写真:長谷川徹/アライヘルメット
バイクに乗り続けて30年以上が経過したが、数年前に初めてアライヘルメットの榛東(シントウ)工場見学をさせていただくまで、僕はヘルメットがどのように作られているのか知らなかった。その制作過程は複雑で、まさに目から鱗が落ちる思いの連続。恥ずかしながら、ここまで人の『手』や『目』が介入しているとは想像できていなかった。連載『アライの違い』では、そんな目には見えにくいアライヘルメットのこだわりを全6回に渡って紹介していこう。
綿飴のようなふわふわの仮成形品(プレフォーマ)がアライヘルメットの要
ヘルメットの材料が、髪の毛よりも細いわずか数ミクロンのガラス繊維だと想像できる方はいるだろうか?
バイクに乗る際は必ず被っているヘルメットだが、制作現場や制作方法を想像するのは難しい。『樹脂を型に流して大量生産…』、もちろん世の中にはそんなヘルメットもたくさんあるが、アライヘルメットは違う。専用のスーパーファイバー(ガラス繊維)を使った『仮成形品(プレフォーマ)』をベースに使い、そこに20種類以上の素材を組み合わせていく製法を守り続けている。
アライヘルメットのたくさんのこだわりは、完成してしまえば目に見えないことばかり。そしてその制作過程の多くが職人の手と目に委ねられているのだ。作業を簡略化するどころか「やらないよりもやった方が良い細かい改良」を積み重ねているのである。
それは一途に『ライダーの頭を護る』ためである。
プレフォーマはヘルメットのベースになるパーツ。専用の機械で束になっているスーパーファイバーをほぐし数センチにカット。それをノリを出しながら型に吸い込ませ、帽子状にしていくのだ。ちなみにこの機械もアライヘルメットと機械メーカーが40年以上にわたって共同開発し続けるスペシャル。
できあがったプレフォーマは職人がチェック。薄いところはないか、均一に繊維が付着しているかを目視し、重さを計測。プレフォーマはヘルメットによって様々な種類があるが、重量が細かく設定されている。プレフォーマは優しく触らないと崩れてしまいそうなほど繊細だ。
ちなみにスーパーファイバーは、通常のグラスファイバーよりも強度が30%高いが、コストは6倍という、ヘルメットメーカーではアライヘルメットだけが使用する特別な素材である。
繊維メーカーと協議しながら誕生したスーパーファイバー1本は、わずか数ミクロン。細いと繊維同士の接着面積が増え、繊維同士を抱き合わせる本数が増えるほど強度が増す。
3種類のファイバーを手で折らせていただいた。ノーマルは簡単に折れてしまうが、スーパーファイバーベルドは、しなって粘るため折り曲げるのも難しく、何度折り曲げてもなかなか千切ることができない。
四輪のシートベルトを編む機械で、ニーズにあったスーパーファイバーのベルトを作る。
20種類以上の材料を使ってヘルメットをつくり上げていく
アライヘルメットでは必要な素材のほとんどを社内で制作。スーパーファイバーをアライオリジナルの特殊な織機で編み込み、ヘルメットの各部署で理想的な仕事をするベルトを生み出す。プレフォーマに様々なベルトを始めとする20種類以上の素材を組み合わせてヘルメットを整形していくのだが、その作業も繊細。素材同士を数ミリ単位で重ねていく。
驚くのはヘルメットの種類や出荷する国によってはもちろん、季節や天候によって『今日の帽体』を考えるというところ。毎日手で触り、目で見るからこそできる気遣いである。
すべての素材を組み合わせたら、自社で制作した金型に入れ、樹脂で固め、熱を加えて焼き上げ、シェルを成形する。金型が50台もあるシェル成形の部屋は熱気が凄い。
この作業はアライヘルメット社内でも『シェル・エキスパート』という資格を持っていないとできない認定制。ツルツルの金型に材料を入れると当然滑ることもあり、ここで数ミリ素材がズレたり、シワになると、欲しい性能を引き出せない。さらに焼く時間はヘルメットの種類やサイズによって変わるだけでなく、金型の場所や季節などによっても変わるからだ。
1人4つの金型を担当するというが、熱は熱を引っ張るから、端と真ん中の金型では温度が異なる。部屋の入り口に近い場所と奥でも金型の温度は変わる。まさにエキスパートでないとできない作業。ちなみに僕が見せていただいたヘルメットは、100度以上の金型温度をその日の条件に合わせて更に細かく調整するという。
工場内で印象的だったのは各工程、部材が移動するすべての部署に計りがあること。すべての工程で重量を計測し、軽さにこだわっているのだ。帽体に入れる素材の重量の幅は3〜6gと、とてもシビアなのだ。
一つの製品に使われる材料は、プレフォーマ、クロス、マット、ベルトネットなど、モデルによっては25種類を超える材料を使用する。このこだわりが剛性が高く、粘り強く、軽量なシェルを生み出す。
ヘルメットの頭頂部には特殊な化学繊維を使用。防弾チョッキなどに使用される素材で、特殊なハサミでないとカットすることもできない。
部材同士を熱で硬化させる際に使う樹脂は、剛さ、接着性、粘りなどを追求した特殊ブレンド。
金型に部材を入れ、焼き上げて製作するシェル成形は、認定性。「シェル・エキスパート」の資格がなければ作業することができない。
金型から取り出したシェルはまずは目視で確認。その後、重量を計る。
数ミクロンのガラス繊維が強靭なシェルに変貌する
衝撃を受け止める部位に応じて、様々な有機材料を使い分けるアライヘルメットのシェルづくり。完成したシェルは、頭頂部から裾部分まで全てのパートで強靭さを誇り、どんな規格よりも厳しい、アライ独自の規格をクリアしている。
シェルに必要な素材のほとんどはアライヘルメットに自社工場で作られ、職人の手によって組み合わされる。
見るほどに大量生産に向かない製造方法だが、アライヘルメットは決して妥協しない。「少しでも良いものを作りたい」「一人でも多くのライダーを護りたい」そんな職人気質が全てのヘルメットに込められているのである。
髪の毛よりも細い、わずか数ミクロンのガラス繊維が、アライヘルメット独自の手法と製法、そして職人の手と目により、やがて強靭な帽体へと変化していく。僕はこの工程を見させていただき、今まで以上にヘルメットを大切にしようと決めたし、アライヘルメットがさらに好きになったし、すぐに誰かにこのクラフトマンシップを伝えたくなった。そしてこうして原稿に残していても、その思いは強くなるばかりなのだ。
プレフォーマはとても繊細。目視でしっかりと確認し、重量を計測する。
強靭かつ柔軟なシェルは、信じられないほどたくさんの工程を経て完成する。
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