ。フロントフォークに関しては底付き感を覚えるほどだった。
次はノーマルのZ900でワインディング路へ。アップダウンが多く、ブラインドの先にはギャップがある。Z900らしいストリートファイター感は楽しいものの、何度かギャップに踏み込むとその直後に車体の揺れが収まらない。解決策はペースを落とすことしかなく、スポーツする気持ちにはなれなかった。
しかし、SHOWA製サスペンションを装着したZ900は違った。そのシチュエーションにすぐに対応することができ、ラインや走り方の予測&修正を繰り返すことで、常に操る楽しみがあるのだ。ライダーの操作に対するバイクのレスポンスがよく、軽々と扱える。ギャップの収束性も高く、ギャップ通過直後に通常走行に戻ることが可能。旋回の軌跡もコンパクトで、次々と現れるコーナーを常に楽しくゲーム感覚でクリアしていけた。
走り続けたい、もう一度乗りたいと思わせるZ900RS×SHOWA製前後サスペンション
次はSHOWA製サスペンションを装着したZ900RSでスタート。路面も乾き、直線路&旋回路、さらにワインディング路を走り込む。Z900ほどのスポーティさはなく、そのキャラクターは穏やか。共通しているのはどのシーンでも乗り心地が良く、操る楽しさがあり、路面状況を把握しやすいことだ。Z900RSに関してはプロトタイプではあったもののニッシン製のマスターシリンダーやキャリパーも装着され、それも扱いやすさに貢献していた。
SHOWA製サスペンションを装着したZ900RSはどこまでもスムーズだ。バイクからのインフォメーションが豊富で、気がついたらフルバンクしているような感覚。ハンドリングに難しさがなく、まるで自分が上手くなったかのように一瞬でバイクと一体になれるのだ。自然と身体から力が抜けるし、これは長時間バイクに乗った際の疲労軽減にも繋がる。キャリアを問わず、サスペンションを交換するだけで得られる効果がここにある。
ライダーの少ないアクションで確実に反応し、さらにどこまでも応えてくれる頼り甲斐もある。これこそが減衰力が強くても重さを感じさせないバランンスフリーの真骨頂だとも思った。サスペンション内部のオイル容量を保つがそこに過剰な圧力がかかるのを避け、常に安定したパフォーマンスを約束してくる感覚は、他のサスペンションにはない『一定さ』があるのだ。減衰力を有効的に使い、それを乗り味に直結させているのが伝わってくる。
もちろんノーマルのZ900RSにも試乗したが、全てのギャップを避け、バイクに遠慮した操作しかできなかった。
そしてリプレイスサスペンションの効果はここで終わりではない。各調整機構のアジャスターをわずかに回転させるだけで、自分の好みに近づけることができるからだ。これも難しく考える必要はなく、各調整機構の役割を知り、触って、その変化を感じられればOK。サスペンションセッティングに正解はないのだから、気軽に試してみよう!

SHOWA BFF(バランス・フリー・フロントフォーク)for Z900RS。伸び側&圧縮側減衰力調整機構。ボトムケースは量産が困難なアルミ削り出しで、インナーチューブにはチタンコーティングが施される。
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